軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ライナーの事後処理

ライナーはリッドが起きて体調が良いことを確認すると、迎賓館の二階にある用意された自室に戻った。

そして、机の椅子に座ると手を組み思慮深い顔をした。

この後の来客と何をどう話すべきか眉間に皺を寄せながら考えながら、レナルーテ到着時にザックと行った会話を思い出していた。

◇・レナルーテ到着時の夜 (時系列・五六話)

「では、そろそろ本題です」

「うむ」

ザックの言葉にライナーは頷いた。

ライナーは帝都に対して、バルディア家とレナルーテの関係強化も今回の訪問にあると説明している。

当然、事前にレナルーテ側にも連絡を取ったわけだが、そこで思いもよらぬ提案を受けた。

レナルーテの婚姻反対派を一掃するために力を貸して欲しいということだった。

レナルーテが表向き同盟国となり帝国の属国になってから、約六年が経過している。

だが、予定より様々な遅れが発生しており、帝都の貴族内ではイラつきが生まれていた。

実は、皇帝であるアーウィンからもこの件に関して、訪問許可の連絡をした際に可能ならば、解決の糸口を探すように言われていた。

まさに渡りに船、嘘から出た真だった。

その一掃についての提案を持ってきたのはザックだ。

そして、王であるエリアスも了承済みだという。

彼らは属国となった時から、帝国との同盟に不満を持つ華族を調査してきたらしい。

彼らの相談は、必要な情報が集まったので、後は粛清の大義名分が欲しいということだった。

そこで、相談をされたのが婚約者候補であるリッドを囮に使うという事だ。

当然、最初ライナーは、険しい顔をした。

だが、属国とは言えど王のエリアスからの打診である。

無下にする事は出来ない。

ライナーは、王の代理で来ているザックに険しい顔を崩さずに問いかけた。

「概ね理解はしているが、息子をどう囮にするつもりなのだ? さすがに我が子の命を危険に晒す事は出来んぞ?」

「はい。その点には十分に注意しております。流石に、彼らも帝国との関係性を考えて暗殺のような馬鹿げたまねはしないはずです」

ザックはライナーの問いかけに対して丁寧に答えると、反対派の動きをライナーに説明をした。

御前試合、魔法披露、そして彼らの最終目的についても。

その内容を聞いて、ライナーは眉間に皺を寄せてため息を吐いた。

「……その反対派とやらは何を考えているのだ? 仮にリッドが嫌だと言った所で国同士の動きだぞ? 何も変わるはずがない。それに私が皇帝に辞退を申し出るなど出来るはずもない。妄信に取りつかれているようだな」

