軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 対峙

「どうぞ、お座りになってヘレンさん、ニールセンさんも」

私はシルフィーネ様をはじめとした令嬢たちとテーブルを囲んでいる。

学園の行事なので皆さん、制服のままよ。

涼しい時期だけれど、一応は日傘なども差されている。

日焼けは乙女の敵なのは今世でも同じだ。

「…………」

ヘレンさんは、まぁ堂々たる振る舞い。

むしろ『受けて立つ』という意気込みを感じられるわ。悪役令嬢との対峙だものね。

それにしては味方となるべき攻略対象を一人しか連れてきていないけど。

「ふふ、緊張している? いいのよ、楽にして。ヘレンさんにはいつも苦労を掛けるわね」

「……苦労?」

「ええ。でも、とても感謝しているのよ。貴方のお陰で平穏な学園生活が送れているから」

「感謝って」

眉間に皺を寄せるヘレンさん。

嫌味か、皮肉かと意味を計りかねているみたい。

「今日はいつも一緒にいらっしゃるフィリップ様はどうされたの? 参加はしなくても見学くらいしそうなのにね」

「……フィリップは何か調べものがあるそうです」

「そうなの」

調べものねぇ。きちんと調べているのかしら。

フィリップ様、まさかの薔薇の会脱退の危機?

ファンが嘆いてしまうわ。シルヴァン様を代わりに補充しないと。

「マリアンヌ様、何か不穏な微笑みを浮かべておりますけど」

「ああ、失礼、シルフィーネ様。少し考え事を、ふふふ」

身内の危機を感じ取ったのかしら、シルフィーネ様。

「あの! ……ごめんなさい、マリアンヌ様!」

「あら? どうしたの? ヘレンさん」

私は首を傾げる。ヒロインが頭を下げるとは。

これは始まるかしら、ひどいひどい攻撃が。

「マリアンヌ様がそこまでお怒りになるなんて……でも、誤解なんです!」

私が怒っていることにしたい系ね。あるある。

親の顔より見たわ、そのパターン。

「続けて?」

私はニコニコとしながらヘレンさんに続きを促した。

「……わ、私たちは仲のいい友人なんです! ですから、マリアンヌ様の誤解です!」

「ふふふ、そうね、貴方の言う通りね、ヘレンさん」

「え?」

尚もニコニコ対応の私が、さらに彼女の言葉を肯定するとヘレンさんは間の抜けた声を上げる。

「貴方たちは仲のいい友人ね。何も誤解していないわよ? それでどうして私が怒ることになるのかしら。おかしなヘレンさんね」

「……そんな、だってマリアンヌ様はお怒りでしょう?」

私の感情を決め付けて頑なに主張してくるパターンね!

それもあるあるだわぁ。

どうしても私が怒ったり、嫉妬したりしていてほしいのよね。

「ニールセンさんもとても殿下たちと仲がいいそうね」

「えっ!」

ヘレンさんのペースに乗る気はさらさらないので、私はロッツォさんに矛先を向ける。

ロッツォ・ニールセン。

身分的には平民であるものの、大商会の会長の息子。

高位貴族とも関わりがあり、そこらの貴族家門よりある意味で力がある。

身分だけで高圧的な貴族に何度も嫌がらせをされたことがあるため、心に暗いものを抱いている。

そこを身分が低いながらも高位貴族からの虐めに耐えるヒロインに感化されて……というヒーロー。

そのため、身分でマウントをとってくる悪役令嬢の私とはすこぶる相性が悪い。

現実の彼らが交わしてきた会話は知らないけど、まぁ、良い印象では私を語らないだろう。

今も最大限の警戒の眼差しを私に向けてきている。

これはヘレンさんの言葉を無視したことも大きいかもね。

「ねぇ、ロッツォ・ニールセンさん。貴方は…… 誰が好き(・・・・) なの?」

「……はい?」

でも、私は身分マウントとか取る気はない。

そもそも、私以外も席に座って耳を傾けているこの状況。

皆が聞きたいことは私とヘレンさんのマウント合戦などではないのだ。

誰も今、女同士のキャットファイトなど求めていないのである。

「……!」

案の定、私のストレートなぶっこみに令嬢たちの目がギラつき始めた。

特に薔薇文化に嵌っている面子を集めた席なのだ。さもありなん。

ヘレンさんが困惑しているのは、私が身分マウントに走らず、あまりにも想定外の質問をしたからか。

「……おっしゃっている意味がよく分かりません」

「あら、そう? そんなに難しい質問だったかしら?」

「いえ、……その。何を聞かれているのか、意味が」

「ふふふ、純粋な興味よ? だって、ねぇ?」

私は意味ありげに言葉を切る。

みなまで言わない。それが淑女の嗜みなのだ。

集まっている皆さんも、うんうんと頷いているから暗黙の了解である。

シルフィーネ様だけが私にだけ聞こえるような小声で『また誘導している……』とぼやいている。

そんなまさか。

ただ、私は彼の気持ちを確かめたいだけなのよ。

攻略対象の好感度を知りたがるなんて、とても正攻法なゲームプレイ。

うん、これはまさに王道といえるわ。

……あ、ちょっと遊び心が。

「ロッツォ・ニールセン、アナタの好感度をオシエてくダさル?」

絶妙にカタコトで音程を外した台詞を言ってみた。

かなり機械的に。急に無表情になって。

「……?」

「マリアンヌ様? 急にどうしたのですか?」

「え? 私、今何かおかしかった? あら、ちょっと……どうしたのかしら? 何故か急にニールセンさんに聞かなくちゃいけないって気持ちになって……あら? 何かしら、今の」

如何にも『システムに乗っ取られました』的な小芝居をしてみる。

これもあるあるパターンじゃない?

システムに強制的に従ってしまう悪役令嬢の姿!

「…………」

ヘレンさんが先程までの敵愾心を他所にやって、私に対する観察モードに入ったみたい。

突然の豹変だったもの。

彼女がもしもお花畑な思考の持ち主なら『もしや?』と考えてもおかしくないわ!

たぶん。知らないけど。

システムアシストとか運命の強制力があると思い込んでくれた方がヒロインの行動が読みやすくなって儲けものよね。

「好感度……? よく分かりません」

「ふふ、そうよね。私も何を言っているのかしら? だって、ニールセンさんはヘレンさんのことが好きなのだものね?」

「そ……! それは!」

「そんなことは……ねぇ、ロッツォ」

「あ、ああ。いや、そうだ、そうですよ。そんなまだ僕たちはそんな」

「ふふ、誤魔化さなくたっていいのよ? でも、それだったら……お二人は婚約なさったりするご予定は?」

「え!?」

私の言葉にさらに驚きを重ねるロッツォさん。

「だって、ねぇ。貴方たちのグループで婚約していらっしゃらないのはフィリップ様とニールセンさんでしょう? 自然に考えるのなら、ヘレンさんと縁を結ぶのはお二人のどちらかではないかしら?」