軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドとフェイの遊戯【ゲーム】

特殊魔物【ギミックモンスター】とは、本来だと前世のゲームで通常の戦い方では倒すことができない敵を指す言葉だ。

強すぎて倒せない敵でも、事前に入手した『笛』を戦闘中に吹けば『眠り状態』にできて倒すことが可能になる。

主人公の行く手を阻む幽霊の正体を事前に入手した『特殊なアイテム』で見破り、ゲーム進行が可能になる。

三体の敵が現れるも、本体は全ての攻撃を無効化するバリアを展開する一体のみで、残りの二体を倒すことで本体のバリアが解け、倒すことが可能になる。

などなど、ゲームによって設定されている条件は様々だ。

共通して言えることは、この手の敵は条件を満たさなければ倒せない。

条件を満たさず倒せる場合もあるけど、それには相当な労力が伴うことがほとんどだ。

友達になりたいと言ったフェイの真意は定かじゃない。

ただ、彼が『特殊魔物』ならイビがどんなに真っ二つにしようと、僕が魔法で焼き尽くしても無意味だ。

イビの瞳を真っ直ぐに見つめていると、彼女は根負けした様子で舌打ちをして頷いた。

「……わかった。そこまで言うなら、ここはリッドに判断を任せるぜ」

「ありがとう、イビ」

「後で泣きを見ても、あたしは知らねぇからな」

彼女は口を尖らせながら鼻を鳴らし、そのままそっぽを向いてしまった。

「どうやら話はまとまったみたいだね」

僕達の頭上から可愛らしい声が聞こえてくる。

宙に漂う30cm程度の蝶の羽を持つ自称妖精のフェイ。

声と見た目だけなら、本当に妖精だ。

「うん、待たせて悪かったね。ところで……」

僕はそう切り出すと、わざとらしく周囲を取り囲んでいる数多の骸骨達を見やった。

「友達だと言うんなら、せめてこの骸骨達を何とかしてくれないかな。こう禍々しい気配を放たれたら、落ち着いて話もできないよ」

「はは、それもそうだね」

フェイが笑みを溢して指を鳴らした瞬間、無数の骸骨達は煌めく魔力となって瞬く間に霧散する。

不気味な薄暗さも明るくなり、僕達の視界は再び色とりどりの花が咲き乱れる幻想的な花畑となっていく。

牢宮の魔物、光景すら指一本で操った。

これこそ、彼がこの牢宮と密接な関わりがある特殊魔物という証明だ。

「リッド、これでゆっくり話せそうかな」

「ありがとう。おかげで少し気が楽になったよ」

警戒を解いて笑顔で答えると、フェイは目を細めながら「さて……」と切り出した。

「それじゃあ友達となった記念に僕と遊戯【ゲーム】をしよう」

「……おい、リッドが友達になったら地上に戻すんじゃなかったのか」

イビが鋭い目付きで睨むも、フェイは頭を振った。

「嫌だなぁ、イビちゃん。僕は『帰る方法を教えてあげる』と言ったんだ。地上に戻すとは言ってないはずだよ」

「は、そんなことだろうと思ったぜ」

イビが呆れ顔で吐き捨てながら槍を背負うのを横目に、僕は苦笑しながら「フェイと遊戯【ゲーム】をするのは良いけど……」と切り出した。

「その遊戯に僕達が勝ったら地上に帰れる、そう考えていいのかな」

「もちろん、リッドは遊戯をよくわかっているねぇ」

フェイは嬉しそうに告げると再び指を鳴らした。

すると、宙を舞う彼の背後に映像が現れる。

驚きつつも目を凝らしてみると、どうやら牢宮の階層が記してあるようだ。

「ふふ、僕はね。地上の人達を観察するのが好きなんだよ。そして、君達の多くが知る『ミスティナ教』に存在する『七つの美徳』から着想を得て牢宮内に『七つの階層』を用意したんだ」

