軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

牢宮核【ダンジョンコア】

「なんだ、これは……⁉ 体の中が熱い、熱いぃいいいいい⁉」

フェイが足を止めて悲痛な叫び声を上げた瞬間、全身が発火して彼の背中から焔ノ番火が飛び出した。

番火の勢いは留まることを知らず、フェイの体を噛みついて食い尽くすように襲いかかっていく。

「何故だ、どうして、どうしてこんなことに。フローベル、君は僕が支配したはずなのに⁉」

火に包まれた彼が困惑しながらフローベルをじろりと睨むが、彼女は動じずに睨み返した。

「フェイ、貴方は私の闇を利用しましたね。でも、その闇が晴れた今、私の心と体が貴方に支配されることはありません」

「そうだ。それに私が言ったはずだ」

マルバスは彼女を抱き寄せ、フェイを指さした。

「フローベルは私のものだ、とな」

「く……⁉ なら、もう一度、もう一度闇に落とすまでだ。この程度で僕が倒せるとおも……」

全身が燃えながらも襲いかかろうとするフェイ、彼は気付いていなかった。

二狐ノ番火がフェイの体を取り込み、さらに巨大化していたことに。

きっと、攻撃と同時にフローベルの精神がフェイから主導権を取り返していたんだろう。

彼がハッとして振り向いたその時、二狐ノ番火が大口を開けて飲み込むべく襲い掛かった。

「や、やめろぉおおおおおおお⁉」

フェイが叫び声を発するも、二狐ノ番火に噛みつかれて上半身と下半身をそれぞれに飲み込まれてしまった。

二狐ノ番火は口をもごもご動かして咀嚼した後、ごくりと喉を鳴らして「けふ……」と息を吐いてそのまま消えてしまった。

「終わったな」

マルバスはそう呟くと、側にいたフローベルを両腕で抱き上げる。再び、お姫様抱っこだ。

「ま、マルバス様……?」

「これが私達の新たな旅立ちだ。ついてきてくれるな」

「はい、勿論でございます。ずっと、ずっとご一緒いたします」

マルバスとは思えない優しい眼差し。フローベルは目を潤ませ、心から嬉しそうに彼に抱きついた。

彼女の目から溢れ出た涙が頬を伝って床に落ちると小さな光が生まれ部屋全体が、彼女の心の中が暖かい光に包まれていくのを感じる。

フローベルはもう大丈夫だろう。

それにしてもマルバスって、意外とすっごい情熱的なんだなぁ。

おかげで僕は最後まで置いてけぼりだったけどね。

でも、ここで声を掛けるのも野暮というものだろう。

二人の幸せで熱々な様子に頬を掻きながら苦笑していると、フローベルが僕を見て少し決まりが悪そうに微笑んだ。

目を細めて微笑み返した次の瞬間、僕の意識は地上に戻っていた。

ハッとして目の前を見やれば、白銀の騎士の鎧が罅だらけになっている。

やったのか、と思った直後、フェイの口元がゆっくりと動いた。

「……貴方のおかげで自分を取り戻せました。ありがとう、リッド・バルディア」

「おかえりなさい、フローベル」

僕がそう答えた瞬間、白銀の鎧が砕け散ってフローベルが現れる。

すかさず僕の背後にいたマルバスが彼女を抱きかかえた。

「大丈夫か、フローベル」

「はい、ありがとうございます。フェイを倒すためとはいえ、夢の中での言葉はとても嬉しく存じます」

「倒すためではない、君を救うためだ。それに嘘偽りはない」

「マルバス様……」

フローベルとマルバスは熱い眼差しを交差させている。

僕は肩を竦めると、あえて熱々なやり取りを繰り広げる二人の前に出た。

愛の場面は夢の中で散々見させてもらったし、まだ決着はついていないからね。

イビの歌声が聞こえる中で両手に魔力を込めながら広間を見渡すと、僕の正面で煌めく魔力が集まって人型になっていく。

「よくもやってくれたねぇ。でも、これしきのことで僕は倒せない。倒せるものか」

「さて、それはどうかな」

僕はフェイが完全復活する前に跳躍し、彼の顔に傷だらけになっている両手をかざした。

「はは、何をするつもりか知らないけどね。魔力体の僕に何をしたところで無意味さ」

