軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

五階層、門番との決着

「白氷熊【アイスベア】を三体相手にしつつ、あの銀龍【シルバードラゴン】か。厳しいけど、やるしかないね」

「面白くなってきたじゃねぇか。遊戯【ゲーム】は、難しければ難しいほど燃えるってもんだぜ」

「木偶、鳥頭。あまり熱くなるなよ」

僕が自らを奮い立たせるように呟くと、イビが不敵に笑い、マルバスが肩を竦めた。

銀龍は夜天から地上に降り立つと背中の羽をたたみ、四つ足で悠然と歩き始める。

次いで、周囲にいる白氷熊達をじろりと凄む。

なんだ、あいつら仲間のはずなのに。

どうして、銀龍はあんなに凄まじい殺気を放っているんだろうか。

訝しんでいると銀龍は目をかっと見開き、前足の鋭い爪で二体の白氷熊の首を飛ばし、残っていた巨大な個体の頭を顎で噛み砕いてしまった。

「な……⁉」

僕が目を丸くしていると、銀龍は返り血で真っ赤に染まった爪と顔を見せつけるように、にやりと口元を歪めた。

『次はお前達がこうなる番だ』と言わんばかりだ。

ひょっとして、これは僕達を戦わせようというフェイ、あるいは牢宮【ダンジョン】が講じた演出なのだろうか。

突然の同士討ちに驚きこそしたけど、実際のところは四対三の状況から一対三に、状況は好転している。

ちらりと横目で見やればイビは呆れ顔を浮かべ、マルバスはため息を吐いていた。

「あらら、仲間を殺してやんの。あいつ、いきって失敗する輩だぜ」

「全くだな。自ら戦力を減らすとは度し難い。龍と言っても、所詮はでかいだけの蜥蜴だな」

「ガァ……⁉」

僕達に求めていた反応と違ったのか、銀龍の表情が曇った。

彼の伝わってくる感情を翻訳すれば、『貴様等……⁉ 我を愚弄するか⁉』という感じだろうか。

でも、この件に関しては僕も二人と同意見だ。

状況によっては他人が『足手まとい』になることはあるけど、現状は数的優位が不利に働く可能性は低い。

どうせ捨て駒にするなら、相手を巻き込む形にすべきだろう。

まぁ、僕はそんな非道なことはしないけどね。

「グゥオオオオオオオ⁉」

銀龍は怒った様子で咆吼を轟かすと、こちらに向かって突進してくる。

僕達はそれぞれに武器を構え、第五階層の門番である銀龍を討ち果たすべく動き出し、戦いの火蓋が切られた。

「最も硬い竜鱗で覆い隠すなぞ、弱点をばらしているようなものだ。やはり、蜥蜴だな」

「この下だろ。隠したって、僕にはわかるんだよ」

「グガァアアアア⁉」

僕の水と氷魔法の合わせ技によって四肢を分厚い氷で覆われ、身動きを封じられた銀龍。

硬く、厚い竜鱗に覆われた頭部にマルバスの高温の炎を纏った薙刀が突き立てられ、次いで僕の凍てついた剣が突き立てられる。

作戦通り、急激な温度変化に耐えきれなかった竜鱗にぴしりと罅が入った。

「……⁉ ヌゥガァアアアアアア⁉」

銀龍は危機とこちらの狙いを察したらしく、咆吼による衝撃波を発して僕達と四肢を覆っていた氷を吹き飛ばした。

「これでも駄目か。できれば今ので決めたかったのに」

「蜥蜴の分際で悪あがきとは、生意気な奴だ」

僕とマルバスが舞台上で受け身をとって身構えたその時、夜天輝く上空から槍を構えたイビが雷を纏って急降下してくる。

「うるせぇんだよ。その口、閉じてな。轟雷衝【ごうらいしょう】」

彼女が繰り出した槍の刃先は、僕とマルバスによって罅が入った場所に寸分違わず直撃。

雷鳴が轟き、魔波が突風となって吹き荒れたその時、高い音が波紋を響かせて竜鱗が砕け散る。

槍は顎まで貫き地面に突き刺さり、衝撃で爆音と土煙が立ち上がって砕けた舞台の破片が激しく飛び散っていく。

銀龍からやや離れた場所にいた僕とマルバスは、魔障壁を張って銀龍とイビの動向を注視していた。

銀龍の体は硬い銀色の竜鱗に覆われ、戦闘開始直後から僕達の物理と魔法攻撃を全て跳ね返し、無効化してしまう。

また、その強靱な竜鱗と巨大な体躯を生かした突進で距離を詰め、牙と顎による噛みつきや鋭利な爪も振るい、舞台上を縦横無尽に暴れた。

一時、こちらは銀龍から逃げ回るしかない状況に追い込まれてしまうほどだ。

ちなみにこの時、僕は足を滑らせて転んでしまい、あわや銀龍に飲み込まれそうになっている。

ただ、その時は魔障壁を球体状に展開し、銀龍の顎を外してやったけどね。

でも、その時に気付いたんだ。

『翡翠の丸玉』を頭部の竜鱗下に隠していることをね。

僕はこの情報をすぐにイビとマルバスに伝えたけど、頭部の竜鱗は銀龍の中でも特段に硬く覆われていて、何度か攻撃してみたけどびくともしない。

一階層の門番みたく一斉に攻撃を仕掛ける方法もあったけど、通じなければ手痛い反撃を受ける可能性もあった。

そこで僕は一計を案じ、銀龍の視界に入らず気付かれにくい尻尾の部位に火と氷属性の魔法を何度か命中させたところ、火と氷の順で当てた部位の鱗に罅が入ったのだ。

温度計がないからわからないけど、雪嶺の頂上である以上、気温は相当低いと思われる。

その状況下で火で温められ、再び氷点下という急激な気温変化には竜鱗も耐えきれなかったのだろう。