「七つの階層?」

僕は首を傾げて聞き返した。

ちなみに『七つの美徳』というのは、ミスティナ教で人が生きるために必要な『徳』のことだ。

一つ目は慈愛、人を慈しみ愛する心。

二つ目は尊重、全ての命を大切に愛する心。

三つ目は気概、どんな困難にも立ち向かい、希望を追い求める心。

四つ目は奉仕、私心を捨て、利益を求めず人に尽くす心。

五つ目は義憤、悪逆非道を許さぬ心。

六つ目は博愛、立場関係なく誰であっても平等に愛する心。

七つ目は矜持、自らを信じ、誇りとする心。

これら七つの心を、ミスティナ教は『七つの美徳』と体系化して布教の中で説いているというわけだ。

心がけは立派だし、言葉だけなら立派な道徳なんだけどね。

「今、リッドとイビちゃんがいるこの場所は一階層の『慈愛』なんだ」

フェイは楽しそうに告げると、映像を指さして語り始めた。

「慈愛、尊重、気概、奉仕、義憤、博愛、矜持。それぞれの階層には次の階層に続く道を守る門番がいてね。彼等を倒すことで『美徳の名を冠した特別な宝石』が手に入るんだ。それらを全て集めて七つ目の階層を突破すれば、君達の勝ちという遊戯さ。どう、面白そうでしょ」

彼が楽しそうに微笑むと、イビが鼻を鳴らして肩を竦めた。

「なんだよ。結局のところ最下層に進めば外に出られるってことじゃねぇか」

「残念だけど、それは違うんだなぁ」

フェイは人差し指を立て、左右に振りながら舌打ちをしつつドヤ顔を浮かべた。

「この遊戯はね。僕が見込んで、友達になってくれた人にしか挑戦させてあげないの。だからね……」

彼は含みのある言い方をすると、不気味なほどにやりと口角を上げた。

「僕が駄目だなとか、見込んでも友達になってくれない人には牢宮を彷徨って、ただの糧になってもらっているんだ」

「な……⁉」

イビが目を見開くと、フェイは「ふふ」と楽しそうに破顔した。

「リッドが友達になるって、言ってくれて良かったね。イビちゃん」

「この、性悪クソ蝶が」

「はは、いいね。勢いのある子も好きだよ」

フェイが楽しそうに宙を漂いながらけらけら笑う姿を見ていると、本当に妖精のようにも見えてくる。

でも、彼との会話で僕は一つ気掛かりなことがあった。

「わかった。じゃあ、階層を進めば地上に戻れるってことだね。あと、念のために一つ聞いて良いかな」

「良いとも。答えられることなら、何でも答えてあげるよ、リッド」

彼は何でも答えると言わんばかりに、わざとらしく両手を大きく広げた。

「……万が一、門番に僕達が負けた場合はどうなるのかも心構えのために聞いておきたいと思ってね。最初からやり直しなのか、それとも途中でやり直しなのか、はたまた『死』なのか」

「へぇ、そこを気にするなんてリッドはやっぱり面白い子だね。いいよ、聞かれたから答えてあげる。君達が門番に負けた場合、その時点でこの遊戯は僕の勝ちとなるんだ。もちろん、友達を殺すなんてことはしないよ。ただ、ずっと僕の友達としてここで過ごしてもらうつもりだけどね」

「な……⁉ ふざけんな、何が友達だ。要はあたし達を魔力源として飼い殺しにするだけじゃねぇか」

イビが声を荒らげると、フェイはやれやれと頭を振ってため息を吐いた。

「あのねぇ。本来、牢宮で魔物に倒されたら、骨も残らず牢宮の糧になっちゃうの。僕は『友達』がそんなことにならないよう配慮してあげると、言っているんだよ。おまけに君達が門番に勝って最奥に辿り着けば、地上に帰れるんだ。こんな好待遇な牢宮は他にないでしょ?」

「ああ言えば、こう言いやがる」

彼女は舌打ちすると、「おい、リッド」とこちらを見やった。

「だから、あたしは友達なんぞになるなって言っただろうが」

「まぁまぁ、イビが怒る気持ちもわかるけど、帰り道の算段はついたんだ。今までみたいに牢宮内を彷徨うよりはましだと考えようよ。それに……」

イビを宥めると、僕は見上げてフェイを見据えた。

「全ての門番とやらに勝って、最奥に辿り着けば地上に帰れる。この言葉に嘘があれば君との縁を絶交し、僕はこの牢宮を形造っている牢宮核【ダンジョンコア】を何があっても破壊する。そのことだけは肝に銘じておいて。友達として、ね」

目を細めて微笑み掛けると、フェイは若干たじろぎつつもにこりと口元を緩めた。

「もちろんだとも。友達に嘘はつかないさ」

「ありがとう。信じているよ、フェイ」

僕がお礼を告げると、彼は咳払いをして「さて……」と切り出した。

「説明も終わったことだし、遊戯を開始しようじゃないか」

彼がその一言を発した瞬間、咲き乱れていた花が自ら移動して一本の道が出来上がる。

「この道を進んでいけば門番のところに辿り着くよ。ただし、魔物や罠が君達の歩みを阻むから注意してね。ないとは思うけど、魔物や罠で戦闘不能になっても君達の負けになるから気をつけて」

