軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

会談と懇親会

バルディアで製造される武具の品質は、ここ数年で飛躍的に向上して『銘柄』といっても過言ではないぐらいの人気になりつつある。

『最高品質の武具を求めるならバルディア製もしくはガルドランドのドワーフ製』なんて騎士や戦士、冒険者達の間に囁かれるぐらいだ。

ここまでの評価を得られるほど短期間で品質向上ができたのは、エレンやアレックスの高い技術力。

そして、彼等の研究と研鑽を支えることができたバルディアとクリスティ商会の力が合わさった結果だ。

魔法と科学を融合した魔工学という分野も生まれたおかげで、魔石を利用した数多の電動工具が開発されたのも大きい。

アモンが部族長となったグランドーク家とは、こうした技術も少しずつ連携していくつもりだ。

旧グランドーク家が自領の軍拡に注力して武具を出し渋ったのは事実だろう。

でも、セクメトスやタバルがバルディアと新グランドークで行われる技術提携を見越して仕入れをほのめかし、品質の優れた武具を安く得ようという魂胆が透けて見えたのだ。

「……もちろんです。その部分も、今回の会談で議題にしたいと考えておりましたから」

タバルは笑顔のまま頷くが、セクメトスは「はは」と笑みを噴き出した。

「リッド殿は相変わらず手厳しい。少しぐらい手を抜いてくれてもよいのではないか」

「いえいえ。こうしたことはしっかり決めておかないと、後から言った言わないの水かけ論になりかねません。今後を見据えるなら、それこそお互いのために細かい部分まで突き詰めておくべきでしょう」

「そうですね。それでは、その辺りを重点的に話し合いましょうか」

僕の言葉に反応したタバルの言葉を切っ掛けに、会談の議題は次々に進んでいった。

グランドーク家との武具の取引価格、クリスティ商会の仲介、輸送方法、補給路整備の日程などなど。

意外にも今までの会談で一番とんとん拍子に話が進んでいく。

セクメトスが相手だったから、相当な無理難題を言われるのではないかという不安があったんだけど、蓋を開けてみれば今回の会談の進行役は彼女の夫であるタバルだ。

彼の手腕と言うべきか、セクメトスが会談を一任しているのかはわからない。

でも、彼がやり手であることは間違いないだろう。

ルヴァのように鋭い指摘を入れてくるわけじゃないけど、必要な指摘はしっかりしてくるし、目を細めたままのらりくらりとこちらの主張を交わしてくる。

条件面に目を向ければ、双方にとって『可も無く不可も無く』という五分五分に近いところで着地していた。

五分五分と聞くと、表面上はよく見えるかもしれないけど、近隣諸国や他領よりも優れた技術を持つバルディア。

そして、そのバルディアと技術提携を行うグランドークが生産する武具を仕入れるんだ。

唯一無二の技術を使用した武具を購入するにあたって、五分五分というのはセクメトスやタバルからすれば安い買い物……という見方もできる。

かといって、相手はズベーラの頂点に君臨する獣王。こちらもあまり強いことは言い出しにくいところもあるのが現実だ。

そうした背景を見据え、双方にとって妥協点となり得てかつ彼等にとって優位な条件という落とし所が『五分五分』ということだろう。

セクメトスが選んだ夫というだけあって、硬軟織り交ぜた優れた交渉術だ。

まぁ、最後に披露した打ち込み君には一番タバルの目の色が変わっていたし、そこで五分五分の分は取り戻したけどね

会談も大詰めになっていた時、セクメトスとタバルの横に座っていたヨハンにふと目を向ければ、彼は何やら目をきらきらと輝かせてこちらを真っ直ぐに見つめていた。

どうしたんだろう? また、何かよからぬことを考えていなければいいけど……。

一抹の不安を覚えつつも、会談は拍子抜けするほど無事に終わる。

そして、そのまま懇親会へと場を移すことになった。

猫人族との懇親会は、部族長屋敷内にある大広間で立食式で行われた。

さすが獣王を輩出した部族と言うべきなのか、今までの会場で規模も一番大きい。

会場の食卓に並べられた数々の料理は一に肉、二に肉、三も四も肉で、五ぐらいにちょっと野菜と果物が置かれている。

見ているだけでちょっと胃がもたれそうだ。

特に目を見張るのは、『懇親会』というよりも『大宴会』と言った方が良いような豪族達の食べっぷりと飲みっぷりだ。

ここでも極盛りというべき量で盛られた肉料理を、これまた豪快にかぶりついていく豪族達の姿は圧巻の一言に尽きる。

しかも、それだけ豪快な食べ方をしているのにも関わらず、服に汚れが一切ついていないのが実に不思議でならない……口が大きいからかな。

酒の飲み方はもっと凄い、というより激しくて滅茶苦茶だ。

会場の一番奥の上座に設けられた椅子に腰掛けるセクメトスの前に豪族達が立ち並び、挨拶と共にでっかい十二寸(直径三六センチ、容量二・七リットル)はありそうな大盃につがれた酒を一気に飲み干していく。

