軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの不安

レナルーテ王国のダークエルフで、元軍人のカーティス・ランマーク。

そして、彼の孫であり、アスナの兄達であるシュタインとレイモンド。

彼等がバルディアにやってきて、少しの時が経過した。

第二騎士団の子達はカーティスとの模擬戦以降、隊長格を含めて彼のことを『マスターエルフ』と呼んで慕っている。

カーティスもそう呼ばれることは満更でもないらしく、彼等の関係性は良好と言えるだろう。

なお、彼をレナルーテから呼んだきっかけには、ファラが関わっている。

バルディアで起きた工房襲撃事件の一件で、第二騎士団の組織力強化が必要と判断したが、適した人材が領内にいなかった。

その際、ファラの推薦でアスナの祖父であり、レナルーテの元軍人で隠居していた彼に白羽の矢が立ったという訳だ。

善は急げと父上の了承を経て、親書を早速送付。

それから程なくして、バルディアを来訪してくれたカーティスに現状と目的。

今後の依頼内容を伝えたところ、彼は二つ返事で役目を引き受けてくれた。

ちなみに、第二騎士団の隊長格の子達とカーティスが行った模擬戦は、想定していたわけではなく、あくまで成り行きだったんだけどね。

でも、関係性の構築という意味では、結果的にはやって良かったと思う。

今のカーティスは、第二騎士団の管理を任されている僕の『補佐官』という立場になっている。

ただし、『仮決定』だけどね。

というのも、父上がまだ帝都から帰って来ていないからだ。

バルディアに父上が戻り次第、彼は第二騎士団での立場が確定するだろう。

元々、親書をカーティスに送付する段階で父上も乗り気だったからね。

後は、僕や第二騎士団の子達とカーティスが上手くやっていけるのか? という疑問点が残っていたけれど、それも模擬戦やここ最近のやり取りで問題ないという判断もできた。

その事を父上に伝えれば、後はとんとん拍子で話が進むだろう。

父上の不在のこの数日間。

カーティスには母上との面会から始まり、工房の状況、バルディア領内の町並みを案内。

加えて、第一騎士団のダイナスやルーベンス達、第二騎士団の候補生である騎士のティスを含む子供達にも彼を紹介している。

その際、子供達や騎士達もカーティスを好意的に受け入れてくれた。

バルディアでは、レナルーテとの取引が以前よりかなり活発になっており、観光や取引目的で来訪するダークエルフを領内で大分見かけるようになってきたからね。

そのおかげもあるかもしれない。

必要と思われる場所の案内や人の紹介が粗方終わると、第二騎士団の分隊長や副隊長の子達を中心としたカーティスの指導も先行して開始された。

その授業には僕も立ち会わせてもらったけれど、彼は意外にも室内訓練場で『座学』を最初に選んだ。

「世の中には『人は考える葦である』という言葉があるが、その意味がわかる者はいるかな?」

隊長格の子達が首を傾げると、カーティスはこちらに視線を向けた。

「リッド様は、ご存じですかな?」

「えっと、人は自然の中では葦。つまり、自然と言う大きな目で見ると、人は水辺に育つ弱く細い草とそんなに変わらない存在である。しかし、人は頭で様々なことを考え、状況を打破できる力があります。従って、『思考力』こそ人に与えられた偉大な力である……ということだったと記憶してますね」

問い掛けに答えると、騎士団の子達から「おぉ……」と感嘆の声が漏れ聞こえてきた。

「さすが、リッド様。仰せの通りでございます」

カーティスは目尻を下げると、改めて騎士団の子達に視線を戻した。

「聞いての通りだ。確かに、個々人の武力や魔力といった戦闘力というのは非常に重要なものである。しかし、それだけでは軍……いや、『強い騎士団』は成り立たん。一人一人が自ら考え、適切な行動ができるようになる。それこそが、真に強い組織力を持った騎士団を造り上げていくのだ」

