軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

懇親会が終わって

帝都におけるバルディア家が主催した懇親会は大盛況に終わった。

その翌日からは『木炭車』、『懐中時計』、『新しい料理』の噂を聞きつけた帝都の商人の他、商売を基軸としている新興貴族達からの商談の申し込みが殺到することになる。

しかし、バルディア家はあくまで研究、開発を行うのみであり、窓口となるのはクリスティ商会とサフロン商会だ。

分かりやすく言えばバルディア家が前世の『某自動車製造会社』で、クリスティ商会とサフロン商会が『某自動車製造業者の正規代理店』という感じである。

その為、殺到した申し込みはこちらで吟味した後、適切と思われる相手だけに各商会への紹介状にて返事を行った。

各貴族からの申し込みは父上から、バルディア家との直接取引は不可であると一筆入れている。

『バルディア家の本来の業務は、帝国の国境警備と防衛である。商品開発と研究はその業務により注力する為であり、商売を通して得る資金も同様である。しかし、バルディア家は本来の業務で多忙を極め、商売における必要な販売業務までは行えない。故に、クリスティ商会とサフロン商会に販売業務を委託している。従って各商会は当家の代理である為、商談と交渉の場に置いては適切な対応をお願いしたい』

内容としてはこんな感じだ。

基本的にはこれで納得してくれたけど、中にはそれでもと押しかけてきた貴族も一部いた。

そんな相手に父上は睨みを利かせて、「つまり貴殿は、当家に皇帝陛下から下された国防の大命に背き、商売に力を入れろ……そう仰るのか?」と一蹴。

さすがの貴族達も『皇帝陛下』と出されたら何も言えなかったらしく、すごすごと退散していた。

なんにしても、クリスティ商会の代表であるクリスの元には、貴族や様々な商人から今まで以上の問い合わせが来ており、かなり忙しいらしい。

また、懇親会において獣人族の子達の耳や尻尾などのモフモフに魅了された御令嬢の方々より、再び彼等に会いたいという問い合わせもあった。

特に熊人族のカルアやアレッド、兎人族のラムル、狸人族のダン達という男の子達とお茶の時間を是非作って欲しいという手紙が何通か届いたけれど、さすがに丁重にお断りしている。

彼等はあくまで第二騎士団の団員だからね。

そして、懇親会が終わってここ数日。

僕も予想外の出来事に見舞われてしまい、帝都の屋敷で自室に缶詰めになっていた。

その出来事とは、懇親会で『ご縁』をお断りしたはず貴族達の御令嬢から手紙が大量に届いたのである。

当初、執事のカルロからその手紙の山を見せられた時は目を丸くした。

「こ、これ……本当に全部僕宛なの……?」

「はい、そのようです。机の上に置ききれない分は、あちらの箱に入れてあります」

カルロが指し示した場所には、手紙が満載になった箱が置いてあり「えぇ……」と呆れてしまう。

それにしても、何故ご縁をお断りしたはずの貴族からこんなに手紙が届いたのか……当初は首を捻ったが、その理由はすぐに明らかになった。

それは、何通か試しに手紙の内容に目を通した時のことだ。

「これ……どれもこれも、要は僕と『友達』から始めたいってことじゃないか……」

思わず頭を抱えた。

つまり、貴族達は父上や僕に直接交渉しても無駄だと判断して、自分達の娘を使って『悪あがき』をしているということだろう。

しかも、手紙の筆跡から察するに、おそらく令嬢達自身に書かせたようだ。

「はぁ……。自分達が相手にされないからって、実の娘をだしにまで使って何をしているんだか……」

「それだけ、今回の懇親会においてバルディア家の将来性が期待されているということでしょう」

「それは有難いんだけどねぇ……。これ返事をどうしようか……」

カルロは嬉しそうに言うが、僕はやれやれと首を横に振っていた。

その後、父上やディアナにも対応を相談した結果、やんわりとお断りのする方向性でまとまった。

だが、問題はその返事の文言である。

いくら先方のご両親が子供に指示した事とはいえ、貴族の幼い御令嬢が本人なりに頑張って書いてくれた手紙だ。

断りがあからさま過ぎると相手を傷つけてしまう恐れがある。

かと言って、あやふやにすれば今後の対応に苦慮することになるだろう。

父上、カルロ、ディアナ、カペラと一緒に屋敷の執務室で悩んでいると、ディアナがポツリと呟いた。

「いっそのこと、リッド様とファラ様がいかに相思相愛であるかを手紙に書いて、先方の戦意を削ぐと言うのは如何でしょうか?」

「は……?」

あまりに突拍子にもない提案に、僕を含めてこの場にいる面々が呆気に取られた。

しかし、彼女は真剣かつ真面目な顔で語り続ける。

「人の恋路を邪魔する者は、古今東西において嫌われるものでございます。それ故、リッド様とファラ様の間に入り込む隙間もないとなれば、相手の戦意喪失に繋がり諦める理由となりましょう。それでも食い下がる者は少しはいるかもしれませんが、何にしても沈静化には繋がるかと存じます」

