軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第104話 閑話 2度目の誕生日は周到に

3月14日。

皇家の迎賓館は朝から使用人達がバタバタと走り回っている。

もちろん、皇家の専属敏腕弁護士兼、美人セクシーメイドの私、渋沢彩音もその一人だ。

といっても、人手が足りていないわけじゃないし、その表情はとても楽しそう。

それもそのはず。今日は陽斗さまのお誕生日なのだ。

屋敷で過ごす2度目の誕生日。

昨年は陽斗さまの受験や入学準備などで忙しかったのもあったけど、なによりまだ皇家に引き取られて日が浅く、陽斗さまの好みや性格、好きな料理とかを完全には把握できていなかったのよね。

……今ももちろんだけど、あの頃の陽斗さま、可愛かったなぁ。私の名前もまだ呼び慣れてなくて、照れながら「彩音さん」なんて呼ばれて萌え尽きそうだったわ。

コホン。

と、とにかく、あの時は旦那様と使用人達だけの、いわば身内のごくささやかなものしかできなかった。……普通の家と比べちゃダメよ?

食が細かった陽斗さまは専属料理人が腕を振るいまくった料理やデザートもほんのちょっぴりしか食べられなかったし、旦那様はプレゼントすら贈れなかったのよね。

まぁ、張り切りすぎて豚の丸焼きや結婚式かよってサイズのケーキを作った料理人と、南の島やらクルーザーやらを贈ろうとした旦那様はこれっぽっちも同情できないけど。

そんなわけで準備不足も甚だしかった前回の反省を踏まえて、しっかりと陽斗さまが楽しめるものにしようというのが旦那様と使用人一同の意思なのよ。

残念なことに今年の誕生日は平日。

まだ春休みに入っていないので陽斗さまは学園がある。

暴走した旦那様が強権を使って臨時休校にしようとか言い出したけど、さすがに和田さんと比佐子さんがキレ気味に止めていた。グッジョブです。

学園があるとはいってもパーティーを夕方からにすれば時間は充分に取れるし、逆に考えればその間に入念な準備もできるというもの。

問題は来年度の行事や新入生の受け入れ準備で忙しい生徒会。

陽斗さまは副会長という要職にあるので、生徒会のある日は帰宅が遅くなってしまう。

この時期は毎日のように活動しているはずだけど、役員はみんな陽斗さまと仲が良いからこの際全員呼んじゃうことにした。そうすればこの日は活動できないのでちょうど良い。

その後したのは招待する人も選定。

陽斗さまがリラックスして楽しめないといけないから一定以上仲の良い友達。

四条院の穂乃香嬢と天宮の次男、武藤君とセラさんは当然として、2学期から仲良くなった同性の3人組とクラスメイト数人、料理部の部活仲間、芸術科のあのちょっと変わった娘も入れた。

あ、小学生時代の親友だった門倉光輝君も。彼は家が離れてるからヘリで送迎することになっている。

あとは、仕方がないので昨年に引き続き今は陽斗さまのクラスの副担任になっている小坂満里奈先生も入れてあげた。

次はプレゼントの調整。

メイドや料理人、設備担当、警備担当など、皇家には何十人もの使用人がいるけど、全員が全員、陽斗さまに誕生日プレゼントを贈る気満々なのよね。

なので各自が好き勝手用意すると間違いなく中身が被る。

同じ物が沢山あっても陽斗さまが困っちゃうわよ。情緒はないかもしれないけど調整は必要よね。

ただでさえ陽斗さまは趣味が少ないからこれでもなかなか大変。

ブランド物好きとかなら簡単なんだけど、慎ましい性格も陽斗さまの魅力のひとつだし。

旦那様は和田さんの助言を受けて無難な物に落ち着いたそうだ。……本当かなぁ。少し前に本邸が一部改築されてたんだけど?

招待客もそれなりの人数になっているので会場は隣接する皇家の迎賓館。

100人以上が入れるホールにメイド達が楽しそうに飾り付けをしている。

もちろん料理の準備も着々と進んでいる。相変わらずやり過ぎ気味だけど、今回は食べ盛りの高校生がたくさん居るから問題ない。さすがにあのウエディングケーキは止めてもらったけどね。

