作品タイトル不明
貴族達の目的
「ご評価いただきありがとうございます。しかし、こちらに並ぶ商品は、父上とクリスティ商会によって企画され、当家に仕えるドワーフの姉弟によって開発されたものになります。強いて言えば、私はその商品をいち早く触れられる場所にいたに過ぎません」
探るようにこちらを見つめるベルルッティ侯爵とベルガモットに淡々と語る。
彼等にした今の話は、父上達と事前に考えていた『答え』だ。
目新しい商品を世界に出せば、発案者に注目が集まるが子供の僕が目立つのはあまりよろしくない。
その為、父上やクリスティ商会の影に隠れられる答えを予め用意していたわけである。
ベルルッティ侯爵は「ふむ……」と相槌を打った。
「なるほど。確かに、クリスティ商会の代表であるクリス殿は優秀だ。しかしだね……ここにある目新しい商品はドワーフは元より、クリス殿。勿論、ライナー殿を含め、我々では思いつかないような発想や着想に基づいているものばかりだ」
「……何を仰りたいのでしょうか?」
首を傾げてきょとんとすると、ベルルッティ侯爵は楽しそうに目を細める。
「つまりだね。常識に囚われない『型破り』な考えを持つ人物が、この開発の影にいると思うのだよ……リッド殿に誰か心当たりはいないかな?」
ねっとりとした視線が注がれて思わず息を飲むが、僕はゆっくりと首を横に振った。
「さぁ……残念ながら先程申し上げたことがすべてでございます故、私は存じ上げません」
「ふむ、そうか……。ならば、これ以上は聞くまい」ベルルッティ侯爵はそう言って頷き「ところで……」と話頭を転じた。
「娘のマローネと孫のベルゼリアとは、是非仲良く付き合ってやってほしい。あの二人は、あまり仲の良い友達がいないようでね」
「では、是非この機会に色々と話させて頂きます」
「そう言ってもらえると助かるよ。ちなみに、リッド殿の目から見てマローネはどう見えるかな?」
「え……マローネ様ですか?」
意図が分らず、彼女達が向かった先を見つめる。
そこでは、ファラとマローネが楽しそうに会話しながらジュースを飲んでいた。
程なくすると二人は僕の視線に気付いたらしく、揃って小さく手を振りながらニコリと微笑んだ。
答えるように手を振ると、ベルルッティ侯爵に視線を戻す。
「……可愛らしく、利発なご令嬢に思われますが……」
「そうか。それなら、良かった。今後、何がどういう縁に繋がるかわからんからな」
「えっと、それはどういう意味でしょうか……?」
急に上機嫌になるベルルッティ侯爵に首を傾げると、彼は苦笑する。
「おっと、これは失敬。リッド殿とは我らと変わらない感覚で話してしまったな。まぁ、将来的なことだよ」
「……それは、もしや側室とかそういうお話でしょうか?」
思わず嫌悪感を抱き眉間に皺を寄せるが、ベルルッティ侯爵は意に介する様子もなく頷いた。
「まぁ、そんなところだ。帝国内の貴族には『純血主義』を唱える者達も一部おってな。勿論、我らはそんなことを気にしておらん。しかし、表には出さずとも、内心では頑なにそう考えている人物が存在するのも確かなのだ。特に……『保守派』と言われる連中はな」
最後の言葉だけ、彼は少し忌々しそうに呟いた。
革新派の中心人物である彼の元には、由緒ある貴族以外にも新興貴族も多く集っているらしい。
逆に保守派は、昔から皇族に仕えている貴族が多いそうだ。
その点から言えば、『純血主義』を唱える貴族が保守派に多いと言うのは事実なのだろう。
ちなみに、『純血主義』とは帝国貴族の爵位を継承できる者は、父母共に帝国人であるべきという思想を持っている貴族達のことだ。
また純血主義の貴族は、新興貴族に対して好意的ではないらしい。
勿論、バルディア家にそんな思想はないけれど、代々続く帝国貴族の一部にはその思想が強い貴族がいるそうだ。
しかし、それはそれとして、ここは今後のためにもはっきりと言わないといけない。
深呼吸をすると、畏まりつつベルルッティ侯爵を真っすぐに見据えた。
「恐れながら申し上げます。例え、どんな困難が来ようとも私の妻は彼女……『ファラ』しかおりません」
「ふふ、その瞳。やはりエスターを思い出すよ。まぁ、未来はどうなるのか誰にもわからん。しかしだ……無駄な摩擦を避けるため、あくまでもそのような『選択肢』があることだけは、覚えておくべきだろう……これは、貴族としての助言だな」
ベルルッティ侯爵がそう言うと、彼の息子であるベルガモットが「ゴホン」と咳払いをした。
「父上。そろそろ、次の方のところに参りましょう」
「む……そうだったな。では、リッド殿。私はこれで失礼するが、マローネとベルゼリアのことはよろしくお願いするよ」
「畏まりました。この後も、懇親会をお楽しみください」
