軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファラの眼差し

「ファラ姐さんとラファ様、狐人族領で会ってからずっとあの調子だな。はは、リッド様も大変だ」

「でもよ、あの二人ってなんか近い雰囲気を感じるんだよな。意外と似た者同士なんじゃねぇか」

オヴェリアが楽しそうに肩をすくめ、ミアがしげしげと相槌を打った。

ファラとラファが似た者同士、か。

確かに二人には似ている部分を持っている気がする。

性格や言動は正反対だけど互いに譲れない部分があるし、一族の長女という立場も同じだ。

言い得て妙かもしれないけど、本人達には聞かせられないな。

特にファラが聞いたら怒るだろう。

幸い、今の二人は笑顔のまま視線を交わしているから、オヴェリア達の声は届いてないようだ。

まぁ、ファラの耳に届いていたら二人は一瞬で氷漬けにされそうだけど。

「貴女達、この場で私語は厳禁よ。口を慎みなさい」

オヴェリアとミアの隣に立っていたシェリルが小さくため息を吐くなか「シェリルの言うとおりだ」とカルアが低い声で頷いた。

「俺達がここに立っていることはリッド様直属の『ブレイド・ベル』だから許されている。粗相があれば、リッド様とバルディアの名を汚すことになるぞ」

「シェリルとカルアの言うとおりだよ。ここはバルディア領内じゃないんだからオヴェリアもミアも、言葉には気を付けて」

強めの口調のカルアに続き、ラムルが優しい口調で諫めた。

僕と一緒に牢宮で修練を積んだ『ブレイド・ベル』の面々でこの場に控えているのは、彼ら四人だけだ。

他の子達も一緒にここへ来ているけど、来賓用の観覧席には全員入りきれないから近くの一般席で待機している。

観客席外の廊下だと試合が見られないからね。

今回の獣王戦はきっと皆にとって良い刺激になるだろうから、ブレイド・ベルの皆は試合を見られる場所に配置したわけだ。

「へーいへい。わかってますよ」

「だから、俺たちは聞こえないよう小声で話してんだろ?」

カルア達の指摘を受け、オヴェリアとミアはやれやれと相槌を打った。

いや、小声といっても耳を傾けて集中すれば聞こえるからね。

僕は心の中でやれやれとため息を吐いたその時、ファラが「ふふ……」と笑みを浮かべたままゆっくりオヴェリアとミアを横目で見やった。

『ちゃんと聞こえていますよ。後で二人とはお話がございます』

彼女の笑顔からは、はっきりそう伝わってくる。

目は口ほどに物を言うとは、まさにこのことだろう。

冷たい横顔から繰り出される眼差しに、僕はぞくりとしてたじろいだ。

「やべぇ、ファラ姐さんが怒ってんぞ。あ、あたしは関係ねぇ。ミア、てめぇのせいだぞ」

「し、知るかよ。余計なことを言うから釣られちまったんだ。だから、お前のせいだ」

「止めなさい、二人とも。これ以上の失態は許さないわよ」

シェリルが呆れ顔で真っ青でいがみ合う二人を仲裁すると、カルアとラムルが揃って深いため息を吐いた。

「だから言わんこっちゃない」

「ファラ姐さん怒らせちゃった以上、可哀そうだけど『氷漬け』は避けられないだろうね」

ラムルが同情の眼差しを二人に向けながら発した。

ちなみに『氷漬け』とはファラが自身の持つ『氷の属性素質』をいかんなく発揮し、牢宮内での修練中に仲間内で起きた喧嘩の仲裁に何度となく利用した技のことだ。

当初は周囲を凍てつかせるぐらいだったんだけどね。

牢宮での高負荷修練を積んだことで、今のファラは生かさず殺さず丁度良いあんばいで対象を氷漬けにできるのだ。

彼女達のやり取りに「ふふ……」とラファが口元を緩めた。

「お義姉さん、そんな冷たくて怖い目付きもできるのね」

「さて、なんのことでしょう」

ファラは目を細め、素知らぬ顔で返した。

何にしても、いつまでも二人に睨み合いをさせる訳にもいかない。

僕は深呼吸をして覚悟を決め、仲裁すべく「あの、もうその辺で……」と割って入ろうとした。

でもその時、「お取り込みのところ申し訳ありません」と優しい声が聞こえ、背筋がゾッとする。

この声は……⁉

慌てて振り向けば、そこにはさっきまで席に座って会場を見つめていたホルストが立っていた。

気配を一切感じなかった、一体いつの間に近寄ってきたんだ。

僕が困惑するなか、彼はにこりと微笑んだ。

「リッド殿と少しお話がしたいのですがね。ラファ、いいかな?」

「……わかったわ。またね、リッド、ファラ」

彼女は眉をぴくりと動かし、肩を竦めて自身の席に戻っていった。

ラファにしては珍しく素直だけど、これはホルストが得体の知れない相手だからだろう。

「すみませんね。急に割り込んでしまって」

「いえ、構いませんよ。それよりどうされました?」

「少し尋ねたいことがありましてね。しかし、その前に……」

僕が答えると、彼はファラに振り向いて畏まった。

「レナルーテ王国の元王女にしてリッド殿の愛妻であるファラ・バルディア殿。お初にお目に掛かります、鳥人族部族長ホルスト・パドグリーと申します。以後、お見知りおきを」

「ふふ、お上手ですね。こちらこそよろしくお願いします」

ファラは目を細め、礼儀に沿って挨拶を返した。

ただし、あくまで社交辞令の域を出ない程度に留めている。

癖が強いズベーラの獣人族部族長達において『ホルスト・パドグリー』が最も危険人物であることはファラはもちろん、バルディア家の共有認識だからだ。

ホルストはにこりと目を細め「実は……」と切り出した。

「以前からレナルーテ王国が持つ独自文化をはじめ、エルフやダークエルフの歴史には少々興味がありましてね。いつか行ってみたいと思っているんですよ」

「それはそれは、ぜひレナルーテにいらしてください。事前に連絡をもらえれば、私から父上と母上にもお伝えしておきますので」

「はは、それは有り難い。その時はよろしくお願いします」

彼はそう言って笑みを零し、「さて……」とこちらに振り向いた。

「リッド殿にお尋ねしたいことは他でもありません。アリア達のことです。顔だけでも見られればと思ったのですが、こちらにはいないようですね」

「そうですね。彼女達は……」

やっぱり聞いてきたかと、そう思いつつも平然とアリア達のことを説明していく。

実は今回のズベーラ訪問でアリア達は連れてきていない。

『なんで⁉ どうして牢宮で一緒に修練までしたのに連れていってくれないの、お兄ちゃん』

『……うん、こればっかりはアリア姉に同意する』

『そうですね。さすがに納得のいく説明をお願いします、リッド兄様』

出発前のバルディアでアリア、エリア、シリア達に留守番を告げた時、彼女達は揃って声を荒らげた。

『ごめんよ。でも、これは決定事項なんだ』

僕はそう切り出し、アリア達に留守番をしてもらう理由を告げた。