軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

獣王の目的

「意外かね」

「え、えぇ。でも、同意見とはどういうことでしょうか」

不敵に笑うセクメトスに聞き返すと、彼女は背もたれに背中を預けた。

「言葉どおりさ。今の獣人族は多少の差はあれど、どの部族も国としてではなく自領さえよければ、という考えで動いている。また、領民達への接し方もガレスやエルバ程ではないにしろ、弱者は強者のために尽くすべきと言う歪んだ思想がある。今はまだ、これでも国としてやっていけているがね。将来的に厳しいと私とルヴァは考えている」

「将来的に厳しい、それはズベーラが帝国やトーガに飲まれてしまうということですか」

アモンが低い声で切り出すと、セクメトスは静かに頷いてルヴァを見やった。

「この件、私から説明させてもらいます」

彼女はそう言うと、ズベーラが抱える問題点を語り出した。

現在、ズベーラは十一部族がそれぞれの領地を治めている。

しかし、各領地は国が管理しているわけではない。

各部族はそれぞれ独自に制定された領法を元に運営している。

突き詰めていけば、ズベーラという国の領地をそれぞれの部族が治めている、というわけではない。

各部族が治める小国が他国の脅威に対抗するため集合した、というのがズベーラという国家だという。

「以前はこれでも帝国、バルスト、トーガといった周辺国を牽制できる力があったんだけどね。最近、情勢が少しずつ変わってきているのよ」

ルヴァは肩を竦めた。

「それはバルストやトーガの力が増してきているから、牽制になっていないということですか」

僕が尋ねると、彼女は「それもあるわ」と頷いた。

「だけど、一番の問題はトーガやバルストがズベーラではなく『各領地、各部族』を標的にしつつあるということなの。十一部族がいざという時に協力することが前提で成り立つ合衆国なのに、その根本が揺らぎつつあるというわけね」

「そして、その原因の大きな一端がリッド殿の言った『歪んだ弱肉強食』というわけだ」

ルヴァの言葉を補足するようにセクメトスが続けると、ギョウブが身を乗り出して真剣な声色を発した。

「実際、バルストやトーガは各部族長に様々な調略を仕掛けているみたいでね。今は首を縦に振る者はいないが、ズベーラ国内の発展は他国よりも遅れていると言わざるを得ない。バルディアが開発したという、木炭車。今後、あのような革新的な技術が他国で共有され、発展していく。そうなれば、他国にズベーラは置いて行かれるだろう。その時、獣人族の立場はどうなっているのか。想像すると、実に肩身の狭い思いをすることになるだろうな」

彼はやれやれと首を横に振った。

「付け加えるなら……」

再びセクメトスが口火を切る。

「エルバはこの事実に気付いていた。その上で、獣人族をまとめ上げて大陸に覇を唱えようとしていたのだ。まぁ、結果は貴殿達が一番良く知っていると思うがね」

彼女はにやりと口元を緩める。

僕は、セクメトスの言動に内心で苛立ちを覚えた。

エルバが大陸に覇を唱えようとしていた事実を知っていたということは、狐人族がバルディアに侵攻する可能性には気付いていた可能性が高い。

でも、ズベーラは、『両家での問題解決を望む』と消極的だった。

当時の動きと今の言動から導き出される答えは、セクメトスは旧グランドークとバルディア家で潰し合いをさせたのだ。

にも拘わらず、平然と素知らぬ顔で僕達の前にやってきた。

獣王セクメトス・ベスティア、やっぱり油断ならない曲者だ。

だけど、ここで感情的になっては負け。

冷静に対応しなければ、必ず足下をすくわれてしまう。

僕はそれとなく深呼吸をすると、目を細めて頷いた。

「……なるほど。同意見と仰った意味、ズベーラが抱える様々な問題、他国との競争力について不安があるということはわかりました。でも、そろそろ、セクメトス殿が狐人族領にやってきた真の目的をお聞きしたいですね」

「話が早くて助かるな。当初の目的は二つだったが、今は三つかな」

「今は三つ、ですか。ちなみに、当初の目的から伺ってもよろしいですか」

最初の目的から尋ねることで、彼女達がここにやってきた一番の理由がわかるはずだ。

セクメトスは僕の意図を察したのか、楽しそうに笑った。

「一つ目は、リッド殿の人となりを知ることだ。ライナー殿とはガレスの部族葬で会えたが、貴殿とは会えていなかったのでな。そして、二つ目は近日中に王都で開かれる各部族長が一堂に会する会議。部族長会議に、リッド殿にも必ず参加してもらいたい」

「な……⁉」

彼女の一言で室内が一気にざわついた。

ズベーラの王都ベスティアで開かれる部族長会議とは国内各領地の情報共有だけではなく、国家の行く末についても協議するといういわば『国会』だ。

アモンや狐人族の後ろ盾になっているとはいえ、他国に属する僕がそんなところに出向くなんて、きっと前代未聞の出来事になるだろう。

帝国内外問わず、色々と波紋が起きる可能性もある。

僕は驚きで目を瞬くが、咳払いをして気持ちを落ち着かせた。

「ど、どうして私がズベーラの部族長会議に参加しなければならないのでしょう。アモン殿とラファ殿が出向けば事足りるのではありませんか」

「リッド殿。私を見くびってもらっては困るな」

セクメトスの雰囲気が急に重く、威圧的なものに変わる。

室内の空気が一気に凍り付き、肌がぴりぴりする感覚に襲われた。

父上と同等、いやそれ以上の圧があるかもしれない。

「現在の狐人族領、アモン殿の立場、バルディアとの関係性。これらを考慮すれば貴殿も、いや、貴殿こそが部族長会議に参加しなければならないと考えるが、違うかね」

「そ、それは……」

鋭い指摘に僕は息を飲んだ。

まさか、ここまで直接的に出てくるとは思わなかった。

バルディア、アモン、狐人族の関係性はガレスの部族葬で国内外に暗示して終わったと考えていたけど、セクメトスが『公』にしようとするとは想定外だ。

でも、狐人族とバルディアの関係性を『公』にすれば獣王国の権威失墜を招く可能性もある。

どうして、此処に来て強硬な姿勢出たのだろうか。

考えを巡らせてると、セクメトスがふっと表情を崩した。

「そして、三つ目だ。実は私もヨハン同様、リッド殿のことがとても気に入ってね。是非、バルディア家もしくは貴殿と近いグランドーク家の者とヨハンで縁を結ばせてもらいたい」

「は……?」

急な話題で呆気に取られるが、すぐに僕はハッとして頭を振った。

「そ、そんな急な申し出は困ります。そもそも、こちらは縁を結べる者はおりません」

「リッド殿の言うとおりです。いくら何でも急すぎます」

僕に続いてアモンも身を乗り出して声を発するが、セクメトスは意に介する様子も無く口元を緩めた。

「いやいや、いるではないか。バルディア家にはリッド殿に妹君がいると聞く。それに、グランドーク家にはアモンの姉ラファ・グランドーク殿。そして……」

セクメトスは怪しく目を鋭くし、横目でちらりと彼女を見やった。

「シトリー・グランドーク殿がいるではないか」

「わ、私、ですか……⁉」

急に振られ、シトリーは目を瞬いた。