軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇夜の衝突2

「はは、あははは」

「はぁ……はぁ……」

闇夜の修練場にヨハンが余裕で明るい笑い声を響かせている一方、僕は息で肩が上がっている。

『ときレラ』で物理最強キャラの一角だったヨハン。

強いとは思っていたけど、白猫状態の獣化でもこれほどの強さを持っているのは予想外だった。

烈火を発動しているというのに、彼の動きについていくのがやっとでこちらは防戦一方。

時折、隙を見て反撃に転じるのがやっとだ。

「リッドとの手合わせは本当に楽しいな」

「そうかい。楽しんでもらえているなら何よりだよ」

僕が息を整えて答えると、ヨハンは満面の笑みを浮かべて両手に持つ旋棍【トンファー】を器用に振り回して構えた。

子供が玩具を扱っているように見えるが、彼は旋棍をまるで体の一部のごとく使いこなしている。

「だけど、まだまだ満足にはほど遠いかな。もっとリッドの強さを見せてくれ」

ヨハンが白い八重歯を見せて大地を蹴ると土煙が舞い上がり、瞬時にこちらとの間合いが詰まって、重くて鋭い打突が飛んでくる。

でも、この技はもう何度も見て目が慣れた。

獣人族特有の身体能力に加え、おそらく風の属性魔法を用いた突風の如き突進から旋棍で繰り出される打突。

だけど、その素早い動きから軌道は直進的で読みやすい。

打突に合わせて木刀を繰り出すと、修練場に木が激しくぶつかり合う乾いた音が響きわたる。

僕とヨハンは鍔迫り合いの状態となり、睨み合う形となった。

「すごいじゃないか。疾風爪打掌【しっぷうそうだしょう】を受け止めるなんて」

「僕に何度も同じ手が通じると思うなよ」

「はは、そうか。なら、これならどうだ。昇風爪打掌【しょうふうそうだしょう】」

ヨハンは不敵に笑うと力を緩めてほんの少しだけしゃがみ込み、旋棍による突き上げを跳躍しながら繰り出してきた。

鋭い風切り音が聞こえるなかで僕は咄嗟に体を後ろに倒し、そのままバク転して一打を躱す。

「そう簡単には当たらないよ。次はこっちの番だ」

僕は体勢を整え、素早く木刀を振った。

次の瞬間、空中で動きの取れないヨハンに向けて魔力の斬撃が飛んでいく。

「斬魔翔」

「斬撃を飛ばせるのか⁉」

ヨハンは嬉しそうに目を瞬くと、旋棍を交差して斬魔翔を受け止めた。

魔障壁も展開していたらしく、斬魔翔が硝子が割れたような音を発して霧散する。

衝撃を消すように空中で回転しながら地上に降り立ったヨハンは、すっと立ち上がるとにやりと口元を緩めた。

「あんな隠し球を持っているなんてな。最初から出してくれればいいのに」

「それは君も一緒だろ。疾風爪打掌を初手から意識させたところで、至近距離で昇風爪打掌なんて初見殺しする気満々だったじゃないか」

「はは、さすがだな。ばれていたか」

ヨハンは軽く舌先を出し、テヘペロと笑った。

可愛い顔をしているが、立ち合ってみてわかった。

彼の近接戦における感覚や感性は飛び抜けている。

僕の身近な存在で例えるなら、鋭く重い旋棍の一撃はルーベンスの斬撃を彷彿とさせるし、獣化における軽い身のこなしや繰り出される怪力は第二騎士団分隊長の子達を凌駕している。

それでも僕がヨハンの動きについていけるのは、普段から父上やルーベンスをはじめとする皆と訓練に励んでいることに加え、狭間砦の戦いで壮絶な実戦経験を得ていることが大きい。

