軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

披露宴・お色直し

神前式が終わると、次は本丸御殿で披露宴を行う為、僕達は神社の本殿から移動を開始する。

この際も沢山の華族と、レナルーテの住民達に注目を浴びており、僕とファラは思わず苦笑しながら足を進めていく。

やがて神社の外で僕達を待っていた馬車に辿り着くと、衣装を傷つけないように丁寧に乗車する。

「ファラ、手を出して」

そう言うと僕は、白無垢を纏っているファラに手を差し出した。

彼女は僕の手を取ると、嬉しそうに微笑んだ。

「はい、ありがとうございます」

「足元、気を付けてね」

僕の助けを借りながら、ファラが馬車に乗車すると何やらレナルーテの住民が集まっている場所から黄色い悲鳴が辺りに鳴り響く。

何事かと思い悲鳴がする方向に視線を向けると、ダークエルフの女性達が何やら満面の笑みを浮かべていた。

黄色い悲鳴を上げた彼女達の様子を見る限りでは、特に何か問題が起きた感じではないらしい。

とりあえず僕は、ニコリと微笑んだ彼女達に手を振った。

すると彼女達から、また黄色い悲鳴が辺りに響く。

何故? 僕がそう思い首を傾げると、隣に座っているファラが僕の手をグイっと引っ張った。

「むぅ。リッド様、駄目ですよ。我儘を承知で言いますけど今日は、私だけを見て欲しいです」

彼女は何故か少し頬を膨らませている。

そんなファラの仕草が可愛らしくて、僕は思わず笑みを溢しながら囁いた。

「あはは。あの人達には、手を振っただけさ。それに親睦会の時に言ったでしょ、僕の愛する人はファラだけだよ」

「あ、あう……」

答えを聞いたファラは、顔を赤らめてその場で俯いてしまう。

本当に彼女の反応は可愛らしい。僕が俯く彼女の横で微笑んでいる間に、馬車は本丸御殿に向けてゆっくりと動き始める。

そんな馬車の中で、ひっそりと護衛の為に一緒に乗車したアスナが呆れ顔を浮かべて小声で呟いた。

「私達も一緒に乗っているのだが……お二人の眼中にはないようだな」

「ええ、全くです」

彼女に同意するように頷きながら小声で答えたのはカペラである。

しかし二人の声は、僕達の耳には届いていないのであった。

神前式の会場となった神社から、本丸御殿に戻ってきた僕は馬車から降車すると降りようとしているファラに手を差し出した。

「ファラ、降りる時も足元に気を付けてね」

「はい、重ね重ねありがとうございます」

彼女が僕の手を取り、降車すると先に降りていたカペラが僕に話しかけてきた。

「リッド様、この後は披露宴の前にお二人共にお色直しをすると伺っております。従いまして、間もなく案内の者が来るかと存じます」

「うん、わかった。ありがとう、カペラ」

彼に答えていると、僕達が乗って来た馬車の後ろから続々と後続馬車がやって来る。

神社から本丸御殿に移動する時の列は、先頭がエリアス王と王族を乗せた馬車。

次に父上達が乗車していた馬車。

そして僕とファラが乗った馬車が三番目だった。

先に着いたエリアス王や父上達はこの場に姿が見えない。

恐らく本丸御殿の中に移動しているのだろう。

確認するように周りを見ていたその時、本丸御殿の中からメイド姿のダークエルフの女性達がこちらに向かってきていることに気付いた。

その内の一人には見覚えがあり、僕が身に着けている袴の着付けをしてくれたダリアだ。

