軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

狡猾な戦略

グランドーク家が情報誌で公表した内容は、意図的な誤情報。前世で言うところの『フェイクニュース』に近い。

『決裂』は事実だが、そこまでに至る経緯についての具体的な記事はなく、都合の良い主張だけでまとめられていたものだ。

これらから察するに、彼等は始めから会談を決裂させる腹づもりだったのだろう。

決裂が決定しているのであれば、事前に都合の良い記事を書かせておき、会談翌日に公表することは通信機器のないこの世界も可能だ。

この情報誌の一件により、帝国内外で誤報と憶測が錯綜することなった。

厄介なのは、『会談決裂の事実』が記事の中に大きく記載されていることだ。

情報誌が公表されたのが会談翌日であること。

加えて、バルディア家の主張や会談内容に記事が一切触れていないなど、よく読み込めば、記載情報が信用ならないことはすぐに理解できるだろう。

でも、決裂という事実が組み込まれているせいで、『もしかすると、記事の内容にも少しは信憑性があるのでは?』という疑心暗鬼が生まれてしまった。

勿論、情報誌が公開された後、会談決裂をバルディア家は認めて経緯を説明したが、後の祭りである。

帝国世論は一気に『バルディア家の対応に問題あったのでは?』という方向に進んでしまったのだ。

この件で、父上は帝都に呼び出され、火消しに動き回っている。

だけれど、事態はこれだけでは終わらなかった。

父上が帝都に出向いた同時期に、バルディア家が管理する国境地点にある狭間砦。

そのすぐ正面で、グランドーク家が軍事演習と称して軍を配備したのである。

知らせを受けた僕は、帝都に同行させた鼠人族三姉妹の次女であるシルビア。

彼女に通信魔法で連絡を取り、父上と対応を協議した。

結果、第一騎士団精鋭の一部を、副団長のクロスに率いてもらい狭間砦に出向と待機を指示。

その際、通信魔法が使用可能な鳥人族のサリアと、彼女が率いる第四飛行小隊を同行させる。

当初は、僕が出るつもりだったんだけど、「それが狙いの可能性もある」と父上に止められた。

現地に到着したサリアを交いしたクロスの通信によると、グランドーク家は挑発行動に止まっているという報告を受ける。

軍事衝突は起きていないという事実に、ほっとして胸をなで下ろす。

でも、沸き上がる怒りと共に、抗議書をグランドーク家と獣人国ズベーラに送りつけた。

後日。

グランドーク家から帰ってきた答えは、『他国の行いに口出し無用』というもの。

これは予想の範囲内だったけれど、驚いたのは獣王セクメトスからの返答だ。

『グランドーク家とバルディア家の関係は、獣王国ズベーラの関知するところではない。両家が両国のために親密であるよう願うばかりである』

獣王は、この一件を素知らぬふりをして、高みの見物を決めたということだろう。

獣人族はどいつもこいつも食えない奴らばかりだなぁ、とさすがに呆れてしまった。

通信魔法で帝都にいる父上に、シルビアを介してそのことを報告すると、「あ、いま、ライナー様が深いため息を吐きました。以上」という彼女の声が返ってきて思わず吹き出してしまった。

父上曰く、帝都は帝都で、かなり厄介なことになっているらしい。

実は、ここ最近・・・・・・というより、僕が前世の記憶を取り戻してから現在に至るまでに、バルディア家の存在感が帝国内で大きくなっている。

主な原因は、皇后陛下に献上した化粧水やリンスから始まり、木炭車、懐中時計と上げればきりが無い。

まぁ、将来の断罪回避に向けた動きが着実に成功しているという証拠だろう。

しかし、そのことに不満を抱いていた帝国貴族達が、ここぞとばかりに『会談決裂』の件で父上を槍玉にあげているそうだ。

普段であれば皇帝、保守派、革新派のいずれかが仲裁に入る。

でも、今回は違った。

会談翌日に公表された情報誌によって引き起こされた『世論の後押し』に加え、どの派閥にもバルディア家の台頭をよく思っていない帝国貴族達がいたのだ。

バルディア家に対する風当たりが強くなり、事実上孤立してしまう。

そんな時、ベルルッティ侯爵が不満を抱える帝国貴族達をまとめ上げたらしい。

「まぁ、こうなった以上。万が一のことが起きた時は、バルディア家とグランドーク家の両家で解決していただき、この件に帝国は関与しない。というのがよろしいのではありませんか? 以前、ライナー殿もそう仰っていましたからね。勿論、万が一のことが起きるとは、夢にも思っておりませんが」

皇帝やバルディア家を懇意にする貴族達は、この提言に難色を示す。

だけど、ベルルッティ侯爵に同意する貴族達と世論に押し負ける流れで、皇帝と父上達はこの提言に同意せざるを得なかったらしい。

「・・・・・・以上が、帝都での状況だ。他にも色々と混乱していてな。まだ暫くこちらにいることになりそうだ。とのことです。以上」

父上の言い方を真似したシルビアの声が通信魔法の受信機から聞こえてくる。

ちょっと面白い。

くすりと笑ったその時、「あ、まだあるそうです」と彼女の声が再び受信機から響いた。

「決裂した事実を情報誌に掲載して翌日に公表。そして、帝国の世論を誘導して当家を孤立させる。この動き、とてもグランドーク家だけで行ったとは思えん。まるで、老獪な帝国貴族を彷彿させる狡猾な手腕だ。私は火消しと合わせて、その辺りも調べてみる。お前は、バルディア領のことを頼んだぞ。だそうです。以上」

「畏まりました。父上も気をつけてください。以上」

その日以降、僕と父上は定期的に通信魔法で連絡を取り合っている。

ちなみに、バルディア領と帝都に距離あるせいか、通信状態はそんなに良くない。

通信魔法に使用する魔力量を多くすれば、大分良くはなるけれどね。

でも、僕はともかく、シルビアがそれをするとヘトヘトになってしまい、緊急の通信に支障が出てしまう。

彼女が帰ってきたら、通信魔法が使える子達の体力ならぬ、魔力量鍛錬を強化するべきかもしれない。

「リッド様。お考えのところ申し訳ありません。そろそろ、お時間かと」

「え? あ、もうそんな時間なんだね」

カペラの声で我に返ると、席を立って腕を上に掲げて「うー・・・・・・ん」体を伸ばした。

「ファラも行けそうかな?」

「はい。この書類で今日の分は終わりになります」

彼女は頷くと、手元にある書類に筆を滑らした。

その様子を見ながら、ふと父上の言葉を思い出す。

「・・・・・帝国に潜む獅子身中の虫か。もし、今回の黒幕がそいつらなら、必ずこの『借り』を倍にして・・・・・・いや、十倍にして返してやる」

そう呟くと、僕は帝都の方角にある窓から外を見つめるのであった。