軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの圧力

カペラから『金色』の光を放つ真珠を受け取ると、僕は上着の袖をまくった。

そして、人差し指と親指で真珠を挟んでシアに見せつけ、僕は気風よく流暢にまくし立てる。

「さぁ、どうされますか。岐路は万事、一か八か。はいか、いいえか。丁か、半か。白か、黒か。乾坤一擲、のるかそるか。そのどちらかでしょう。悩むだけ時間は過ぎ去り、戻ってきませんよ」

「な、何故だ。何故、私はリッド殿からこれほどの威圧感と緊張感を与えられている……⁉」

シアは真っ青になってたじろぎ、気圧されているのが手に取るようにわかる。

「リッド様。いくら何でもそれは、それだけは止めてください」

悲痛な声が聞こえたのは、意外にも僕達側だ。

見やれば、クリスが頭を抱えてこの世の終わりのような顔になっている。

「どうして? 兎人族の協力を得られれば、こんなものまた作れるんだよ」

「そ、それはそうかもしれませんけど。現状で言えば、その『金色の真珠』が一個あれば、帝都貴族街の一等地を余裕で買えるぐらいの価値はあるんですよ」

「帝都貴族街の一等地、だと……⁉」

クリスと僕のやり取りに、シアは開いた口がふさがらない様子で絶句した。

帝都貴族街の一等地とは、帝都で帝城周辺にあるわずかな土地のことだ。

基本的に帝国でも莫大な資産を持つ公爵家、侯爵家、裕福な伯爵家ぐらいしか所有者はいないとされている。

土地がどうしても欲しければ所有者に売ってもらうしかないけど、土地価格がとんでもないから本当に買える人が一握りしかないそうだ。

前世で言うなら安く見積もっても東京の一等地、高いところで言えばスイスとかシンガポール、アメリカ合衆国ニューヨークの土地代に相当する感じだろうか。

「確かに、クリスの言うことも一理ある。この真珠を手元に残しておけば色々と便利かもね」

「そうです、ですから……」

「でも、だからこそだよ。クリス」

身体強化・烈火の出力を上げて指先に力を入れたその瞬間、『パキン』と『金色の真珠』がこなごなに砕け散った。

空気中に金色の粒が舞い、光に煌めいてちょっと幻想的だ。

「え……?」

「あ……?」

クリスとシアが同じ顔で固まってしまう。

程なく二人は頭を抱え、勢いよくその場で立ち上がって絶叫した。

「あぁあああああああああ⁉ 貴重な、貴重な真珠なのにぃいいいい⁉」

「馬鹿者ぉぉぉぉぉぉおおおおおおお⁉」

「だから、お伝えしたではありませんか。時は金なり。悩むだけ時間は過ぎ去り、戻ってこないと。さぁ、これで僕が本気だと言うことがおわかりいただけましたか?」

僕がにこりと目を細めると、同席していた皆の表情からも血の気が引いてしまった。

「まじか、リッドがこんなやべぇやつとは思わなかったぜ。自分で言うのもなんだけどよ、俺の方がまだ話がわかると思うぜ……」

「リッドは一度こうと決めると、容赦ないですから。絶対、敵に回しちゃいけない性格してますよ」

ヴェネがドン引きし、アモンが呆れ果てて深いため息を吐いている。

「なんで、どうして、他にも真珠はあったじゃないの。どうせ砕くなら、わざわざ一番価値のある色じゃなくて、他の色ですれば良かったはずなのに……」

「クリス様。リッド様ですから、止めても無駄だったんです。シア殿が素直に協力してくださらなかった時から、あの真珠はもう砕かれる運命だったんですよ」

「そんなぁ……」

エマに励まされるも、クリスは目から涙を流して机に突っ伏している。

「はぁ。リッド様はすることなすこと、本当に心臓に悪いです」

「そうですね。しかし、私は少し慣れてきましたよ」

ティンクは額を抑え、がっくりと肩を落としながら深いため息を吐いている。

でも、この面々の中でカペラだけ動じずに無表情だ。

「……私の部族長としてやってきた経験則に全く当てはまらん。リッド殿は常識やこの世の理が通じぬ。それ故に『型破りの神童』や『型破りの風雲児』という異名を与えられた。そうだ、そうに違いない。はは、あはは……」

