軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

猫とスライム

「……シャドウクーガーとスライムです。これは我が国の領地にある、『魔の森』に生息している魔物ですね」

アスナは驚きながらも呆れた様子で言った。

僕は「魔物」という単語に目を輝かせた。

以前、ルーベンスから聞いたダンジョンに生息するという「魔物」と一緒なのだろうか?

僕は興味津々の目をしてアスナに聞いた。

「魔物‼ ダンジョンとかに出るって聞いたけど、『魔の森』にもいるの?」

アスナは僕を見て、少し呆れた様子で言った。

「いえ、ダンジョンと魔の森の魔物は呼び方が一緒ですが、内容は違います。ダンジョンの魔物はコアが生み出した魔力を源に生まれます。ですが、『魔の森の魔物は魔力を生まれながらに持った生き物』です」

「……つまり、基本は僕達と変わらない生き物ってことかな?」

彼女は僕の言葉に頷いた。

つまり、「魔の森」にいる魔物は僕達と変わらない。

魔力を持った生き物であるらしい。

ちなみに、僕がメイド服を着てまで城下町に来たのはこの「魔の森」で取れる薬草の情報が欲しかったからだ。

魔の森とはアスナの言う通り、レナルーテ国内にある濃厚な魔力が漂う深い森林地帯だ。

危険ではあるが、そこでしか取れない鉱石や様々な素材などは非常に高値で取引されることもある。

魔の森の素材で作成された武具の品質はとても良く、マグノリアでもとても評価が高い。

その為、レナルーテには各国から冒険者が一攫千金を狙ってやってくることも多い。

先程の下卑た三人組や、マレインの傭兵と思われる先程の男達も当初は冒険者としてこの国に来たのだろう。

実は、レナルーテに来る前から僕は「魔の森」のことを知っていた。

この世界にある本でも調べたのもあるが、前世の記憶にもあったからだ。

乙女ゲームの「ときレラ!」においても、「魔の森」は素材集めをする重要な場所だった。

もっとも、ゲームの場合はキャラクターをマップ上の「魔の森」に配置して「素材回収」のボタンを押したあとは時間経過を待つだけだった。

だが、この世界で「魔の森」を本で調べると、資源は豊富だがそこには「危険な生き物」が多数存在している。

人が安易に踏み込めない未開の土地である。

ということが記されているだけだった。

だけど、僕はこの「魔の森」に魔力枯渇症の特効薬の原料になる「ルーテ草」があると確信を持っていた。

何故なら、「ときレラ!」ゲーム内において魔の森の「素材回収」をすると、「ルーテ草」が手に入っていたからだ。

僕が物思いにふけっていると、シャドウクーガーが足元に擦り寄って来た。

頬の部分を僕の足にこすりつけている様子を見ると、本当に猫そっくりだ。

毛色は全身黒だが、胸部分に逆三角形で白い部分がある。

毛が全体的に長く、尻尾が二本あるがこれも長い。

長毛種みたいな感じだ。

足元にきたシャドウクーガーをよくみると首輪のようなものをしていることに気付いた。

「……これ、どうしたのだろう?」

しゃがみ込んで、その首輪らしき物をよく見ると何やら頑丈な作りになっていた。

これで、この子を抑えつけていたのかな?

その時、僕が感じた疑問をエレンが答えてくれた。

「これは、魔物を飼いならしたりする時に使う魔力抑制の首輪ですね。これを、付けると魔物は自分の魔力を扱うことが出来ません。高価な道具なので、恐らくマレインが用意したのではないでしょうか?」

