軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの質問

「……レナルーテのおとぎ話と今回の事件の類似性。翡翠色の丸玉は牢宮珠を模したものと思われる、か」

バルディアで得た考察を説明すると、アモンは思案顔を浮かべて唸った。

僕の目の前で異様な変貌を遂げたガリエル・サンタス。二人の鳥人族に連れて行かれた彼の足取りは、現在も掴めていない。

一方、サンタス家の当主だったレモス・サンタスは既に死亡が確認されている。

アモンが率いる監査団がサンタス家の屋敷前に辿り着くと、突然屋敷が爆発して全焼してしまう。

当初、レモスは生死不明とされていたが、彼の屋敷で働いていた生存者から貴重な証言を得られた。

『レモス様は、翡翠色の何か小さいものを取り出して口に入れました。それから間もなくです。レモス様が風船のように膨らんで爆発したのは……』

ガリエルの件がなければ、この話は信じがたいものだっただろう。

でも、実際にその異様な変化を僕が目の当たりにしていたことから信憑性が高い判断され、レモスは死亡扱いとなったのだ。

『狐人族が何かに大きな悪意に巻き込まれている』

そう考えた僕とアモンは、レモスとガリエルの身に起きたことを重く見て、ずっと調査を続けている。

「今ある情報での僕や父上達の考察だけど、調査の方向性にはなると思う。間違っていたら、また方向修正すればいいからね」

「わかった。その方針で姉上や戦士達にも引き続き調査してもらうよ」

「うん、お願い」

アモンが頷くと、僕はふと気になって話頭を転じた。

「狐人族領、というかズベーラ国内にも牢宮【ダンジョン】って出没するのかな」

「あぁ、勿論だよ。私も何度か出向いたことがあるからね」

牢宮は、やっぱりどこでも出現するのか。

機会があればと考えていたから、狐人族領内で確認されたら行ってみようかな。

「あれ、そういえば……」

急にアモンが眉間に皺を寄せ、何やら考え込み始める。

「どうしたの」

「いや……。冷静に考えてみると、以前と比べて牢宮の発生が大分少なくなったような気がしてね」

そう言うと、アモンは背後に立つカラバに視線を向けた。

「最近、牢宮の発生どうだい。何か聞いているかな」

「そう、ですね。言われてみればグレアス様がご存命だった頃に比べ、狐人族領内では大分少なくなったように感じます。しかし、正確には調べてみないことには何とも言えません」

