軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの高負荷修練

「ふぁ~。ほらほら、リッド。もっと頑張らないと僕が持つ莫大な魔力を自由自在には扱えないぞ」

「そう、だね。わかっている、それはわかっているんだけど……⁉」

宙に浮かぶフェイは頭の後ろで手を組んだまま欠伸をするも、僕は必死の形相で体の中に流れる牢宮核から供給された魔力の調整に四苦八苦していた。

牢宮での高負荷修練がはじまり、新しい部隊名が発表されて約一週間が経過。

僕を含めて環境に慣れてきた皆は、基礎訓練に加えて身体強化や獣化を用いた組手や実戦稽古を行っている。

ただし、僕だけは皆と違ってフェイと二人だけで、とある特訓を行っている状況だ。

この場にいないカペラとティンクには皆の訓練に付いてもらっている。

心配はされたけど、どうしてもフェイと二人だけで特訓したいとお願いし、二人は渋々了承してくれた。

フェイと二人だけで特訓しているのには、もちろん理由がある。

僕は牢宮核【ダンジョンコア】の化身であるフェイが地上でも実体化し、自由に動けるための魔力供給源とも言える宿主となった。

その恩恵として僕と牢宮核も繋がっていて、莫大な力を持つ核から魔力供給を得られるようにもなった。

ある種の共生関係になったと言えばわかりやすいだろうか。

フェイの宿主となるため、牢宮核に初めて触れたあの日。

僕の胸の奥深く、それこそメモリーがいた場所に近いようなところに、自分の魔力とは違う流れを持つ『魔力核』が生まれたような感覚があった。

そしてその感覚通り、僕の中には牢宮核と繋がってフェイの実体化にも重要な役割を果たす『魔力核』がある。

この魔力核から僕も魔力を得られるわけだが、その調整に苦労しているわけだ。

僕が七、牢宮核が三という比率で魔力を混ぜ合わせれば通常通りに使えるんだけど、この比率でも牢宮核から取り出す魔力量が多くなればなるほど調整が難しく、やがて全身がきしんでしまう。

フェイに理由を尋ねたところ『それこそ、リッドの器が莫大な魔力量に耐えきれないんだよ』と切り出し、説明してくれた。

『牢宮核の魔力はでっかい湖に蓄えられた水みたいなものさ。そこに水路を引いて大量に水を引いても、出口が小さければ水の勢いに負けて決壊するだろ? かといって貯水先が小さすぎれば溢れてこれまた決壊するってわけ。この場合、魔力供給の調整が水路で、貯水先がリッドのことね。それでも、リッドはとんでもなく上手に扱えていると思うけどね。まぁ、ここからは一朝一夕じゃ難しいさ』