「わかった。ご忠告ありがとう」

僕が返事をすると、フェイは「あ、そうそう」と思い出したように口を開いた。

「この階層にはね。君達同様、僕と友達になって次の階層に目指している別の子もいるんだ。その子も加えて同行するか、別行動するのかは君達に任せるよ。それじゃ、ばっはは~い」

「え……⁉ ちょ、ちょっと別の子って……⁉」

呼びかけるも、フェイはそのまま魔力の光となって霧散してしまった。

いや、考えてみればこの牢宮は鳥人族領からバルディアまでの範囲、もしくはそれ以上の広範囲に及んで人をここに誘っている。

だとすれば、僕とイビ以外の面々がいる可能性だって十分にあり得ることだ。

一緒に山岳地帯で訓練していた皆をはじめ、ファラ達やクリス達だって巻き込まれている可能性だってある。

誰かと連絡を取れれば多少は安堵できるんだけど、ここは地上と隔絶されているみたいで通信魔法を発動しても全く反応がない。

皆、僕みたいに牢宮に迷い込んでなければいいけど。

「おい、リッド。思い悩んでいる暇はねぇみたいだぜ」

「え……⁉」

イビの低い声にハッとして周囲を見渡せば、再び花畑の至る所から骸骨達が現れていた。

「そうだね、何にしても道はわかったんだ。ともかく進もう」

明るく微笑み掛けると、イビは眉をぴくりとさせて顔を顰めた。

「うっぜぇわ、主役面【ヒーローづら】すんな。言われなくても、道はあたしが勝手に切り開く。脇役は追ってこい、リッド」

「あ、あはは。わかった」

主役面するなと、言われ何やら心にグサリと棘が刺さったような気がした。

そして、脇役は追ってこいと言われ、どこか気持ちがほっとする。

多分、僕が『ときレラ』で悪役モブだった記憶があるからだろう。

イビは槍で襲いくる骸骨達を薙ぎ払い、罠を突破し、道を開きながら駆け走る。

僕は槍の一撃から生き延びた骸骨達、イビを死角から襲おうとする骸骨達を魔法、剣、短弓を状況に応じて使い分けて援護しながら追いかけていく。

その途中、僕はふと思い出して切り出した。

「ところで、イビ。さっき、小声で『当たり』とか何とか言ってなかった?」

「さぁな、聞き間違いじゃねぇのか。それと、協力関係の条件に互いのことに言及しないと言ったはずだぜ」

僕の前を走る彼女から聞こえてきた声は低く、険しい。

答える気はないし、これ以上尋ねるなら協力関係はなし、ということだろう。

「……そっか。ごめん、僕の聞き間違いだったみたいだね」

そう告げた瞬間、イビが「止まれ」と急に足を止めて横道の花畑に身を潜める。

慌てて僕も彼女の側に身を潜めた。

「どうしたの?」

小声で尋ねると、彼女は目の前に生い茂る花を少しかき分け、顎と目配せで前方を見るよう促してきた。

「……この先を見てみろ。でっけぇ魔物と戦っている奴がいる。多分、あの魔物が門番だろう」

「え、どれどれ……?」

言われるがままイビが作った隙間から先を見やると、確かに5mは優に超えていそうな巨大な魔物と一対一で対峙している人が見受けられた。

巨大な魔物は二本の角を頭に生やした人型の牛鬼といったところだろうか。

和風な印象を受ける甲冑を身に纏い、得物は柄の長い巨大な斧に加えて背中に大剣を背負い、腰の左右にも剣が見受けられる。

フェイ曰く、慈愛という美徳から着想を得た階層だというから、門番はそれっぽい何かを模しているかとも思ったけど、どうやらそうでもないようだ。

一方、人は動きやすそうな鎧を身に纏い、顔は兜で被っているからわからない。

薙刀らしい得物を振るっていて、尻尾もあるようだ。

おそらく、彼は獣人族だろうけど、ここから種族まで判別するのは難しい。

でも、なんだろう。

この気配、どこかで感じたことがあるような気がする。

訝しんでいると、「おい……」とイビが小声で切り出した。

「このまま見ているのか、加勢するのか、漁夫の利を狙うのか。どうする?」

「そうだね……」

相槌を打って少し考えると、「僕は……」と切り出した。