軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドとヴァレリの出会い

僕は今、帝都のバルディア家の屋敷の来賓室で笑みをうかべつつ、内心では頭を抱えている。

その理由は、目の前にいる僕と年齢が変わらない少女と、少し年上らしい少年が目の前に座っていることにあった。

ちなみに少女の容姿は、波がかった長い金髪と深い青い瞳をしており、まるで人形のような可憐さがある。

また、少女の隣に座っている少年の容姿は金髪で深い青い瞳をしており、誠実で優しそうな雰囲気を纏っていた。

その時、少女が首を傾げながらこちらに問い掛けてきた。

「あら、どうしたんですか。リッド様。お顔の色があまり優れませんね」

「確かにヴァレリの言う通り体調が良くなさそうだけど……リッド殿、大丈夫かい」

「い、いえ。そんなことはありません。心配ご無用です、ヴァレリ様、ラティガ様。あはは……」

二人に対して僕は咄嗟に営業スマイルを見せて返事をすると、心の中で必死にこの場を乗り切る方法を考えていた。

それというのも、僕の目の前にいる少女が『ときめくシンデレラ!』略して『ときレラ!』に出てきた悪役令嬢のヴァレリ・エラセニーゼ本人だからだ。

そして、彼女の横に座っている少年は『ラティガ・エラセニーゼ』という悪役令嬢の兄らしい。

だけど正直、彼のことを僕は良く知らない。

何はともあれ、僕の将来における『断罪』に関わる相手が目の前に居るという状況。

それにしても、何故こんなことになっているのか……それは、少し前に遡る。

バルディア領を出発した後、僕達は特に問題が起きることもなく無事に帝都に辿り着いた。

僕もファラも帝都は初めてだったので、木炭車の中から窓の外を眺めて変わる景色を楽しんでいたのである。

そして帝都の貴族街にあるバルディア家の屋敷へ無事に到着。

木炭車から降りた僕は、敷地内に停めてある『見慣れぬ馬車』に気付いた。

「父上、あそこに停めてある『馬車』もバルディア家のものなんですか」

「うん? あれは……『エラセニーゼ公爵家』のものだな」

「え……」

嫌な予感がしたその時、一人の執事が近寄ってくると「ライナー様、お帰りなさいませ」と父上に向かって一礼した。

「うむ。私が不在の間、何か問題はあったか」

「いえ、特に問題はございません。しかし、ライナー様とリッド様にご挨拶をしたいと、エラセニーゼ公爵家の皆様が来賓室でお待ちでございます」

執事の言葉に僕は目を丸くして、耳を疑った。

どうしてよりにもよってエラセニーゼ公爵家の皆様が、僕とファラが帝都に初めて来たこの日に屋敷へやって来たのだろう。

もしかすると何か断罪への強制力というか、不思議な力でも働いているとでもいうのだろうか。

そんなことを考えながら、人知れず冷や汗を掻いていると父上が執事の言葉に頷いた。

「そうか、わかった。すぐに伺うと先方には伝えてくれ。それとリッド、ファラ。こっちに来なさい」

「はい、お義父様」

「は、はい」

ファラの返事にハッとすると、僕も慌てて父上の傍に駆け寄った。

「彼を先に紹介しておこう。この屋敷の管理を任せている『カルロ』だ。こちらに滞在中、何か困ったことがあれば彼を頼りなさい」

「初めましてリッド様、ファラ様。只今、ライナー様にご紹介頂きました、『カルロ・サナトス』と申します。以後、お見知りおきをお願い致します」

カルロの自己紹介に気になる言葉があった僕は「うん?」と首を傾げた。

その間に、ファラが彼に会釈を行い自己紹介を始める。

「承知しました。改めて、私はファラ・バルディアと申します」

「僕はリッド・バルディアです。あの、ところでカルロは……」

ファラの挨拶を追うように自己紹介をして、尋ねると彼はニコリと笑った。

「はい。お察しの通り私の父は『ガルン・サナトス』でございます。改めて、宜しくお願い致します」

「やっぱりそうなんだね。ガルンに息子がいるなんて、僕は知らなかったよ」

「はは、父はあまり自分のことを話そうとはしませんからね。では皆様、エラセニーゼ公爵家の皆様がお待ちですので、早速ご案内致します」

「あ、うん……」

こうして僕達はカルロに案内されるまま、屋敷の中にある来賓室に足を進めた。

そして、そこに居たのはレナルーテで出会った『バーンズ・エラセニーゼ公爵』とそのご家族だ。

彼らは来賓室のソファーに腰かけて、優雅に紅茶とお菓子を楽しみながら僕達を待っていたらしい。

「やぁ、ライナー。それにリッド君達もレナルーテ以来、久しぶりだね」

「は、はい。お久しぶりです。バーンズ公爵」

公爵家の皆様って……バーンズ公爵の家族全員でここにきたの⁉ と内心で驚きつつも僕は平静を装いながら答える。

すると、バーンズ公爵の横に座っていた女性も僕に視線を向けた。

