軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

部族長会議の帰路

「まったく。とんでもないことになったよ」

「お疲れさまだったな、リッド」

木炭車に連結された被牽引車【トレーラハウス】内で椅子の背もたれに身を任せてぐったりすると、アモンが目を細めながら苦笑した。

獣王国ズベーラの王都ベスティアで開催された部族長会議が終わり、僕達一行は狐人族領への帰路についている。

車窓から王都ベスティアにそびえ立つ王城を眺めると、今までのことが脳裏で呼び起こされていく。

そもそも、どうして僕が部族長会議に列席することになったのか。

それは先立って狐人族領で行われた狸人族との会談に獣王セクメトスが飛び入り参加してきたことが始まりだった。

彼女は王命と称して王子ヨハン・ベスティアとシトリー・グランドークの政略結婚を強引に決定するだけに留まらず、両家両国の今後を考えて僕にも部族長会議に列席するよう要請してきたからだ。

いや、あの場合は召喚されたと言ったほうが正しいかもしれない。

なんにしても、帝国に属する貴族の一員が参加を許されたのは前代未聞だったそうだ。

だけど、終わってみれば狐人族部族長アモンとバルディア家の関係性を各部族長に改めて示す機会にはなった。

ヨハンとシトリーの婚約も会議で部族長達に周知されたから、アモンを新部族長とする狐人族は現獣王の後ろ盾も得られたわけだ。

他にも会議ではバルディア家と各部族が協力すれば、ズベーラの頭を悩ませる諸問題を解決できるという提案を行っている。

反応は上々で、部族長会議後には各部族長との個別会談の日程もすぐに決まった。

しかし、喜んでばかりもいられない。

『二ヶ月後に開催される獣王戦において、ヨハンとリッドによる前哨戦を行う。そこで武を重んじる我等に、エルバを倒したという貴殿の力を示してもらいたい』という無理難題がセクメトスから提示されたのだ。

勝利できれば、ズベーラとの交易でバルディア優位に交渉を進められるけど、万が一にでも負けるようなことがあれば、バルディア劣位の交渉になるだけでない。

将来、僕とファラの間に生まれるであろう子とヨハン・ベスティアの子との政略結婚させるという、とんでもない提案までされたのだ。

その場で断りたかったが、獣王から政略結婚の申し出となれば二国間の問題となってしまう。

提案の返答は、父上の名代に過ぎない僕の分を超えていた。

獣王という一国の代表であるセクメトスからの提案を断ることもできなければ、承諾することも立場上できず、持ち帰って検討するのが精一杯だったのだ。

この時ほど、僕は自分の立場や政治力が足りていないことを悔やんだことない。

しかし、幸いにもこの提案はヨハンが勝ち、僕が負けた場合に限る。

獣王戦の本戦前に行われる前哨戦の場で僕がヨハンに勝てば、セクメトスひいては獣王国ズベーラとの交渉が全てバルディア優位に進められるという利点もある。

でも、僕がヨハンに勝てる勝算は決して高くない。

ヨハン・ベスティア、彼は僕の前世の記憶にある『ときレラ』というこの世界と酷似したゲーム内において、物理攻撃最強キャラの一角だった。

その実力は今世という現実でも顕在していたのである。

僕がヨハンと初めて出会ったのは、セクメトスが狐人族領にいきなりやってきた時だ。

彼はその時から素早い身のこなしを何度か披露していて、前世の記憶にある情報と相まって彼の実力と潜在能力は計り知れないものがある、と推察していた。

そして、その推察は会議後に行われた『ラファとヨハンの試合』によって的中していたことを思い知らされる。

ラファとヨハンがどうして試合をすることになったのか。

事の起こりは部族長会議後、来賓室で休んでいた僕達のところにヨハンが訪ねてきた時のことだ。

皆で談笑をしていたさい、ティスが僕とヨハンの試合について疑問を呈したのが切っ掛けだった。

『真偽はともかく、リッド兄様の情報は事前に集められる。でも、ヨハン様の情報は表に出てこない。情報戦という部分をみれば、お二人の試合は公平とは言えないのではないでしょうか』

彼女のこの疑問を解決すべく、ヨハンが『なら、私の実力をラファ相手に披露しよう』と言いだし、ラファが『面白そうね』と賛同したことから、二人の試合が急遽行われることになったのだ。

