軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドとエルバ2

「くくく。いくぞ・・・・・・!」

エルバは、掲げた右腕を振り下ろして纏わせた『黒炎』を僕に向けて撃ち放った。

轟音が鳴り響き、真っ黒で禍々しい焔がまるで光線のようにこちらに真っ直ぐ飛んでくる。

「こんなもの!」

自身を鼓舞するように叫ぶと、すぐさま『魔障壁』を残っている魔力を全て注いで展開した。

必ず、耐えきってみせる。

覚悟を決めたその時、目の前に人影が現れた。

「父上⁉」

見知った大きな背中に、思わず目を見開いた。

「リッド、良くやった」

父上は正面を向いたままに呟くと、帯剣の抜刀をして眼前迫る黒炎を斬撃によって薙ぎ払う。

その瞬間、雷鳴が轟き、暴風が吹き荒れる。

ふと気づけば、父上が普段まとめている後ろ髪がはだけていた。

以前、身体属性強化・烈火を教えてくれた時と同じ姿だ。

でも、あの時とは雰囲気は全く違う。

背中からも殺気が溢れており、怖くても優しい父上ではなかった。

「ほう。加減したとはいえ、黒炎を一刀で相殺するとはな。さすがは、帝国の剣と称されるライナー殿だ。しかし、これはどういうつもりかな?」

エルバは不敵に笑っている。

剣を静かに納刀すると、父上は殺気あふれるままに眼光を光らせた。

「貴殿が言ったことだろう。『傷一つでも付ければ、私闘の件は不問にして引き下がる』とな」

父上はそう言うと、エルバの腕を指差した。

「貴殿の両腕を見れば一目瞭然だろう。この立ち会い、リッドが放った先程の一撃で勝負は付いた」

その指摘でハッとする。

エルバが獣化している時はわからなかったけれど、確かによく見ると彼の両腕から少し血が出ていた。

「傷を負った貴殿の『負け』だ。約束通り、引いてもらうぞ。もし、約束を反故にするのであれば、私が相手になろう」

父上は帯剣の柄を握り凄むと、再びエルバを睨み付ける。

彼は自身の両腕をゆっくり見つめ、「なるほど」と頷いた。

「確かに、ライナー殿の言うとおりだ。どうやら、熱くなり過ぎたらしい。この立ち会い、リッド殿の勝ちだな」

エルバは口元を緩めると、背中を見せて歩き始めた。

「マルバス、引き上げるぞ!」

「は、はい!」と頷くマルバスを従え、エルバは楽しそうに笑いながら訓練場を後にする。

その姿を見つめながら後ろ髪を元に戻した父上は、「悪漢めらが・・・・・・」と忌ま忌ましそうに吐き捨てた。

「リッド。私は、奴らを一応の礼儀と監視を兼ね見送ってくる。お前は此処で休んでいろ」

「いえ、僕も行きます。あいつら、何をするかわかりませんから」

「そうか。だが、無理はするなよ」

その後、父上と共に彼等の後を追いかけた。

道中、彼等がまた問題行動を起こす可能性があるからだ。

馬車の前に到着すると、エルバは不敵に笑う。

「ふふ。言っただろう? 大人しく引き上げるとな。では、ライナー殿、リッド殿。いずれ、また会う機会もあるだろう。その時を楽しみにしているぞ。いくぞ、マルバス」

「それでは、失礼します」

エルバとマルバスが馬車に乗り込むと、バルディア騎士団のダイナスがこちらにやって来た。

「ライナー様。それでは、彼等を国境地点まで送り届けて参ります」

「うむ。警戒を怠るなよ」

「畏まりました」

ダイナスは、いつになく真剣な表情で頷いた。

それから程なく、エルバ達を乗せた馬車がバルディア騎士団の先導の元に出発する。

こちらに来た時は、『来賓に失礼の無いように』という畏まった雰囲気に包まれていた。

だが、今は全く違った『脅威を監視する』という緊張感がある。

僕と父上は、エルバ達が乗った馬車が遠目に見えなくなるまで、警戒を解くことはなかった。

完全に馬車が見えなくなると、父上は小さく「ふぅ・・・・・・」と息を吐いた。

「リッド、体は本当に大丈夫か?」

「はい。魔力消費はかなりありましたけど、最後は父上が守ってくれましたから」

元気よく体を動かすと、父上は表情を緩めて僕の頭の上に優しく手を置いた。

「そうか。なら、良かった。悪漢相手に頑張ったな、格好良かったぞ」

「は、はい。ありがとうございます」

急に褒められて、顔が少し熱くなった。

照れ隠しに頬を掻いていると、父上の表情が厳しくなる。

「しかし、難しい会談になるとは思っていたが、グランドーク家がここまで強硬姿勢をとるとはな」

「そうですね。全く、譲歩するつもりが無かったように思えます。あのような言動から察するに、会談の目的はバルディア家との敵対を明確にすることだったのでしょうか」

エルバ達の傍若無人な振る舞いに、改めて怒りがこみ上げてくる。

でも、同時に『敵対』の先に起こりえることが脳裏をよぎり、不安を覚えた。

「おそらくな。だが、これ以上は立ち話で語ることではない。屋敷に戻り、今後のことを練るとしよう」

「承知しました」

父上と屋敷に戻ると、パタパタと可愛らしい足跡が聞こえてくる。

その足音の主は、僕を視界に捕らえると勢いよく飛び込んできた。

「兄様!」

「おっと⁉」

両腕で抱きかかえるように彼女を受け止めると、勢いを無くすためにその場でくるりと一回転する。

「メル、どうしたの?」

「えへへ、兄様。とっても格好良かったよ」

「え?」

言葉の意味を測りかねて首を傾げていると、メルは僕から離れて父上にも抱きついた。

「勿論、父上も格好良かった」

「う、うむ?」

父上は嬉しそうに頷いているけれど、やはり言葉の意図がわからないらしい。

それから間もなく、「リッド様!」と呼び声が聞こえた。

「ファラ。それに皆も揃ってどうしたの?」

声がする方に振り向くと、そこに居たのはファラだけでない。

アスナやダナエを始めとした、屋敷の皆が集まっている。

その中、何故か心配顔のファラが一歩前に出ると、僕を抱きしめた。

「・・・・・・⁉ ど、どうしたの?」

「訓練場での立ち会い。皆で見守っておりました。ご無事で何よりでございます」

「あ・・・・・・」

彼女の言葉で全てを察した。

屋敷からは訓練場の動きが遠巻きに見える。突然、エルバとの立ち会いが行われたのだ。

会談に参加していなければ、何事かと思ったことだろう。

「ごめん。心配かけたね」

小声で謝ると、ファラは「いいえ」と首を横に振った。

「リッド様が謝ることではございません。ある程度の経緯は伺っております。これは、私の『我が儘』です」

彼女は幼くても元王族だ。

それ故、『国、領地、領民を守るため命を賭す』ことが、貴族の役割であることを理解しているのだろう。

「・・・・・・そっか。ありがとう」

彼女の背中を優しくポンポンと叩いたその時、「ゴホン!」とわざとらしい父上の咳払いが聞こえた。