これならいけると、確信を得た僕はマルバスとイビに作戦を告げ、今まさに実行されたというわけだ。

イビの一撃は、間違いなく『翡翠の丸玉』を砕いていたし、気配から二個目はない。

これで銀龍は終わりのはずだ。

息を飲んで固唾を見守っていると、薄くなった土煙の中で何かがゆらりと動く。

目を凝らした瞬間、急に強い風が巻き起こって土煙を掻き消した。

「よっしゃあ。喜べ、悪役主人公【ダークヒーロー】にぼんぼん眼鏡。手応え、あったぜ。あたし達の完全勝利だ」

えぐれた舞台の中心から勝ち気な勝利宣言が響いた。

有無言わなくなった銀龍の頭部でイビは腕を組んで仁王立ちをし、にやりと口角を上げて尖った八重歯を見せている。

僕は彼女の姿を見て「ふぅ……」と息を吐いて安堵し、胸を撫で下ろした。

「よかった。気配からして大丈夫とは思っていたけど、この目で見るまでは安心できないからね」

「木偶と鳥頭にしては上出来だったな」

マルバスは眼鏡の山をくいっと持ち上げ、鼻を鳴らした。

腹の立つ物言いではあるけど、僕もイビも彼の言動に大分慣れている。

この程度はもう気にならない。

それにしても、本当に素直じゃない。

絶対に一般社会だったら可愛がられない性格だ。

心の中でやれやれと頭を振っていると、銀龍の体が魔力の泡となって煌めきながら霧散していく。

やがて、今回も光の中から冒険者風貌をした狐人族の青年が姿を現した。

「ジャン⁉」

大声で名を呼んだのはマルバスだ。

彼は跳躍してえぐれた舞台の中心に降り立つと、彼を抱きかかえた。

「ジャン、私がわかるか」

「う、うぅ。マル、バス様……?」

「情報がいる。お前達程の手練れが、どうして七階層を突破できなかったのだ」

ジャンと呼ばれた青年が薄ら目を開けると、マルバスは間髪入れずに大声で尋ねた。

「七階層……? あ、あぁ⁉」

唖然としたジャンだったが、彼の顔はさぁっと青ざめると混乱した様子で捲し立てた。

「マルバス様。空が、空の閃光に貫かれた、貫かれたのです」

「空の閃光に貫かれた、だと。それは門番の攻撃か、それとも罠か」

「申し訳、申し訳ありません。お力に慣れず申し訳ありません」

ジャンは錯乱しているらしく、マルバスの声が届かない。

「しっかりしろ。気をしっかり持つんだ」

マルバスが怒号を発したその時、黒い渦と手が現れてジャンを闇に引きずり込んでいく。

「く……⁉」

「マルバス様、本当に申し訳……」

止むなくマルバスは離れると、沈んでいくジャンをきっと見据えた。

「私はお前を許す。故に胸を張って待っていろ」

「……⁉」

闇に飲まれていくジャンから返事はなかったけど、彼の目には強い意思が灯っている。

どうやら、今の言葉で正気を取り戻したらしく、彼の眼差しから強い感情が伝わってきた。

僕はマルバスのことは許せないし、好きになれない。

でも、ルイやジャン達にとってはかけがえのない存在なんだろうな。

マルバスは闇に飲まれていく彼を助けようとはせず、僕達にも『無駄になる。手出しは無用だ』と強く目配せしてくる。

ジャンが完全に闇に飲まれてしまうと、僕は「気持ちはわかるけど……」と切り出した。

「いくら何でも、第一声に『情報がいる』っていうのはどうかと思うよ。せめて、必ず助けるとか言ってあげればいいじゃないか」

「私と部下の関係を、貴様の家族ごっこと一緒にするな」

マルバスは殺意の籠もった目でこちらを睨む。

僕は動じずにその目を見据えるも、すぐに肩を竦めた。

「そうだね、今の発言は出しゃばりすぎたよ。でも、家族ごっこって言い方は止めてくれるかな。君だって、僕と皆の関係を何も知らないでしょ」

圧を込めて微笑み掛けると、彼は鼻を鳴らしてそっぽを向いてしまった。

「失言はお互い様だ。この件には二度と触れるな」

「はぁ、わかったよ」

呆れながら僕が頭を掻いたその時、地響きと共に扉が忽然と現れた。

フェイ曰く、次は博愛を冠する第六階層か。

はてさて、次はどんな場所だろうか。

せめて、まともな気候であることを望むよ。

魔物達が攻めてこないことから、僕達は少しの休息を挟んでから光の扉に足を踏み入れた。

「……どうやら、活火山や雪嶺ではないみたいだね」

光の先で目に飛び込んできたのは、薄暗い暗雲の下に広がる淀んだ湖だ。

今居る場所は湖のほとりらしく、雑草と木々が盛大に生い茂っている。

気候はちょっと肌寒いけど、厚着するほどではない。

ここなら、普段通りの服装でいけそうだ。

「だな。だがまぁ、薄暗くて辛気くせぇところだぜ」

イビが辺りを見渡して相槌を打つと、マルバスがとある方角を指さして「木偶、鳥頭。あれを見ろ」と切り出した。

「おそらく、あそこが次の門番がいるところで間違いないだろうな」

「あぁ、確かに。間違いなく『あそこ』だろうね」

「クソガキのクソ蝶が考えそうなこった」

僕が頷くと、イビは呆れ顔で頭を振った。

マルバスが指し示した場所は湖の中心地、これ見よがしに城がそびえ立っている。

そして、湖のほとりから城に向かって巨大な石橋が掛けられていた。