彼女達は僕達に近寄ると、スッと丁寧に頭を下げる。

「リッド様、ファラ王女様、お待ちしておりました。これよりお色直しの為のお部屋にご案内させて頂きます」

「わかりました。よろしくお願いします」

答えた後、僕とファラはそれぞれの部屋に案内されることになる。

別れ際、僕はファラに声を掛けた。

「じゃあ、ファラ。また後でね」

「はい、リッド様」

ファラは満面の笑みを浮かべて、頷いてくれる。

彼女を見送ると、ダリアの案内で披露宴に向けたお色直しをする部屋に僕は向かうのであった。

部屋に移動すると、ダリアが袴の着つけが緩んでいないかなどを確認してくれた。

神前式は意外に立ったり座ったりと動きが多かったので、僕のお色直しは披露宴に向けて着崩れしていないかの確認作業が主になっている。

やがて確認と着付けの直しが終わると、ダリアが微笑んだ。

「リッド様、着つけの直しが終わりました。何か違和感はありませんか」

体を動かして軽く確認を行うと、頷いて笑みを浮かべた。

「……うん、大丈夫です」

「承知しました。何か違和感がありましたら、いつでもお申し付けください」

ダリアはそう言うと、ニコリと微笑んで会釈をすると部屋を後にする。

彼女が部屋を出ていくと、僕は袴が崩れないようにゆっくりとソファーに腰を下ろした。

「ふぅ……少し休憩できるね」

「お疲れ様でございます、リッド様」

答えてくれたのはカペラだ。

彼は僕の護衛として、お色直しの部屋にも同行してくれている。

「はは、ありがとう。でも、レナルーテにおける王族の婚姻っていつもこんな感じなの」

「いえ、今回の神前式と披露宴はかなり大規模で、レナルーテ中の有力華族が集まっております。リッド様とファラ王女様の繋がりが重要ということを、国内に知らしめているのでしょう」

「大規模で重要か……はは、それなら今後はより色々と融通が利きそうだね」

カペラの答えを聞いて僕はニヤリと笑う。

今回の神前式と披露宴が政治的な意味で行われていることは認識していた。

だけど、今回の規模がどの程度のものなのか。

その点についてはレナルーテの関係者でないとわからない部分だ。

しかし元関係者であった彼が『大規模』という程のものである。

今回の式の前と後では、レナルーテの華族達が僕達、バルディア家に対して向ける目と印象も大分違うだろう。

クリスも神前式と披露宴にはバルディア家の関係者として参加してもらっている。

従って僕達と彼女に強い繋がりがあると、レナルーテ国内により強く発信できる。

つまりは、クリスティ商会の影響力がレナルーテ国内でも広がるということだ。

その時、僕の表情の変化を見ていたカペラが呆れたように呟く。

「リッド様、少し悪い顔になっておられますよ。その表情は表では見せるべきではないかと存じます」

彼の指摘にハッとすると、笑みを浮かべた。

「ふふ、そうするよ。進言ありがとう」

答えを聞いたカペラは、頭をスッと下げて会釈する。

そして顔を上げると、話を続けた。

「リッド様、そういえば帝国から公爵家の方が来られておられましたが、バルディア家と親睦が深いのでしょうか」

彼の問い掛けに、僕は腕を組んで思案顔を浮かべると首を傾げて唸った。

「うーん、どうなんだろうね。その点については僕も実は詳しくないんだ。帝都にはまだ行ったことがないし、父上からも貴族同士の繋がりは追々教えるって言われているからさ」