「そろそろ招待客が到着する頃です。準備の仕上げに掛かってください」

比佐子さんが進捗を確認しながら指示を飛ばしている。

「ほら、旦那様、邪魔なのですみっこ行っててください」

「貴様、どんどん儂に対する態度が悪くなっているぞ」

そんなことはありませんよ? お金を払ってくれる人には相応の忠誠心を持ってますとも。ただ心は陽斗さまのものですけどね。

なにより、ソワソワと落ち着きなく会場をウロウロされるのが鬱陶しいです。

まったく、普段は誰もが恐れるオーラをまき散らしながら周囲を威圧しまくっているのに、陽斗さまに関することには途端にポンコツになるんだから。

少しは向こうのソファーで悠然とワインを飲んでる桜子様を見習ってくださいよ。

少しして、学園の生徒達を送迎している警備班から間もなく着くと連絡があったので私を含めた数人のメイドが出迎えにでる。

迎賓館の門が開き、2台のバス、こちらは学園の寮に入っている子達ね。それから数台の乗用車が次々に入ってきた。

ロータリーになっている玄関前に止まった車から招待した生徒達が降りてきて、一様にポカンと建物を見上げたまま立ち尽くしている。

そりゃびっくりするわよね。

西蓮寺なんて無名の家柄だと思ってたらこんな大きな建物がお出迎えだもの。

もう間もなく、予定では錦小路家が主催するパーティーで陽斗さまがお披露目されることになっている。

そうなればすぐに学園の生徒達にも広まるだろうし、なにより財界の関係者に陽斗さまのことが知れ渡る。

旦那様の立場を考えればいつまでも隠し通せるわけがない。それに、すでに調査能力に長けた家はその程度のことは調べ終えているはず。

余計なちょっかいを掛けられる前に公表して、態勢を整えた方が陽斗さまを守りやすい。

陽斗さまが黎星学園に入学して間もなく1年。すでに信頼できる友人もたくさんできているから皇の後継者であることが知られても学園生活に大きな変化は起きないだろうと思う。

というわけで今回招待した、陽斗さまと親しい人達には一足先に事情を説明し、お披露目までは黙っていてもらうことになったのよね。

「ようこそおいでくださいました。時間がありませんのでどうぞ中へお入りください」

「あ、は、はい。あの、西蓮寺君って……」

「それも中で。簡単にではありますが当主が説明させていただきますので」

いつまでも呆けられてたら陽斗さまが帰ってきてしまう。

何か訊いてこようとする子達を急き立てながらホールに案内する。

ホールの準備はほぼ終わっており、旦那様と桜子様が生徒達を出迎えた。

「ようこそ、今日は孫の誕生パーティーに来てくれてありがとう」

「ちょ、あれって、まさか皇重斗氏?!」

「う、嘘だろ? 西蓮寺が皇先生の孫だって?!」

「皇って、まさか、あの?」

天宮君や生徒会長などの一部を除いて、騒然となる生徒達。

幾人かは旦那様の顔を知っていたようで、その孫が陽斗さまだと知って驚いている。

「驚かせてすまんな。今言ったように陽斗は儂の孫だ。ただ、学園でそれを知られると普通の友達ができないかも知れなかったのでな」

そう言うと、ほとんどの生徒は納得してくれたようだ。それだけ皇の名前が大きいということでもある。

事前に知っていたら今のような関係を築けたかどうか微妙なところだろうからね。

「お、おい、天宮や武藤は知ってたのかよ」

「なんだよ、水くさいなぁ」

「あぁ、でも俺、知ってたら緊張して話なんかできなかったかも」

仲良し3人組がそんなことを言っていたが、多くの生徒の本音だろう。

「皆さん、いつも陽斗と仲良くしてくれてありがとう。陽斗がもうすぐ到着するけど、どうか、陽斗の生誕を一緒に祝ってくださいね」

桜子様がそう言うと、陽斗さまのご友人達は一様に笑顔を浮かべて頷いてくれた。

陽斗さまがどこの誰だろうと、皆さんが惹かれたのは陽斗さまの人柄なのだから祝う気持ちに変わりはないのだと思う。あ、外見も魅力よね。うん。

比佐子さんが簡単に段取りを説明し、生徒達がホール入り口を囲むように移動する。

そうしているうちに陽斗さまを迎えに行っていた車から間もなく到着するとの連絡。

私は比佐子さんと一緒に急いで玄関まで行く。

私達が玄関前の ポーチ(車止め) に出た直後、門から陽斗さまの乗るリムジンが入ってきた。そしてそのままこっちに来る。

「お帰りなさいませ」

「え、あの、ここって……」

車から降りた陽斗さまが戸惑った顔で私達を見る。

「穂乃香さんと華音さんも、ありがとうございます」

陽斗さまに続いて降りてきたのは四条院穂乃香さんと羽島華音さん。

実は陽斗さまが最後に到着するように、リムジンには遠回りして帰ってくれるようにしていたのよ。

寮住まいの友人達を乗せたバスを見られるわけには行かないから、学園を出たのは陽斗さま達の方が先だけど、到着は一番最後。

途中で気づかれないように、穂乃香さんと華音さんには旦那様に呼ばれているという名目で一緒にいてもらって誤魔化してもらったというわけ。

「ふふ、さぁ、陽斗さま、旦那様がお待ちです」

「う、うん、あの、彩音さん? お祖父ちゃんがなにか?」

あら、やっぱり陽斗さまは自分の誕生日をすっかり忘れているみたい。毎年祝われるのに慣れてないからかしらね。

でも不安そうな顔をしているわけじゃなくて、単に普段と違う状況に緊張しているって感じ。

穂乃香さんの顔をチラリと見て、彼女が笑みを返すと照れたように俯いて私達の後に続く。

……ちょっと、何やら良い感じ? いつの間に進展したのか。

華音さんは、ホントにこの娘、表情変わらないわね。

そんなこんなでホールの入り口に到着。

比佐子さんが扉を開けると同時に、私は陽斗さまを中に押し出す。

パンッ、パパパパンッ!

「せーの、陽斗くん、誕生日おめでと~!!」

一斉に鳴らされるクラッカーと、友人達の声。

「え? あっ!」

ようやく思い出したらしい陽斗さまが、驚き、そして、嬉しそうに笑った。

さぁ! 楽しい楽しいパーティーの始まりよ!

まだまだ陽斗さまを驚かせるんだから!