軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッド、狐人族領の報告

「……以上のような状況です。今後、狐人族領の発展は、きっとバルディアに次ぐものとなるでしょう。そうなれば取引量は確実に増加。二家の将来に、ようやく光明が差したと言えるのではないでしょうか」

僕が狐人族領で発生した出来事と詳細に説明し終えると、父上は「なるほどな」と深い相槌を打った。

「しかし、本当に旧政権派の豪族達を根こそぎ改易するとはな。アモンとお前も中々に思い切ったことをしたものだ」

なお、狐人族領内で僕とアモンがどういった動きをしていたのか。

また、その判断に至った経緯は全て通信魔法で父上に事前連絡し、報告と必要であれば指示を仰いでいる。

僕もある程度の決裁権は任されているし、父上は部族長となったアモンの判断を基本的に尊重する立場を取っているから、指示を仰ぐというより『相談』していると言い表した方が正しいかもしれない。

「協力できれば、それに越したことはありませんでした。ですが、彼等は機会を与えても僕達と敵対する道を選び、利己的な保身に走ったのです。残念ですが、情状酌量の余地はありませんでした。それに……」

僕はそう言うと、目を細めて微笑んだ。

「事前にご報告した通り、将来のことを考えれば、この機に狐人族領内の膿は全て出すべきだと。僕も、アモンも判断したまでのことです」

部族長となったアモンの立場を確固たるものにしなければ、『エルバ』のような輩が出現して狐人族領内で内乱が起きる未来だってあり得る。

そうなれば、またバルディアと狐人族領での争い、新たな『狭間砦の戦い』が起きかねない。

それだけは、絶対に阻止しなければならないことだ。

父上は眉を少し動かすと、ふっと表情を崩した。

「そうか。お前とアモンが己の信念を持って行ったならば、私から言うことは何もない。此度はご苦労だったな」

「ありがとうございます」

会釈すると、信念という言葉が頭の中で木霊した。

強いて言うなら『バルディアを守り、皆を護る』というのが、僕の信念だろう。アモンは『狐人族領と民を護り、繁栄させていくこと』だろうか。

そう考えると、僕と彼はやっぱり似た思考を持っているのかもしれないな。

僕が顔を上げると、「それにしても……」と父上が眉間に皺を寄せて切り出した。

「旧政権派の豪族達をまとめていた『レモス・サンタス』と『屋敷の焼失』。そして、お前が戦ったという『ガリエル・サンタス』の異様な変貌に加え、所属不明の鳥人族の乱入。実にきな臭いことが立て続けに起きたものだ」

「そうですね。ですが、私と現場に居合わせたアリアの証言から、所属不明の鳥人族は十中八九『パドグリー家縁の者』かと。おそらく、サンタス家。延いては、旧政権派の裏にはパドグリー家が絡んでいたと存じます」

「うむ、その可能性が高いだろうな」

父上は難しい顔で頷いた。

パドグリー家。

アリア曰く、彼女達姉妹の実父は部族長『ホルスト・パドグリー』らしい。

そして、パドグリー家は人工的に優秀な戦士を生み出すため、『強化血統』の研究を盛んに行っているそうだ。

強化血統とは武力、魔力、知能……様々に優れた才能を持つ者同士で子を成し、優秀な戦士を効率的に生み出すという手法らしい。

前世で言う、競走馬のサラブレッドを『人』で行っているということだろう。

元々はズベーラで行われる『獣王戦』を勝ち抜くために獣人族で生まれた『文化』らしいけど、世代が続くにつれて原因不明の虚弱体質者が続出。

今では、参考程度に考えられていることがほとんどらしい。

地域や部族によってはまだその文化が根強いところもあるらしく、パドグリー家はその筆頭だそうだ。

なお、鳥人族の現部族長ホルストは、実子であるはずのアリア達を虚弱体質者とみなして『失敗作』や『期待外れ』と称し、バルストに売り飛ばすという行為をしている。

普通に考えて、まともな人物ではないことは容易に想像がつく。

「父上は、パドグリー家をどう見ておられるのでしょうか」

「そうだな……」

父上は口元に手を当て考えを巡らせてから、口を開いた。

「ガレスの葬儀で直接顔を合わせた時は、眼鏡を掛けた感じの良い優男だったな。しかし……」

そう言うと、父上は表情を曇らせた。

「正直、私はあまり良い印象は抱いておらん。以前、帝都で皇帝陛下や貴族達とのやり取りの中、アシェン男爵がホルストの名前を出してきたことがある」

アシェン男爵は、『ときレラ』でメインヒロイン『マローネ』の父親だった人物だ。

でも、現状だとマローネはジャンポール侯爵家の養女になっている。

これもエルバの件同様、僕が断罪回避に向けて動いた結果、何かしらの改変が起きたと考えるべきだろう。

「それは、帝国貴族の革新派と繋がっているということでしょうか」

ホルストとアシェン男爵の関係性……というより帝国貴族の革新派との繋がり次第では、バルディアと革新派の関係が悪化する恐れがある。

そうなれば、マローネと僕の関係にも影響が出るかもしれない。

現在、彼女とはたわいもない内容で文通する仲だけど、マローネが属するジャンポール侯爵家は、革新派の筆頭だ。

『ときレラ』におけるバルディア家断罪には、悪役令嬢ヴァレリとマローネとの敵対が大きく関わっている。

ゲームでは悪役令嬢のヴァレリ側に僕が付いたことが、バルディア家断罪の原因となった。

だけど、突き詰めて考えれば、ヴァレリ側に付いたことが本当の問題じゃない。

マローネと『敵対』した未来こそが、断罪に繋がっていると考えて動くべきだろう。

でも、正直なところ革新派に属する勢力とバルディアの現状は良好な関係とはあまり言えない。

ホルストと帝国貴族の革新派が深い関係であれば、今回の一件で更にバルディアと革新派の溝が深まるだろう。

それはつまり、マローネと敵対することにも繋がっていくことを意味する。

気付けば口の中が乾き、背中には嫌な汗が流れていた。

「いや、必ずしもそうとは限らん」

父上は首を横に振った。

「革新派が鳥人族と親交が深いという話は、過去と現在を含め聞いたことがない。アシェン男爵は手広く商売を営んでいるからな。獣人国の各部族長と繋がりを持っていてもおかしくはないだろう」

そう言うと、父上は苦々しそうに顔を顰めた。

「だが時期を考えるに、ホルストが我々を帝国内で孤立させようとアシェン男爵に手紙を送ったというのは間違いない。警戒はしておくことに越したことはないだろう」

「畏まりました。では、アモンと共に鳥人族の動向を注視し、警戒するよう務めます」

内心、胸をほっと撫で下ろした。

少なからず、ホルストとバルディアが敵対に近い関係となったとしても、すぐに帝国貴族の革新派が出てくることはなさそうだ。

「ところで、父上。私が対峙したガリエルですが、彼の変貌には『翡翠色の丸玉』が深く関わっている思われますが、何かご存じでしょうか」

話頭を転じて切り出すと、父上は「そうだな……」と思案顔を浮かべた。