軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの新たな出会いと勘違い

「私達はここに居て良いんでしょうか」

緊張した面持ちでティスとシトリーが顔を見合わせると、アモンが頭を振った。

「勿論だよ。ギョウブ・ヤタヌキ殿は隣領の部族長だからね。シトリーはいずれ狐人族領に帰ってくるだろうし。それにその、ティス殿も将来的には多分、顔合わせる機会も多いだろうからね」

「あ、そ、そうですね。畏まりました」

彼が照れくさそうに言うと、ティスもハッとして頷いた。

「アモン兄様とティス姉様。もう熱々なんですね」

「え……⁉」

シトリーがここぞとばかりにしたり顔で微笑み掛けると、アモンとティスは揃って顔を赤らめた。

何やら、何処かで見たような光景である。

「あらあら。これは、グランドーク家の将来と跡取り問題も安泰ね」

「あ、姉上⁉」

ラファからも揶揄われ、アモンの顔が更に赤くなっていく。

僕は共感を覚え、気付けば彼の肩を叩いていた。

「アモン。こちら側へようこそ」

「えっと、リッド。こちら側ってどういう意味かな。それにどうして、そんなに笑顔なんだい」

「何だか二人が微笑ましくて、嬉しくてね」

「いやいや、意味不明だよ」

顔を赤らめたまま困惑するアモンに、僕はとても優しい目線を向けていた。

皆で歓談をしている間に、ギョウブ氏を乗せている木炭車が到着。

屋敷の門を潜って、玄関前に停車した。

狐人族の戦士が被牽引車の扉を開くと、軽い雰囲気を放つ一人の狸人族が煙草をくわえながら降り立った。

彼の身なりは帝国様式、というより前世の記憶にあるスーツ姿に近い。

茶色の基軸としたスーツの上から、足下まで丈のある黒い外套を羽織っている。

灰色の短髪だが、サングラスとしているから目元はよくわからない。

程なく、彼は口元をニヤッと緩めながら手を差し出した。

「久しぶりだな、アモン」

「ギョウブ殿。今日はよく来てくれた。しかし、煙草はやめていただけないかな。香りが苦手な者もいるのでね」

「これは失敬」

ギョウブはわざとらしく大手を上げると、懐から携帯灰皿を取り出してその中に咥えていた煙草を捨てる。

「自領ならポイ捨てだが、流石にここだと怒られそうなんでね。ちゃんと持ってきたよ」

「それなら、そもそも吸わないのが良いかと思いますよ」

アモンが笑顔で切り返すと、ギョウブは会話を楽しむように「手厳しいねぇ」と肩を竦めた。

「ところで、そちらが型破りな風雲児と名高いリッド・バルディア殿かな」

「えぇ、その通りです」

彼の視線に頷くと、僕は前に出て手を差し出した。

「しかし、人に尋ねるときはまず自身から名乗るべきではありませんか。狸人族部族長ギョウブ・ヤタヌキ殿。あと、私達は初対面です。止むを得ない理由がない限り、せめて挨拶する時ぐらいはサングラスを外すべきかと」

