軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルヴァの実力

「こ、これが 雷球(サンダーボール) ですって。大規模魔法の間違いでしょ」

「うわぁ、リッド様の魔法は相変わらず凄いですね」

僕が発動した雷球は上空でみるみる巨大化し、球体は直径10mは優に超え、周囲に雷を走らせて雷鳴を轟かせている。

いつかレナルーテで発動した巨大火球を雷の属性素質で再現したものだ。

溜め時間や実戦的ではないけど、実力披露にはちょうどいい。

ルヴァは目の前で起きたことに唖然としながら天を見上げてたじろぎ、アリーナは嬉々とした表情で雷球を見つめている。

「ルヴァ殿、これはただの雷球ですよ。魔力出量をちょっと調整しただけです」

「あ、あはは……」

彼女は目を見開きながら口元をひくつかせた。

「これがちょっと、ね。どうやら、リッド殿がエルバを倒したというのは大袈裟ではなかったようね」

「ありがとうございます。でも、エルバを倒したのは私一人の力ではありませんよ」

僕は目を細めると、「では……」と切り出した。

「これで私が雷の属性素質を持っているとご理解いただけましたでしょうか」

「えぇ、十分よ。火を見るより明らかだもの」

彼女はやれやれと肩を竦めた。

バルディア家を代表する属性素質が火だから、彼女なりの冗談だろう。

僕は「ふふ」と思わず噴き出してしまった。

「上手いこと言いますね」

「まぁ、これぐらいはね。ところで、『これ』はどうするのよ」

ルヴァはそう言うと、空中に漂う巨大な雷球を見やった。

「もちろん、不要な魔法はこうします」

そう言って僕が指を鳴らすと、雷球は風船がしぼむように小さくなっていく。

そして、雷球生成に使われていた魔力は渦巻きながら僕に戻ってくる。

周囲が暗ければ、ちょっとしたイルミネーションのような光景だろう。

「えっと、リッド殿。いったい何をしているのかしら」

ルヴァが眉を顰め、訝しむように首を捻った。

「見てのとおり、魔法を分解して使用した魔力を還元しているんです」

「魔法に使用した魔力を還元、ですって。そんなことが可能なの⁉」

「はい、それなりに魔法の知識と訓練が必要ですけどね。慣れれば意外と簡単ですよ」

「な……⁉」

ルヴァは開いた口が塞がらないといった様子で唖然としてしまった。

通常、一度発動した魔法の魔力を還元することはできない……それがこの世界における魔法学の常識だ。

でも、魔力変換機が実現できたときに僕はこう考えた。

『電気を魔力に変換できたんだし、魔法もどうにかしたら魔力に変換できるんじゃないのかなぁ』

早速やってみると、最初は上手くいかなかった。

でも、何度も繰り返していくうちに魔法発動の逆を詳細にしたイメージを固めることで、魔法の魔力還元に成功。

特殊魔法として『魔力還元』という名を付けていつでも発動できる工夫もしている。

魔力還元率は八~九割が今のところ限界だけど、それでもさっきみたいな巨大雷球を発動した時に還元できるのは便利だ。

「リッド殿は、本当に常識を突き破る人ね」

「そうですかね? ちょっとした切っ掛けさえあれば、誰でも思いついたと思いますよ」

僕はあっけらかんと答えると「それよりも……」と切り出した。

「早速、ルヴァ殿が獣化時した際の感覚を教えてください」

目を輝かせて身を乗り出すと、彼女は咳払いをして畏まった。

「わかりました。ただし、あくまで感覚ですからリッド殿が求めている答えかどうかわかりませんよ」

「承知してます。何事も学んでみなければわかりませんから」

「じゃあ、説明を始めましょうか」

僕が頷くとルヴァはそう言って、獣化時における気配察知について語ってくれた。

彼女の話を要約すると基本的な仕組みは『電界』と同じだが、効果範囲を術者が任意に限定できるという違いがあったのだ。

通常、電界の効果範囲は魔力出量を上げるほど広くなるが、その魔力出量を維持したまま効果範囲を術者周辺に限定・最適化することで気配察知能力が飛躍的に向上するということらしい。