そう言って会釈すると、ベルルッティ侯爵は好々爺の如く目を細めた。
そして、彼の息子であるベルガモットと共に『木炭車』が展示、試乗できる場所に向かって足を進めていく。
二人の背中を見送っていると、「リッド。大丈夫だったか?」と声を掛けられた。
「父上。グレイド辺境伯とのお話はもうお済になったのですか?」
「あぁ、思いのほか長くなってしまったがな。それより、ベルルッティ侯爵とベルガモットの二人と何か話していたようだが、大丈夫だったか?」
父上はそう言うと、既に少し離れた場所にいるベルルッティ侯爵とベルガモットの背中に視線を向けた。
「はい。そこまで困るような話はありませんでした。ただ……」
「ただ……どうした?」
「いえ、『純血主義』や『側室』とかの話は少しありましたね」
すると、父上の眉がピクリと反応した。
「私がお前の傍にいない時に、わざわざそんな話をするとは……。どうやらベルルッティ侯爵は余程お前を気に入ったらしいな」
「あ、あはは……そうなんですかね。あ、それと、こうも言われました」
苦笑しながら話頭を転じると、父上は「なんだ?」と首を傾げた。
「僕の瞳が、祖父のエスター様に似ているそうです」
「……そうか。ベルルッティ侯爵は私の父であるエスターと良く議論を交わしていたからな。お前の瞳に父を感じたのかもしれん。だが、お前の瞳はナナリー似だよ」
父上はそう言って、僕の頭をポンポンと優しく叩くのであった。
◇
その後、父上と僕が二人だけの状況になるのを待っていたのか、沢山の貴族令嬢とそのご両親が次々とやってきた。
失礼の無いように父上と丁重に対応する中、父上がこっそり耳打ちをしてくる。
曰く、此処に集まった令嬢と御両親は縁談を既にお断りした方々だそうだ。
それでも、直接会えればまだ機会に恵まれるかもしれないという考えらしい。
さすがに彼等の目的があからさま過ぎて辟易してしまう。
直接的な言葉はないから耐えるしかない……そう思っていたところ、彼等の一部が僕に卑しい眼差しを注ぎながら父上に語りかけた。
「将来的により良い縁となれば幸いです。それに……帝国の爵位は生粋の『帝国人』が引き継いでいくべきでしょう」
子供だと思って聞こえても問題ないと高を括ったのだろう。
だが、そんな言葉を発するということは、ファラを僕の妻として見ていない……ということだ。
我慢が限界を超え、ブチっという音が脳内で響く。
そして、ゆっくりと彼等に向かってニコリと微笑んだ。
「恐れながら申し上げます。私は妻となったファラ以外の方に現を抜かすつもりは一切ありません。それに、国同士の繋がりを考えてみてもそれが筋でございましょう」
「そ、それは……」
突然の反論で彼等が面を食らうと、父上が咳払いを行い貴族達の注目を集めた。
「我がバルディア家の領地は隣国と国境が隣接しております。それ故、領内には様々な人種が行き交い、また住んでおります。その状況において、帝国人だけをあからさまに優遇すれば、領民が不満を抱きましょう。貴殿達を否定するつもりはありませんが、当家とは見解が違うようですな」
「ぐ……」と貴族達は苦虫を嚙み潰したように顔を顰めた。
そして、彼等はきょとんと小首を傾げている自身の令嬢達の手を引いて、蜘蛛の子を散らすように去っていく。
彼等の背中を見送った後、「はぁ……」とため息を吐いた。
「すみません、父上。つい、言ってしまいました」
「気にするな、正論を言ったまでだ。それに、理路整然と話す姿から勘違いされやすいが、そもそも子供であるお前の言葉に怒りを露わにするなど……貴族としての底が知れる。まさに、『大人気ない』という奴だな……ふふ」
父上は楽しそうだが、その笑いのツボがよくわからずに「あ、あはは……」と苦笑した。
その時、「リッド様」と声を掛けられ振り向くと、そこにはニコニコとしたマローネと、顔を少し赤らめて俯いているファラ。
そして、何やらニヤニヤしているデーヴィドとアスナに加え、もじもじしているベルゼリアがいた。
「……? 皆、どうしたの?」と首を傾げると、マローネが可愛らしく笑った。
「ふふ。先程のお言葉は実に素晴らしいものでした。噂通り、リッド様はファラ様と仲睦まじいと思ったまででございます」
「な……⁉」と顔が火照るの感じていると、デーヴィドが「全くです」と相槌を打った。
「あれだけの貴族が集まる中、そのような啖呵を切るとはね。いずれこの一件はご令嬢の間で噂になることでしょう。その時が楽しみです」
「そ、そうですね。ご令嬢の皆様はこういったお話はお好きですからね」
ベルゼリアも先の二人と同じ意見らしく、同意するように頷いている。
そして、ファラがおずおずと「その……とても嬉しかったです」と呟くのであった。