その姿を豪族達の母子が歓声と共に見守っているのだ。

「あなた、頑張って」

「父上、全部飲み干してください」

「おうよ、任せとけ」

妻子に威勢良く手を振った豪族は両手で空の大盃を持ってセクメトスの前で片膝を突くと、彼女は不敵に笑いながら大盃になみなみと酒をついでいく。

「どこまで飲んでみせる?」

「我が力を見くびらないでいただきたい。もちろん、全部飲んで見せましょう」

「よかろう。では、その気概を見せてもらおうか」

豪族の言葉にセクメトスはにやりと口元を緩め、大盃を酒で一杯にした。

すると、豪族はその場に立ち上がって酒を一気に飲み干していく。

彼の喉がごくりごくりと動くたび、周囲から野太い声と黄色い声が入り混じったどよめきが起きる。

やがて彼が酒を飲み干し、大盃を掲げて空になったことを見せると歓声が上がった。

まるで、英雄の誕生みたいだ。

「素晴らしい、顔は覚えたぞ。お前のこれからの活躍を期待している」

「は、有り難き幸せ」

セクメトスの言葉に豪族は畏まると、勝ち誇った顔で彼女の前をあとにした。

そして、また新たな豪族が彼女の前に名乗り出ていく……という流れが懇親会開始から延々と続いている。

どうやら、大盃で酒を飲み干すことによって胆力を示して部族長に顔を売る、というのが猫人族達における流儀のようだ。

「……とんでもない飲みっぷりだね」

「猫人族の飲み食いは豪快だと聞いてはいたけど、ここまではと思わなかった。私も驚いているよ」

遠目から豪族達の飲みっぷりを見ていた僕が呟くと、傍にいたアモンが苦笑しながら相槌を打った。

懇親会開始当初は豪族と令嬢達が挨拶にやってきたんだけどね。

セクメトスが「諸君、私の酒を飲める者はいるか」と発すると、会場から歓声が立ち上がってたちまち今の流れとなったわけだ。

僕達の周囲にはカペラやティンクをはじめとした面々も控えているが、クリスとエマの姿はない。

二人はクリスティ商会を売り込もうと、会場内にいる有力な豪族達に挨拶回りをしてくると言っていた。

相変わらず、商魂たくましい。

「ん……? リッド、あれってクリス殿とエマじゃないか」

「え、どこ?」

アモンが指をさした場所を見ると、確かにクリスとエマの姿があった。

「本当だ。でも、何をするつもりなんだろう」

二人はセクメトスの前に出て行くと、片膝を突いて畏まった。

「……貴殿はクリスティ商会のクリス、そしてエマだったな。この場で私の前に出てくると言うことが、どういうことかわかっているのか」

セクメトスが目を細めると、クリスは不敵に笑った。

そして、クリスは近場に置かれていた大盃(十二寸)を横目で一瞥する。

「もちろんです。私、クリスはそちらで飲み干してみせましょう」

「な……⁉」

こんなことをするなんて、事前に何も聞いてないぞ。

クリスの発言に僕達が目を丸くしていると、エマが新たな口火を切った。

「私、エマはそちらの盃でいただきましょう」

彼女がそう告げた瞬間、会場全体の空気が一瞬止まって、豪族達からごくりと喉を鳴らす音が聞こえてきた。

次いで、「馬鹿な……⁉」とか「出来るわけがない」というざわめきが広がっていく。

それもそのはず、エマが笑顔で指さした場所にあったのは、明らかに飾りであろう十八寸(直径五四センチ)はあろうかという極大盃だ。

「えぇ⁉」

いや、どんな酒豪でもあれは絶対に無理だよ。

豪族達も誰一人として挑戦していないのに。

思わず驚きの声が漏れ出てしまう。

しかし、セクメトスは楽しそうに口元を緩めていた。