軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇夜の衝突・決着

「うあぁあああああ⁉」

「さぁ、奥の手だ」

僕は身体強化を火属性の烈火から風属性の『陣風【じんぷう】』に切り替える。

体を覆っていた赤く揺らめく魔力が、薄い緑へと変わっていく。

身体強化・陣風は、風の属性素質と身体強化・弐式を組み合わせたものだ。

風の魔力を纏うことで移動速度上昇と飛翔能力を得られる。

ただし、飛翔には多大な魔力消費が伴うので、短時間しか飛ぶことはできない。

木刀と体に魔力を込め、僕は空中に吹き飛ばされたヨハンを見据えて跳躍した。

修練場に突風が吹き荒れ、土煙が舞い上がる。

「ヨハン、君の身体能力は素晴らしい。だけど、それは大地という足場があってこそだ」

「ぐ……⁉ リッド、それは君もだろう」

「またまた外れ。僕は身体強化・陣風を発動することで短時間の飛翔が可能なのさ」

「な、なんだって⁉」

「ここからは僕だけが攻める時間だ。魔突翔」

魔障壁を展開するヨハンに向け、僕が木刀で鋭い刺突を繰り出すと『飛ぶ斬撃』が放たれた。

空中とはいえ、近づきすぎればヨハンに体を掴まれてしまう恐れがある。

ここは少々非情な気もするけど、彼の間合いの外から一方的に攻めさせてもらう。

でも、魔突翔はヨハンの魔障壁を貫通できずに霧散してしまった。

「は、はは。どうやら威力が足りないようだな」

「それはどうかな。言っただろう、ここからは僕だけの時間だとね。魔突翔・五月雨【さみだれ】」

口元をひきつらせるヨハンに向け、僕は不敵に笑うと魔突翔を連続で繰り出していく。

同時に彼の魔障壁から無数の衝撃音が響きわたった。

「魔障壁を無理やり破るつもりか。だけど、いくら連続とはいえこの程度の威力で……」

「おっと、僕を忘れてもらっちゃ困るな」

地上から聞こえてきた不敵な声にヨハンがハッとすると、地上ではメモリーこと影法師が大量の火槍を生成していた。

陣風の激しい魔力消費量は馬鹿にできない。

地上と空中からの同時攻撃で一気に片をつける。

「どんなに君が獅子化したとはいえ、これだけの火槍とリッドの魔突翔を受け止めることはできないでしょ」

「く、くそう。二対一なんてずるいぞ、リッド。地上で正々堂々と戦え」

ヨハンは悔しそうにこちらを睨むが、僕はやれやれと肩を竦めた。

「最初に二対一でも良いと君も認めていたじゃないか。それから……」

僕はにこりと微笑んだ。

「僕って、意外と陰険なんだよ」

「……まさか根暗って言ったことを怒っているのか?」

ヨハンが首を傾げたその時、僕の繰り出す魔突翔・五月雨と地上からメモリーが操る無数の火槍が彼の魔障壁めがけて放たれ、闇夜の空に花火のような爆発が起きていく。

彼が展開した魔障壁に小さな罅を視認すると、僕は持てる魔力を木刀に込めて力の限り振り下ろした。

「これで終わりだぁあああ」

「な……⁉ がぁああああ⁉」

僕の木刀はヨハンの魔障壁を打ち破り、そのまま彼の鬣【たてがみ】に覆われた右肩へと打ち込まれる。

ヨハンはそのまま勢いよく落下していくが、地上のメモリーが樹の属性魔法を発動して草木を生み出し、即席の緩衝材を作りだした。

ヨハンが草木の中に落ちると草木が舞い上がって、修練場に木々が触れ合う音が響きわたる。

ゆっくりと地上に降り立つと、僕は身体強化を切った。

「これだけやれば、彼も満足してくれたかな」

『リッド、まだ身体強化を切ったらだめだ』

脳裏にメモリーの叫び声が聞こえてハッとした瞬間、ヨハンの青い目が迫っていた。

「僕は……僕はまだ負けを認めてないぞぉおお」

「ぐ……⁉」

彼が繰り出してきたのは旋棍ではなく、鋭い爪撃だった。

魔力付加していた木刀は紙でも裂くように切られ、僕は咄嗟に避けるが右肩の服が切られて傷を負ってしまう。

慌てて飛び退いて間合いを取ると、僕は目を見開いた。

茶色一色だったはずのヨハンの体毛が、今は茶色と薄い灰色が交ざり合った状態に変わっている。

