作品タイトル不明
始まる会談
「来たか、リッド」
「お待たせして申し訳ありません、父上」
屋敷の玄関には、父上やガルンを始めとした屋敷に仕える皆が勢揃いしていた。
だけれど、皆の表情はいつもより硬い感じがする。
返事をして辺りを見回すが、その原因となっている人物は見当たらない。
「グランドーク家の方々は・・・・・・まだみたいですね」
「うむ。だが、もう間もなく到着するだろう。何を考えているのかわからん。油断はするなよ」
「はい。畏まりました」
そう答えた時、玄関の扉が叩かれた。
「バルディア騎士団、副団長のクロスです。狐人族、グランドーク家の方々が到着しました」
その声が聞こえると、執事のガルンがこちらに視線を向けた。
父上と僕が静かに頷くと、彼は扉のドアノブに手を掛けてゆっくり開ける。
そこには、普段の少しおどけた雰囲気とは違う、畏まったクロスが立っていた。
彼の背後には、父上の身長よりもかなり大きい狐人族の男が黄色い長髪を靡かせ不敵な笑みを浮かべている。
彼がエルバ・グランドークか・・・・・・そう直感した。
また、エルバの隣には彼同様の黄色い髪をした狐人族の青年が畏まっている。
おそらくエルバの弟、マルバス・グランドークだろう。
彼の身長は父上よりも小さく、一般的な帝国人と変わらない。
彼等の近くに控える狐人族もマルバスと身長があまり変わらないから、エルバが特別に大柄なのかもしれない。
そんなことを思っていると、父上がエルバの前に一歩踏み出して右手を差し出した。
「マグノリア帝国、バルディア領にようこそ。私がこの領地を治める辺境伯ライナー・バルディアです。貴殿がエルバ・グランドーク殿とお見受けするが、お間違いないかな?」
「あぁ、そうだ。今回は突然な訪問の申し出にもかかわらず、丁重な出迎えに感謝する。改めて、エルバ・グランドークだ」
意外なことに、エルバは父上の差し出した手を丁寧に握り返している。
そして、彼が自身の隣に視線を向けると、青年が頷いて右手を父上に向かって差し出した。
「私は、マルバス・グランドークです。以後、お見知りおきを」
「こちらこそ」
父上とエルバ達のやり取りは一見すると、雰囲気が良くて仲がよさげだ。
でも、互いに目が笑っておらず、どことなく空気が張り詰めている。
すでに腹の探り合いが始まっており、挨拶は社交辞令なのだろう。
その時、エルバが僕にふいに視線を移すとにやりと笑った。
「それで、こちらの少年がライナー殿のご子息殿ですかな?」
彼が浮かべた笑みに嫌なものを感じつつも、僕は目を細めて一歩前に出ると会釈する。
次いで、顔を上げるとエルバに向かって手を差し出した。
「はい。リッド・バルディアと申します。グランドーク家の皆様にご挨拶できること、嬉しく存じます」
「ほう。年齢の割にしっかりしているようだ。私の姿に怯えるわけでもなく、こうして手を差し出すとはな」
エルバはそう言って、こちらが差し出した手を握った。
彼の手はとても大きく、まるで赤ん坊と大人が握手をしているようだ。
次いで、マルバスとも握手を行うと父上が咳払いをした。
「では、そろそろ部屋に移動しましょう。互いに話したいことは多くあるでしょうからな」
「ふふ・・・・・・」
エルバは不敵に笑い、「確かにそうですな」と頷いた。
彼の表情には先程同様、何か嫌なものを感じる。
それに相手の気配を察知できる魔法、『電界』を通じても彼等から良い印象は受けない。
この二人、やはり良からぬことを考えてきたのだろうな。
直接対面したことで何かしらの悪意を確信した僕は、表情に出さないよう密かに警戒心を強めていた。
◇
彼等を父上自ら貴賓室に案内すると、エルバ達と机を挟んで向き合うように席に着いた。
僕達が腰掛けた席の後ろには騎士団長ダイナス、副団長クロスの他、ルーベンスやディアナも控えている。
また、エルバとマルバスの後ろには狐人族の戦士達が並んでおり、貴賓室は異様な緊張感が漂い始めていた。
程なくして、貴賓室の扉がノックされる。
父上が返事をすると、執事のガルンがメイド長のマリエッタと副メイド長のフラウと一緒に紅茶とお茶菓子を持ってきた。
緊張感漂う室内の中、ガルン達は一切の粗相なく紅茶と茶菓子を提供すると、静かに一礼して部屋を後にする。
そんな彼等の姿を見ていたエルバが、ゆっくりと口火を切った。
「さすがは、バルディア家に仕える執事とメイド。見事な所作だったな。我が家にもあのような者達が欲しいものだ。なぁ、マルバス」
「はい。それに、この紅茶や茶菓子。どれも一級品の物ですね。丁重な扱い、痛み入ります。ライナー殿」
「いえいえ。獣人国のグランドーク家は、我がバルディア家と領地を接する隣人です。最大限の礼をもって接するのは・・・・・・当然でしょう」
含みのある言い方で父上が二人に答えると、エルバはふっと鼻を鳴らした。
「なるほど。では、そろそろ本題に移らせてもらおう。我等が送った親書。あちらはすでに目を通していると思うが、貴殿達の返答は如何になるのものか・・・・・・尋ねに来た次第だ」
瞳に狡猾な光を宿したエルバ。
彼から発せられる威圧感で背中に嫌な汗が出るのを感じつつ、隣に座る父上に目配せをした。
「任せよう」
「ありがとうございます、父上」
目を細めて頷くと、エルバとマルバスを見据えて咳払いをする。
「勿論、頂いた親書は目を通しております。しかし、グランドーク家の皆様は何か誤解をしている・・・・・・そう考え、この場を用意した次第です」
眉をピクリとさせたエルバは「ほう」と相槌を打ち、背中をソファーに深く預けた。
「ならば、我等が何をどう誤解しているというのか・・・・・・リッド殿の意見を聞かせてもらおうか」
「では、まずお二人にこちらの資料に目を通して頂きたいと存じます」
挑戦的で威圧的な物言いをするエルバに、少し苛立ちを覚える。
だけれど、感情的になれば交渉は負けだ。
自分にそう言い聞かせながら、予め用意していた資料を彼等に配る。
「それと、これから行う説明にあたり関係者を呼んでいます。二人とも、入ってきて」
それから間もなく、貴賓室の扉が静かに開かれて二人の女性が入室する。
彼女達は僕の側に来ると、エルバとマルバスに向かって一礼した。
「エルバ様、マルバス様。初めてお目にかかります。私はクリスティ商会の代表、クリスティ・サフロンと申します」
「同じく、クリスティ商会でクリスティ様の補佐をしております、エマと申します」
彼女達が顔を上げると、僕は「それでは、説明させて頂きます」と告げた。