軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファラの密かな決意

披露宴が始まると華族達が僕とファラに挨拶をする為、ひっきりなしにやってきていた。

だけど、レイシスとメル達が先程来てくれたおかげで、その流れはようやく落ち着きをみせる。

そんな中、ファラが僕に向かって話しかけた。

「リッド様、私はあちらでメルディ様と少しお話していますね」

彼女の隣には笑みを浮かべたメルと、メイドのディアナとダナエが控えている。

「うん、わかった。僕もレイシス王子とここで話しておくよ」

頷きながらファラに答えると、彼女達は笑みを浮かべながら談笑を始める。

そのやり取りを横で見ていたレイシスが、こちらに話しかけてきた。

「こうして間近でリッド殿の言動を見ていると、まるで私より年上のように感じるな」

「あはは、そんなことはありませんよ。だけど、そう思われるなら父上のおかげですかね」

内心でドキッとしながらも、離れたところで華族に囲まれている父上に視線を向ける。

彼は僕の仕草に納得したように頷くと、話を続けた。

「リッド殿は御父上のライナー殿を、尊敬しているんだな」

「ええ、そうですね。しかし、それはレイシス王子も同じではないでしょうか」

そう言うと、僕はエリアス王が居る場所に視線を移す。

レイシスも同じ場所に視線を向けると、笑みを浮かべた。

「ふふ、そうだな。私も父上のような『王』となれるように、日々精進しているのは間違いない。ノリスの一件からは特に……な」

彼は言い終えると、表情に少し影ができる。

ノリスの一件とは、前回ファラとの顔合わせとしてレナルーテに僕達がやって来た時に起きた騒動のことだ。

様々な思惑から、ノリス一派と言われる派閥が僕とファラの婚姻に関して妨害工作を行ったのだ。

派閥の旗印として、この妨害工作に参加していたレイシスは、武術による御前試合で直接対決を僕と行っている。

僕も様々な思惑の火中にいたので、彼の性根を叩き直すつもりでこの時コテンパンにしたのだ。

それ以降、彼は大人しくなったみたいだけど、やはりまだ思うことがあるらしい。

僕はそんな彼に問い掛けた。

「レイシス王子は、あの時の事を後悔されているんですか」

「それは……そうだろう。ノリスの口車に乗せられて、視野が狭くなり来賓であるリッド殿に大変な失礼をしてしまった。私が『王子』という立場で、リッド殿の嘆願が無ければ彼ら同様に断罪されていただろうからな」

彼は答えながら、首を力なく横に振る。

話を聞く限り思った以上に、あの事件はレイシス王子の心に突き刺さっているらしい。

少し思案すると、僕は彼に向かって話を続けた。

「レイシス王子。僭越ながら、人が人である以上、間違いを起こさないことは難しいと存じます。だから私は、間違いを起こしたことより、どうすべきかを考えるべきだと存じます」

「リッド殿……」

レイシスは、僕の話を聞いて目を丸くしている。

だけど、意に介さずに話を続けた。

「それに、間違いを起こしたことのない人間は、案外脆いと聞いたこともあります。レイシス王子が体験したことは、今は辛くても必ず将来の役に立つものであったと存じます。ですから、反省はされてもご自身の判断は後悔されないよう心掛けるべきかと……差し出がましいことを申しました、お許し下さい」

「いや、リッド殿の言う通りだ。経緯はどうあれ、私は間違った判断をした。故に、これからは視野を広く持つよう心掛けるべきだろう。ありがとう、リッド殿。改めて、自分自身を見つめるとしよう」

