作品タイトル不明
新屋敷の攻防
「父上、僕はアモンと一緒に新屋敷に向かいます。戦士達の中には、彼の言葉にまだ耳を傾けるものがいるかもしれません」
狐人族の戦士達は、エルバに人質を取られて非道な手段に従っているに過ぎない。
厳しいかもしれないけど、アモンが上手く説得できれば、無駄な血を流さずに済む可能性は少なからずあるはずだ。
これ以上、奴の……エルバの好きにさせるものか。
「良かろう。お前達、馬を使え。ディアナ、カペラ。頼むぞ」
「承知しました」
二人が父上の言葉に畏まる中、アモンはゆっくり立ち上がる。
「リッド殿。ありがとう」
「気にしなくて良いさ。それに、お礼は事態が落ち着いてからで良いよ」
「……そうだね」
決まり悪そうな顔を浮かべてアモンが目を伏せると、目を潤ませたシトリーが駆け寄った。
「兄様……」
はっとした彼は、安心させるように目を細めると彼女の頭を優しく撫でる。
「君は此処で大人しく、バルディア家の皆さんの言うことを聞いて良い子で待っているんだよ? 大丈夫、兄様は必ず帰って来るよ」
「うん」
彼女の返事を合図に、僕達は貴賓室だった場所から移動を開始する。
部屋を出て本屋敷の玄関に向かう途中、あちこちから爆音と剣戟が混じった喧騒が響いてきた。
やっぱり、門外にいた戦士達が敷地内に入り込んできていたのだろう。
「リッド様。お待ちしておりました」
玄関に辿り着くと、意外な人物が立っていた。
「ガルン! どうしたの?」
慌てて駆け寄ると彼は畏まる。
「リッド様が、新屋敷に向かうと思いまして、馬を数頭用意しておきました」
「え⁉ あ、ありがとう……というか、これガルンがやったの?」
手配の速さにも驚いたけど、彼の背後には狐人族の戦士が数名倒れていた。
「えぇ、彼等のことはダイナス殿、ルーベンス殿に伺っております。決死の覚悟で自爆を仕掛けてくると伺いましたので、取りあえず気絶してもらいました」
目尻を下げるガルンをよく見ると、普段はビシッと整っている服に少し乱れがある。
でも、逆に言えばそれだけだ。
それにしても、獣化できる戦士達を彼は一人で相手にしたのか。
以前から、ガルンはただ者ではないと思っていたけど、やっぱり元凄腕の騎士とか冒険者かもしれない。
「おっと、これは失礼しました」
視線に気付いたのか、彼は服の乱れを手早く直した。
「……お気遣い、ありがとうございます」
床に倒れている戦士達を見たアモンは、どこかほっとしている。
戦士達が自爆する前に気絶したことに安堵しているんだろうな。
「リッド様。新屋敷に参りましょう」
「あ、そうだね」
ディアナの言葉に頷くと、僕は再びガルンに振り向いた。
「馬の手配ありがとう。それと、父上がガルンに状況を引き継ぐと言っていたから、貴賓室に行ってみて。多分、まだ近くに居ると思う」
「畏まりました。皆様もお気を付けください」
馬に僕はディアナと、アモンはカペラと一緒に乗り、新屋敷に急いだ。
「見えてきた」
本屋敷から馬で移動して程なく、新屋敷が視界に入ってきた。
だけど、同時に魔法と思われる光、爆音、剣戟のような喧騒が微かに聞こえてくる。
「急ぎます」
「うん、お願い」
ディアナにも、魔法の光が見えたのだろう。
彼女は足で馬の腹を叩き、走る速度をさらに上げた。
カペラとアモンも、遅れずに追走してきている。
新屋敷の敷地内に入ると、はっきりとした魔法の光と剣戟による喧騒が聞こえた。
「あっちだ!」
喧騒の発生源に到着すると、獣化した戦士達に囲まれた騎士団員達とダークエルフ達の姿が目に入った。
団員達の中心には、遠巻きにレナルーテ様式の服装をした少女がいる。
どうして、ファラが前線に出ているんだ⁉
僕は、自分の目を疑った。
でも、何だか敵対する戦士達の方が戦いているというか……困惑しているような気がする。
何か違和感を覚えたその時、ファラが口元を不敵に緩めた。
「聞け、不届き者よ! リッド様との愛の巣に、よくも土足で踏み込んでくれたな。罪深い……その罪は、断じて罪深い。従って直々にこの私、『ファラ・バルディア』が鉄槌を与えやろう。さぁ、掛かってこい」
右手に打ち刀、左手に脇差しを持ち、紺色の髪を靡かせる赤い瞳の彼女は、戦士達を一喝する。
辺りをよく見ると、狐人族の戦士達がざっと十名近くが倒れていた。
「姫様。油断は禁物。彼等の目の奥には、並々ならぬ覚悟が宿っております。あまり、前に出てはなりませぬぞ」
彼女を諫めたのは、左手に打ち刀、右手に『魔布』を発動しているカーティスだ。
彼の孫であるシュタインとレイモンドも、打ち刀を正眼に構えて傍に控えている。
「祖父上の言うとおり……です」
「ここは、祖父上と我等に任せて、お控えください。ア……ファラ様」
何故か、二人は不満げに口を尖らせているが、『ファラ』はニヤニヤと楽しそうに笑っている。
「うむ。では、『お前達』に任せたぞ。私を守って見せろ。ランマーク家の名に賭けてな」
ファラが檄を飛ばすが、シュタインとレイモンドは眉をピクリとさせ眉間に皺を寄せている。
あの様子だと、舌打ちもしてそうだなぁ。
二刀流のファラの前にはカーティスが立ち、後をシュタインとレイモンドの二人が固め、空いている場所は第二騎士団の分隊長達が獣化しつつ、補助に徹しているようだ。
「な、なんだ。なんなんだ⁉ 事前情報では、ダークエルフや子供の騎士達がこんなに強いなんて聞いてない……ぐあぁああ⁉」
「立ち会いの最中、狼狽とは頂けんな。隙だらけだ」
カーティスが魔布で勢いよく鞭打した戦士は、僕の足下まで吹っ飛ばされ「がは……」と呻き声を漏らして気絶した。
「す、凄い。僕の支持者の中でも、彼等は選りすぐりの戦士達なのに……」
端から見ても圧倒的な様子に、アモンが目を丸くしている。
いや、カーティス達が強いの知っていたけど、ここまで圧倒しているとは思わなかった。
「あはは……カーティス達は、レナルーテでも有数の武家一族だから特別……かな」
誤魔化すように頬を掻いたその時、僕の存在に気付いたらしい『ファラ』が目を細め、脇差しを持ったままこちらに手を振った。
「おぉ、そこにいるのは愛しの君。リッド様ではありませぬか!」
ちょっと……いや、かなりわざとらしい言い方だ。
ぎょっとして、戦士達がこちらに目を注ぐ。
ここは、彼女達の作戦に乗って答えねばなるまい。
皆の注目を浴びる中、覚悟を決めて微笑んだ。
「あぁ、僕の愛しい人。最愛の妻、ファラ。君を助けに参上したよ」