「初めまして、私は妻の『トレニア・エラセニーゼ』です。急にお伺いしてごめんなさいね」

「い、いえ。とんでもないことでございます」

会釈を行いながら答えると、ソファーに腰かけていた少年少女がスッと立ち上がる。

そして、こちらに視線を向けた。

「初めまして。僕は『ラティガ・エラセニーゼ』です、よろしくお願いします」

『ラティガ・エラセニーゼ』と彼の名前を聞いた僕は、丁寧に答えながら必死に前世の記憶を思い出そうとする……が何も出てこない。

程なくして、今度は問題の少女がニコリと笑みを浮かべ、綺麗で気品ある所作で僕達に向かって一礼した。

「初めまして、バルディア家の皆様。バーンズ・エラセニーゼ公爵の娘、『ヴァレリ・エラセニーゼ』です。以後、お見知りおきを」

「こ、こちらこそ初めまして、ライナー・バルディア辺境伯の息子……リッド・バルディアです」

思いがけない出会いに僕は、(な、なんで、どうして、悪役令嬢の彼女がバルディア家の屋敷にいるんだぁああああ⁉)と平静を装いながら心の中で叫んだのは言うまでもない。

そうする内に、今度はファラが彼女達に向かって自己紹介を始めた。

「こちらこそ、初めまして。私は『ファラ・バルディア』と申します」

僕達の自己紹介が終わったその時、父上が頃合いを見計らったように「ゴホン」と咳払いを行う。

「ところでバーンズ、今日は何用だ。特に急ぎの件は無かったと思うが……」

「なんだ我らは友人だろうに……用件が無ければ遊びに来てはならんのか?」

「い、いや。そう言うわけではないが……」

バーンズ公爵は意地悪な面持ちを浮かべており、父上は少し困惑した表情を見せる。

それから間もなく、バーンズ公爵は笑い始めた。

「はは。すまんな、冗談だ。実は、子供達がリッド君やファラ君が初めて帝都に来ると知って、どうしても会いたいと言うものでな」

バーンズ公爵はそう言うと、ヴァレリに視線を向ける。

すると彼女は、パァっと明るい笑みを浮かべて頷くと僕達を見回した。

「はい、バルディア家と言えばいま帝都で大人気の『化粧品』を製作している貴族ですもの。興味は尽きません。それに、お二人と早くお友達になりたかったんです」

「僕も同じようなものです。以前から剣を学ぶ者として、『帝国の剣』と謳われるバルディア家の方に是非お会いしたいと思っていましたから、父上と母上に妹と一緒に無理を言いました」

二人の優しい言葉に、ファラは嬉しそうにはにかんでいる。

そして、僕達の後ろに控えるディアナやアスナ。

勿論、父上も微かに微笑んでいる気がした。

だけど、僕だけは彼らの明るい笑みの向こうに、何かどす黒いものがあるような気がしてならない。

まるで死神が鎌を持って待ち構えているような……。

その時、僕はハッとすると内心で思いっきり首を横に振った。

いやいや、いやいやいやいやいや……必ずしも彼女達が、断罪や破滅に僕を導く存在とは限らないはずだ。

こうなれば、前向きに捉えてやっていくしかない。

しかし、なんだろうこの展開。

想像よりも進行が早過ぎる。

これが、この世界における強制力とでも言うのだろうか。

様々な考えと想像が頭の中を巡っていたその時、ヴァレリが首を傾げて心配そうにこちらを見つめて呟いた。

「あら、どうしたんですか。リッド様。お顔の色があまり優れませんね」

「確かにヴァレリの言う通り体調が良くなさそうだけど……リッド殿、大丈夫かい」

「い、いえ。そんなことはありません。心配ご無用です、ヴァレリ様、ラティガ様。あはは……」

……こうして、営業スマイルを浮かべている今に至ったのである。

はぁ、それにしてもどうやってこの場を切り抜けるかなぁ。

とりあえずは、無難にお友達になってやり過ごすしかないか……。

そんな風に僕が考えていたその時、ラティガが咳払いを行いこの場の注目を集めた。

「ところでライナー様。実は僕の友人が物語を書くのが好きでして、是非皆様の意見も聞きたいということなんです。簡単な内容なので、ここで少しお話してもよろしいでしょうか」

「ふむ、物語か。聞くのは別に構わんが……」

「ありがとうございます。では、皆様もお座りになって是非聞いてください」

突然の提案に僕達は首を傾げながらも、ソファーに腰かけた。

「ふふ、兄様のご友人のお話は自由な発想に富んでいて面白いんです」

「へぇ、そうなんですね」

ヴァレリの言葉に僕とファラが頷き、やがてこの場に居る皆の注目が集まったことを確認したラティガは深呼吸を行う。

そして、僕と父上を何故かチラリと一瞥する。

……今のはなんだろう、と僕が違和感を覚えると同時に彼はおもむろに語り始めた。

「では、聞いてください。その物語の題名は『ときめくシンデレラ!』です」

「……へ⁉」

彼が言い放った題名に、僕が呆気に取られたのは言うまでもない。

しかし、ラティガは楽しそうに淡々と物語を語っていくのであった。