バルディア家は辺境にあるので、理由もなく訪ねてくる貴族はまずいない。

現に僕が記憶を取り戻してからそれなりに日が経過しているけど、バルディア家を訪ねて来た帝国貴族はいないはずだ。

それに父上が帝都に定期的に行っているから、本当に余程のことが無い限り、訪ねてくる必要性も無いのだろう。

もし帝都外で他の貴族と会う必要性が発生しても、バルディア領は帝都の端に位置している。

来てもらうより、どこかで落ち合う方が時間もかからないはずだ。

まぁ、それだけ帝都から離れているから、父上も僕が色々していることに目を瞑ってくれているのだと思うけどね。

カペラに答えてから間もなく、部屋の外から父上の声が聞こえてきた。

「リッド、着付けの直しは済んだのだろう。少し良いか」

「はい。大丈夫です」

返事をした後、カペラが部屋のドアを丁寧に開ける。

そこには父上と、神前式でバルディア家側の席に座っていた帝国貴族の男性が笑みを浮かべて立っていたのだ。

思わず僕は父上に問い掛ける。

「父上、失礼ですがそちらの方は……」

「この機にお前にも紹介しておこうと思ってな」

父上がそう言うと、帝国貴族の男性が僕の前に一歩出てからニヤリと笑った。

「初めまして、私はエラセニーゼ公爵家当主の『バーンズ・エラセニーゼ』です。君の事は、ライナーから良く聞いているよ。型破りな息子に振り回されていると……ね」

バーンズと名乗った男性は、そのまま僕にスッと手を差し出す。

突然の出会いに戸惑いながらも、その手を握ると呟いた。

「それは……初耳です」

彼の手を握ったまま、僕は父上に視線を移す。

少しバツが悪そうな表情を浮かべた父上は、僕から視線を逸らしてしまった。

まぁ、振り回している自覚はあるけどね。

そのまま視線をバーンズに戻すと、僕は咳払いをしてから言葉を続けた。

「初めまして、バーンズ・エラセニーゼ公爵様。ライナー・バルディアの型破りな息子、リッド・バルディアです。しかし恐れながら我が子に振り回されるのは、親であれば誰もが通る道ではないでしょうか」

言い返されるとは思っていなかったらしく、バーンズは目を丸くしてから大笑いを始める。

「あはは、確かにそうだ。我が子に振り回されるのは、親であれば誰しも当然か……ふふ、あはは。これはライナーが振り回されるわけだな」

バーンズは楽しそうに笑いながら視線を父上に移す。

父上は一連のやり取りに、額に手を添えてやれやれと首を横に振った。

「バーンズ、あまり余計なことは言わないでくれ」

「あはは、別に良いじゃないか。それに私の子供達も似たようなものだしな」

父上とバーンズのやり取りから、二人の仲の良さが伺える。

しかし僕は『バーンズ・エラセニーゼ』という名前を、聞いたことがあるような気がしてならない。

どこで聞いたのだろうか? と思案したその時、ハッとして戦慄が走る。

そして僕は、恐る恐るバーンズに問い掛けた。

「あ、あの、つかぬことをお伺いしますが、バーンズ公爵様には僕と年齢が近いお嬢様がいたりするんですか?」

「うん? ああ、いるぞ。『ヴァレリ』という名前の娘でね。確かリッド君と同い年だよ。君が帝都に来ることがあれば紹介しようじゃないか」

「……‼ しょ、承知しました。ありがとうございます」

会釈しながらお礼を伝えるも、僕は内心では激しく動揺していた。

前世の記憶にある乙女ゲーム、『ときレラ!』の登場人物であり、同時に僕がもっとも近づきたくない相手……。

悪役令嬢『ヴァレリ・エラセニーゼ』の父親に、こんなところで出会うなんて思いもしなかった。

それに父上と悪役令嬢の父親の親交が厚いなんて……まるで将来の断罪を暗示した『フラグ』じゃないか。

僕が顔を上げると、バーンズはニコリと微笑んだ。

「ああ、それと私を呼ぶときはもっと気軽に……そうだね、『バーンズ』とでも呼んでくれ」

「は、はい。バーンズ様でよろしいでしょうか」

「うん。じゃあ、それで行こう」

気安くしてくれるのは嬉しいけど、なんだろうこの何とも言えない感じ。

バーンズとの会話で僕の背中に嫌な汗が流れ始める。

その時、部屋の外からダリアの声が響いた。

「リッド様、ファラ王女様のお色直しが終わりました故、部屋を移動して頂いてもよろしいでしょうか」

「はい、わかりました」

僕が返事をすると、父上とバーンズが顔を見合せる。

「もうそんな時間か。バーンズ、明日まではレナルーテに居るのだろう」

「ああ、だけど明日の昼には帝都に向けて出発するつもりだよ」

父上は彼の答えに頷いた後、僕に視線を向けた。

「リッド、お前も今後は帝都のことでバーンズの世話になることもあるだろう。急で悪いが、明日の午前中は時間を空けて置けよ」

「……承知しました」

「じゃあ、リッド君。詳しい話はまた明日しようね」

僕が頷いたことを確認すると、父上とバーンズは楽しそうに話しながら部屋を後にした。

彼らが居なくなると僕は緊張の糸が切れて、その場で大きなため息を吐いた。

「はぁー……よもやよもやで寝耳に水。これぞ虚を衝かれたって感じだなぁ」

「リッド様、どうかされましたか」

「あ、いや……なんでもない、大丈夫だよ。それより、ファラが待っているから早く行かないとね」

とりあえず、バーンズの件は明日考えよう。

今はそれよりも折角の披露宴をファラと楽しむべきだ。

カペラに答えた僕は気持ちを切り替えて、彼女の待つ部屋に急いで向かうのであった。