「おやおや。リッド殿は優しいお方だと聞いていたが、アモン以上に手厳しいねぇ」

「どのような話を聞かれたかは存じませんが、私は礼には礼を持って応えているだけですよ」

握手しながらあえて目を細めると、彼は口笛を軽くならして「怖いねぇ」とおどけながらサングラスを外した。

露わになった目付きは意外と優しげで、茶色の瞳が陽光できらりと光る。

「改めて、狸人族部族長のギョウブ・ヤタヌキだ。まぁ、よろしく頼むよ」

「リッド・バルディアです。こちらこそ、よろしく」

彼は飄々として軽く、言葉以上に言動が何処か憎めない雰囲気がある。

確かに、腹の読めなさそうな人物だ。ギョウブは挨拶を終えるとすぐにサングラスを戻した。

「さて。実は今日、俺と一緒に急遽やって来た奴等がいるんだが早馬は届いているかな」

「早馬……?」

僕とアモンは顔を見合わせるが、互いにそんな話は聞いていない。

「いや、こちらにはまだ届いていませんよ」

アモンが訝しむように答えると、ギョウブは額に手を当てて「あちゃ~。やっぱりそうか」と天を仰いだ。

「国境地点で走らせたんだが、どうやら木炭車の方が速かったらしい」

「は、はぁ。それで、ギョウブ殿。急遽やって来られた方というのはどなたでしょうか」

再びアモンが尋ねると、「私だよ」と低い女性の声が聞こえてきた。

振り向けば、被牽引車の中から全身と顔を覆う外套を着た7尺【約210cm】以上ありそうな大柄な人物が降り立った。

僕達が首を捻ると、その人物はゆっくりと頭巾を開けた。

次の瞬間、アモンが「き、貴殿は⁉」と目を丸くし、周囲の戦士達にも驚きの表情を浮かべる。

「諸君、驚かせて済まない。セクメトス・ベスティアだ」

「え……⁉」

セクメトス・ベスティアとは、ズベーラ国の現獣王である。

彼女は綺麗な薄く光る金髪の長髪を靡かせ、鋭い目には薄い青色の瞳が光っていた。

また、右顔半分を鉄仮面で覆っている姿から歴戦の女傑という印象を受ける。

驚く僕達を横目に、彼女が「それと……」と続けたその時、白く小さな影が被牽引車から目にも止まらぬ速さで飛び出た。

次の瞬間、僕の目の前にセクメトスと同じ肌、髪、瞳の色を持つ、あどけない顔をした猫人族の少年が現れる。

「君がリッド・バルディアだな」

彼は言うが速いか、鋭い爪を繰り出す。

あまりに一瞬かつ虚を突かれたことで、カペラとティンクが間に合わない。

僕は咄嗟に魔障壁を展開して、彼の一撃を受け止めると周囲に甲高い音が響き渡る。

「おぉ⁉ 凄い、凄いぞ。初めてだ、僕と変わらない子がこの一撃を止めたのは」

彼は何やら歓喜の声を上げるが、こっちは溜まったもんじゃない。

「何、訳の分からないことを」

魔障壁で弾き飛ばすが、彼は身を翻してバク宙をしながら飛び退くと被牽引車の上に着地する。

なんて身の軽さだ。

彼は不敵に笑い出すと、腰に手を当てながら僕に向かって指を指した。

「決めた。君、僕の妻になれ。そして将来、僕達の血が混じった世界一強い子を産むんだ」

何を言っているのか理解が出来ず、「は……?」と呆気に取られる。

しかし間もなく、一気に怒りの感情が湧き上がった。

「僕は男だ。子供なんて産めるわけないだろ⁉」

魂の叫びとも言える怒号は、部族長屋敷敷地内全体に轟いた。

だが、彼はきょとんとして小首を傾げる。

「何を言っている。君は男装した女の子だろう」

「はぁ⁉」

思わず素っ頓狂な声を上げるが、周囲からの視線にハッとする。

見渡せば主に狐人族の戦士達から「まさか……」という眼差しが向けられていた。

そんなわけがないだろうに、興奮のあまりに頭が痛くなってる。

気持ちを落ち着かせるべく胸に手を当てて深呼吸をしていると、彼は僕の前にやってきて鼻をすんすんさせた。

「こ、今度はなんだ」

「だって、こんなに甘くて良い香りがするんだ。女の子に決まってる」

「な……⁉」

困惑していると、彼は思いっきり抱きついてきた。

おまけに僕の首元で鼻をすんすんさせている。

流石に全身にぞわっとしたものが走り、僕は彼の両肩に手を置いて突き放した。

「だから、僕は男だって言っているだろう。大体、君は誰なんだ」

「恥ずかしがるなよ、リッド。それと僕の名は……」

彼が白い歯見せて名乗ろうとしたその時、「いい加減にしなさい」というセクメトスの低い声が轟く。

そして、彼の頭に拳骨が落ちた。

「いたぁ⁉ 母上、酷いです。折角、お嫁さんを口説いていたのに」

「だから、いい加減しなさいと言っただろ。どんなに良い香りがしても、リッド殿は男の子だ。それに、そういうことも稀にある」

「えぇ⁉」

彼は叩かれた頭を摩りつつ、信じられないという顔で目を瞬いた。

「こんな可愛くて、良い香りがするのに。男の子なのか」

「その通り。可愛くても、良い香りがしようが僕は男で既婚者だ」

そう告げると、彼は「きこん?」と首を傾げた。

「既に結婚している。妻がいるということだな」

「おぉ⁉ それは凄い」

セクメトスの補足に彼は目を丸くすると、再び僕の前にやってきた。

「なら、リッド。君の奥さんに早く女の子を産んでもらってくれ。そしたら、君の血と僕の血を混じらせた子を作れるだろ」

「そ、そんなことできるわけないだろ。大体、君の名前もこっちはまだ聞いてないぞ」

声を荒らげると、彼はハッとして「そうだったな」と舌先を出して会釈した。

「では、改めて名乗ろう。僕は獣王セクメトス・ベスティアの息子ヨハン・ベスティアだ。これからよろしくな、リッド」

「き、君がヨハン・ベスティアだって……⁉」

セクメトスとのやり取りからある程度予想は付いたけど、改めて名乗られると衝撃のあまりに僕は唖然としてしまう。

「もうそれぐらいでいいでしょう」

聞き慣れない女性の声が聞こえて振り向けば、被牽引車の中から新たな人物が降り立っていた。