軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの返答

『ふふ、リッド様と皆さん。まるで家族というか兄妹みたいです』

僕にとって、第二騎士団の皆はただの家臣や部下じゃない。

ファラの言うとおり、大切な家族や兄妹のような存在だ。

彼等も、僕のことをただの主人や主君ではなく、兄のように接してくれている。

そうした皆が、今の状況で悩んでいる僕を見たらどう思うだろうか。

「……きっと失望させちゃうだろうな」

ふっと笑って自嘲気味に呟くと、隣にいたアモンが首を傾げた。

「リッド、どうしたんだ?」

「あ、いやいや、何でもないよ」

誤魔化すように頭を振ると、アステカが机を指でとんとんと軽く叩いた。

「長考は済んだか、リッド。方向性だけでもいいからよ、そろそろ答えを聞かせてくれねぇか」

「……わかりました」

深呼吸をすると、僕はアステカを真っ直ぐに見据えた。

「良いでしょう。引き受けましょう」

「リッド、本気か⁉」

アモンが目を丸くして驚きの声を上げると、クリスが慌てて耳打ちをしてきた。

「リッド様、お気持ちはわかります。しかし、ライナー様への根回しもなく『引き受ける』というのは、些か独断専行が過ぎるのではないでしょうか」

「そうかもね。でも、アステカも言っていたとおり、これはズベーラに大きな貸しを作る絶好の機会なんだ。それに何より……」

「何より……?」

クリスが首を捻ると、僕はにこりと微笑んだ。

「目の前で困っている人を救う。これは政治ではなく、人の道でしょ。これを断ったら、バルディアの皆に顔向けできないからね。父上は激怒するかもしれないけど、責任を取って怒られるのも僕の役目だよ」

「な……」

彼女は目を丸くして唖然とするも、すぐにため息を吐いてやれやれと頭を振った。

「本当にリッド様は肝が据わっているというか。型破りの風雲児の異名を得るわけですよ」

「それって褒めてるの?」

「もちろんです」

クリスはにこりと頷くと、「私も腹を決めました」と続けた。

「クリスティ商会もこの件、全面協力いたしましょう」

「クリス殿まで……⁉」

アモンは唖然とするが、すぐに深いため息を吐いた。

「わかった、同族を救うためだ。私もできるかぎり協力しよう」

「ありがとう、アモン」

僕がお礼を告げたその時、部屋に拍手とアステカの「はは」という笑い声が響いた。

「さすがは型破りの風雲児、飛ぶ鳥を落とす勢いのクリスティ商会、ガレスとエルバから部族長の座を勝ち取った新部族長だ。俺が見込んだだけのことはあるぜ」

「それはどうも」

僕は軽く会釈すると、咳払いして話頭を転じた。

「ただ、さすがにバルディアで今すぐの受け入れは難しいですね。こちらも受け容れ準備が必要になりますから」

「リッド、それまでは狐人族領で引き受けよう」

切り出したのはアモンだ。

「今の狐人族はバルディア家と同盟関係にあるし、国境を構える隣国だ。バルディアの受け入れ体制が整うまで、こちらで預かろう」

「わかった。助かるよ、アモン」

「若い奴らは思い切りがよくていいねぇ」

僕達のやり取り見聞きしていたアステカは、葉巻を深く吸って煙を吐いた。

「さて、引き受けは決定した。だがなぁ、各領地から人を集めるのも結構な金が掛かるんだよ。せめて、その費用だけは持ってもらいてぇんだ」

「費用……いかほどでしょうか」

嫌な口調に眉をぴくりとさせると、アステカはにやりと口元を緩めた。

「そうだな。ざっとだが、さっきの話に出てきた共同出資額ぐらいだな」

「……それは言い過ぎでありませんか」

凄みながら淡々と聞き返すが、彼は大袈裟に肩を竦めた。

「いやいや、そんなことはねぇぜ。ズベーラ国内、各領地に点在する大小様々な村と町から口減らしされる子供【ガキ】達の情報を集め、保護して馬人族領まで運んでくる手間暇を考慮すれば、それぐらいの金は動くってもんだ。だが、リッドのいうようにこれは人の道でもある。だから、俺も譲歩しようじゃねぇか」

