軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四方山話 子に悩む親

「……眠ったか。やはり、体に対する負荷と消費した魔力量は相当だったようだな」

ライナーはそう言って、息子がちゃんと寝息を立てているか確認して安堵の表情を浮かべた。

彼の指導の元、本日行われた身体強化の訓練。

その際、彼の息子であるリッドは『とんとん拍子』と言って良い程に、弐式と呼ばれる身体強化を会得。

そして、『身体強化・烈火』と呼ばれる『次の目標』をリッドに披露した。

だが、弐式でさえ術者かかる負担は相当である。

さらに、術者が持つ属性素質と身体強化を合わせて発動する『身体属性強化』となれば、その負担の大きさは想像を絶するものだ。

バルディア騎士団に所属する騎士でも、『身体属性強化』を扱える者は少数である上、余程のことがない限りは使用することもない。

何故なら、使用後の反動が凄まじいからだ。

それ故、ライナーもあくまで『次の目標』として息子に見せただけである。

まさか息子がすぐに挑戦。

あまつさえ発動までさせるとは、夢にも思ってもいなかったのである。

彼はベッドで寝息を立てる息子を見つめながら、無謀な挑戦をしたことに心配を通り越して怒っている。

だが、同時に息子の『天賦の才』を見られたことに、喜んでもいた。

とても複雑な感情に、ライナーは深いため息を吐く。

そんな親の心を知らず、すやすやと寝息を立てる息子を優しくも忌々し気に見つめた。

「まったく……お前は、間抜けな天才だな」

「う……ううん。ちちうえ……れっかできましたぁ……ほめてくださぁい……」

息子の返事に、まさか起きているのか? とライナーは眉間に皺を寄せる。

しかし、様子を見る限り、リッドは間違いなく寝ていた。

「なんだ、寝言か。ふふ、良いだろう。お前はすぐに調子に乗るからな。寝ている時だけは誉めてやろう。その歳で、弐式と烈火を発動したお前は、間違いなく天才だ。凄いぞ、リッド」

ライナーは寝ている息子の頭を優しく撫でた。

その時、部屋のドアがノックされディアナの声が響く。

すぐにライナーが返事をすると、「失礼いたします」とディアナとダナエが入室する。

「うむ。待っていたぞ。すまんが、息子の服を着替えさせてやってくれ」

「畏まりました」と二人は揃って会釈すると、ディアナが言葉を続けた。

「ライナー様。ご指示の通り、サンドラ様にも連絡しております故、もう間もなく来られるかと存じます」

「そうか、わかった。では、後を頼むぞ」

ライナーはそう言って席を立つと、退室しようと踵を返す。

しかし、ドアノブに手をかけると立ち止まり、ディアナ達に振り向いた。

「それと念の為、リッドが目を覚ますまでは必ず誰かが部屋に待機するように。体に相当な負荷が掛かっているからな。万が一にも容態が急変しないとも限らん」

「畏まりました。私達を含め、交代してリッド様が目を覚ますまで見守り致します」

ディアナが畏まり返事をすると、ライナーは「うむ」と相槌を打ち部屋を後にする。

そして彼は、妻であるナナリーの部屋にその足で向かった。

「あなたがこんな時間に来るのは、珍しいですね。何かあったんですか?」

ナナリーは暗くなり始めている窓の外を見ると、少し心配そうにライナーに尋ねた。

彼は少し決まりの悪い顔を浮かべる。

「いやなに……今日、リッドと身体強化の訓練を行ったんだがな……」

ライナーは、おもむろに事の次第を丁寧に説明した。

息子のリッドが新たな魔法を会得。

さらにその先にある高度な魔法まで発動させて見せたこと。

しかし、その魔法の反動による負担と魔力消費によって、今は自室で眠っていることを告げた。

ナナリーの表情はみるみるうちに曇っていく。

「まぁ……それで、リッドは本当に大丈夫なんですか?」

「あぁ。サンドラにもすぐ診てもらうよう連絡もしている。それに、ディアナ達には悪いが、寝ずの番でリッドを見守るように指示を出したからな」

「そうですか……」とナナリーは頷くが、表情は曇ったままだ。

ライナーは表情を崩すと、優し気に目を細める。

「安心しなさい、リッドは強い子だ。それより、あの子の『天賦の才』は本当に凄い。さすが、君の子だよ」

「あら。でも、武術の才能というなら、バルディアの血ではありませんか?」

ナナリーが首を傾げると、ライナーは首を横に振った。

「確かに、武術だけであればバルディアの血と言えるかもしれん。だが、魔法の才能となれば、君のロナミス家の方が強いような気がするよ。それに、リッドの顔つきは君によく似ているからな」

「ふふ、それなら嬉しいわ。でも、そうね。確か、ロナミス家の先祖に高名な魔術師がいたとか……生前、父上が酔っぱらってそんなことを言っていたような気がするわ。あの時は、気にも留めていなかったけど、もう少し詳しく聞いておけば良かったかしら」

二人はそこから、リッドの天賦の才はどこから来たのか? という話題で談笑を楽しんだ。

それから程なくして、ライナーは話頭を転じる。

「ナナリー。実は、君にリッドのことでお願いがあるんだ」

「はい、何かしら?」

彼女が首を傾げると、ライナーはおもむろに話し始めた。

「今回、リッドが無茶をした件。目を覚ましたら、しっかりとお灸を据えるつもりだ。その後、君には折を見てリッドを慰めつつ、諭してほしい」

「わかりました。あの子が無茶をするのは、これが初めてではありませんからね。では、あなたがお灸を据えたら、その内容を教えてください」

「わかった。そうしよう」

ライナーがニコリと頷くと、次いでナナリーがハッとする。

「そうでした! 似たような話がメルにもあるんです。私がメルにお灸を据えますから、その時はあなたがメルを諭してくださいね」

「う、うむ」とライナーは頷くが、ナナリーは鋭い目を光らせた。

「あなたは、メルに甘いところがあります。諭す時は、メルの上目遣いに負けないようにしてください。子供は見ていないようで、しっかり大人を見ているんですからね!」

「あ、あぁ……わかった。その時は、しっかり話そう」

ナナリーの鋭い指摘に、ライナーはたじたじとなっている。

辺境伯とその妻という立場がある時、その姿を二人が誰かに見せることはない。

それは、子に悩む夫婦の一幕であった。