「……なるほど。ちなみに外せそう?」

僕の言葉にエレンはちょっと嫌そうな顔をして返事をした。

「出来ないことはないですけど、外した瞬間に暴れるかもしれませんよ?」

「でも、このままにしておけないし、いざとなったら皆いるしね」

そう言いながら僕は周りを見渡した。

それに気づいた様子のエレンは、ため息を吐きながらシャドウクーガーの首輪を取り外しにかかった。

「はぁ……どうなっても知りませんからね……」

エレンが首輪を外している間に僕はもう片方のスライムをみた。

スライムは水色で透き通っているが、特に危険な気配を感じない。

スライムは首輪を外されているシャドウクーガーを心配そうに見守っているみたいな感じだ。

「はい。外れましたよ」

僕がスライムを見ている間に、エレンはシャドウクーガーの首輪を外した。

その瞬間、シャドウクーガーの体がみるみる大きくなっていく。

興味本位で周りにいた人たちはその様子に悲鳴を上げて逃げて行った。

「ティア様‼ 私の後ろへ」

「う、うん。でも大丈夫だと思うよ?」

ディアナは守る様にシャドウクーガーと僕の間に割って入った。

アスナも同様にファラを庇っている。

エレンは僕の後ろに急いで隠れながら悲鳴をあげるように言った。

「だから僕は言ったじゃないか‼ どうなっても知らないよって‼」

シャドウクーガーは最初、猫ぐらいの可愛らしい感じだった。

今はライオンぐらいの大きさになっている。

でも、僕達に対して敵意はない感じがする。

大きくなったシャドウクーガーは、嬉しそうにスライムに近づくと額をスライムに擦り付け始めた。

その時、スライムも嬉しそうな雰囲気を出しながら形が変化し始めた。

変化が終わるとスライムはシャドウクーガーと同じ姿になった。

ただ、全身の色が白く、胸の逆三角形の部分が逆に黒かった。

僕達はスライムの変化に呆気に取られて、目を丸くした。

スライムの変化が終わると二匹はお互いに嬉しそうに顔を寄せ合った。

人間で言うところの抱き合うような仕草をしている。

僕は、二匹の仲睦まじい様子が両親の出す雰囲気と似ている感じがして呟いた。

「このシャドウクーガーとスライムってひょっとして夫婦なのかな……?」

「……みたいですね。魔物の生態はよくわかっていませんから…… でも、スライムとシャドウクーガーが夫婦だなんて聞いたこともありませんけどね」

二匹の様子にアスナが信じられないという感じで言った。

他の皆も同様の様子だ。

その時だった、最初にディアナが吹っ飛ばした男が顔を押さえながらよろよろと立ち上がった。

そして、僕達を見ると怒号を発した。

「てめぇら‼ よくもやりやがっ……た……な?」

怒号は途中から意気消沈していき、男は解放された二匹の魔物を見ると驚愕した表情になった。

すると今度は、二匹を指さしながら悲鳴のような声を上げた。

「あぁあああああ‼ テメェら、なんで魔物を解放してやがる‼」

叫んだ瞬間、黒いシャドウクーガーが男に向かって怒った様子で飛び掛かった。

「うわぁあああああ‼ 悪かった‼ 助けてくれぇ‼」

シャドウクーガーが飛び掛かると同時に男は背を向けて逃げようとした。

だが、逃げ切れるわけもなく、敢え無く背中から押さえ込まれてしまった。

「うわぁあああああ‼ 魔物に食われて死ぬなんて嫌だぁああ‼」

最初の勢いは何処にいったのか。

男は必死に泣き叫んでいた。

シャドウクーガーは、追いかけられた怒りを晴らす様に牙をむき出しにした。

その時、僕は叫んだ。

「待って‼ 殺しちゃダメ‼」

「……?」

声が届いたのか、シャドウクーガーはキョトンとした顔で振り返った。

言葉が通じるかわからない。

だけど僕は、ディアナの前に出るとシャドウクーガーに近づいて優しく言った。

「彼らのことは私達に任せて欲しい。それに、君がいまこの男を殺すと、もっと沢山の人が君たちを追い回すことになるよ。だから、引き渡してくれないかな?」

「……グゥ」

言葉が通じたのか、シャドウクーガーは少し残念そうにしながら男の背からどいてくれた。

さて、ここからが僕達の出番だ。男は体の抑えが無くなったことで安堵したように呟いた。

「た、助かった……」

「……安心するのは、まだ早いと思うよ?」

「へ……?」

僕の言葉に男は間の抜けた返事をした。

その時、僕の後ろからアスナがやってきた。

彼女は歩きながら刀を抜いて、男に近づくと彼の頬に刃先を突き付けて言った。

「……何故、魔の森の魔物がこんなところにいたのか、全部説明してもらうぞ‼」

「ひぃいいいいい‼ な、何でもしゃべります‼」

男の情けない悲鳴がまたあたりに響いた。

男から聞いた話は、あまり良い気分のするものではなかった。

魔の森で最近、シャドウクーガーの夫婦が見られるようになったらしい。

シャドウクーガーの夫婦自体は時折見かけることもあるので、すぐ話題にはならなかった。

だが、ある時その夫婦の片割れがスライムの擬態であることがわかった。

シャドウクーガーとスライムの夫婦など中々あるものではない。

物珍しさに欲しがる客もいるだろう。と、マレインの指示で男達は2匹を捕えようと画策した。

だが、シャドウクーガー自体がとても強い魔物なので、簡単にはいかない。

そこで、男達はまずスライムを捕まえて人質にした。

人質を取られると、シャドウクーガーは抵抗しなくなり大人しくなった。

その時に首輪をして捕まえたというのだ。

「なんて、酷いことを……」

「……最低ですね」

男の話を聞いて、ファラとエレンが軽蔑の眼差しを彼に向けながら言った。

だが、男はその二人に向かって吐き捨てるように言った。

「……人様をどうこうしようってわけじゃねえ。相手は魔物だぜ? 魔物がどうなろうと俺達の知った事かよ‼」

「……人でなければ何をしても許されると思っているのですか⁉ そんなことは決してありません……‼ そんなものはただの人の驕りです‼ あなた達のように、人の道を外れた行いをする者が『外道』と呼ばれるのです‼」

「⁉……クソッ……」

静かな怒りを込めて僕は男に凄んで言葉を紡いだ。

彼は僕の言葉を聞くと顔を背けて小さく呟いた。

その時、僕達の後ろから聞いたことのあるような声がした。

「なんの騒ぎかと思ったら、ディアナさんじゃないですか? こんなところでどうしたのですか?」

嫌な予感がする。

人違いであって欲しい。

そう思いながら振り向くと、そこに居たのはやっぱりクリスだった。

まさかの人物にディアナも何とも言えない顔をしていた。

「……あれ? 何かお邪魔でしたか……?」

ディアナの顔をみたクリスは意図がわからず、きょとんとした顔をするのだった。