騎士団の子達は唸ったり、首を傾げたりと様々な反応を示している。

だけど、彼の話を興味深く聞きながら、時には手を挙げて質問をする子もいた。

その授業風景から、カーティスをバルディアに呼んで正解だったと胸の内で安堵したものだ。

そして、現在。

僕、ファラ、メルはカーティス指導の元、ディアナ達に見守られながら宿舎の野外訓練場でとある術を習っている。

「これは、中々扱うのが難しいね」

僕はそう呟くと、カーティスに教わった要領で手に持っていた布に魔力付与を行った。

その布を媒介に魔布を生み出すと、試しに鞭のようにしならせる。

次いで、生み出した魔布を振って少し離れた場所にある的に次々と当てていった。

的は魔布が当たると、鞭で打擲されるように鈍い音と共に圧し折れる。

工夫次第では、打撃だけでなく斬撃のように扱うこともできるかもしれない。

そんなことを考えつつも、集中して魔布を振っていく。

程なくして、すべての的に当て終えると「よし!」と呟き、布に施していた魔力付与を解いた。

「この短期間で『魔布術』をここまで扱えるようになるとは……流石でございますな」

一部始終を見ていたカーティスが、嬉しそうに目尻を下げる。

頬を掻きながら「そ、そうかな?」と答えると、傍にいたファラが頷いた。

「カーティスの言う通りです。私なんて、魔力付与が上手くいかなくてこうなってしまいました……」

彼女の手にある布は、魔力付与に耐えきれなかったのか破れてしまっていた。

そんなファラの隣では、「むぅ……」とメルが頬を膨らませている。

メルの手にある布は、そもそも魔力付与ができないらしくこれと言った変化は起きていないようだ。

「兄様だけ上手くできてズルい!」

「あはは。でも、これだけは日々練習するしかないね」

納得できなかったらしく、メルはプイっとそっぽを向くと、カーティスに駆け寄って可愛らしく上目遣いを行う。

「ねぇ、カーティス。魔布術って『特殊魔法』の一種なんだよね。じゃあ、伝授とかもできるの?」

「おぉ。『伝授』についてご存じとは、メルディ様も魔法に詳しいようですな。やったことはありませんが、出来るやもしれませぬ」

「……! じゃあ、それなら」

メルの顔色がパァっと明るくなるが、カーティスは首を横に振り遮るように言った。

「ですが、もし仮に伝授が可能だとしても、私はするつもりはありません」

「えぇ⁉」

目を丸くするメルに、彼は諭すように続けた。

「昔から『生兵法は大怪我のもと』という言葉がございましてな。どのような武術、魔法であれ扱う者には相応の知識や技術が必要となります。いま、姫様とメルディ様が魔布術を扱えていないのは、魔力付与の技術が足りぬためでございましょう」

「むぅ……」

メルは再び頬を膨らませるが、カーティスには通じない。

「それに、これは魔布術に限った話ではございません。今後、様々な魔法を扱えるようになりたいのであれば尚更です。メルディ様が先程仰ったように『ズル』はせず、コツコツと技術を学ぶことですな」

「う……」

優しい物言いではあるが、正論で諭されたメルは決まりの悪い顔を浮かべている。

「ふふ。これはカーティスに一本取られたね、メル」

「メルちゃん。私も魔力付与はまだまだですから、一緒に頑張りましょう」

ファラが優しく語り掛けると、メルは「うん」と頷いてこちらを見据えた。

「姫姉様と一緒に頑張る。それで、兄様より魔布術は絶対に上手くなってみせるもん!」

メルはそう言って布の端を片手で掴むと、クルクルと可愛らしく踊り始める。

その様子を見て、ふと前世の記憶にある新体操の動きを思い出した。

魔布術と新体操の動きを組み合わせれば、意外と凄い武術になるかもれないな。

そんなことを考えていると、近くで控えていたディアナから「リッド様、よろしいでしょうか」と声を掛けられた。

「うん? どうしたの」

「先程、帝都から本屋敷にライナー様がお戻りになったと通信魔法で連絡が入りました。また、ライナー様より、出来るだけ早く話したいことがあるとのこと」

「わかった。じゃあ、今からすぐに向かおう。それと、カーティスも一緒に良いかな? 父上に紹介したいからね」

「承知しました。では、シュタインとレイモンドを呼んで参ります」

彼はそう答えて会釈すると、この場を後にした。

その後、僕達は服を着替えると父上の待つ本屋敷に向かって移動を開始する。

工房襲撃事件の一件に加え、帝都で流れているというバルディアに対する不穏な噂。

さて、父上は帝都でどんな話をしてきたのだろうか? 何にしても、あまり良い予感はしないけどね……。

不安を覚えつつも、僕はそれを皆に悟られないよう胸に秘めるのであった。