軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見えない意図

「……というわけです。これ以上詳しい話はまた領地に戻ってからにいたしましょう」

カペラは事実と虚実を言葉巧みに織り交ぜ、『忍衆』や『ザック・リバートン』の存在を隠しつつ、自身は華族と繋がっている非合法な組織で諜報活動をしていたと簡単に説明した。

流暢に話す彼の様は、事実を知っている僕ですら勘違いしそうになるほどだ。

ちなみに、バルディアから一緒にやってきたダイナスとティンクもカペラの出身は知っている。

幼いシトリーとティスは、彼がレナルーテ出身ということ以外は知らないはずだ。

出会った当時のカペラは無表情で感情表現が苦手なところがあったけど、エレンと付き合いを経て結婚した今はかなり感情表現が豊かになった印象がある。

というよりは、本心を隠した感情表現が上手になったというべきかもしれない。

エレンとの結婚は、意図せずカペラの諜報員としての実力を底上げしたような気がする。

彼が本気で嘘をついたら、気配を探る『電界』でも見破るのは難しいかもしれない。

電界は術者の一定範囲にいる対象の心や身体の変化を感じとるものだ。

逆に言えば、一切心や身体に変化が生じない相手であれば効果が薄くなってしまう。

出力を上げれば感じとれる部分を増やせるけど、その分だけ感受性が高くなりすぎて術者が心に傷を負ってしまう可能性がある。

「へぇ。レナルーテにも諜報機関が存在している噂は聞いたことがあったけど、出身者というのは初めて見たわ」

「それはそうでしょう。諜報員が活動先で捕まったら何をすべきか。ラファ様もよくご存じのはず」

カペラが目を細めると、ラファは鼻を鳴らして肩を竦めた。

二人のやり取りを見たアモンは、難しい顔で視線をこちらに向ける。

「私もただの護衛ではないだろうとは思っていたが、元諜報員だったとはね。流石に驚いたよ」

「彼の出身は、変な憶測を呼びかねないからね。バルディア家関係者以外には口外していないんだ。二人も、よろしくね」

「わかった」

アモンは頷くと、「それで……」と切り出す。

「カペラ殿の元上司なら、裏世界に精通していてホルストの魔法についても何かわかるかもしれない。そういう認識でいいのかな」

「うん。レナルーテはダークエルフの国で歴史も長いからね。もしかしたら、何か手掛かりが掴めるかもしれないと思ってね」

実際、『翡翠の丸玉』を調べていた時には、レナルーテ出身だったカーティスの意見がとても参考になっている。

他にも経験豊富な彼の指摘は、第二騎士団の組織改善と強化に一役買ってもいた。

まぁ、カーティスの意見を第二騎士団の運営に素早く反映していくファラの手腕も大きいけどね。

「手掛かりを探すのもいいけど、私はホルストの意図が気に掛かるわね」

ラファはそう言うとグラスに注いだお酒を呷った。

彼女が選んだ酒瓶は、気付けば中身が空になっている。

でも、ラファの表情や目には一切変化がない。間違いなく、彼女は酒豪の部類だろう。

「それはどういう意味かな」

僕が尋ねると、ラファはグラスを傍にあった机の上に置いてゆっくりと立ち上がった。

そして、僕の前にやってくる。

「もし、私があの魔法を使えるなら、邪魔の入らないところで使うわ。リッドを好きにできるようにね」

彼女は目を細め、僕の顎を撫でるように持ち上げる。

僕はそれを軽く振り払うと、訝しむように見つめた。

「つまり、洗脳や挑発以外の目的が何かしらあったと君は言うんだね」

「えぇ。ただ、ばれても構わないだけだったのか。リッドを試したのか。それとも、何かから私達の目を逸らすつもりなのか。何にしても、あんなところで対象を催眠や洗脳状態にする魔法なんて使うのは危険だわ。でも、ホルストは、あえてあの場所で使ったのよ。その意図は何なのかしらね」

ラファは不敵に笑うと、踵を返して元の席に戻って腰を下ろした。

意図、か。

確かにホルストの使った『魔法』ばかりに意識がいっていたけど、手の内を晒すような真似をした意図がよくわからない。

「……近づくな。ということかもしれませんな」

ふいに黙っていたダイナスが呟き、皆の視線が彼に集まった。

「近づくなって、どういうこと?」

代表するように尋ねると、彼はいつもより真面目な様子で口火を切った。

「対象を洗脳もしくは催眠状態にできる魔法を使用できると知れば、誰もが術者であるホルスト殿や鳥人族領に近寄ろうとはしないでしょう。ですが、見方を変えれば相手を寄りつかせないようにする牽制に此程効力を発揮する魔法もありません」

「あ……」

ダイナスの言わんとすることを察してハッとした。

僕自身は勿論、送り込んだ者も洗脳や催眠状態にされると可能性を知った以上、易々と優秀な人物を送り込むことはできない。

下手をすれば、こちらの情報が筒抜けになる可能性もあるからだ。

実際、僕はすでに鳥人族領やホルストの情報をレナルーテのザックを通して得ようと画策している。

「何にしても我々はホルスト殿と鳥人族領の情報を得る方法として、かの領地に人を送る。もしくは乗り込むという選択肢が危険であると思い込んでしまった。もしかすると、鳥人族領にはよっぽど隠したい『何か』があるのかもしれませんな」

ダイナスの言葉に僕とアモンがごくりと喉を鳴らすと、彼は白い歯を見せて微笑んだ。

「まぁ、全ては私の憶測に過ぎませんがな。もしかすると、部族長会議前にリッド様をびびらせる魂胆だけだった可能性もありますぞ。そう気負いますな」

「そ、そうだね。ホルストの意図も気になるけど、まずは部族長会議を乗り切ることに集中するよ」

「えぇ、その意気です。我等の手でどうにもならないことを考え、悩んでも仕方ありませぬ。今は目前に迫った会議を乗り越えましょうぞ」

部屋に漂っていた悪い雰囲気や暗さを吹き飛ばすように、ダイナスは大声で「がっはは」と大口を開けて笑い出した。

わざとなんだろうけど、それでも彼の声と笑顔に照らされるようにアモンの険しい表情が解け、僕の心もいくらか軽くなった感じがする。

見やればカペラも少し笑みを浮かべ、ラファも楽しそうに一人酒を再開していた。

「ありがとう、ダイナス。おかげで気持ちが落ち着いたよ」

「とんでもないことでございます。しかし、私は何もしておりませんぞ」

お礼を伝えると、彼は頭を振って再び豪快に笑い出した。

その後、僕達は別室にいたティスやシトリーを呼び戻して談笑する。

程なくして、来賓室扉が叩かれて数名の竜戦士達が入室して畏まった。

「大変お待たせしました。これより、皆様を会議場にご案内いたします」

いよいよズベーラの各領地を治める部族長達と対面か。

ホルストやガレスみたいな輩ばかりでないことを祈ろう。

「わかりました。じゃあ、皆。行こうか」

僕達は席を立ち、来賓室を後にした。