「……はい。我々がそのように仕立てました」

ライナーはザックの言葉に少し呆気にとられた。

ザックが言いたいことは、恐らく反対派に多数の諜報員が潜り込んでいて思考を誘導しているということだ。

内部抗争を他国にしかけるのによく使う手だが、身内に使うとは容赦がない。

だが、それだけ煮詰まっているのだろう。

ライナーは穏やかな雰囲気を纏いながらも、冷徹な目をしているザックを見据えると言った。

「……よかろう。その提案に乗ろう。息子、リッドを囮にする件は了承しよう」

「ライナー様のご配慮に感謝いたしま……」

「ただし‼ ……条件がある」

「……どのような条件でしょうか?」

ライナーはザックの言葉にあえて被せて言った。

その様子にザックは怪訝な顔をしている。

だが、ライナーはそのまま言葉を続けた。

「まず大前提としてリッドの安全を保障しろ。貴殿たちの影でも何でも使うと約束しろ」

「……それは当然でございます」

「もし、リッドに何かあれば、貴殿であれ容赦はせんぞ……」

ライナーは言い放つと、出せる限りの殺意をザックに向けた。

その殺意は暗部としてトップに立っているザックでさえ戦慄を覚えるほどものであった。

普段は出すことの無い脂汗がでているのをザックは感じていた。

その様子を見たライナーは満足したように殺意を納めると言った。

「さすがはザック殿だ。あれでも、動じないか」

「……いえ、あれほどの殺意を向けられたのは久しぶりで戦慄を感じました……」

そういうと、ザックは胸ポケットから出したハンカチで額の汗を拭いた。

その様子を見ながらライナーは言った。

「条件の一つは商流の緩和だ。今後のことも考えれば、これは飲んでもらう。後の条件はリッドの活躍次第にしておこう。でなければ、こちらが損をしそうだからな」

「は? どういう意味でしょうか?」

ザックは珍しく意味が理解できずに呆気にとられた表情をした。

いくら、ザックとはいえこの時、リッドが常識外れの実力を持っているなど思いもしなかったからだ。

「それは明日になれば、わかるということだ。エリアス陛下にリッドを囮として使う為の条件は、商流の緩和と、あとは出来高制で要求を追加すると伝えておいてくれ」

「ライナー様、失礼ですがリッド様の活躍による出来高制というのは理解しかねます。いくらリッド様が優秀とはいえ子供でございましょう?」

「そうだな、その通りだ。だが、ともかくそのようにエリアス陛下に伝えてくれ。リッドの活躍に応じて私は息子を囮に使った代償の要求を追加すると」

さすがのザックもこのようなことを言われたのは初めてだった。

だが、活躍次第と言われても具体的な提示も無い以上、逃げ道はあるかとザックは首を縦に振った。

縦に振ってしまったのだ。

「わかりました。では、そのようにエリアス陛下にお伝え致します」

ライナーは実に満足そうな顔をしていたが、ザックはその意図がわからず怪訝な顔をしていた。

そして、ライナーと他の細かい部分も含めた必要な打ち合わせは大体終了し、おもむろに呟いた。

「こんな、ところですな」

「わかった。明日、起こることに関して私は目を瞑ろう」

「ありがとうございます。では、私はこれで失礼致します」

ザックはライナーとの話し合いが終わると席を立ちあがり、部屋を後にした。

ライナーは思慮深い顔をしながら、つい先日のことを思い返して「クスクス」と笑っていた。

リッドが最後に気絶をした時は肝を冷やしたが、今日は体調が良い様子だった。

だが、ライナーはリッドを囮に使いたいと相談してきたエリアスとザックに関して、個人的には怒り心頭だった。

国同士の繋がりとしてするべきことはした。

相談内容も理解もしている。

だが、今からすることは、レナルーテ対バルディア家の交渉なのだ。

ライナーはどうやって彼らの尻の毛まで抜こうかと思案していたのである。

その時、部屋がノックされ返事をすると、エリアスとザックが暗く重い雰囲気を纏いながら部屋に入って来た。

ライナーは机から立ち上がり、満面の笑みで近くのソファーに促すと、机を挟んで対面に座った。

そして、おもむろにエリアスが険しい顔で言葉を発した。

「……この度は協力、感謝致しますぞ。ライナー殿」

「お力になれて幸いです。 ……ちなみにノリスと言う奴はどうなりましたか?」

「貴殿らが帰った後に死亡する予定だ」

「なるほど」

ライナーは今の言葉ですでにノリスがこの世にいないことを察した。

そして、本題に入った。

「では、息子のリッドを囮に使った代償の要求を追加させて頂きましょうか。リッドの活躍は十分それに見合うものだったと存じますが、エリアス陛下?」

「……出来るだけ穏便に済ませて欲しいものだ」

ザックとエリアスは互いに険しい顔をしていた。

それもこれも、リッドの活躍次第でライナーから代償の要求の追加を認めてしまっていたことだ。

ちなみにこの件を、約束した当時のザックと承認したエリアスも忘れていた。

リッドが気絶して寝ている時に、ライナーからの指摘で思い出して真っ青になったのだ。

リッドが行ったことは、結果として現レナルーテが抱えていた問題をほぼ解決に導く糸口を作った。

その功績は、とても大きい。

大きすぎるほどだ。

この事実を思い出した時のザックは、リッドの実力を見誤ったことを恐らく一生忘れないと感じていた。

そんな、二人を見ながら、ライナーは珍しく笑みを浮かべながら言った。

「まず、バルディア領でファラ王女を迎えるにあたり建造している屋敷の建設費用を出して頂きたい。帝都にも予算申請はしているがそれだけでは心もとないのです。予算で足りない分を満額お願いしたいのですがよろしいですかな?」

ライナーの言葉を聞いたエリアスは思案してから、丁寧に答えた。

「……わかった。娘が住む家でもある。帝国の予算で足りない分はわが国から出す様にしよう」

「ご配慮、感謝致します」

ライナーは一礼をしながら本心では、ほくそ笑んでいた。

何故なら、彼らは知らないのだ。

屋敷の設計にリッドが絡んでいることを。

とんでもない金額になることをライナーは直感していた。

だが、囮になったご褒美に好きにさせてやるのも良いだろう。

これは、父親からの婚姻祝いというつもりだった。

そして、その件はいまエリアスからは言質を取った。

頭を上げるとライナーは満面の笑みで彼らがさらに引きつく言葉を言った。

「陛下の御前でノリスを論破。御前試合では両国の関係強化に大きく貢献して、王子の改心まで行った。そして、反対派の中核とも言うべきノリスに粛清の大義名分をリッドはエリアス陛下に与えました」

「う、うむ」

「では、本題ですがお二人は、今回の息子の活躍についてどのような報酬が良いとお思いですか? 私としてはバルディア家と繋がっている商流全般で交通税などの税制上の優遇処置などが妥当と思いますが?」

ライナーとの会談が終わったあとのエリアスとザックはとても疲れた表情をしていた。

だが、この件にはまだ続きがあった。

このことをエリアスが忘れた頃、バルディア家の屋敷の建造費用を負担する、と言う内容に直筆サインをした書類と請求書が送られてきた。

そして、その金額にエリアスは驚愕するのだが、それはまた別のお話。