軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バルディア家とグランドーク家、それぞれの思惑2

「・・・・・・エルバ殿。昂ぶるその心中、領地を治める身として理解はできる。しかし、ここは両家両国の今後に繋がる会談の場。貴殿の言葉には責任が伴う故、言動にはもう少し気を使うべきであろう」

眉間に皺を寄せて父上が凄むけれど、エルバは涼しい顔である。

「ふふ。そうか、それは失礼した。だが、送付した親書にも記載があったはずだ。我等狐人族の中に襲撃犯が潜り込んでいる・・・・・・先にあらぬ疑いをかけたのはそちらであろう。これでお互い様というわけだ」

「ほう・・・・・・」

父上が含みのある相槌を打つと、エルバは肩をすくめておどけた。

「まぁ、何にしてもだ。こちらの主張は先に述べた通りだ。従って、バルディア家で保護されている子供達は即刻全員、グランドーク家に引き渡してもらおう」

「・・・・・・失礼ながら、資料を通じて当家に落ち度がないことは先程ご説明したはず。そのような申し出、受け入れられるわけがありません」

感情を抑えながら僕が言い返すと、マルバスが渡した資料を片手にして口元を緩めた。

「それこそおかしな話です。リッド殿は、この資料で我が国の行方不明者を『保護』した、と仰いましたね」

「えぇ、そうです。それが何か?」

頷いて聞き返すと、彼はしたり顔を浮かべる。

「でしたら、行方不明だった子供達は親や親類が居る国許に送還する。それこそ、リッド殿の仰った人道的な筋というものでしょう。それが無理というなら、子供達を『奴隷』として扱っている・・・・・・そう言われてもしょうがないのではありませんか?」

「マルバス殿、我が父が言動に気をつけるように指摘されたこと・・・・・・もうお忘れですか」

「いえいえ、そのようなことはありません。ただ、事実を述べただけのことです」

「そうですか。ならば、こちらも言わせていただきます」

エルバとマルバスの悪意ある挑発に乗らぬよう冷静に、明確な怒りを持って言葉を続けていく。

「私達は、保護した獣人族の子供達の口から直接聞きました。どのようにして、故郷から奴隷として売りに出されたのか・・・・・・その全てをです」

怒気により語尾を強くなると、エルバは楽しそうに頷いた。

「それは興味深い。是非、聞かせてもらおう」

「・・・・・・彼等のほとんどは、『金』『口減らし』『役に立たない』という理由で、各部族の貧しい村から奴隷に出されたと言っています。他にも、部族長に従う豪族の指示もあったと聞きました。そのような状況で奴隷として国から見捨てられた彼等に、帰るべき故郷が貴国にあるとは思えません。だからこそ、彼等は自分達の意思でバルディアの民となったのです。従って、彼等を貴殿達に引き渡す道理はありません」

そう告げると、エルバは父上に目を向けた。

「リッド殿はこう言っているが、これについてもライナー殿は同様のお考えかな?」

「あぁ、そうだ。彼等の言葉は私も直接耳にしていることだからな。息子の言葉に嘘偽りはない」

「ふむ・・・・・・」

エルバは相槌を打ち、何やら思案するように俯いた。

少しの間をおいて「ふふふ・・・・・・」と彼は肩を震わせると、顔を上げるなり声高々に笑い始める。

「まさか、奴隷落ちした年端もいかない子供達の言うことを真に受けたというのか? ははは、これは面白い。そもそも、子供の言うことなぞ大人の指示でどうとでも変わるものだ。それを、我等に信じろとは・・・・・・片腹痛い。もう少しまともな言い訳がほしいものだ」

あまりに傍若無人な彼の言動に、いい加減に堪忍袋の緒が切れそうだ。父上とクリスも黙っているけれど、顔を顰めている。

僕は怒りをぐっとこらえると、彼を凄みながら睨みつけた。

「ここは会談の場です。今の言動はあまりにも無礼でしょう。それに、私も奴隷の彼等と年齢は変わりません。つまり、私の言葉にも真実はないと仰りたいのですか?」

言葉の揚げ足を取るようだけれど、彼の言っていることはそういうことにもなる。

だが、エルバは苦笑しながら首を横に振った。

「ふふふ、気に障ったならお詫びしよう。だが、リッド殿はバルディア家の嫡男。奴隷の子供達とは『立場』が違う故、貴殿の言葉に嘘があるとは思っておらん。それに・・・・・・」

少しの間を置いて、彼は口元をニヤリと緩めた。

「仮に子供達の言ったことが事実として、それは我等の会談に関係の無いことだ。行方不明であった獣人族の子供達を元の国に帰還させること・・・・・・その事実が両家両国の関係において重要であろう。国に帰った後の子供達に居場所があるかどうかなど、我等の知ったことではない」

「な・・・・・・⁉」と思わず、この場に居た皆が目を瞬いた。

しかし、父上だけは冷静に身を乗り出して、エルバを真っ直ぐに見据える。

「平和的な解決を望み、我等が黙って聞いていれば随分な物言いをするものだ。ならば、こちらもはっきり言ってやろう。保護した獣人族の子供達は、我等バルディア領の民だ。従って、貴殿達の申し出を受けることはできん・・・・・・これ以上の会談は無意味だろう。即刻、この場からお帰り願おうか」

「ふふふ、そうか。では、そうさせてもらおう」

「あぁ、国に帰り部族長のガレン殿に伝えるが良い。バルディア家は、領民をむざむざ渡す真似はせん。そして、お前達の言動を決して許しはせぬとな」

父上が毅然とした態度を示すが、エルバは動じることなく頷いた。

「わかった。その言葉、そっくりそのまま伝えよう。だが、一つだけ忠告しておこう。ズベーラ国内には、同胞の奴隷を救わんとする過激派が一部存在する。今後、そういった輩にバルディア領は狙われるやもしれん。せいぜい、気をつけることだな。ふふふ」

彼はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。

「帰るとしよう、マルバス。会談は・・・・・・決裂だ」

「畏まりました、兄上」

こうして、会談は終わりを告げたのである。

親書の時からある程度の予想は付いていたけれど、想像以上に敵対的かつ挑発的な言動が多かった。

むしろ、敵対したいと言わんばかりである。

結局、この会談におけるエルバとマルバスの目的は何だったのだろうか。

その後、一応の礼儀として彼等を見送ろうと玄関を出て馬車に続く道を進んでいった。

それから程なく、第二騎士団の制服に身を包んだ狐人族の女の子と男の子の姿が視界に写る。

その二人は良く見知った顔であり、慌てて彼等に駆け寄った。