「つ、つまり……僕とファラの惚気を断り文句にして返信しろってこと?」

唖然としながら聞き返すと、彼女は「はい。さようでございます」と言って畏まった。

すると、父上が急に俯いて小刻みに震えたかと思うと、額に手を当てながら顔を上げると大声で笑い始める。

皆がきょとんとする中、ひとしきり笑った父上は自身の膝を手で「パン!」と叩いた。

「良いではないか! 誰も傷つくことがない断り方だ。実際、お前とファラは相思相愛だしな。よし、ディアナの案で決定だ。カルロ、カペラはリッドの返信作業を手伝ってやってくれ」

「承知しました」

「ち、父上⁉」

途端にすべてが決まってしまい戸惑っていると、父上は楽しそうに目を細めた。

「リッド。これも、バルディア家が他家と差し障りなくやっていく為に必要なことだ。数年後には、良い思い出として笑い話となるだろう」

「えぇえええ⁉ そんなご無体な……」

こうして、各ご令嬢から来た手紙の返信に、僕とファラとの惚気をがっつり書くことが決まったのである。

勿論、レナルーテ王国との政治的な関係性など必要なことも記載しているけれど、返信の文面はほとんどが惚気だ。

主な内容は『ファラのことが好きすぎて、他の子のことを考える余裕がありません』という感じである。

書いている途中、羞恥心でいたたまれなくなり、何度も自室のベッドや椅子の上で悶えた。

しかも、その内容をカルロやディアナに問題が無いかの確認が入るのだ。

二人がその内容を見て、「ふふ……」と頬を緩めていたことを僕は決して忘れないだろう。

そして、現在における自室の缶詰状態に至るわけだ。

しかし、今書いているのが最後の返信である。

実は惚気内容がある程度まとまった後、カルロとカペラが僕の筆跡を模写して一部代筆してくれたのだ。

返信内容にも少しだけ変更も加えているから、言われなければ代筆であることはわからないだろう。

だけど、二人が書き終えると僕自身も内容が被らないように確認が必要なわけで……惚気満載の内容に顔が火照るのを都度感じることになったのは言うまでもない。

やがて、最後の一枚を書き終え、「はぁ……終わったぁ……」と思わず呟いた。

すると、作業を手伝ってくれていたカルロ、カペラ、ディアナが「お疲れ様でございました、リッド様」と会釈する。

「いやいや、皆も協力してくれてありがとう。カペラとカルロの模写と代筆が無ければ、バルディア領に帰っても手紙を書く破目になってたよ」

「とんでもないことでございます。お役に立てて幸いです」

二人が目を細めて答える中、ディアナが「一つ気になることがあるのですが、よろしいでしょうか?」と呟いた。

「うん? どうしたの?」

「いえ、今回の返信作業の件。本当に、ファラ様にお伝えしなくてよろしいのですか?」

「あぁ……その事か。いや、その……ねぇ。やっぱり、恥ずかしいじゃない。断る為とはいえ、惚気を書いて相手の戦意喪失なんてさ……」

実は今回の件はファラに伝えていないのだ。

自室に閉じこもる時間が長くなったのは、懇親会において発生した事務作業だと伝えている。

勿論、彼女は手伝うと言ってくれたけど、別の仕事をお願いして誤魔化したのだ。

その時、ドアがふいにノックされる。

「リッド様、よろしいでしょうか。ライナー様が『例の件』でお呼びです」

「え……⁉」と思わず固まった。

何故ならその声の主はファラだったからだ。

「わ、わかった。すぐに行くから少し待って」

「……? はい、承知しました」

慌てて返信作業の後片付けを簡単に行うと、カルロに後を任せて退室する。

ドアの前には、ファラとアスナがきょとんとして待っていた。

「あはは。ごめんね。ちょっと、作業で散らかってたからさ」

「そうなんですか?」

「う、うん。さぁ、父上のところに急ごう」

「は、はい」

小首を傾げるファラにそう言うと、急いでこの場を立ち去ろうと皆の前に出て足を進めていく。

だがその時、「あら……リッド様、上着から何か落ちましたよ」とファラの声が後から響いた。

その瞬間、脳裏に作業中の光景が浮かんでハッとする。

(そうだ、惚気の内容がカペラと被って没にした手紙が一枚あったはず……。確か……それを上着のポケットに雑に入れた気がする……!)

急いでバッと振り向くが、時すでに遅し。

ファラは僕の上着から落ちた手紙を拾い、文面を見つめて目を瞬きさせている。

程なくして彼女は、みるみるうちに耳まで赤くなり、かつ耳が上下にパタパタと激しく動き出す。

そして、こちらに視線を向けると目を見開いた。

「な、ななな……なんですか⁉ なんなんですか、これ⁉ これって、手紙ですよね⁉ なんで、こんな……こんな嬉し恥ずかしい手紙を外部の人に出すんですかぁあああああ⁉」

「い、いや。それにはちゃんとわけが有ってね……」

顔を真っ赤にしつつ、耳をパタパタさせて詰め寄ってくるファラの剣幕に思わずたじろいだ。

しかし、彼女は僕の鼻先まで近寄りまくし立てる。

「どんな『わけ』があると言うのですか⁉ 今すぐ説明してください! そもそも、こんな内容を外部の人に出すなんて……リッド様には羞恥心というものが無いんですかぁああああああ⁉」

その後、これでもかというほど混乱するファラを宥めるのに時間を要することになった。