あれも獅子化の一種なんだろうが、目をぎらつかせて凄みながら肩で息をするヨハンの姿は、まるで手負いの獣のようだ。

おまけに彼の両手に旋棍はなく、代わりに鋭い爪がある。

「はぁ……はぁ……。今のは痛かった、痛かったぞ」

「それはごめん。でも、木刀がこうなっては、これ以上戦うの無理だね」

真っ二つに切れた木刀を見せるが、ヨハンは八重歯を見せて「はは」と笑った。

「リッド、何を言っている。君にはまだ魔法があるじゃないか。こんな楽しい時間、終わらせることなんてできないよ」

彼は言うが否や、こちらに向かって跳躍する。

熱くなりすぎて、我を失ったか。

もしかすると、体毛の変化も関係あるかもしれない。

何にしても、来る以上は対処しないと駄目だ。

咄嗟に魔障壁を展開したその時、僕達の間に黒い影が割って入った。

「お二人とも、そこまでです」

「……⁉ カペラ⁉」

「どけぇえええ」

ヨハンが怒号と共に右手で爪撃を繰り出すが、カペラは見切って寸前で躱す。

そして、彼の腕を掴むとそのまま反対方向に投げ飛ばした。

「失礼いたします」

「な……⁉」

宙に投げられたヨハンは体を翻して受け身をとって地上に降り立った。

彼は構え直すと、カペラを鋭い目付きで凄んだ。

「なんだよ、急にしゃしゃり出てきてさ。僕とリッドの邪魔するなよ」

「ヨハン様、あちらをご覧ください」

カペラはとある方向に視線を送った。

「あちら……?」

訝しみながらヨハンが振り向くと、そこには目を細めつつも凄まじい圧を発する『セクメトス』と、呆れ顔で苦笑している『タバル』の姿があった。

「げ……⁉ 母上、それに父上まで⁉」

ヨハンの獅子化はあっという間に解けてしまい、彼は戦きながらたじろいだ。

『リッド、僕は今のうちに引っ込んでおくよ』

『うん、わかった。いろいろとありがとう、お疲れ様』

メモリーの念話に答えると、影法師として実体化していた彼の魔力が静かにひっそりと闇夜の中に霧散していった。

僕が使った魔法は、ヨハンの口からセクメトス達の知るところになるはずだ。

でも、影法師のことをあれこれ聞かれるのは面倒だし、とりあえずこの場はこれで誤魔化せるだろう。

少し離れた場所にいたセクメトスとタバルは、ゆっくりとした足取りでこちらまでやってくる。

そして、セクメトスがヨハンに微笑みかけた。

「何が『げ……』なんだ、ヨハン」

「母上、これはその……」

さっきまでの調子はどこへやら。

彼はまるで借りてきた猫のように耳が垂れ、体が小さくなっていく。二人のやり取りを横目に、タバルが僕のところにやってきて頭を下げた。

「リッド殿、ヨハンが迷惑をかけたようですね。申し訳ありません」

「いえ、私も彼の誘いに乗りましたから同罪です。ヨハンを叱るなら、私も怒られて然るべきでしょう。どうか今日のところは私に免じて許してもらえないでしょうか」

僕はタバルとセクメトスを交互に見やった。

「ヨハンの友人としてもお願いします。お二人とも、この場は穏便に済ませていただけないでしょうか」

「り、リッド……⁉」

軽く頭を下げると、ヨハンの嬉しそうな声が聞こえてきた。

「セク、リッド殿がこう仰っているんだ。今回の件は不問でも良いんじゃないか」

タバルが助け船を出すと、セクメトスは深いため息を吐いて頭を振った。

「来賓のリッド殿からの願いとあれば、この場では何も言うまい」

「母上、父上。ありがとうございます」

ヨハンは耳をピンとさせて笑みを浮かべるが、セクメトスは眉間に皺を寄せて凄んだ。

「ただし、明日からの訓練を覚悟しておけ。体力が有り余っているようだからな。私自らたっぷりしごいてやろう」

「う……⁉ 畏まりました」

「はは、これは大変なことになったね。ヨハン」

「父上ぇ……」

タバルが苦笑しながらヨハンの頭を撫でると、彼は怨めしそうに見上げた。

セクメトスとタバルの姿が、父上と母上の姿と被ってくる。

普段は仲睦まじい家族なんだろうな。

「ところで、お二人はどうしてこちらに? 会場はよろしいのですか」

僕が話頭を転じると、セクメトスはやれやれと肩を竦めた。