軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『戦う』ということ

「そうか。君達、良くやってくれた。感謝する」

「うん。これは、値千金の情報だよ。皆、本当にありがとう」

父上に続きお礼を伝えると、彼女達は顔を見合わせてはにかみながら顔を伏せた。

そして、代表するようにサリアが一歩前に出て顔をあげる。

「い、いえ。とんでもないことです。それに、私達はただ高いところからリッド様から支給された『双眼鏡』で敵を見ていただけですから……そんなに大したことはしておりません」

「いや……」と呟き父上はふっと目を細めた。

「これは君達しかやり得なかったことだ。謙遜せずに胸を張りなさい」

「……⁉ は、はい。お褒めの言葉、有り難き幸せ……です」

ハッとして目を見開いたサリアは、嬉しそうに会釈してから元の立ち位置に戻った。

父上は、咳払いをして話頭を転じる。

「それで、クロス。お前達が戦った敵兵士達の様子はどうだった? 洗練された兵士だったのか。それとも、熟練の低い単なる民兵だったのか」

「はい。城壁前に横並びで展開している総勢およそ一万五千の兵力は、数だけ集めた熟練度の低い民兵と思われます。民兵を指揮する戦士は、さすがに士官のようですが実戦経験は少ない印象を受けました。ただ、前戦の奥に陣地を取っている兵力とは対峙していないので、そちらの兵士の質は不明です」

「なるほど……」

相槌を打った父上は、視線を変える。

「アモン殿、貴殿からその点の情報を伺いたい。グランドーク家の軍はどのような構成になっているのか」

「はい。私が知っている事は、全てお話しさせていただきます」

彼はそう言うと、地図の凸駒を差しながら説明を始めた。

曰く、狭間砦の城壁の前で横並びに展開している三部隊はクロスの見立て通り、主に農民を徴兵した民兵部隊。

本格的な作戦を始める前に、狭間砦の戦力、兵の練度を確かめるための先兵としての役割を持っている可能性が高いと言う。

グランドーク家の本隊は、民兵部隊の背後で縦に並んでいる四つの部隊であり、おそらく前線に近い順にマルバス隊、ラファ隊、エルバ隊、総大将のガレス隊となっているだろうとのこと。

また、この四隊は練度の高い軍人で構成されている可能性が高く、最前線の先兵、総力一万五千と目される民兵より、確実に強力な軍隊であることは想像に難くない。

アモンは、その後もグランドーク家の歩兵、弓兵、魔法兵と言った構成を教えてくれた。

強力無比な大軍ではあるが、狐人族の状況からそこまで『兵糧』があるとは思えない。

故に、籠城も一つの選択肢だと……彼は最後に付け加えた。

「それは、無理だ」

「……何故でしょうか?」

父上に『籠城』を否定され、アモンが首を傾げる。

「籠城で勝つ方法は二つ。一つ目は、敵の攻撃を援軍が来るまで耐え忍び、態勢を整えてから攻勢に転じ、これを打ち破る。二つ目は、敵の攻撃を耐え忍び、敵が攻略を諦めるのを待つ。以上だ」

そう言うと、父上はより厳しい表情を浮かべ「しかし……」と続けた。

「帝都に要請しているが、援軍がここに来るまでに最低でも七日以上はかかるだろう。敵の兵力を考えれば、それまで狭間砦が耐え忍ぶのことは不可能だ。当然、相手が攻略を諦めるまで、耐え忍ぶことも難しいだろう」

