軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルバ・グランドークの問い掛け

「飽きた……だと? どういうつもりだ」

訝しんで凄むが、奴は嫌な笑みを溢して口元を歪めている。

「お前達の『時間稼ぎ』に付き合うつもりはない……そういう意味だよ、リッド・バルディア」

エルバはそう言って、ガレスの部隊がいる方角を一瞥した。

身長の低い僕では部隊までは目視できないけど、遠巻きに土煙は見える。

「お前が此処にいるのに、ライナーが出てこない……となればだ。今頃、ガレスの部隊を相手にしているのだろう?」

「仮にそうだとして、どうする? 僕達がお前をガレスの救援にむざむざと行かせると思うのかい」

奴の不敵な笑みと視線を向けられ、背中に戦慄が走る。

だけど、決して引くことはできない。

魔刀を正眼に構えて、一歩を踏み出し、真っ直ぐにエルバを見据えた。

「……お前に面白いことをいくつか教えてやろう」

奴は戦斧の切先をこちらに向けた。

「ガレスのことだがな。あいつは俺にとって、隠れ蓑にしている『駒』の一つに過ぎん。いずれ、部族長の座から降りてもらうつもりだったのだ。いや、むしろライナーに討伐された方が、今後は『部族長を討ち取られた』という大義名分ができて好都合かもしれんなぁ」

「……ガレスは、仮にもお前の父親だろう。肉親すら、リック達と同じ『捨て駒』扱いにするつもりか」

「血の繋がりなど、俺にとっては意味などない。使えるか、使えないかだ」

エルバは鼻を鳴らすと、「そして……」と話頭を転じた。

「ラファを引き込んだつもりだろうがな。あいつには、俺から予め伝えておいたことがある」

「なんのことだ?」

素知らぬ顔で聞き返すと、奴はさも楽しそうに口元を歪めた。

「わかっているだろう? 圧倒的な兵力差のあるこの戦。お前達が勝つためには、何かしらの奇策を用いるしかない。そう考えれば、アモンが親しかった『ラファ』を調略する可能性は少なからずあった。だからな……俺はあいつに伝えておいたのさ。奴らから何か持ちかけられた時は、『上手に引き受けろ』……とな」

「それで……何が言いたい?」

「つまりだ。お前達は俺やガレスを奇襲したつもりだろうが、実際は違う。お前達は、おびき出されたに過ぎんのだ」

エルバはそう言うと、おどけた様子で肩を竦めた。

「まぁ、ラファからどんな動きをするかの報告はなかったが、あいつがマルバスに陣頭指揮をさせるべきと言い出した時点で、お前達が接触を図ったことは察したがな」

奴は大声で笑い始め、やがて満足したのか。

再び、僕達を見やった。

「所詮、お前達は、俺の掌の上で踊らされていたに過ぎんのだ」

「だったらどうした」

魔刀を構えたまま凄みながら聞き返すと、奴は「うん?」と首を傾げた。

「エルバ、最初に言っただろう。能書きはもういいんだよ。仮に掌の上だったとしても、僕達がお前を倒すべく、剣を突き立てているのが事実だ。敵の大将の前に敵兵がいるなんて、戦略的に見れば大失態。策士策に溺れる……とは良く言ったものさ」

僕がそう言うと、クロスが「ふふ……」と噴き出した。

「リッド様の言うとおりです。いくら大軍を率いても、大将の目の前に敵兵がいるなんて大失態でしょう」

彼の言葉にカペラは納得顔で頷き、ディアナは呆れ顔で首を横に振った。

「えぇ、全くです。もし、一将兵であれば処罰は免れないでしょう」

「掌で踊らせていた当人まで、調子に乗って踊っていたのでは世話もありませんね」

言動に釣られたらしく、オヴェリアやカルア達、クッキーまでもが肩を震わせている。

「エルバ。何をどう言おうが、お前を倒すために僕達は此処やってきた。そして今、最も重要なのは、僕達がお前の前に立っているということだろ?」

「……屁理屈こねやがって。口の減らねぇ野郎だ」

エルバは青筋を走らせると、戦斧をゆっくり肩に担いで体を捻っていく。

「俺を倒すと口では言いながら、やってることが時間稼ぎに後退とは笑わせやがる。それと、もう一つ言っておく。さっきからこそこそと……俺が気付いてねぇと思っていたのか?」

