軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 人間性

「中に入ってもよろしいですか?」

「ええ、構わないわ」

王宮に用意された部屋。

『特殊事案対策記録室』の活動拠点である。

室長の私以外で部屋に居るのは、オードファラン公爵家からの私付きの侍女と護衛だ。

執務用の机と椅子以外に、来客対応用のソファーとテーブルもある。

フィリップ様にはソファーの方に座ってもらった。

私は執務用の椅子。少し距離が離れていて、彼を見下ろす形になる。

「フィリップ様、どうしてここに来られたの?」

「マリアンヌ様に会いに来ました」

「ふぅん? ここのことは秘密なのだけどね、特に貴方たちには。誰に聞いたの?」

「父に頼み込んで」

「宰相閣下が許したと?」

「はい」

「ということは、自分たちの置かれた立場を正確に把握して、かつ私への敬意を払うと認められたということかしら」

「……はい」

あらまぁ、これはある意味で残念。

つまり、彼は目覚めてしまったのね。

私的には、ここまで来たら攻略対象たちは仲良く全員、ヘレンさんと逆ハーレムルートでフィニッシュしてくれても、それはそれで噂が楽しいことになるなぁ……なんて考えていたのだけど。

まぁ、シルヴァン様は救出される手筈ではあったから、それは叶わなかった予定だ。

きっと残念なのは私ではなく、彼らを熱烈に歓迎しているファンたちだろう。

うんうん、流石はヒーローたち、女子生徒のファンがとても多いわ。違う意味で。

「……とても思うところはあるのですが」

「あら、ご不満が先?」

「いえ、申し訳ありませんでした、マリアンヌ様」

「何についての謝罪でしょう」

「……婚約者の居るアレクシス殿下の行動を諌めることが出来ていませんでした。それによって貴女に多大な迷惑をお掛けしたことについて」

「よくてよ。実際、私の被害はそうないから」

「……そのようですね。いえ、ですがまったく無害というワケでもなかったです」

「あら、何かあって?」

「……我々の噂についてが主流ですが、陰に隠れて貴女の評判も一応下がっています、一応」

「そうなの? どのように?」

「結局は婚約者に、殿下に、相手にされていないのは事実ではないか? と」

「あら、私の聞いていない評判ね?」

あったのねぇ、そんなの。いや、あるか、当然。

本来はそっちが主流のはずだろう。

「……我々への関心の方が、声が大き過ぎまして」

「埋もれているのね」

「はい」

「ふふふ」

おっかしい。

「何故、と聞いても?」

「うん?」

「何故、よりによってあのような噂を流そうと? もっと他にやりようがあったのでは……」

眼鏡クイ。

「それは怒っているの? 抗議のつもり?」

「……いえ。その気持ちがなくもないのですが、純粋な疑問です」

「うーん。そうねぇ、正直に言うわね?」

「はい、ぜひ」

「『思い付いちゃった』が理由」

「思い付き……」

「私、別に色々と深く考えているワケじゃあないのよ。場当たり的に対応していることが多いわ。『こうしたら面白そうだな』って思ったの」

「…………」

「貴方たちについても、そこまで用意周到に準備して対応したのではないわ。ただ」

「ただ?」

「貴方たちの様子を見て、あの時から先の状態を想像して、この国の価値観的なことと私の知識的なものを合わせた結果、『あら、これってこう見えるのでは?』と思ったの」

「……そう、ですか。では、特に事前に根回しなどもされていなかったと」

「ええ、そうよ。最初の日、女子生徒たちに囲まれて貴方たちへの対応を迫られた時に思い付いたの」

「思い付いたから……」

肩を落とすフィリップ様。

フィリップ様が一番苦手なタイプなのかもねぇ。

攻略対象と悪役令嬢という関係上、何かしら私について警戒していたかもしれない。

事前に私が裏で動いていたなら、何事かを察知して妨害されていたかもしれないわ。

そうしたら今の状況もなかったかも。

でも、蓋を開けてみたら私のその場の思い付きだった。

ほら、ルドルフ様のやり取りとか、アレクシス殿下とのパーティーの一件とか。

その場凌ぎ、思い付き、場当たり的な対応よね。

こういうところが自分でも王妃・王子妃には向いていないな、と思うのだ。

流石に王族となれば思い付きの行動は自粛しなければならなくなる。

それもあるので……あれね。

よくある隠しキャラの隣国皇子と悪役令嬢がくっ付いて……とかもない。

現時点でセドリック皇子の好感度、何も稼いでいないからね、私。

「マリアンヌ様は成績も悪くないですし、知性は高いと思っているのですが……」

「あら、ありがとう」

「それでも思い付きなのですか?」

「そうよ。フィリップ様、そういう人間も居るんだって知っておいた方がいいわ」

「……厄介です」

「ふふふ。あと、私。けっこう愉快犯だから」

「愉快犯?」

「面白そうだなって思ったら、そっちを優先しがちなの」

「…………厄介過ぎます」

ふふふ。

論理的な行動理念など、私は持ち合わせていなかったりする。

全くないワケじゃあないけど。

とりあえず思い付きでやってから、後から理屈付けをする感じ?

「貴方が現実を見て、自分の状況を確かめて、宰相に話を通して私の下まで来られたなら。まだ芽が残っているのでしょう? なら私のようなイレギュラーが現れることも頭の隅に置いておくことね。人間が誰しも最適な行動を取るとは限らない。論理的ではないから、ルールにはないから、絶対にその行動を取らないなんて先入観は、貴方に破滅をもたらすかもよ」

完全な理論派というか、合理性や論理性を最優先する人物ならば、そもそも真っ先にお父様を通して陛下に状況の改善を持ち掛けるだろう。

そして、陛下があのように真っ当な対応をしてくださる方なのだから、彼らとの問題も早期解決していたはずだ。

婚約解消だって、とうの昔に済んでいたに違いない。

転生者だって、わざわざ明かすこともしなかったでしょうね。

それは合理的でもなく、最適解でもないのだから。

でも、そうしない。

そうしなかった、そうならなかったのは、私がそういう人間ではないからである。

別に誰もに予想されない人生を生きたいワケではない。

ただ、何となく。

『こうした方が面白そう』ということを優先している。私はそういう人間だ。

「フィリップ様、こうして私の下へ来て。今までのことを謝って。それで? それからどうしたいですか、貴方は」

「……私は」

私は微笑みながら彼の言葉を待つのだった。