軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出発

「リッド、いってらっしゃい」

「はい、母上。お見送りありがとうございます」

正装の母上と抱擁を交わす。

次いで、ディアナとサンドラに母上のことをお願いすると、僕は隣に立つファラに視線を向けた。

「じゃあ、ファラ。行ってくるね」

「リッド様、此度の旅もお気を付けください」

僕は目を細めるとファラの手を取って引き寄せ、そのまま優しく抱きしめた。

「ふぁ……⁉」

「ごめんね。またしばらく会えないからさ」

可愛らしい声が聞こえたけど、僕は抱きしめたまま彼女の耳元で囁いた。

「は、はい。そうですね、私も寂しいです」

「……うん。ありがとう」

名残惜しけど、僕は抱きしめていたファラは解放した。

さすがにこれ以上は出発の時間が遅くなってしまう。

「兄様、あっつあつだねぇ」

「んにゃ~」

メルがにやけると、彼女の足下にいた白い子猫姿のビスケットが頷くように鳴いた。

近くには黒い子猫姿のクッキーもいるが、彼は鳴かずにすまし顔だ

「そうだね。僕はファラを愛しているから当然さ」

「え……⁉」

メルの言葉に胸を張って答え、ファラが目を丸くして顔を赤らめる。

すると、キールがにやりと笑った。

「へぇ。リッド、どうしたんだい。急に動じなくなったじゃないか」

「いつまでも揶揄われっぱなしの僕じゃないさ。ファラを大好きで愛していることは、父上と母上同様に当たり前のことだからね。もう気にしないことにしたんだよ」

横目で見やると母上はきょとんとするが、すぐにハッとした。

「り、リッド。親を揶揄うんじゃありません」

「いえいえ。母上と父上は相思相愛じゃありませんか」

帝都に父上が出発する前のこと。

父上と母上が、毎日二人だけの時間を必ずどこかしらで過ごしていたことを僕は知っている。

どうしてそんなことに気付いのかというと、僕が毎日、電界の効果範囲を広げるべく新屋敷の敷地内にいる人達の居場所を把握するという修行していたからだ。

結果、父上と母上が二人だけで過ごす時間を取っていることに気付いてしまったというわけである。

「はぁ、まったくこの子は。おませというべきか、口が達者なんだから」

母上が呆れ顔でため息を吐くと、周囲から笑いが起こった。

和やかな雰囲気のなか「リッド様」とカーティスが目を細める。

「ズベーラに行かれても訓練を忘れてはなりませんぞ」

「うん、獣王戦で負けるわけにはいかないからね」

訓練とは、第二騎士団の子達やカーティスと一緒に行った掛かり稽古のようなものだ。

こちらだと副隊長の子達が基本人員。

飛び入り参加するルーベンスもいたけど、狐人族領では隊長格の子達やダイナスに加え、ラファやアモン達もいる。

きっと、バルディアよりもレベルの高い訓練が行えるはずだ。

「次、手合わせするときにはカーティスに黒星を付けてあげるよ」

「はは、頼もしいですな。楽しみにしております」

アスナの祖父なだけあって、カーティスは相当に強い。

何度も手を合わせているけど、一度も勝てたことはないんだよね。

「リッド兄様」

名前を呼ばれて振り向けば、シトリーが気恥ずかしそうに何やら手紙を持っている。

彼女の隣には、ティスも手紙を持って立っていた。

「どうしたの、二人とも」

「あの、こちらの手紙をアモン兄様。そして、こちらの手紙をヨハン様にお願いします。あ、でも、ヨハン様の手紙は機会があった時で構いませんので」

「わかった。大切に預からせてもらうね。ティスの手紙はアモンに渡せばいいのかな」

「はい、よろしくお願いしますね。リッドお兄様」

二人から手紙を預かると、丁寧に懐に入れた。

今回、シトリーとティスの二人はバルディア領に残るから、バルディア家から狐人族領に行くのは僕、ティンク、カペラのみになる。

あと、クロードと子守をしてくれるニーナといったところだ。

クロードもまだ幼いし、ティンクにはバルディア領に残ってもいいよと伝えたんだけど、『心配ご無用です。冒険者時代には、子供を背負って仕事をする女性もいましたからね。私なんて恵まれているほうですよ。それにティスも私が傍にいては甘えもでるでしょうから』と白い歯を見せて頭を振った。