先程の影は無くなり、レイシスは明るい笑みを取り戻している。

そういえば、彼とこうして話すのは初めてかもしれないな。

きっと、あの時の事をレイシスなりに悩んでいたのだろう。

僕はニコリと微笑んで彼の言葉に答えた。

「ふふ、良かったです。僕も兄上となった方には、笑顔でいて欲しいですから」

「……‼ そ、そうだな」

その時、僕の顔に何かついていたのか、レイシスの顔が赤く染まった。

どうしたんだろう、と思いながら彼に尋ねる。

「レイシス王子、どうかされましたか。少し、お顔が赤いですよ」

「い、いや、すまない。リッド殿の笑顔が、先日話した『ティア』にそっくりだったもので、少し驚いたのだ。申し訳ない」

「へ……⁉ あ、あははは、レイシス王子もご冗談がお好きですね。そ、そんなわけないじゃないですか。気のせいですよ、気のせい」

もう終わったと安心した『ティア』の話題が、ここでまた出て来るなんて予想外だ。

しかし、僕の気持ちとは裏腹にレイシスが何やら思案顔を浮かべてしまう。

「う、うむ……いや、しかし考えてみれば、ビスケット殿がリッド殿に加えてメルディ殿にも似ているというのは、少し出来過ぎのような気も……」

「……⁉ そ、そうだ、レイシス王子。それよりも、会場に入場した時に華族の皆様からどよめきがあった気がするんですけど、あれは何だったんでしょうか」

「ああ、あれはな……」

やはり何か意味のあるどよめきだったのだろう、彼は僕の問い掛けに思案顔を崩した。

よし、話題が逸れたと僕は安堵する。

しかし、レイシスは何かを察したらしく、ニヤリと含みのある笑みを浮かべて何か呟き始めた。

「そうか、リッド殿はレナルーテにおける『黒引き振袖』の意味を知らないのか。それを承知でファラは……ふふふ、ははは」

「レ、レイシス王子……?」

言動の意図がわからずに僕が首を傾げていると、彼は話しを続けた。

「すまない、リッド殿。その件に関しては、私の口から伝えるのはよそう。まぁ、気になるなら、ファラの母上であるエルティア様にこっそり聞くのが良いと思うぞ」

「は、はぁ……」

その時、レイシスが何かに気付いたらしく目を細めた後、またニヤリと笑った。

「リッド殿、噂をすれば何とやらだぞ」

「へ……?」

彼はそう言うと、後ろを見るようにと視線を合わせる。

きょとんとしながら振り返るとそこには、エリアス王とリーゼル王妃、そしてエルティアがこちらに向かってやってきた。

「では、リッド殿。私はあちらにいるファラ達と少し話して来よう。先程の件、気になるなら父上達に聞いてみるとよいぞ。ふふ、ではな」

「え、レイシス王子⁉」

呼びかけも空しく、彼は何やら笑みを浮かべてファラ達のいるところに向かって行ってしまった。

一体、なんなのだろうか。

そんなことを思っていると、背中から低く重い声が響く。

「婿殿、披露宴は楽しんでいるかな」

声が聞こえた場所に振り返ると、そこにはこちらに向かって来ていたエリアス王と王族の方達が笑みを浮かべて立っていた。

僕はすぐにサッと頭を下げて敬礼する。

「はい、この度はこのような祝いの席を用意して頂き、誠に感謝しております」

「はは、そんなに畏まらなくてよいぞ。華族達は、婿殿と少しでも近づきたいと目をぎらぎらとさせておる。勿論、気に入らない者や無礼者がいれば、すぐに教えてくれ。それ相応の対応を約束しよう」

「あはは……」

エリアス王は楽しそうに笑っているけど、もしそんな華族がいたら多分本気で対応しそうな感じがする。

彼の言葉に、僕は苦笑して答えていた。

それから、リーゼル王妃とエルティアとも挨拶を済ます。

そして先程、レイシスにはぐらかされた件をエルティアに尋ねてみることにした。

「えっと、お義母様……」

「……なんでしょうか、リッド様」

お義母様と呼ばれたエルティアは、眉をピクリと動かして冷たい視線をこちらに向ける。

彼女が本当はどんな女性なのかは知っているけど、それでもこの視線は少し怖いかも。

だけど、僕は気にせずに話を続けた。

「その、披露宴の会場に入場した際、ファラ王女が『黒引き振袖』を着ていたことで少し華族の皆さんがざわついていたみたいなんです。もし差支えなければ、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「ほう……」

「まぁ……ふふふ」

何故か、問い掛けを横で聞いていた、エリアス王とリーゼル王妃が楽しそうに笑みを溢した。

相変わらず意図がわからない僕は、その様子にきょとんとする。

エルティアも、何とも言えない表情を浮かべるが、やがて観念したように呟いた。

「リッド様、レナルーテの着物の色合いには意味があります。そして、振袖も同様に色には意味がございます」

「あ、なるほど。じゃあ、『黒引き振袖』も意味があるということなんですね」

彼女は僕の返事に頷くと、話を続ける。

「その通りでございます。そして、この場において『黒引き振袖』の意味は、『他の誰の色にも染まらない』という意味になります」

「へ……?」

エルティアは僕が呆気にとられても、意に介さず淡々としていた。

「つまり、ファラ王女はリッド様と添い遂げるという覚悟を、彼女自身の意思で華族と……私達王族に示したのでしょう」

「えぇええええ‼」

この時、彼女から告げられた内容にかなり驚愕した。

ファラからはそんな意図があるという話を、一切聞いていなかったからだ。

彼女なりに、きっと色んな想いがあったんだろう。

「ははは、そういうことだ。婿殿、我が娘を改めてよろしく頼むぞ」

「は、はい。承知しております……」

エリアス王の言葉に頷きながら答えつつ、ファラの覚悟が嬉しくて顔が熱くなるのを感じていたのであった。