軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

帝都の朝

「うん……?」

何やら屋敷の外が騒がしくて、ふと目が覚める。

窓に目を向ければ、窓掛けの隙間から朝日が差し込んでいた。

僕は目を擦りながらベッドから起き上がると、外からかすかに聞こえる物音の正体を確かめるべく、窓掛けの隙間から外を静かに覗く。

「……何、あれ」

僕の目に入った光景は、バルディア邸の門前にできた人集りである。

遠目から見える出で立ちから察するに、一般市民や商人がほとんどだ。

でも、よく見れば屋敷の外には貴族が乗るような馬車も止まっている。

見る限り、門前の人集りは門番や騎士達と会話しながらバルディア邸の様子を窺っているらしい。

狭間砦の戦いの件で父上に取材したいとかかな? そう思った時、ふいに人集りの中にいる人と目が合った。

「あ……⁉ あれ、リッド様じゃないか⁉」

「なに、どこだ⁉」

「あの窓のところ」

「おぉ⁉ 本当だ」

「静まらんか、お前達。ここを通すわけにはいかんのだぞ!」

僕の存在に気付いたことを切っ掛けに、人集りが一気に興奮して喧騒が起きる。

門番達が必死に押さえるけど、彼等の興奮は収まらない。

騒ぎを聞きつけたらしい騎士達が、門に向かって走って行くのが見えた。

「何なんだろう、あの人達」

窓から離れて困惑していると、部屋の扉が叩かれた。

「リッド様、失礼いたします」

返事をして間もなく、入室してきたのはメイド姿をした鼠人族のシルビアだ。

彼女は足早にやってくると、窓掛けを手早く閉めてしまった。

「安易に顔を外に見せては駄目ですよ。リッド様は、帝都で今や時の人なんですから」

「え……ど、どういうこと?」

「こちらをどうぞご覧下さい」

首を傾げる僕に、シルビアは報道紙を差し出した。

「何これ?」

意図がわからないままに受け取るが、記事の内容に目を通して目を瞬いた。

『狐人族の部族長ガレス・グランドーク率いる六万の軍勢が帝国のバルディア領が管理する狭間砦へ侵攻。

しかし、帝国の剣ことライナー・バルディア辺境伯が約九千の軍勢でこれを撃退。

また、この戦ではズベーラ王国で次期獣王と名高かったエルバ・グランドークも敵将として参戦していたが、ライナー辺境伯のご子息であるリッド・バルディア氏の活躍によって彼を敗走させることに成功。

以前より、リッド氏は常識にとらわれない発想に加え、大人顔負けの言動を行う型破りなご子息として有名だったという。

一部の貴族の間では、型破りな神童と密かに呼ばれていたそうだ。

しかし、それだけに止まらず、狭間砦の戦いでは戦局を左右する戦いにも身を投じる勇気を発揮。

最早、リッド氏は型破りな風雲児と言って差し支えないだろう。

帝国の剣、ライナー・バルディア辺境伯。

型破りな風雲児、リッド・バルディア氏。

この二人が居る限り、帝国の東側は安泰と言って差し支えないだろう』

記事の最後には、僕と父上が鎧を纏って帯剣した凜々しすぎる姿絵まで描いてあった。

しかも、絵はまるで見たことがあるように細部までかなり再現されている。

唖然としていると、シルビアが笑みを溢した。

「こちらの報道紙は狭間砦の戦いにバルディア家が勝利した翌日以降、次々と発行されて帝都中に配られた物の一部なんです」

「え……⁉」

彼女の言葉で全てを察する。この記事を書いたのは、エマだ。

狭間砦の戦いの時、バルディアが勝利した場合の動きについても彼女とは事前に打ち合わせをしていた。

当時、クリスがグランドーク家で捕らわれの身となっていたため、クリスティ商会の全権を任されていたのはエマだったからだ。

以前、グランドーク家と結びついているであろう勢力によって『帝国世論』を誘導され、バルディア家は帝国内で不審がられて孤立し、後手に回った経緯がある。

僕は同じ轍を踏まないため、そして今度はこちらが先手を取るため、同様の手法を用いて意趣返しをしたのだ。

効果は絶大であり、戦争への不安を抱えていた貴族と市民達は一気にバルディア友好へと世論は傾いた。

今後、バルディア家の行いが帝国に害するというような考えや世論は生まれにくいはずだ。

狭間砦の戦いが終わり、エマが帝都で配ったという号外にも目は通していた。

問題は、この記事について把握していないことである。

でも、『型破りな風雲児』とか、どうしてここまで誇張したような記事になっているんだろうか。

よくよく考えれば、やり方がエマらしくない感じがする。

彼女であれば、こんな記事を追加で発表する場合、必ず確認を取ってくるはずだ。

「一体、何がどうなって……ん?」

よく見れば、記事の一番下に『発行元・サフロン商会』と書いてあることに気が付いた。

「ねぇ、シルビア。帝都に配られた号外ってさ。クリスティ商会以外も発行していたのかな?」

「そうですね。クリスティ商会が号外を発表した後、他の商会も追うように様々な号外を発表していました。その中でも、クリスティ商会とサフロン商会が大人気だったんです」

「あぁ、そういうことか」

合点がいった。

おそらく、エマが情報拡散に協力を仰いだサフロン商会の独断によるものだろう。

事実を告げることを重視したエマの記事とは違い、サフロン商会が発行したこの記事はバルディア家を持ち上げる内容を重視している。

事実を告げる内容と事実を誇張した内容の号外を同時にばら撒くことで、記事の信憑性をより増すことが狙いだったのかもしれない。

何にしても、外の人集りが記者や野次馬であることに加え、彼等が集まった原因は理解できた。

でも、まだ気になることがある。

「外にいる彼等は、どうやって僕や父上が屋敷にいることを知ったんだろう」

「そんなの決まっているじゃありませんか」

「え?」

呆気に取られると、シルビアは腰に片手を当てながらドヤ顔を浮かべた。

「あの人達、数日前からバルディア邸の辺りをうろついていましたからね。きっと昨日の夜、木炭車が到着したのを見てライナー様とリッド様が帝都に来たと察したんだと思います」

「あ、なるほど」

木炭車の一般販売はまだされていないから、バルディア縁であることは一目でわかる。

昨日の夜に到着したのは、この騒ぎを父上が懸念していたからかもしれないな。

「恐れながら、リッド様。そろそろ、帝城に出向く準備をした方がよろしいかと存じます」

「あ、そうだね」

寝間着から着替えようとするが、シルビアは部屋から出て行く様子はない。

むしろ、こちらに熱視線を送っているような気がした。

「えっと、どうしたの?」

「リッド様の着替えを手伝うよう言いつけられているだけでございます。どうか、私の事は気にしないでください」

「いや、気になるよ」

僕はため息を吐くと、何故か残念がるシルビアを部屋から追い出した。