軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迎えに出発

「いよいよ、今日出発するのね」

どことなく寂しそうに、でも嬉しそうな表情を浮かべる母上に笑みを浮かべて僕は答えた。

「はい、母上。やっとファラを迎えに行くことが出来ます」

僕は今、母上の部屋にレナルーテに出発する前の挨拶に来ている。

レナルーテから日程の知らせの親書が届いたのは、『華燭の典』を了承する旨の親書をバルディアから送り返して程なくだった。

思った以上に早く行けることは喜ばしい限りだ。

だけど、親書の中には一点気掛かりな文面の追記もあった。

その時、僕の隣にいたメルが嬉しそうな笑みを浮かべて母上に話しかける。

「えへへ、ははうえ。わたしも、こんかい、レナルーテにいってくるの。だから、かえってきたらたくさんおはなしするね」

母上はメルの笑みにニコリと微笑み頷いた。

「ええ、ライナーとリッドからも聞いたわ。本当は私も行きたかったのだけど……向こうの方達に失礼のないようにね」

「はい、ははうえ」

嬉しそうな笑みを浮かべて頷くメルに、僕も母上も思わず顔を綻ばせる。

そう、レナルーテから今回届いた親書の中にあった気掛かり部分とは、妹である『メルディ・バルディア』も是非、華燭の典に参列してほしいという内容だ。

僕と父上は、あまり乗り気はしなかったけど、さすがにレナルーテの国王から直々の親書に『来てほしい』とあれば、無下にすることも出来ない。

止むなく、メルも今回はレナルーテに一緒に行く事になったのである。

父上と僕が、メル本人にこのことを伝えると「みんなといっしょにレナルーテにいって、ひめねえさまにあえるの⁉ やったぁー‼」と、その日の妹はおおはしゃぎだった。

この時、メルは父上に満面の笑みで抱きついている。

その結果、当時の父上が顔を綻ばせたのは言うまでもない。

母上はメルが頷いたのを確認すると、視線を僕達の隣に控えていたメイドのダナエとディアナに移す。

「貴方達もレナルーテに行くと聞きました。メルのことをどうかお願いしますね」

「承知しております、ナナリー様」

二人は母上の言葉に畏まった面持ちを浮かべる。

そして、ディアナが答えると二人同時に綺麗な所作でペコリと敬礼した。

今回のレナルーテ訪問に当たり、僕の従者であるディアナはメルの護衛も兼ねている。

状況に応じて、カペラとディアナの二人は僕とメルそれぞれの護衛に付く予定だ。

彼女達の様子に母上が安堵の表情を浮かべた時、部屋のドアが優しく叩かれた。

「ナナリー、私だ」

「はい、どうぞ」

母上が返事をするとドアがゆっくりと開けられ、父上と執事のガルン。

そして、サンドラと医師のビジーカもやってきた。

僕とメルが母上の側に居た事で、先程まで談笑していたことを察した父上が少し気まずそうな表情を見せる。

「む……すまない。取り込み中だったかな」

「いえ、お気になさらず。僕もメルもレナルーテに出発する前に母上にご挨拶をしていたところです」

「うん、ははうえにさっきいってくるっていったよ」

父上は僕とメルの答えを聞くと「そうか」と少し顔を綻ばせる。

やがて、ダナエとメルに視線を向けた。

「メル、それにダナエ。少し、ナナリーと話したいことがあるのでな。先に、木炭車のところに行っておいてくれ」

「はーい、ちちうえ」

「承知しました……あ、メルディ様、そんな一人で行かないで下さい‼ で、では、失礼致します……‼」

メルは父上に答え、ペコリと頭を下げると部屋のドアに向かって移動を始める。

一方のダナエは、父上に頭を下げている間にメルが移動を始めてしまったのですぐに後を追っていくのであった。

彼女達の後ろ姿に、この場にいる皆の顔が思わず綻んだ。

その中、父上が咳払いをしてから母上に視線を向ける。

「……具合はどうだ」

「ふふ、そちらにいるサンドラとビジーカのおかげでとても良いですよ。私としては、レナルーテで行われる『華燭の典』に行ける程だとは思うんですけどね」

母上は二人に視線を向けた後、父上に不満顔を見せた。

「母上、その件はもう何度も僕と父上と相談したじゃありませんか」

父上の援護をするように優しく言葉をかけるが、母上はメルのように少し頬を膨らませた。

「わかっています。それでも、リッドの晴姿を見られないのは悔しいではありませんか」

ファラを迎えに行くことに合わせて、レナルーテ側が『華燭の典』の場を用意することは母上にも当然伝えている。

その際、母上は「それこそ、私がリッドの母として参加しなければなりませんね」と参加する気満々だったのだ。

父上と僕が必死で制止するも、「以前より、体調も良くなっておりますから問題ありません」と聞かない。

サンドラやビジーカにも説得に協力してもらい、ようやく諦めてくれたという感じだ。

少し拗ねた様子を見せる母上に、父上が優しく諭すように呟いた。

「わかっているだろう、ナナリー。私はお前の事が心配なのだ。『華燭の典』はバルディア領と国同士の繋がりとしては重要ではあるが、私にとって本当に大切なのはナナリー、君と家族だ」

「ライナー……」

母上がハッとして呟くと、視線を父上に向ける。

父上はそのまま、言葉を続けた。

「それに、リッドがいずれ大きくなればその時に改めてバルディア家としても『婚礼』の場を用意するつもりだ。その時を楽しみに待っていて欲しい」

「……わかりました。リッドとファラ王女の婚礼を楽しみにしています」

父上の言葉に頷いた母上は、ニコリと微笑みその視線を僕に移す。

期待に満ちたその視線に、僕は思わず苦笑するのであった。

「あはは……」

その後、サンドラが母上の治療に備えてバルディア領に残ること。

ビジーカは、僕達とレナルーテに同行して、現地で建設が進められている研究所の状況の確認。

そして、レナルーテに居ながら母上の治療に協力してくれている、ダークエルフのニキークと情報共有をしてくることの説明を行う。

やがて、説明が終わる頃、僕は懐から出した懐中時計で時間を確かめると父上に話しかけた。

「父上、そろそろ出発の時間です」

「うむ。では、ナナリー、行ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ。あ、そうだわ。リッド、こちらをエルティア様とリーゼル様にお渡して」

母上はそう言うと、近くに置いてあった二通の封筒を僕に差し出した。

「必ず、二人に直接お渡しするようお願い」

「承知しました。僕から、必ずお渡しするように致します」

母上に答えながら、僕は目の前に差し出された二通の封筒を受け取る。

そして、母上に「行ってきます」と元気に答え、部屋を父上達と共に後にする。

その後、木炭車が用意されている場所に辿り着くと、待っていたメルから「ちちうえもにいさまもおそーい」と苦言を呈され僕達は苦笑するのであった。