軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皇族の意図2

「第一皇子であるデイビッドが保守派筆頭のエラセニーゼ公爵家のヴァレリと婚約している以上、第二皇子のキールは保守派もしくは中立派から婚約者を探す必要がありました。その点でも、バルディア家にはキールと年齢が近い令嬢のメルディが居たので渡りに船だったのです」

「つまり、革新派の婚約者候補が確定する前の現時点で、第二皇子の婚約者を早急に決めておきたかった……ということでしょうか」

「その通りだ」

僕の問い掛けに、アーウィン陛下が力強く頷いた。

「それに、ベルガモット卿が謁見の間で言っていた『バルディア家の後継者問題』というのもあながち間違ってはおらん。昨今におけるバルディア領の発展と繁栄は、帝国の中でも頭一つ……いや、群を抜いていると言った方が良い。そのような状況下もある故、メルディ・バルディアの婚約者は結果的に派閥の均衡を崩す影響力を与えることに成りかねん。ライナー、リッド。貴殿達であれば、この意味がわかるであろう」

陛下は僕と父上を交互に見やって凄んだ。

言わんとしていることは、わからなくもない。

最初に開発して販売した化粧水に始まり、木炭車やバルディア製の木炭、懐中時計、新料理等々。

様々な物を世に発信し続けているバルディア領は帝国内だけでなく、近隣諸国に対する影響力も少しずつ出ている。

今後も発展を続ければ、バルディアの影響力はさらに大きくなるはずだ。

そうなれば陛下の言うとおり、メルの夫となる者が持つ力というのは馬鹿にできない。

それこそ、帝国貴族達の派閥の均衡を崩す可能性も出てくるだろう。

将来の断罪回避に向けた布石を打ち続けた結果、前世の記憶にない予想外の動きが発生するのも当然と言えば当然なのかもしれない。

まさかそのしわ寄せが、メルと皇族の婚約という形になるとは思わなかったけど。

「謁見の間で我が娘の婚約を皆があの場で押した理由……ベルガモット卿は革新派が押すキール殿下の将来的な影響力を見越していた。一方、保守派のグレーズ公爵は、革新派の令嬢よりバルディアの力を得られるメルディと皇族の婚約の方が良いという算段だったというところか」

父上が確認するように問い掛けると、アーウィン陛下はゆっくりと頷いた。

「おそらく、その考えで間違いないだろう。マチルダが気に掛けていたマローネという令嬢が影響力を持つには、まだ少し時間が掛かる。その上、平民出身となれば保守派の反発も予想されるからな。ベルガモット卿としては、確実性を取ったというところだろう。ベルルッティ侯爵の考えは違うかもしれんがな」

「なるほどな……」

相槌を打った父上は、額に手を添えてやれやれと首を横に振る。

それから少し考えるような間を置いて、深いため息を吐いた。

「キール殿下との婚約の件は承知した。ナナリーとメルディにも伝えよう」

父上が重い口を開くと、両陛下が嬉しそうに破顔する。

でも、父上はすかさず「だが……」と続けた。

「我が娘の婚約者としてバルディア領に来るというのであれば、キール殿下にはそれなりの覚悟をしてもらわねばならん。バルディアは辺境であり、グランドーク家との戦があったように命の危機は帝都よりも多いからな」

「無論だ。その点もキールはすでに承知している。案ずるな」

ファラと僕の婚姻も、こうして父上の預かり知らぬところで決められたのだろう。

彼女との婚姻に後悔はない。

むしろ、素晴らしい良縁だったと考えている。

だけど、それはそれとして、満足気に笑みを浮かべる陛下の姿に僕は少し腹が立った。

「少々お待ちください」

咄嗟に声を上げて耳目を集めると、僕はあえて目を細めて微笑んだ。

「恐れながら、父上が申し上げた点に少し補足がございます」

「……内容にもよるが、どのような補足かな」

父上から言質を取ったせいか、陛下の表情には余裕がある。

「いえ、至極当然なことです。キール殿下が我が妹であるメルディの婚約者となる。つまり、私に万が一のことがあれば殿下にバルディア領を守ってもらわねばなりません。故に『帝国の剣』の後継者として、私が受けている『教育』を一緒に受けていただくことになります。殿下であろうが一切の妥協はしませんし、泣き言は聞きません。それでもよろしいでしょうか」

「リッド、お前……」

意図を理解したらしく、父上は顔を引きつらせた。

でも、陛下達はきょとんとして顔を見合わせる。

「ふむ……。まぁ、それはしょうがあるまい。キールには、いずれ皇帝となったデイビッドを支えてもらう考えもあるからな。バルディア領での『教育』とやらは見聞を広める良い機会となろう」

「そうですね。それにキールは本が大好き過ぎて、少し部屋に籠もりがちです。体を鍛える機会にもなるでしょう」

「うむ。マチルダの言うとおりだな。多少の無茶は許可する。ライナー、リッド。二人でびしばし鍛えてやってくれ」

アーウィン陛下はそう言うと、豪快に笑い出した。

「畏まりました。では、義兄として遠慮無くやらせていただきます」

微笑みを崩さないまま、頭を下げる。

無論、内心では『言質を取った』とほくそ笑んでいた。

メルの夫となる者に半端者は許されない。

いや、許されるはずがない。

最低でも僕同等、もしくはそれ以上の才覚を発揮してもらう必要があるからだ。

そして、忘れてならない懸念事項がある。

「それから、一点だけこの婚約についてお願いがあります」

顔を上げて真剣な表情で両陛下を見つめると、アーウィン陛下が首を傾げた。

「なんだ。申してみよ」

「私の妹であるメルディとキール殿下の婚約は、あくまで仮決定としていただけないでしょうか。両者に好きな者ができた時や不慮の事態に備え、いざとなれば解消できる余地を残していただきたいのです」

僕の提案を聞いた父上と両陛下は目を丸くしたけど、これは譲れない。

キールは『ときレラ』に出てきた登場人物であり、攻略対象だ。

今後、マローネの魅力に取り憑かれて我を失う可能性だってある。

そうならないため、彼に僕同等の訓練を受けてもらって心身を徹底的に鍛えるつもりだ。

でも、エルバの一件からもわかるように、この世界は『ときレラ』の流れに沿ってただ進んでいるわけじゃない。

常に未来は変化しており、何が起こりえるのか。

将来のことなんて、どうなるかわからない。

出来る限りの対策と逃げ道は講じておくべきだ。

「……なるほど。それは意外と良い考えかもしれんな」

部屋が静寂に包まれるなか、思案顔の父上が口火を切った。