「……⁉」

瞬間、奴から凄まじい魔力を感じた。

「魔法に頼る雑魚共が……小賢しい道具なぞ使ってんじゃねぇ!」

「皆、真正面に魔障壁を全開で張るんだ!」

咄嗟に叫んだ直後、奴のどす黒い魔力がゆらめいて戦斧の先端に集まっていくのが見えた。

「塵も残さず消え去るか。命を賭して雑魚を守るのか。どちらか選べ。リッド・バルディア!」

エルバが溜めた力を解放して戦斧を振るい、その切先から放たれたどす黒い炎のような球体状の雷を纏った巨大な魔力弾は、大地をえぐりながらこちらに迫ってくる。

あの一撃は、皆の魔障壁だけじゃ到底防ぎ切れない。

何とかして、威力を弱めないと駄目だ。

咄嗟に前へ躍り出ると、瞬時に魔力を溜めた。

「螺旋槍!」

発動した魔槍は螺旋を描きながら、エルバの放った黒炎の球体とぶつかり、辺りに魔力波と衝撃波。

風が荒れ狂い、土煙が渦を巻いて空を舞う。

「僕の後ろに下がれぇ!」

皆の心配する声が聞こえる。

だけど、答える余裕はない。

螺旋槍・烈火の時とは比にならないほど、強い力が僕の全身に掛かってくる。

気を抜けば、吹き飛ばされてしまう。

必死に踏ん張るけど、地面が削れて少しずつ足が下がっていく。

でも、ここで押し負ければ、僕の背後にいる皆や騎士達が、多大な被害を負ってしまう。

「ほう……思ったより頑張るじゃないか。じゃあ、褒美をやらないとな」

奴の声が聞こえると、押される力が急激に強くなる。

歯を食いしばり、全身に力を込め、さらに魔力を絞り出すが、魔力弾はどんどんこちらに迫ってくる。

「ぐ……あぁあああ⁉」

魔力弾が目と鼻の先に迫った時、僕は残った力を振り絞って無理矢理、身体属性強化・烈火の出力を上げた。

全身に電流が走ったような痛み、きしみ、ぶちぶちと嫌な音が体の中から聞こえてくる。

直後、エルバの魔力弾が爆発した。

「リッド様!」

僕の名を呼ぶ声と共に、魔障壁を張るクロスとカペラの背中が見えた。

返事をしようとするが、力が入らずに前のめりで倒れ込むと「リッド様。ご無事ですか」と優しい腕の中に包まれる。

「ディアナ……ありがとう」

「とんでもないことでございます。皆を守ってくださり、ありがとうございました」

彼女の目から溢れた涙が頬を伝って、僕の頬に落ちていく。

良かった。とりあえず、皆を守れたみたいだ。

その時、嫌な気配を身近に感じてハッとする。

「奴が……すぐそこにいる」

「え……?」

「な……⁉」

「お前達は邪魔だ」

直後、爆煙の中からぬっと大きな影が現れてカペラとクロスを吹き飛ばした。

「おいおい。あれだけの啖呵を切っておいて、その姿はないだろう。リッド・バルディア」

「ぐ……⁉」

不敵な笑みを浮かべて現れたエルバを睨み、必死に起き上がろうとする。

だけど、全身から悲鳴が聞こえるばかりで、立ち上がることもままならない。

「貴方の相手は私です!」

「駄目だ、ディアナ。僕の事は良いから引くんだ!」

「気の強い女は嫌いじゃないがな。お前如きでは、俺には勝てんよ」

「やってみなければ、わかりません」

彼女は剣技を次々と繰り出すが、エルバは悠々と躱すと剣を弾き飛ばしてしまう。

そして、ディアナの首元を左手で掴んで持ち上げた。

「ぐ……は、離しなさい」

「所詮、人族ではこの程度か」

つまらなそうに呟くと、エルバは視線をこちらに向ける。

「リッド・バルディア、お前の従者が苦しんでるぞ。いつまで、寝ているつもりだ」

「く……!」

必死に起きようとするが、体が言うことを聞かない。

するとその時、まだ漂っている爆煙の中から小さな影が次々とエルバに飛びかかっていった。

「姐さんを離しやがれ!」

「オヴェリア! 皆!」

彼女を筆頭にクッキーと獣人族の皆が、ディアナを救うべくエルバに次々に飛びかかっていく。

でも、奴は片手だけで皆を返り討ちにしていった。

加勢したいけど、体が動かない。

見せつけるように、エルバは笑いながら僕の目の前でオヴェリア達とクッキーを嬲っていく。

やがて、皆も動けなってしまった。

「み、皆……」

「ふん。つまらんな」

鼻を鳴らす奴の左手には首元を捕まれたディアナおり、右足の下ではオヴェリアが踏みつけられている。

「二人を……離せ!」

必死に凄むが、エルバはむしろ楽しそうに口元を歪めた。

「いいぞ、その顔だ。ならば聞こう、リッド・バルディア。こいつらの命が惜しければ、俺の部下になれ」