この返事を聞いた時、世の女性冒険者は逞しいなと関心したものだ。

僕達が乗り込む木炭車の一団後方には、クリスティ商会の一団も並んでいる。

各部族領訪問と個別会談に備え、クリスにも同行をお願いしたからだ。

クリスティ商会の一団を見やれば、クリスやエマが書類片手に忙しなく動き回っている。

積み漏れがないか、出発直前まで確認しているんだろう。

木炭車の周囲にはエレンやアレックスがトナージやトーマ達を連れ、出発前の点検に余念がない。

木炭車はこの世界では画期的な乗り物であることは間違いないが、保守性に優れているとはお世辞にもいえないのが問題だ。

電力源の確保もそうだけど、技術力が急激に進歩しているから数年のうちに木炭車に代わる乗り物も作れるだろう。

そうなると、この木炭車を始動させるために木炭を燃やす香りや光景も懐かしい思い出になるのかもしれない。

「リッド様、そろそろお時間です」

「あ、うん。そうだね」

ティンクに耳打ちされ、僕は畏まって見送りに来てくれた皆を見回した。

「それじゃあ……」

「リッド様、お待ちくださーい」

いってきますと言おうとした矢先、可愛らしい声が轟く。

なんだろうと思って見やれば、第二騎士団の制服姿の子がこちらに走ってくるのが見えた。

「良かった。何とか間に合いましたね」

「どうしたの、サルビア。そんなに慌てて」

鼠人族のサルビア。

彼女は高い精度で通信魔法を操るバルディア第二騎士団情報局の要となっている子だ。

普段は情報局で通信手をしながら情報精査、共有を迅速に行ってくれている。

最近だと、こうして表に出てくることは少ない。

「実は帝都のシルビアから入電がありました。こちらにライナー様からの言付けを記入いたしました。どうか狐人族領までの道中でご確認をお願いします」

シルビアは彼女の妹であり、帝都に在中させている情報局の子だ。

それにしても手紙、か。

道中で確認しろというのは父上の言葉だろうけど、中々に酷なことを言ってくれるなぁ。

差し出された手紙を丁寧に受け取ると、僕は顔が引きつってしまった。

「あはは……。何とか目を通すよう努力してみるよ」

「え……? あ、申し訳ありません。リッド様は乗り物酔いがありましたね。無理せず狐人族領に到着してからでも問題はないかと存じますが、どちらにしても確認が終わりましたら帝都のシルビアを通してライナー様に連絡をするようお願いします」

「わかった。じゃあ、手紙を受け取ったことだけ先に連絡しておいてもらえるかな」

「畏まりました。では、私はこれで失礼致します。道中お気をつけ下さい」

サルビアは僕と周囲の皆にビシッと敬礼すると、颯爽と走り去っていった。

彼女もここに来たばかりの時は、おどおどしていたのに。団員が様になっている姿を見ると、ちょっと嬉しくなる。

「さて、と。じゃあ、改めて行ってきます」

見送りの挨拶を告げると、ファラが僕の前にやってきて懐から二つの小さな石を取り出した。

そして、二つの石で軽くぶつけ合って『カチカチ』と鳴らしてくれる。

「この石は火打ち石で、今のは『切り火』というレナルーテに伝わる魔除けのお祓いなんです。どうか道中お気をつけください、リッド様」

「うん。ありがとう、ファラ」

僕は再び狐人族領に向かうため、木炭車と連結された被牽引車【トレーラーハウス】にティンクと共に乗り込んだ。