この話を聞いた僕は自身の魔力容量を鍛えつつ、牢宮核を使いこなせるようになるべく特訓しているというわけだ。

やり方は簡単で、身体属性強化・烈火を常時発動して魔力を大量に消費しつつ、自身の魔力と牢宮核の魔力をひたすらに混ぜ合わせる。

最初こそ負担は少なかったけど、時間経過と共に牢宮核から流れ込んでくる魔力調整が難しくなっていく。

だけど、解決策は慣れと、僕自身の最大魔力量を増やすしかない。

「いやぁ、それにしてもリッドも人の子だったんだねぇ」

「あたり前でしょ。僕だって、生まれた時から魔法が使えたわけじゃない。使えるようになったのは、ここ数年の話なんだから」

「あはは。逆に言えばたった数年でここまでの実力を得たんだ。やっぱり、君は只者じゃないねぇ、リッド」

必死に魔力調整しながら答えると、フェイは楽しそうに笑い出すも「そういえば……」と周囲を見渡した。

「ねぇ、リッド。今日は君の奥さんはどうしてるの?」

「あぁ、ファラなら今日はアリア達と一緒に訓練しているよ。電界と通信魔法を使いこなせるようになりたいらしくてね」

僕はそう言って、皆が訓練している屋敷の方を見やった。

『リッド様、雷の属性素質を持っていれば通信魔法が扱えるようになれると伺いました。どうか私にも教えてくださいませんか?』

ファラにお願いされた僕は二つ返事で即答し、彼女に電界と通信魔法の基本的な考えと使い方を伝えた。

『後は感覚を掴めるまでひたすら反復練習だね。僕も練習を手伝うから気軽に言ってね』

『ありがとうございます。でも、リッド様はご自身の稽古があると思いますから、アリア達に後はお願いしてみます。すぐに上手になって、驚かせてご覧にいれますね』

『はは、わかった。楽しみにしているよ』

これがつい先日のやり取りだ。

「へぇ、気配察知魔法とかいう電界と連絡手段の通信魔法か。でも、そんなあっさり教えちゃっていいの?」

「何が……?」

フェイの問いかけに小首を傾げて聞き返すと、彼はにやりと笑った。

「奥さんに隠し事できなくなるんじゃない?」

「隠し事って。僕がファラに隠すことなんてないよ」

余計な心配を防ぐため、機密保持で話せないという意味での隠し事はするかもしれないけどね。

彼女に隠し事をすることは基本的にないだろう。

「まぁ、それならいいけどさ」

彼はつまらなさそうに肩を竦めるも「あ、ところで……」と思い出したように切り出した。

「父君もちょくちょく牢宮に来ているよね。あれ、どうして?」

「父上も僕達に負けてられないから鍛え直すんだってさ。あと、溜まった執務をここでして母上と過ごせる時間を増やしているそうだよ」

「あはは。そりゃ面白い。鍛え直すのはわかるけど、父君は本当に母君が好きなんだねぇ」

フェイは宙に浮かんだまま、お腹を抱えて笑い出した。

地上と牢宮で流れる時間が違う。

地上での一時間が、牢宮では十二時間にもなる。

執務で忙しい父上からすれば、雑務と特訓ができるこの環境は猫の手以上に有り難いんだろう。

ただ、一応釘も刺している。

『父上、この空間にいればいるだけ歳を取るのが早くなるんですからね。それはつまり母上や僕達と一緒にいられる時間が短くなることでもあるんです。あまり多用はされないでください』

『……わかっている。だが、それはお前に言われたくないぞ』

「え……?」

『止むを得ないとはいえ、親として子の成長を一年も見られなくなるのだ。どの口が言うか、こいつめ』

『も、もうひわひぇありまふぇん。いふぁい、いふぁいれす、ひひうえ……⁉』

結果は藪蛇で、怒った父上にめっちゃ両頬をつねられたけど。

でも、それ以降、父上は地上と牢宮で過ごす時間を明確に決めているみたい。

「おっと、そろそろ時間だ。リッド、一旦休憩しよ」

「わかった」

フェイが地面に置いていた懐中時計の文字盤を見て、声を掛けてくれた。

ずっと集中しているから、つい時間を忘れちゃうんだよね。

僕は身体強化・烈火を止め「ふぅ……」と息を漏らして、その場にへたり込むように座った。

「あぁ、疲れた」

「お疲れ様。でも、最初よりも大分掴めてきているんじゃない?」

フェイが目を細め、僕の肩にちょこんと乗った。

「そうだね。最初よりも体の痛みは減っているし、少しずつだけど核から得られる魔力量も増えているよ。獣王戦を……いや、その先も見据えて、今頑張らないとね」

「ふふ、その目。何か企んでいるね?」

「企んでないよ。ただ、僕の中に流れる牢宮核の魔力で『試したいこと』があるだけさ」

にこりと微笑み返すと、彼は肩から飛び立ってやれやれと肩を竦めた。

「そういうのを企んでるっていうと思うんだけどね」

「はは、そうかもね」

「まぁ、いいや。さて、リッド」

フェイは急に真顔になった。

「高負荷修練の予定だけど、基礎訓練と慣らしに二~四日、基礎訓練と実戦訓練に十~十二日の約二週間で負荷を上げていくって話してたけど、その予定で問題なさそうかな?」

「うん、そうだね。皆の様子を見る限り、それで問題ないと思う。あとはお願いしていた『バトルロワイヤル』、『大乱闘』、『潜入任務』の仕組みはできそう?」

『バトルロワイヤル』、『大乱闘』、『潜入任務』は、僕が前世の記憶にあるゲームから得た特別な特訓方法だ。

『バトルロワイヤル』は三人一組でチームを作り、フェイが生み出した武具が落ちている空間内で最後の一チームになるまで戦う。

空間には人のチームだけでなく、魔物達も存在しているので勝つための知恵、動き、どんな武具を用いるかといった総合的な判断力が鍛えられるだろう。

『大乱闘』はフェイが用意した大きめの武舞台上で四~八名による乱闘を行う。

勝敗は倒すことではなく、自分以外の全員を場外に落とすことだ。

一時的に協力するか、漁夫の利を狙うのか、はたまた一人で全員を相手取っていくのか。

個人で何処までやれるのか、自身の限界を見極める機会になるはずだ。

『潜入任務』は一転して、戦うことを可能な限り禁じた特訓だ。

一人単独あるいは三人一組で大きな施設に潜入し、敵に見つからずに与えられた任務を達成するというもの。

隠密行動や奇襲能力、場合によってはただ戦うよりも難しいだろう。

基礎訓練、組手、実戦形式の稽古に加えてこれらの特訓を用いることで、皆の実力を更に引き上げようというわけだ。

彼は僕の問い掛けに「あぁ、もちろんだよ」と不敵に笑った。

「僕は牢宮核の化身フェイ・バルディアだよ。地上ならいざ知らず、牢宮でこの僕にできないことなんてありはしないのさ」

「頼もしいね。楽しみにしているよ」

こうして、僕達の高負荷修練の長く短い日々が本格的にはじまった。

全ては故郷と家族を守り、バルディアを断罪の憂き目から救うため。

何人であろうと、僕の家族には手を出させない。

常に勇敢であれ【エヴァー・ブレイブ】。

そう心で呟き、僕は自分自身を鼓舞していた。