軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの魔刀術と副団長ルーベンス2

組み伏せられた状態から解放された僕は、服に付いた砂を払いながら頬を膨らませた。

「むぅ、今日こそルーベンスに勝てたと思ったのになぁ」

「残念ですが、まだまだ負けてあげることはできませんから」

彼は白い歯を見せて微笑むが、「とまぁ、言いたいところでしたが……」と決まり悪そうに頬を掻いた。

「訓練としては、木剣を砕かれた時点で私の負けですね。リッド様、素晴らしい成長でございました」

「え……」

負けを認める発言にきょとんとするが、すぐに嬉しさが胸の中から湧き上がってくる。

でも、僕が求めていた勝ち方とはちょっと違うから、どこか悔しくて素直に受け取ることもできない。

嬉しさと悔しさが入り乱れた結果、何故か急に気恥ずかしくなってしまう。

結果、彼から視線を外し、僕はツンとそっぽを向くに至った。

「そ、そんな風に勝ちを譲られても、僕は嬉しくなんかないんだからね」

口を尖らせると、ルーベンスは苦笑しながら「申し訳ありません」と軽く頭を下げた。

「それにしても、魔刀術というのは面白い技でしたね。ただ、リッド様には槍系魔法がありますから、そちらをお使いになれば良かったのではありませんか」

彼の感想と質問に、僕は我に返って視線を戻した。

「いや、それがそうでもないんだよね」

「と、申しますと?」

首を傾げるルーベンスに、僕は魔刀術を編み出した理由を説明する。

剣戟による激しい近接戦をしながらでも、槍系魔法を発動することは可能だ。

ただ、どうしても通常より発動が若干遅くなってしまう。

一瞬でも気の緩みが命取りとなる場面では、この点は気をつけないと致命的な隙に繋がりかねない。

魔力付加を用いる魔刀術であれば武器強化をしつつ、近中距離の相手に対して『飛ぶ斬撃』や『飛ぶ突き』を繰り出せる。

相手との間合いがしっかり取れれば、通常の槍系魔法を放てばいいわけだ。

相手からすれば、離れたら魔法。

近づいても、ふとした瞬間に飛んでくる『斬撃』や『突き』を常に警戒しなければならない。

近接戦というのは力だけでなく、互いの出方を一瞬で読み合う心理戦でもある。

離れれば魔法、近中距離では『飛ぶ斬撃』が飛んでくるとなれば、相手は慎重に動かざるを得ずに迷いが生じるだろう。

迷いが相手に生じた時点で、こちら側は心理的に優位な立場になれるというわけだ。

他にも理由として、第一と第二騎士団の団員達に、槍系魔法を使えるけど『不得意』とする場合があったことも挙げられる。

どんなことにも得手不得手があるように、身体強化や魔力付加は得意でも、『槍魔法』のような射出魔法はどうしても苦手、という人が獣人族の子や大人を問わずに一定数存在した。

そこで、彼等と僕自身の手札を増やす新たな魔武として、『魔刀術』を編み出したというわけだ。

なお、魔布術を応用しているので、カーティスにも色々と意見はもらっている。

「……というわけなんだ」

「それは興味深いですね」

ルーベンスは合点がいったらしく、深い相槌を打った。

「私も『槍魔法』は習得済みですが、どちらかと言えば身体強化や魔力付加の方が体感的に得意ですから」

彼はそう言うと、何やら思案顔を浮かべて「ふむ」と口元に手を当てる。

それから少しの間を置いて、真顔になった。

「リッド様、お願いがあります」

「な、何だい。急にどうしたの」

真剣な眼差しを向けられ、思わず後ずさったが、ルーベンスに両肩をがっしり掴まれてしまう。

逃げることもできないまま、彼の顔が目と鼻の先まで迫ってくる。

ただならぬ雰囲気に生唾をごくりと飲み込むと、ルーベンスが「この魔刀術……」とゆっくり切り出した。

「う、うん」

相槌を打ちつつ、僕は考えを巡らせる。

これは、あれかな。

また、『禁止です』と言われて、父上に叱られちゃう流れかなぁ。

最初に新魔法とは言ったけど、既存の魔法を組み合わせているだけだから大丈夫、と考えたのが甘かったか。

内心、がっくりしながら父上にする弁明を考え始めたその時、ルーベンスが頭を下げた。

「私にご教授いただけないでしょうか」

「あはは、やっぱり禁止だよね……って、あれ」

予想外の言葉に首を傾げると、彼は顔を上げて目を輝かせながら僕の手を取った。

「リッド様の考えに感服しました。バルディア内で魔法が使える者が少しずつ普及する中、私は今後における『対魔法剣術』をどうすべきかと密かに思案しておりました。ですが、『魔刀術』が完成すれば、問題が一気に解決できると存じます。ライナー様には私からもお伝えしますので、是非ご教授をお願い申し上げます」

ルーベンスは熱い口調で語り終えると、再び頭を下げた。

今度は、さっきよりもかなり深い。

思いがけない方向に話が進んで「え、えっと……」と困惑するが、ふと彼に『ラジオ体操』を教えた時のことが脳裏に蘇る。

そういえばあの時も、ルーベンスは『ラジオ体操』の利点にすぐ気付いて、父上とダイナスに報告して騎士団に取り入れたんだっけ。

ただ、騎士団員が勢揃いして、息と動きをぴったり合わせたラジオ体操が僕が知る動きではなかった。

ちなみに、騎士団発信でバルディア領内全域に『ラジオ体操』は広まっている。

結果、今では領内の彼方此方で老若男女を問わず、色々な人がラジオ体操に取り組む姿を目にする機会が増えた。

逆に一般市民がする動きの方が、僕の知る動きに近かったことは言うまでもない。

いやいや、今はそんなことはどうでもいいだろう。

よそ事を振り払うように、僕は頭を振った。

魔刀術はまだ未完成だし、父上に相談しないまま僕の一存でルーベンスに伝えていいものだろうか。

だけど、彼が協力してくれれば、確実に魔刀術の完成は早まるはず。

いや、やっぱりここは父上に一度相談するべきかな。

その時、副団長であるルーベンスにも立ち会いをお願いして、魔刀術の利点を熱弁してもらおう。

そうすれば、父上も納得してくれるはずだ。

どちらにせよ、魔刀術が完成したら第二騎士団の子達に教える許可を取るつもりだったから、この機に乗じてその許可も取ってしまおう。

口元に手を当てながら考えを巡らせていたところ、何やらルーベンスがしょんぼりしてしまった。

ちょっと、子犬っぽい。

「やはり、駄目ですか」

「え、あ、いや。そういう意味じゃなくて……」

どうやら僕が黙っていたせいで、教えてもらえないと思ったらしい。

慌てて首を横に振ったその時、「リッド様」と可愛らしい声が聞こえてくる。

振り向けば、訓練を観覧していたファラ達が小走りでこちらにやってきていた。

「ファラ、どうしたの」

「いえ、訓練が終わったように見受けられましたので。それで、その……」

彼女そう言うと、申し訳なさそうに自身の横に並び立つ専属護衛ことアスナに目をやった。

すると、アスナが勢いよく僕の手を掴んだ。

「リッド殿。先程、ルーベンス殿との手合わせで使っていた技ですが、私にも詳細をお教えください。どうかこの通りでございます」

アスナはそう言うと、深く頭を下げる。

つい先程、見たような光景に、僕は「えぇ」と唖然とした。