場に重い空気が流れる。

だけど、父上は口元を緩めて不敵に笑った。

「故に我が息子、リッドが考えた『奇策』を用いる」

「奇策……ですか?」

クロスが聞き返すと、騎士達の視線が僕に注がれる。

アモンと父上のやり取りは、これから話す『奇策』の説得力を増すため、事前に決めていたお膳立てだ。

絶望的な状況を共有した上で、『奇策』を提示すれば、皆は『これしかない』と思い込む。

それは、勝つために必要な士気を上げることに繋がっていくだろう。

根性論や精神論では、戦争には勝てない。

でも、勝つためには『人の強い意志』が必要なことも事実なんだ。

僕は深呼吸して、この場にいる皆を見渡した。

「では、説明させていただきます」

僕は、『奇策』を机上の地図上にある自軍を現す青の凸駒と、敵軍を現す赤の凸駒を用いて伝えていく。

父上は、僕が考えたと言ったけど、実際は少し違う。

確かに、原案を考えたの僕だけど、父上を含めた実戦経験豊富な皆が細部を詰めて、より確実性のある『奇策』まで練り上げたのだ。

そして、策がある程度まとまった時、父上は言った。

『リッド。これは、全てお前が考えた『奇策』とする』

『え、どうしてですか?』

『これだけの『奇策』を考え付く神童が味方にいる……その事実は、騎士達の希望となり、勇気を与えるだろう。これも、一つの戦略だ。良いな?』

『は、はい。畏まりました』

そうして、この『奇策』はそのほとんどが僕一人で考えたことになったのだ。

冷静に考えれば、ここまで実戦で使える奇策を僕のような子供が考えられるなんて思わないだろう。

でも、騎士達は僕が奇策を立案したということを疑う様子はない。

むしろ、真剣に耳を傾けていた。

「……という内容です。後は、現状の戦況と現地にいる皆さんの意見を加味して、最終調整を考えております。気になることがあれば、何でも仰ってください」

話し終えてこの場にいる騎士達を見回すと、彼等は一様に唖然としていた。

えっと、これはどういう反応なんだろう?

困惑していると、クロスが「ふふ」と吹き出した。

「まさか、これ程の策を短期間で考え付いていらっしゃるとは、想像もしておりませんでした。さすが、リッド様は『型破りの神童』。その名に恥じない『奇策』でございます」

「そ、そうかな? 意外と誰でも考え付くと思うんだけど……」

照れ隠して頬を掻くと、騎士達から笑みが溢れる。

重い空気が、期待高まる空気に転じた瞬間だ。

その時、父上が咳払いをして耳目を集める。

「皆、聞いての通りだ。今回の戦は、この『奇策』が成功するかどうかで全てが決まるだろう。機会は一度きり、覚悟して望んでくれ」

父上はそう言うと、こちらに視線を向けた。

「リッド。立案者のお前から、皆に伝えたい事があればこの場で伝えておけ」

「は、はい。そう……ですね」

僕は考えを巡らせてから、おもむろに口火を切る。

「大軍を前に戦いを諦め、敵に屈服すれば、我が領地バルディアが亡びの憂き目にあうということです。大軍と戦うのも、また領地が亡ぶかもしれません」

この場に居る皆は固唾を呑み、僕の言葉に耳を傾けている。

「……戦わないなら領地が亡び、戦ったとしても領地が亡びる。でも、戦わずに亡びれば、バルディアに住む人の身と心は永遠に故郷を失うでしょう」

言わんとしていることを察してくれたのか、騎士達の瞳に今まで以上の強い光が宿っていく。

僕は淡々と、でも力強く言葉を続ける。

「もし戦い、護郷の精神に徹するなら、万が一僕達が勝てずとも、故郷を護り戦ったという誇りと精神が残ります。そして、その誇りと精神は魂となり、生き残った者達の心に永遠の灯を宿し、バルディアはいずれ再興するでしょう。故にこの戦は、断固戦い抜かなければなりません。ですが、僕達は必ず勝ちます。この戦に勝ち、皆で凱旋を果たしましょう」

口上を終えると、室内に静寂が訪れた。

だけど、騎士達の瞳には強い決意の色が宿っている。

「……私には、目に入れても痛くない妻と娘がいます」

クロスがゆっくりと切り出した。

「もし、この戦で命を落としたとしても、リッド様の言う通り、私の誇りと精神は魂となって家族の心に永遠に残ることでしょう。従いまして、何も恐れることはありません」

彼が白い歯を見せると、他の騎士達も「私もです」、「恐れることはありません」と続く。

やがて、再びクロスが畏まった。

「バルディア家に仕える騎士として、むしろこのような戦に巡り会えた事こそ本分。身命を賭して、この策を成功に導いてみせます」

彼が一礼すると、他の騎士達も同様に頭を下げる。

「うむ。よろしく頼むぞ」

「……皆、ありがとう」

父上と僕が答えると、彼等は顔上げて清々しくニコリと笑う。

その後、『奇策』を成功させるべく、この場にいる騎士達と共に最後の調整を行うのであった。