軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13 パーティーの夜

「アレクシス殿下、お久しぶりですな。オードファラン公爵、ジオルドが挨拶申し上げる」

「あ、ああ……。久しいな、公爵。貴方がこのようなパーティーに顔を出すとは思わなかった」

お父様が私に視線を向ける。私は無言で頷いた。

「はは、何。娘にせがまれましてな。やはり男親として愛娘には弱い。上の兄も大切ですが、マリアンヌも私の最愛の娘なのです。娘を害する者あらば公爵家として徹底的に容赦はしませんし、このような小さな願いなど叶えてしまうものですよ」

「あ、ああ……そう、か」

アレクシス殿下は動揺しつつも平静を保てている様子。

私は表情を崩さず、ニコニコとしたままで。

「マリアン、」

「 ヘレンさん(・・・・・) 、ごきげんよう。お久しぶりね」

アレクシス殿下より先にヘレンさんに声を掛けた。

「えっ、はい、お久しぶり、です、マリアンヌ様」

「ふふ、今日はとても可愛らしいわね。素敵なドレスよ、よく似合っているわ」

絶賛ニコニコ対応中。ここで重要なのはドレスについて彼らを糾弾することではない。

加えてヘレンさんを責めることでもない。

お父様に対して無礼な発言をして怒らせることもしない。

だって、それをしたらアレクシス殿下がヘレンさんを庇うでしょう?

『公爵、あまり彼女を責めないでくれ。彼女は大切な友人なんだ』と。

ヒーローみたいに。それは具合が悪いのよね。

『あれ? アレクシス殿下はアウグスト嬢を大事にしているのか?』と周りに思わせたくない。

そもそも広まっている噂的に私はヘレンさんを責める立場にはないのだ。

「え、ええ。ありがとう、ございます……」

ヘレンさんは私がニコニコしていることは想定外らしい。

ドレスも褒められるとは思わなかったようだ。

となると、この一件は彼女が仕組んだことか。

でも、実行犯はアレクシス殿下しかありえないわよね。

公爵家のドレスの盗難と複製、きちんと調査して証拠が出ればいいけれど。

「おい、マリアンヌ」

「はい、アレクシス殿下。どうされました?」

「……私への挨拶はないのか」

「え? ああ、申し訳ございません。ヘレンさんが魅力的だったので後回しにしてしまいました、ふふ。改めてごきげんよう、殿下」

ニコニコ対応の私。アレクシス殿下は無視されて少し苛立ち。

お父様も隣に居るし、おかしな言い掛かりは難しいわよね?

ヘレンさんは悪役令嬢の私を軽んじても公爵を名乗ったお父様に強くは出られないらしい。

やはり、お兄様ではなくお父様に来てもらって正解だった。

「ところで」

私は彼らから視線を外し、会場内を見回してみた。

「ああ、やっぱりルドルフ様も来られていますね」

「……アレクシス殿下の側近でしたな。近しい関係だと聞いている」

シルフィーネ様を同伴……していたはずだ。

さらに見回すとやはり彼女も居た。

居たが、既に二人は別行動している。

あれはエスコートはしたけど即座にお別れってやつをやらかしているのかしら。

帰りはシルフィーネ様も連れて一緒に帰ろうかな。

「……マリアンヌ様、そのドレスは」

「うん? ふふ、素敵でしょう? 今回はこのドレスを着たくてアレクシス殿下からのドレスをお断りしたの。お父様にも見てもらいたくてね」

「そ、そう……ですか。とても綺麗なドレスですね」

「ありがとう、ヘレンさん。貴方のドレスも素敵よ」

褒め返してあげると彼女は悔しそうな様子を滲ませる。何とか抑えているみたいだけどね。

「……マリアンヌ。そのドレスは以前教えてくれた店で用意したのか?」

「いいえ?」

「……何?」

「実は私、今回はドレスを予め二着用意していたんです」

「二着だと?」

「ええ、ですからこちらのドレスは、いわば今回のための本命のドレスです。もう一着は汚してしまった時用の『予備のドレス』でしたの。ふふ、このドレスに比べれば少し劣る、地味なドレスですわ」

「予備の……地味な」

ヘレンさんが唇を噛み締める。

私はそれに気付かないように振る舞った。

「何故だ? 私がどこの店で用意したのかと聞いた時、君は私に嘘を……いや、予備のドレスの方を教えたな? どういうつもりだ」

「ふふ、もちろん、それはサプライズのためですわ!」

「……は?」

「殿下にはパーティーで初めてこのドレスを見ていただきたかったの。ですから秘密にしていたのよ。そのために今日はお父様にエスコートしてもらったわ。ふふ、殿下も当家に私を迎えに来られたら驚かれたでしょう? 私たちは先にパーティーへ向かったと伝言を頼みましたもの。私はお父様と共にこうしてパーティーへ……。あら? そういえば殿下は、もうこちらに来られていましたわね……? 私たちより早く……? 伝言を聞いてからなら早過ぎる……?」

今、ようやく気付いちゃいましたー。

「い、いや! それは」

「何か行き違いでもあったのかしら。サプライズのために慣れないことをするものではありませんわね。でも、お互いこうしてパーティーには余裕をもって参加出来たのですもの。問題ありませんわね、きっと」

「そ、そうだな。ああ、そうだとも」

「ふふ、そうですわよね。では、アレクシス殿下。今夜のエスコートはお父様にお願いしましたので」

「うん……?」

「今日は互いに自由に過ごしましょう。ふふ、それでは」

殿下と過ごすつもりはないと言外に仄めかす。

私は終始、ニコニコ対応。

でも、私が許してもお父様が許すかしら!?

とばかりにお父様は冷ややかにアレクシス殿下を見下ろしている。

私たち親子の間に凄まじい温度差が発生中よ。

「ま、待ってくれ、マリアンヌ。わ、私たちは婚約者だろう? ならば……ファーストダンスは共に踊るべきではないか」

そういえば今夜のパーティーはダンスの時間があるんだった。

さて、ここはどうするべきかしら。