ヨハンの動きは鋭いし、どの一撃も重くて破壊力がある。

でも、全体の動きで見れば単調なところがあるし、自身の高い身体能力を前提とした無駄な動きも多い。

同年代で同等の力を持つ子がいないと嘆いていたことから察するに、僕よりも稽古相手の多様性がなく、言ってしまえば経験不足なんだろう。

しかし、基礎的な身体能力の差というのは如何ともし難い上、手合わせするうちに彼の動きも少しずつよくなっているように感じる。

戦いの中で得た直感を自分の動きに即時反映させ向上を測っていく……まさに『天才』という子だな。

「さて、体もほぐれてきたな」

ヨハンはそう言って体を動かすと、こちらを見据えて凄んできた。

「そろそろ本気を出すぞ」

「……お好きにどうぞ」

僕が木刀を正眼に構えて微笑み返すと、彼は嬉しそうに口元を緩めた。

次の瞬間、彼を中心に魔波が修練場に吹き荒れる。

ヨハンの体を覆っていた白い体毛が逞しい茶色の毛並みへと変貌していく。

首回りには鬣【たてがみ】のような毛が生え、髪は見るからに剛毛となって逆立った。

「リッドにこの姿を見せるのは王城以来で二度目だな」

「そうだね。じゃあ、僕も特別にとっておきを見せてあげるよ」

「とっておき……?」

彼が首を傾げると、僕は自らの中で高めていた膨大な魔力を解放する。

「顕現しろ、影法師【かげぼうし】召喚」

そう告げると僕の体から漆黒の魔力が溢れ出て、頭上で一つの塊となった。

「な、なんだ。こんなの見たことがないぞ。リッド、一体何をするつもりなんだ」

驚きと好奇心に満ちた声を上げ、目をキラキラさせているヨハン。

僕は彼に向けて目を細めた。

「言っただろ、とっておきだってね」

漆黒の魔力は僕と同じ背丈で服の形や髪型も形取っていくが、見た目は真っ黒のままだ。

形を成し終えて地上に降り立つと、僕の背中にだらりと寄りかかりながらヨハンを見据えて紫の瞳を怪しく光らせた。

「ぱんぱかぱーん。魔力で顕現『影法師』参上」

名前と見た目を変えているだけで、影法師の中身は支援魔力体ことメモリーだ。

何やら怠そうな口調でちょっと不気味な雰囲気を出している。

「な、ななな……⁉」

ヨハンは目を丸くし、あんぐりと口を開けている。

どうやら驚きのあまり言葉が出てこないらしい……そう思った直後、ヨハンの「すごい、すごいぞ」という大声が修練場に轟いた。

「それは影と魔力を組み合わせたリッドの分身体みたいなものなのか⁉」

「え、う、うん。まぁ、そうだね」

「さすが僕のライバルだ。そんな魔法を見せてくれたのはリッドが初めてだぞ」

「そうかい、喜んでくれて何よりだよ。でも、わかっているのかい?」

予想外の反応に戸惑ってしまったが、僕は咳払いをして彼を見据えた。

「僕がこの場で意味のない分身を生み出すわけがないし、君は僕と影法師を同時に相手にしないといけないんだよ」

「あぁ、望むところだ」

ヨハンは八重歯を見せてニコッと即答した。

「猫人族の力を、獅子の力を見せるんだ。それぐらいで丁度良いぞ」

「言ってくれるね。なら、第二試合を始めようじゃないか」

僕が木刀を構えて烈火の出力を上げると、影法師も赤い魔力を体に纏った。

ヨハンが口元を緩めて旋棍を構えると、彼の体から薄い緑色の魔力が立ち上がっていく。

彼の感情に呼応したか、もしくは意図的に風属性の魔力で身体強化を図ったのかもしれない。

『……リッド、手の内を晒すような真似をしていいのかい』

脳裏に響いてきたのはメモリーの声だ。

『もちろん。でも、すべてを晒すつもりはないよ。それにどんな状況であれ、負けたくはないからね』

『まぁ、考えがあるならそれでいいけど』

呆れ声が聞こえてくると、ヨハンの足がほんの少し動いた。

「さぁ、リッド。本気の僕も楽しませてくれ」

「いいとも。ただし、油断しないことだね」

「はは、もちろんだ」

ヨハンが不敵に笑った次の瞬間、まるで爆発でも起きたような土煙が巻き上がって彼が懐に入り込んできた。

「まずは一撃目、獅子爪打掌」

体を捻って突き上げるように左手の旋棍で打突を繰り出すヨハンだが、すかさず魔障壁を張ったメモリーが前に出る。

「やらせないよ」

「すごい、これを防ぐのか⁉」

言葉とは裏腹にヨハンは嬉しそうに目を瞬きながら、流れるように右手の旋棍で二撃目を放った。

しかし、それでもメモリーの魔障壁は砕けない。

「次はこっちからだ」

メモリーは不敵に笑うと魔障壁を解き、体術による白兵戦を仕掛けていく。

だが、いくら烈火で身体能力を強化しているとはいえ、獅子化しているヨハンの身体能力には届かない。

メモリーの攻撃は尽く受け止められている。

「どうした。影法師の攻撃は大したことがないぞ」

ヨハンが横目でこちらを見やると、僕はにこっと微笑んだ。

「言ったはずだよ。油断は駄目だってね」

「なに?」

彼が首を傾げたその時、メモリーはにやっと笑って体を縮こめた。

「針鼠【はりねずみ】」

「な……⁉」

メモリーの全身から魔力で生成された漆黒の棘が無数に飛び出し、ヨハンを襲った。

棘とは言いつつも、尖端は怪我をしないように丸くしてある。

ヨハンは意表を突かれて全身に打撃をもらったのが堪えたらしい。

僕達から間合いを取るように飛び退いた。

「……なんだいまの。それはリッドの分身じゃないのか」

「分身、ではあるよ。だけど、誰も形が決まっているなんて言ってないだろ」

「それはどういう……」

凄んでくるヨハンに対し、僕は針を引っ込めたメモリーの横に並び立つと肩を竦めておどけた。

「君が言ったじゃないか。影と魔力を合わせた魔法だってね。そもそも、影と魔力に決まった形なんてないだろ」

僕がそう告げると、メモリーがおもむろに両腕を上げて掌をヨハンに向けた。

「だからこんなこともできるんだ」

メモリーが目を細めると、両腕が一気に伸びてヨハンに襲いかかっていく。

「な……⁉」

目を丸くするヨハンだが即座に反応し、伸びてきたメモリーの両腕を叩き払って後退する。

「素晴らしい反応速度だね。でも、逃げたら追うまでさ。いくよ、影法師」

「はいはい。どこまでも付き合ってあげるよ」

やれやれと肩を竦めるメモリーを引き連れ、僕はヨハンに追撃を仕掛けていった。