それから紆余曲折あって、城内にある武舞台でラファとヨハンによる試合が行われたのである。

試合中に怒った様子のセクメトスが介入したことから、勝敗はつかないままに試合は幕を閉じた。

ヨハンがセクメトスに叱られたのは言うまでもない。

試合内容に目を向ければ、エルバに次ぐ実力者と評されていたラファを相手にヨハンは一歩も引かなかった。

それどころか、試合終盤では猫人族の高位獣化というべき『獅子』の姿を僕達に見せつけ、ほんの一瞬とはいえラファを本気にさせたのだ。

彼女の実力は僕もよく知ってはいるが、本気の姿はまだ見たことがない。

これだけでも驚嘆に値するが、ヨハンと手合わせを終えたラファは『リッド。今のままヨハンと戦えば、貴方は確実に負けるわよ』とさらに驚くべき言葉を発した。

ラファの実力を僕がよく知るように、彼女もまた僕の実力をよく知っている。

曰く、魔法と身体能力の総合力でみれば僕の方が強いが、身体能力だけでいえばヨハンの方が僕より強い。

そして、僕とヨハンが一対一で試合をする時、勝敗に重要となるのは『身体能力の高さ』であるとラファは断言した。

これはあながち間違っていない。

無詠唱であっても魔法発動にはどうしても『若干の溜め』が必要になるからだ。

溜めと言っても、時間にすれば一秒にも満たない一瞬だろう。

だけど、その刹那が命運を分けるのが勝負というものだ。

僕は全属性の素質を持っているし、身体強化も上位互換まで含めればかなり幅広く扱える。

戦い方の選択肢は、かなり多いほうだろう。

立ち回りという部分だけでみれば、手数が多いことが利点なのは間違いない。

でも、手数が多いということは、それだけ状況に応じた判断も都度必要ということにもなる。

魔法と身体強化を駆使して戦う僕と、身体強化と獣化に特化して戦うヨハン。

状況次第だから一概には言えないけど、前哨戦という一対一の試合ではヨハンの戦い方が間違いなく有利だろう。

そして、彼がラファとの試合で見せてくれた実力が全力じゃないことを鑑みれば、現時点でヨハンと立ち会えば、僕が負ける可能性が非常に高い。

その上、いまのところ対策もないときた。

セクメトス曰く、獣王戦は今から約二ヶ月後に開催されるそうだ。

それまでに、僕は今よりもっと強くならなければならない。

「でもなぁ……」

僕はため息を吐くと、懐にしまい込んでいた手帳を取り出して書き込んだ日程を確認する。

この後、狐人族領に着いたらすぐにバルディア領に向けて出発。

父上に報告が終わったら狐人族領にとんぼ返りして、各部族長達との個別会談をしなければならない。

手帳に記した日程どおりであれば一ヶ月弱ぐらいで会談は全て終わるだろうが、とても予定どおりに事が進むとは思えない。

そう考えれば、僕が修練に使える時間は一ヶ月もないのではなかろうか。

この時点で前途多難というか、すでに詰んでいるような状況にも思えてくる。

しかし、考えなければならいないのは、ヨハン対策や修練のことだけじゃない。

王城で面と向かって僕に魔法を仕掛けてきたホルスト・パドグリーの件もある。

ホルストとの会談日程だけは、本人ではなく護衛のイビ・パドグリーを介して行われた。

彼女曰く、本人は急用で領地に一足先に帰ったそうだ。

単に顔を合わせたくなかっただけなのか、本当に急用なのか、はたまた何か企んでいるのか。

何にしても、鳥人族との会談は、できるかぎり情報を集めてから方がよさそうだから最後にしている。

「父上。報告したら怒るかなぁ。怒るよなぁ」

車窓からバルディアの方角を見つめながら深いため息を吐くが、『とはいえ、こんなことで負ける僕じゃないもんね』と心の中で呟いた。

打つ手は、すでにいろいろ考えてあるからね。

「リッド。よからぬことでも考えているのか」

「え……?」

呼びかけに振り返ると、隣に座っていたアモンが悪い顔になって不敵に笑った。

「また、こんな顔になっていたよ」

「あはは。僕はそんな悪人顔にはならないよ。どちらかといえば母上似の可愛らしい顔立ちだからね」

僕はそう言って、にこりと微笑んだ。