真っ白になってしまったシアは何やらぶつぶつ呟きながら、力なくどさりと椅子に腰を下ろした。

何だか、ちょっと失礼なことを言われているような気がする。

「さて、シア殿。そろそろ答えを聞かせていただけませんか。もし、まだお答えをいただけないなら、ここにある真珠は全て塵と砕けます。それでもよろしいですか」

にこりと微笑み掛けると、シアは僕の声にびくりとして我に返った。

「わ、わかった。もういい、リッド殿が本気であることは十分に理解した。真珠が生み出される仕組みを解明したという言葉も信じよう。ヴェネと同じく、私もリッド殿の計画に総力を挙げての協力を約束すると誓おう」

「ありがとうございます、シア殿。必ずそう仰っていただけると、童心から信じておりました」

「はは、あはは……」

純真無垢の笑顔でお礼を告げると、シアは顔を引きつらせて苦笑した。

「すげぇ。あの親父が完膚なきまで、グゥの音も出せなくなってやがる」

「シア殿は、堅実な政策で兎人族領をまとめてきた方ですからね。経験則に全く当てはまらないリッドの言動は、刺激と衝撃が強すぎたのかもしれませんよ、ヴェネ殿」

「はは。確かに、俺でも驚いて衝撃を受けるぐらいだからな。親父の受けた衝撃はすげぇだろうな」

アモンの答えを聞き、ヴェネはやれやれと肩を竦めているようだ。

実はシアみたいな人って、固定観念さえぶち壊せれば、意外と協力的になってくれることが多いんだよね。

だから、あえてここまでやったという部分はある。

まぁ、あれだね……ここまでは『計画通り』ってことだね

僕は咳払いをして耳目を集めると、話頭を転じた。

「では、改めて真珠量産計画について僕から説明させていただきます」

「う、うむ。わかった、聞かせてくれ」

シアが聞く姿勢を正すと、僕は海の視察で得た情報。

そして、真珠量産における今後の展開について語っていた。

白魔蝶貝と黒魔蝶貝の養殖には、穏やかで一定以上の水深が必要である可能性が高いことを告げて、ヴェネに見せてもらった海の一部を『バルディア名義』で貸し出してほしいとお願いした。

「……何故、バルディア名義なのだ。まさかここまで協力を依頼しておきながら、利益だけ持っていくつもりではないだろうな」

「親父、それは言い過ぎだぜ」

シアが鋭い眼光を放つと、ヴェネが眉を顰めた。

「政とは、綺麗事では済まされん。相手の善意を信じるとか、不確定な感情論で決めれば必ず後で揉めごとになるものだ」

「う……⁉」

ヴェネが言い淀むが、僕はにこりと微笑んだ。

「シア殿のご指摘、ご尤もだと思います。バルディア名義にする主な理由ですが、これは情報管理の向上と外部圧力による情報漏洩を防ぐためです」

「……情報管理の向上、外部圧力による情報漏洩を防ぐ。なるほど、そういうことか」

「どういうことだよ、親父」

合点がいった様子のシアだが、ヴェネは首を捻っている。

「我ら兎人族の所属はあくまでズベーラだ。仮に真珠の生産に成功した時、獣王に目を付けられれば情報提供せねば事が収まらぬ状況になり得る。しかし、バルディアに貸し出している海で産出されていれば、我らの逃げ道になるということだ」

「あぁ、そういうことか。生産方法を教えろ、と言われてもバルディアでやってることだからと、俺達は知らんぷりできるってことだな」

「その通りだ。実に抜け目ない、強かなやり方だよ。さすが、発展著しいバルディアだ。情報管理の方法もよく研究しているようだな」

シアは肩を竦めて口元を緩めるが、僕は動じず会釈した。

「ありがとうございます。当家は様々なところと取引しておりますからね。その辺りは少々知恵が回るんです」

「……皮肉も通じんか」

やれやれと頭を振るシアだが、僕は意に介さず説明を続けていった。

「……以上です。ただし、この計画が仮に順調に進んだとしても、真珠を市場に大量投入はしません。生産した真珠を一定数蓄え、市場には少しずつしか流しません」

「何故だ。真珠の需要は強い。市場に出せば出すほど、売れるはずであろう」

シアが首を捻ると、僕はにやりと笑った。

「価値を高め、持続的な利益を得るためです」