アステカはそう告げると、葉巻の先を灰皿に押し当て、立ち上がる煙の中から身を乗り出した。

「今回の費用は俺が持つからよ。それで共同出資額を出したということにしてくれや。まぁ、認めてくれねぇならそれでも構わねぇぜ。ただ、そうなると俺も共同出資の支払いで先立つものがなくなるから、子供【ガキ】達は救えなくなっちまうがな」

「アステカ様。それはいくら何でも横暴ではありませんか」

クリスが顔を顰めるも、彼は動じずに新しい葉巻を取り出しながらにやにやと笑った。

「残念だが馬人族領にも金がなくてな。優先して救うべきは自領の民だ。ご立派な志や綺麗事だけじゃ、現実は動かねぇのさ。商売をやってるエルフの姉ちゃんなら、その意味はよくわかるだろ?」

「それは……」

鋭い指摘に、クリスが珍しくたじろいだ。

アステカの狙いが何となく読めた。

口減らしされる子供達がいると話せば僕の性格上、必ず手を差しのばすと最初から踏んでいたんだろう。

元々、会談でこちらが何かしらの条件提示することを予想し、条件を相殺できる手札として隠していた。

アステカ・ゼブラート、本当に食えない男だ。

彼を見据えながら、ため息を吐くと「わかりました」と頷いた。

「先の会談で提示した共同出資額。これは今回の件でお支払い頂けたことにしましょう」

「リッド様、よろしいのですか⁉」

クリスが目を丸くするも、僕は小さく首を横に振った。

「しょうがないよ。そうしなければアステカは動けないそうだからね」

そう告げると、僕は「だけど……」と続けて凄んだ。

「アステカ、これは今後の馬人族とバルディアの未来を見据えた一つの貸しと思ってください。次、似たようなことをすれば容赦はしませんよ。本気の私達【バルディア】を相手にしたくはないでしょう」

部屋の空気が張り詰め、僕の感情に呼応して小さな魔波が起き、室内に漂っていた葉巻の煙を一瞬で掻き消した。

アステカの口元から笑みも消え、彼は真顔で鼻を鳴らす。

「……そうだな。肝に銘じておこう」

「えぇ、お願いします」

にこりと微笑むと、彼は「あぁ、そうだ」と言って新しい葉巻に火を付けた。

「口減らしで追い出された子供は、その後どうなるのか。これまたおもしれぇ話があるんだよ」

「面白い話……?」

僕が眉を顰めると、彼は葉巻を吸って煙を吐いた。

今度はこちらに煙が来ないよう、顔を逸らしてくれている。

「いつの頃からか、あちこちの村や町で囁かれるようになったのさ。行き場を無くした子供が道を一人で歩いていると、天使が舞い降りて新天地に連れて行ってくれるってな」

「天使って、それって亡くなることを美化しているだけでしょう」

アモンが反応すると、アステカはにやりと笑った。

「死ぬだけなら新天地って伝わり方は妙だと思わねぇか。それに俺たちの部族にはいるじゃねぇか。空から舞い降りてくる奴等がよ。なぁ、リッド」

「……鳥人族ですか」

重い口調で聞き返すと、アステカは「そうだ」と頷いた。

「平民が他部族を見かけることは少ねぇし、子供となれば尚更だ。絶望して死を待つ状況で空から羽を持った人物が舞い降りてくれば、そりゃ天使と見間違うだろうぜ。もっとも、この件については俺はあえて調べてねぇ。藪を突いて蛇に噛まれてもやっかいだからな。リッド、お前も気をつけることだ。良かれと思って安易に首を突っ込み、知りすぎることは命を縮めるぜ」

「ご忠告ありがとうございます。胸に止めておきましょう」

「どういたしまして。へへ、お前とは長く付き合いたいからな」

アステカは楽しそうに笑うが、僕は鳥人族の底知れぬ闇を垣間見た気がした。

そして同時に、脳裏にイビの言葉が蘇る。

『バルディア領と命が惜しくば、これ以上獣人国に深入りはしないことをお勧めします』

部族長のアステカですら、あえて調べようとしない鳥人族の秘密か。

無理矢理曝くつもりはさらさらないけど、アリアをはじめ、第二騎士団の皆に危害を加えるような闇なら真っ向から対峙する覚悟はある。

絶対、僕の家族【バルディア】に手出しをさせるものか。