軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの口撃

「そもそもバルディア家は帝国に属しています。そのバルディア家で培われた技術をグランドーク家に提供しているんですから当然の処置でしょう。むしろ、両国両家のためです。万が一、ヤタヌキ家とグランドーク家が直接取引後にバルディアの技術が流出。クリスティ商会に問題がないとなった場合、責任の所在がどうなるのか。考えるまでもないでしょう。最悪、両家両国の関係悪化に繋がりかねません。従って、内政干渉という言葉は当たらないかと存じます」

目を細めたまま凄みを効かせると、狸人族の豪族達から喉を鳴らして息を飲む音が聞こえた。

真顔となったギョウブは、サングラス越しにこっちを見つめている。

互いに探り合うように視線を交え、室内はしんとして静寂が訪れた。

内政干渉なんて言われた以上、一歩も引いてやらないもんね。

僕がにこにこ笑顔で黙っていると、ギョウブがふっと表情を崩して肩を竦めた。

「やれやれ。どうやら虎の口に手を突っ込んだみたいだな。使う言葉を間違えたよ」

「はて、なんのことでしょう。ギョウブ殿の発言に不適切なものはありませんでしたよ。仮にあったとしても、私は気にしていませんからご安心ください」

僕が素知らぬ顔であどけなく小首を傾げると、狸人族の豪族達が顔を引きつらせた。

よほど察しが悪くなければ今の言葉で伝わっただろう。

『子供だと思って僕を、バルディアを舐めるなよ。さっきの失言を許したのは貸しだからな』という意図が。

「そうか。だが、肝に銘じておくよ」

「はい。では、会談を続けましょう」

話頭を転じて話し合いを続けた結果、ヤタヌキ家とクリスティ商会の取引開始の決定。

また、狐人族の生産品でも製作過程にバルディアが関わっている場合、間にクリスティ商会が入ることも渋々ではあるが了承してもらえた。

会議室をそれとなく見渡すが、ギョウブ及び豪族達の表情は険しい。

細かい部分での折衝はあったけど、全体としては僕達優位の交渉になっているから面白くないんだろう。

でも、こちらにはそれをひっくり返す秘策がある。

事前に取り決めていた話し合いのほとんどが済み、会談の終わりが近づいてきた頃を見計らい、僕はクリスとカペラに目配せしてから「ところで……」と切り出した。

ギョウブをはじめ、豪族達が一斉にこちらに視線を向ける。

注目を浴びた僕は、にこりと目を細めた。

「実はこの度、バルディアで新製品の試作品が色々とできましてね。まだ販売はできませんが、折角の機会ですので皆様に一つだけお披露目しようかと思い持参しております。予定にはないのですが、この場をお借りしてもよろしいでしょうか。ギョウブ殿」

「ほう、バルディアの新商品か。それはとても興味深い。是非、見せてくれ」

「ありがとうございます。では、カペラに運ばせ、使うのはクリスにやってもらいましょう」

この場を取り仕切るギョウブの許可を得ると、カペラが僕達が持ち込んだ装飾が施された木箱を丁寧に持ってきて、会議机に座っているクリスの傍に置いた。

次いで、箱の蓋を開けると中にはクッション材となる布や綿が敷き詰めてある。

ギョウブや豪族達が訝しむなか、カペラは箱の中身を取り出すと机の上に置き、手早く使用できる状態に整えた。

誰も見たことのないであろうその『モノ』に、皆の視線が集まっている。

「では、改めてご紹介しましょう。当家の新製品こと『タイプライター』です。商品名は『文字打ち込み君』です」

「たいぷらいたー、文字打ち込み……?」

ギョウブは眉をピクリとさせ、椅子の背もたれから身を乗り出した。

僕が高らかに告げたのを合図に、クリスはタッチタイピングを開始する。

部屋に勢いよく打鍵音【だけんおん】が響き、時折「リーン」という鈴の音が鳴った。

クリスティ商会に『文字打ち込み君』の試用機を二台貸し出したのは、ついこの間の話なんだけどね。

クリスとエマは、すでに口述をそのまま打ち込めるぐらい、タイプライターこと打ち込み君の入力が早い。

試用機を渡す際、消耗品を多めに渡したのにも関わらず、翌日には『インクリボンと専用紙を大量発注させてください』と切実な連絡がきたほどだ。

相当に使い込んでくれているんだろう。

もはやクリスティ商会に貸し出したのは、実用試験ではなく耐久性テストかもしれない。

室内の狸人族達を見やると、『一体、なにをしているんだ』と言わんばかりに眉間に皺を寄せて訝しんでいる。

ただ、ギョウブだけは何かを察した様子でまじまじと打ち込み君を見つめていた。

「……よし、終わりました」

クリスはそう言うと、席を立ち上がって打ち込み君で文字を打ち込んだ紙を取って僕のところにやってきた。

念のため内容を確認するが、打ち漏れや文字の滲みなど問題はない。

打ち込んでくれた文字も事前に打ち合わせた通りのものだ。

「うん、問題ないね。ありがとう、クリス」

「とんでもないことでございます」

彼女は少し大袈裟に会釈すると、自身の席に戻った。

僕はギョウブと豪族を見渡してにこりと笑う。

「さて、ご覧下さい。これがタイプライター、打ち込み君の力です」

クリスに打ち込んでもらったのは、僕達が事前に用意した資料と全く同じ内容だ。

この場で複製してもらった、そう言った方が正しいかもしれない。

「……はは、こりゃ参ったねぇ。バルディアの技術力は俺達の想像を遥かに超えていたよ。なるほど、技術流出を危険視するわけだ」

ギョウブは額に手を当てながら笑っているが、他の豪族達は僕が机にこれ見よがしに置いた紙を凝視して首を捻っている。

しかし、すぐに紙に記してある内容が僕達の配った資料と同じものであると気付き、「な……⁉」と目を見開いた。

「ま、まさかリッド殿達から配られた資料と同じ内容が書き記してあるのか」

「この短時間で信じられん」

「これが、『たいぷらいたー打ち込み君』の力……だと」

「素晴らしい。これさえあれば、どれだけ時間効率が改善するか」

豪族達が一枚の紙を前にしてざわめく中、ギョウブがすっと手を挙げた。

「リッド殿、打ち込み君を少し触らせてもらえるかな」

「もちろん、構いませんよ」

僕が頷くと、ギョウブが席を立ち上がってこちらにやってくる。

クリスが彼に席を譲ると、使い方を丁寧に説明して実際に打ち込んでもらった。