「わかった。その件も姉上に調べてもらうよう伝えてほしい」

「畏まりました」

アモンの言葉にカラバは会釈する。

以前と比べ、牢宮の発生が少なくなった感じがする、か。

カラバの言った通り、正確な数は調べてみないとわからない。

しかし、数年前と比べて牢宮の発生率が減少傾向にあると感じる同時期に、牢宮珠を模した怪しげな丸玉が出現する……果たして、そんな偶然があるだろうか。

物事の結果には必ず原因があるはずだ。

たとえば、何者かが牢宮珠を採取するために狐人族領内で発生した牢宮へ秘密裏に入り込んでいた、とか。

「……点と点だったものが少しずつ線で繋がり始めた気がするね」

「そのようだね」

考えを巡らせながら呟くと、アモンがこくりと頷いた。

「それにしても、牢宮の発生率か。こんな事が起きなければ、あまり気にすることもなかったよ」

彼はやれやれと肩を竦めると、「ちなみに、リッド」と身を乗り出した。

「ティス殿との顔合わせが終わった後だけど、狸人族部族長ギョウブ・ヤタヌキ殿との会談の日程は予定通りでいいかな」

「あ、そうだったね。そっちも変更無しで問題ないよ」

「良かった。では、その旨をギョウブ殿にも連絡しておこう」

「うん、ありがとう」

実はバルディアに帰郷前ぐらいから、ズベーラ国内の各部族長が僕とアモンに会って話がしてみたいという連絡がきている。

旧政権派の豪族達を容赦無く改易し、政治腐敗の一新を図った影響力は狐人族領内だけに留まらず、ズベーラ国内の全域で驚きと衝撃を与えたらしい。

僕が帰郷している間に至っては、獣王セクメトス・ベスティアからも会談の打診があったという知らせが通信魔法で届いている。

流石に獣王との会談となれば、僕とアモンだけでは荷が重いという判断から、父上が近いうちに狐人族領へ来られる日程で調整しようということになった。

道を整備さえすれば木炭車を夜通し走らせることで、バルディアの新屋敷から狐人族領首都フォルネウまでは丸一日かからないぐらいのはず。

二泊三日ぐらいの日程であれば、父上もバルディアから離れても大丈夫だろう。

強行日程だけど、帝都を往復している父上なら多分大丈夫なはず。

旧政権派の豪族達が集めていた違法資金が回収できたことで『狐人族再建五ヵ年計画』の目処も立った。

近いうちに道の整備もどんどん進むだろうから、一、二ヶ月の間に獣王セクメトスとの会談は実現するはずだ。

なお、狐人族領は西南側に狸人族、北側に馬人族、東側にバルスト、南にバルディア。

そして、少し北西にズベーラの王都ベスティアが位置している。

会談の優先順位を考えた結果、隣領の申し込みを最優先すべきという判断もあった。

ギョウブ・ヤタヌキは、各部族長の中でも比較的温和な性格らしい。

だけど、同時につかみ所のない人物とも聞いている。

父上に会談の相談と許可を得た時、くれぐれも油断はするなと、釘を刺された。

獣人族は武力だけに留まらず、政治力や交渉力にも弱肉強食の思考が根強い。

当然、部族長ともなれば一筋縄ではいかない人達ばかりだろう。

でも、各部族長達との会談で僕達の技術や商品を紹介して売り込んでいけば、バルディアの窓口となる狐人族領の経済は必ず活発化するはず。

そうなれば、ズベーラのお金が狐人族領に集まり、次いでバルディアに流れてくることになるだろう。

回り回ってその資金は、バルディアと狐人族の更なる発展と影響力の強化に繋がり、将来における断罪への抑止力や抗策になっていくはずだ。

実のところ、僕はガレスやエルバの行いを傍観した獣王セクメトスや部族長達。

ひいてはズベーラに対して、そこまで良い印象は持っていない。

獣王や部族長達にも様々な思惑があったんだろうが、立場ある者が制止すれば『狭間砦の戦い』は起こらなかった。

だからといって恨んだり、いちゃもんを付けたりなんて非生産的なことは思っていない。

狐人族領を通してズベーラの未開拓市場を独占に近い形で裏から支配し、骨の髄までしゃぶり尽くす。

そして、狐人族とバルディアがいないと経済が多大な悪影響が出るぐらいにまで、骨抜きにしようと考えているだけだ。

そこまでいけば、国としてもバルディアには二度と手は出せなくなるだろう。

「……リッド、何だか随分楽しそうだね。また、悪巧みかな」

「いやいや、そんな悪巧みなんてしてないよ。ほら、僕はあどけない少年だからさ」

「やれやれ、どうだかな」

頭を振って、白い歯を見せて微笑むとアモンは呆れ顔で肩を竦めた。

僕のやろうとしていることは『断罪回避に向けて』という部分を伏せた上で、彼にもある程度伝えている。

『狐人族領が帝国に属するバルディアとの貿易中心地となり、ズベーラ全体のヒト、モノ、カネが集まるか。素晴らしい考えだよ』

アモンはそう言って喜んでいた。

多分、僕の真意をある程度は察した上で、だろうけど。

獣王や各部族長との会談について話している中、僕はとある人物の名前が脳裏によぎる。

「話が少し変わるんだけど、一つ聞いて良いかな」

「うん、何かな」

アモンが身を乗り出すと、僕は新たな口火を切った。

「獣王セクメトス・ベスティアの息子。王子ヨハン・ベスティアとアモンは面識があるのかな」