軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 狩猟祭とハンカチ

『狩猟祭』は学園行事でありつつ、成人してからも縁があるものだ。

学生にもルドルフ様のように騎士科に通う生徒たちが居て、どちらかというと彼ら寄りの『イベント』となる。

学園校舎から少し離れた場所にある森林地帯に踏み入って、そこで制限時間内に獣狩りをするのだ。

生徒全員参加ではなく、参加するかどうかは事前に申し込んで決める。偶に推薦参加もあるわ。

主に狩りに出るのは男子たちね。

狩った獲物を意中の異性に贈るという、アピールイベントでもある。

女性側も同様に、自らが刺繍したハンカチを意中の男性に贈り、受け取ってもらうというアピールチャンスがある。

成人してからも同様の行事が開かれることがあり、そこには王族も参加したりするから、予行演習としてはピッタリな行事だ。

個別ルートであれば、ピックアップされるのはルドルフ様のルートだけど逆ハーレムルートの場合はアレクシス殿下とルドルフ様が競い合うような形になる。

フィリップ様は不参加、見学ね。

また、ルートが上手くいっていれば外部参加があったりする。それが……。

「シルヴァンお兄様。こちらをどうぞ」

「ああ、シルフィーネ。ありがとう」

シルヴァン様の参加だ。

卒業生で、かつ普段は文官として働いているはずの彼だが、在校生時代は狩猟祭で一番大きな獲物を狩り、優勝した実績がある。文武両道ねー。

そんな実績持ちの彼が特別に呼ばれているのは、アレクシス殿下という王族が参加するからでもあるのだろう。

何やかやと理由を用意して、二人と縁を繋ごうという当人たち以外の思惑が動いた結果だ。

シルヴァン様は、まだ婚約者が正式に発表されていないので女子生徒たちから凄まじい人気がある。

「ふふふ」

女子生徒たちがシルヴァン様を慕っている姿を見ると何か久しぶりに健全なものを見た気になるわ。

日頃から学園に不健全が蔓延っている?

そんなまさか。

「シルヴァン様、どうか私のハンカチをもらってください!」

「私も!」

「私も!!」

というか、シルヴァン様の人気が異様に高い。

ゲームではカットされる部分だと思うけど、現実ではあんなものだろうか。

攻略対象だし、婚約者居ないし。

「それでも流石に数が……」

いや、待って。あれって攻略対象たちに分散するはずの女子人気がシルヴァン様に集中している?

視線を移すとヘレンさん、アレクシス殿下、ルドルフ様が一つの場所に。

でも、彼らにハンカチを渡そうとする女子生徒が居ない。

そんなことある? あれは一応、殿下なのだけど。

「ええ、困ったな。こんなにハンカチは受け取れないんだ、すまない」

「「「ええええ!」」」

困惑しているシルヴァン様。可哀想に。

せっかく疑惑のグループに入らずに逃げているのに別の意味で大変なことになっているわ。

元からモテる人だから、女性陣に囲まれたところで役得とも思わなそうだし。ただ大変な思いをしているだけねぇ。

「さて、行きますか」

とにかく、シルヴァン様が女子生徒たちを引きつけている間に済ませてしまおう。

私は、微笑みを浮かべたままアレクシス殿下の下へ向かった。

シルヴァン様ばかりがハンカチを渡されている現状もあまり好ましくは思っていなそうなアレクシス殿下とルドルフ様。

ヘレンさんは、せっかくの機会だからとシルヴァン様にアプローチしたがっているように見える。

でも、この環境で流石に殿下たちを無視して、あちらの輪には入れないようね。

「……マリアンヌ」

「アレクシス殿下、ごきげんよう。婚約者としての務めを果たしにきましたわ」

「務め、かい?」

「ええ、ふふ。実はフィリップ様にパーティーでの一件を咎められてしまいましたの。ですので、今回はこちら、ハンカチを殿下に贈らせていただきます」

「あ、ああ。そうか。ありがとう、マリアンヌ」

私は、刺繍を入れたハンカチをアレクシス殿下に手渡す。

流石にこれは断れないと思ったか、殿下は素直に受け取った。

ハンカチといっても現物は腕に巻くことの出来る長さや幅があるシロモノだ。

武器に巻いたり、腕に巻いたりしてハンカチを贈られたことを周囲にアピールするのが慣習となっている。

「……薔薇の刺繍か。上手だね、マリアンヌ」

「ふふ、どう致しまして。それで前回の反省というか、こちらはお詫びも兼ねて。ルドルフ様にも、どうぞ」

私はもう一枚のハンカチをルドルフ様に差し出す。

「は? 俺……?」

「はい、ルドルフ様にも」

ニコニコの私。

呆気に取られるルドルフ様。

実は、さっきから私を睨んだり、演技っぽい悲しそうな表情を浮かべてみたりしているヘレンさん。

眉を顰めているアレクシス殿下。

「俺は……そんなもの、」

「貴方の婚約者であるシルフィーネ様は今回、飛び入り参加することになったシルヴァン様にハンカチを贈ることにしたそうです。まぁ、その旨、手紙でルドルフ様に、というかバーニ伯爵に既に報せて了承を得ているそうですけど。でしたら、パーティーのお詫びも兼ねてということで今回はシルフィーネ様の代行として私がルドルフ様のハンカチを用意しましたの。生憎とデザインは殿下と共通のものとなりましたが……お二人の友情も同時に祝するということで。もちろん、ルドルフ様は婚約者からの手紙を読みましたし、バーニ伯爵からも聞いておりますわよね」

「…………いや、ああ、それは」

ルドルフ様は既に根回しをされているらしいことに苦虫を噛み潰したような表情だ。

私はニコニコしながらハンカチを差し出すのみ。

薔薇の刺繍入りハンカチを。

視界の端でヘレンさんがどう出るか悩んでいる様子を捉える。

悪役令嬢であるゲームの私は、アレクシス殿下にだけハンカチを渡そうとするけど、かなり強引に迫る感じだ。

嫌がられているのに無理矢理、ってところ。

そんな悪役令嬢がルドルフ様にもハンカチを? となってヘレンさんが混乱している様子が伝わってくる。

「ふふ、驚かれますわよね。でも、私からは一つご提案が。そのハンカチをお二人が腕に巻いて狩猟祭に参加してくださるなら、お二人の狩った獲物をヘレンさんに贈ることを黙認しますよ。これは、シルフィーネ様も了承済みです」