再生中で体は動かせないらしいが、フェイはにやりと口元を緩ませる。

「そう、君は魔力体で倒せない。だけど、魔力供給源である牢宮核【ダンジョンコア】は僕達にだって壊せるだろう」

「……だとしても、僕が場所を教えるわけないだろう」

「教えてもらう必要はない。見つけるからね。魔力変換強制自覚」

「な……⁉」

彼の勝ち誇っていた顔の目が大きく見開かれた。

魔力変換強制自覚は僕の魔力を対象に流し込み、魔力変換や魔法の仕組みを強制的に体感させるものだ。

じゃあ、魔力体であるフェイにした場合はどうなるのか。

「うわぁああああああ⁉」

「ぐ……⁉」

フェイが悲痛な叫びを上げ、僕は苦痛に耐えるべく歯を噛みしめた。

わかる、わかるぞ。

フェイを形成する魔力がどこから流れてくるのか。

その気配を追っていくと、空席となっている玉座があった。

直感した僕は、玉座に向けて片手で火槍を放つ。

「マルバス、あそこだ。あそこに牢宮核が隠されているはずだ」

「……⁉ わかった。貴様にしては上出来だ」

彼は言わんとしていることを即座に理解し、薙刀を構えて跳躍する。

「や、やめろ。やめてよぉおおおおおお⁉」

フェイがマルバスを止めようと手を伸ばして叫んだ瞬間、彼の記憶が僕の脳裏に垣間見えた。

まさか、フェイって……⁉

僕はハッとすると魔力変換強制自覚を止め、牢宮核が隠されている玉座に向かって跳躍する。

フェイは「うぁ……」と呻き声を漏らして、その場にへたり込んだ。

玉座では火槍とマルバスの放った焔が直撃し、まるで雪の結晶体のような虹色に煌めく牢宮核が露わとなっていた。

あれが牢宮核か。

初めて見たけど、ぱっと見はとても綺麗だ。

「壊しはせん。だが、この一撃で決着を付けさせてもらう」

マルバスが掲げた薙刀を振り下ろすと、広間に鉄と硝子が打つかったような衝撃音が轟いた。

「……貴様、何の真似だ」

「ごめん、マルバス。作戦変更だ、フェイと少し話をさせてほしい」

彼と牢宮核の間に入った僕が展開した魔障壁に、彼の薙刀の刃が打つかっている。

ぎりぎりで加減してくれたんだろう。

そうでなければ、僕の魔障壁は壊されていたはずだ。

「何だと……⁉ 気でも狂ったのか。我々を虚仮にした挙げ句愚弄した者と、今更何を話すというのだ」

彼の怒号が広間に轟くも、「マルバス様……」とフローベルがやってきた。

「私はリッドに救われました。ここは一度、彼の言うことを聞いてもよろしいのではないでしょうか」

「何か、考えがあるのか?」

マルバスが聞き返すと、彼女はこくりと頷いた。

「牢宮核を傷つけることはすぐに出来ます。それに傷つけたとて、ルイ達を必ず救える保証がありません。ここは牢宮核を人質とし、フェイと交渉すべきかと存じます」

「……なるほど。フローベルがそう言うのであれば一旦矛は収めよう」

マルバスは眉をぴくりとさせると薙刀をゆっくりと下ろした。

「ありがとう、マルバス」

僕がお礼を告げると、彼は鼻を鳴らした。

「礼はいらん。だが、交渉中に何かあれば、私はすぐに牢宮核を破壊する。それで良いな」

「わかった」

僕は頷くと、歌っているイビに向かって「もう大丈夫だよ」と大声を発した。

「……とりあえず終わったみてぇだな」

彼女は「ふぅ……」と息を吐くと、牢宮核に向かって歩き出した。

一方、僕は少し離れた場所でへたり込んでいるフェイに歩み寄っていく。

彼はびくりと体を震わせたけど、僕はすっと手を差し出した。

「さて、色々と君の話を聞かせてもらうよ」

「う、うん。でも、どうして……?」

「……知りたくなったのさ。フェイのことを。そして、この牢宮のことをね」

僕はそう告げると、彼の手を取ってその場に立ち上がらせた。

彼は今、丁度僕と同じぐらいの背丈をしている。

こうしてみると、同年代の子供と大して変わらない。

実際、フェイは『無邪気な子供』なんだ。

彼の記憶を垣間見た僕は、そう確信していた。