口で言うのは簡単だけど、魔力出量を維持したまま効果範囲を狭めるというのは相当な集中力がいる。

実戦で使うとなれば、かなりの慣れが必要になるはずだ。

「……という具合ね。ちなみに、私が気配察知できる有効範囲の最適化は自分中心に全方向3m以内ってところだわ」

「全方向3m以内、ですか」

半径3m以内の相手の動きを察知できれば、攻防一体の『後の先』を繰り出して相手の力を利用できる。

種族による身体能力の差があっても有効的に立ち回れるだろう。

ただ、問題なのは電界にどこまで応用できるのか、という点だ。

こればっかりはやってみないとわからない。

難しいかもしれないけど、最初は手探りでやるしかないだろう。

「でも、その範囲なら相手の動きはほぼ事前に察知できるというわけですね」

僕が目を輝かせて身を乗り出すと、ルヴァは頷いた。

「まぁ、そうね。ちょっと試してみましょうか。リッド殿とアリーナ、二人とも私を背後から好きなように襲おうとしてみなさい」

「わかりました。アリーナ、こっちへ」

「はい、畏まりました」

僕達がルヴァの背後に回ると、「目も瞑ったし、いつでもいいわよ」と彼女が自信ありげに言った。

見えずとも、気配だけで対応できるということだろう。

僕はあえて返事をせず、目配せとハンドサインでアリーナに背後から飛びかかるように指示を出し、僕は火槍を放つと伝える。

アリーナがこくりと頷き身構え、僕が右手に魔力を込めた瞬間、ルヴァが正面を向いたまま「ふふ」と勝ち誇ったように笑った。

「アリーナが身構えたわね。力の入り具合からして、右足を軸に跳躍し、右腕を振りかぶって飛びかかってくるつもりね」

「え、えぇ⁉」

言い当てられたアリーナは唖然とするが、ルヴァは身動きせずに淡々と続けた。

「魔法を使おうとするなんて、リッド殿は意外と意地悪ね」

「……お見事です、ルヴァ殿」

平静を装ってあっさりと賛辞を送ったけど、僕の心はときめいていた。

そして、ついつい好奇心に体が震えてしまい、悪い癖が出てしまう。

「ルヴァ殿、最初にお詫びしておきます。そして、ほんの少しだけ僕の悪い癖にお付き合いください」

「悪い癖、ねぇ。そんなにうきうきした声で、何をするつもりなのかしら」

ルヴァは正面を向いたまま、肩を竦めた。

おそらく、すでに僕が何をしようとしているのか察知しているはず。

その上であの答えだ、これは了承してくれたということだろう。

「こういうことです」

僕は瞬時に身体強化・烈火を発動して彼女との間合いを詰め、背後から足技主体の体術で連続攻撃を仕掛けていった。

しかし、ルヴァは正面を向いたままこちらを振り向くこともないまま僕が繰り出す技をすべて躱していく。

「申し訳ありません。ルヴァ殿の素晴らしい魔法を見たら、肌で感じたくて我慢できませんでした。実は私、魔法が大好きなんです」

「あらあら、年相応にやんちゃなところもあるじゃない」

ルヴァが体を翻して飛び退きながら攻撃を避けた時、初めて彼女がこちらを振り向いた。

でも、その表情を見て僕は絶句する。

彼女は目を閉じたままだったからだ。

全力ではないにしろ、それなりに力を出したというのに一発もかすらなかった。

「……素晴らしい動きと魔法ですね。ここまで避けられたのは、初めてかもしれません」

「リッド殿が全力じゃなかったからだわ。だけど、手合わせできないって言ったはずよ。やんちゃなことをした以上、怒られる覚悟はあるわよね」

ルヴァはそう告げると瞑っていた目をゆっくりと開く。

次いで、彼女がにこっと微笑んだ次の瞬間、手を拳にして一気に僕との間合いを詰めてきた。

速い……⁉

僕は防御が間に合わないと判断し、咄嗟に飛び退こうと跳躍するが「その動き、見えていたわよ」と彼女は不敵に笑った。

「な……⁉」

彼女は拳にしていた手で、僕の足をがっちり掴んでいた。

飛び退こうと跳躍していたせいで、僕の体は宙に浮いて死に体だ。

「フェイントってやつね。そして……」

ルヴァは片手で掴んだ僕の足を引き寄せると投げ技に繋げ、僕を地面に仰向けに組み伏せてしまった。

地面に軽く叩きつけられて背中から衝撃が走って、「がは……⁉」と体の中にあった空気が呻き声となって漏れ出てしまう。

「やんちゃな子には、お仕置きよ」

「え……?」

彼女は僕の目と鼻の先に顔を寄せ、意味深に目を細める。

日の光に煌めく銀毛に覆われたルヴァの表情は、とても可愛らしくて蠱惑的な雰囲気に包まれていた。

綺麗な顔が間近にあってドキッとした瞬間、バチンっと僕の額が勢いよく指で弾かれる。

「いったぁああああ⁉」

強烈な衝撃が額に走って後頭部が地面に少しめり込み、土煙が舞い上がった。

あまりにとんでもない痛みで、我慢ができずに目から涙が出てしまう。

傍目にはただのデコピンだけど、部族長が獣化状態で放つデコピンだ。

少なからず、その辺の輩が力一杯に繰り出す拳より、よっぽど破壊力がある。

身体強化を発動していなければ、頭が吹っ飛んでいたかもしれない。

そう思えるほどの衝撃が額に走ったのだ。

悶絶して地面をのたうち回っていると、ルヴァの笑い声が聞こえてきた。

「言ったでしょ。お仕置きよ、お仕置き。手加減したから安心しなさい。これで、この件は忘れてあげるから」

「……リッド様、大丈夫ですか」

「あ、ありがとう。大丈夫だよ。でも、ちょっと落ち着くまで待って」

アリーナが心配そうに覗き込んでくるが、僕は涙目で強がるのが精一杯だった。

ルヴァ・ガンダルシカ。

小柄で可愛らしい鼠人族かつ常識人だけど、獣化時の力はまさしく部族長。

僕は身をもって、そのことを実感した。