軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッド、カペラに伝える

父上との打ち合わせが終わった翌日……。

僕は宿舎の執務室ですぐにカペラと話し合いを行うことにした。

念のため、ディアナにも隣に控えてもらい立ち会ってもらうことにしている。

そして今、僕は机に座りながら、正面に姿勢を正して立っているカペラに鋭い眼差しを向けていた。

「さて、カペラ。こうして、厳粛な雰囲気の中で話をしている理由はわかっているよね」

「はい。私がエレンさんに結婚を申し込みたいとお伝えした件かと存じます」

無表情のままに、彼は丁寧にペコリと頭を下げ敬礼を行う。

そんな彼に、僕は厳しい口調で問いかけた。

「まずは、結論から伝えようか。カペラがエレンに結婚を申し込んで、彼女が受けるのであれば、二人の結婚は祝福する。ただし、色々と話してもらうよ。レナルーテの……『ザック・リバートン』の目的をね」

「承知しました。それは、当然でございます」

あまりに彼が素直に頷くので、僕とディアナは呆気に取られてしまう。

しかし、彼はそんな僕達を意に介さず淡々と説明を始めた。

レナルーテの暗部である『忍衆』の頭目である『ザック・リバートン』の目的。

それを聞いた時、僕は唖然とする。

彼の目的は、僕とファラとの婚姻を傍で見守ることに加え、影からファラを守ることだそうだ。

その理由に関しても彼は続けて話してくれた。

「頭目は、リッド様とファラ様が婚姻後、仲睦まじくなることこそが将来的にレナルーテの為になると申しております。正直、私個人としては懐疑的な部分はありましたが、リッド様のお力を傍で見させていただき頭目の言ったことに間違いはないと確信致しました」

「つまり、僕をより深く見定める為だった……というわけかい。それにしては、随分と手の込んだことをしたね」

彼に答えながらも、僕は内心で(まぁ、気持ちはわからなくもないけど)と呟いていた。

ファラとの顔合わせは『ノリス』の一件もあり、レナルーテ国内の華族内ではそれなりに有名だろう。

ファラと婚姻後、レナルーテとの関係性をより優位にする意図もあり、僕もそれなりに実力を示した。

その結果の一つがザックの僕に対する評価であり、カペラを従者として差し出した原因ということだろう。

カペラは僕の考えていることを見透かすように、ニコリと自然な笑みを浮かべて微笑みながら問い掛けに答えた。

「それだけ、リッド様の可能性が計り知れないということでございましょう。それに、私自身もリッド様の行く末を楽しみにしている一人であります」

「はぁ……なるほどねぇ」

カペラが僕の従者になった時から、今までの経緯と言動を考えれば彼の言葉に今のところ嘘はないと思う。

僕は自身の考えを確認するように、僕の隣に静かに控えていたディアナに視線を向けて問い掛ける。

「ちなみに、ディアナはどう思う?」

彼女は、僕の問いかけを聞くとカペラをチラリと一瞥する。

やがて、凛とした声を重々しく響かせた。

「……カペラさんの言葉をすべて鵜呑みにするわけには参りません。しかし、『ファラ様との顔合わせ』の一件から『リッド様の可能性が計り知れない』という判断をレナルーテの暗部が下した可能性は高いでしょう。その上で、警戒しながらもリッド様の様子を『友好的』に窺っていると存じます」

「やっぱり、そうだよね……」

僕はディアナの答えに、頷きながら目を瞑り額に手を添えて思案する。

彼女の言う通り、カペラの言動に嘘はなくても、鵜呑みにすることは出来ない。

彼の後ろにいる……ザックが何を本当は考えているのかが問題でもある。

そして、今までの話から考察するに、ザックの目的はバルディア家の情報を得る為ではない。

僕を監視する目的で、レナルーテの暗部から特に優秀なカペラが抜擢されたということだろう。

つまり、僕がカペラに行う待遇が、レナルーテに対する一種のメッセージにもなるということにもなるはずだ。

ひとしきり考えた僕は「ふぅ」と息を吐くと、カペラに視線を向ける。

「カペラ、君に『辺境特務機関』の管理者を任せる」

「……私が『管理者』でよろしいのですか」

結婚の了承、レナルーテの情報を話す時にも無表情で淡々としていたカペラの表情が、初めて怪訝な様子で曇る。

僕の隣に控えていたディアナもすかさず反応した。

「リッド様、僭越ながらそれは如何かと存じます。情報の集まる中枢に、カペラさんを立たせることは『レナルーテ』に情報が筒抜けになる恐れがあります」

「ディアナ、だからこそだよ。情報が洩れることになれば最初に疑われるのはカペラだ。それに、何も役職のない方が色々と動きやすいだろうからね。あと、特務機関の子達にカペラを見張ってもらうのもありだと思う。怪しい動きがあれば、僕やディアナにすぐに伝えて欲しいとね」

ここまで全体が見えて来たなら、彼の潜在能力や可能性を十分に発揮する役職を与え、その上で監視をする方が良い。

特務機関に所属している獣人族の子達にも、ある程度の事情を伝え監視をお願いすれば何とかなるだろう。

僕はカペラに視線を移すと、言葉を続けた。

「辺境特務機関の管理者は、レナルーテで言えば、『ザックさん』の立ち位置になると思ってくれればいい。特務機関で集まった情報を僕がすべて確認する時間もないからね。元暗部の君なら適任でしょ」

「承知しました。その責務、必ず果たしてみせます」

カペラは僕の言葉を聞くと畏まり、最敬礼の姿勢で一礼を行った。

僕は、そんな彼の様子にニコリと微笑む。

「うん。よろしくお願いするよ。ただね……」

僕は言葉をあえて途中で止め、魔力を殺気と共に全身から溢れ出させた。

結果、部屋のあちこちから何やら軋むような音が聞こえて来る。

しかし、僕は微笑みを崩さずに言葉を続けた。

「絶対に今後、彼女を守り通すこと。エレンを泣かすような真似をしたら許さない。勿論、バルディア家を裏切る行為もね。後は……言わなくてもわかるよね」

「……承知しております」

僕の威圧に対しても、カペラは淡々としている。

ディアナも、凛と立ったままだ。

ふむ、さすがはレナルーテの元暗部。

この程度じゃ、脅しにもならないようだ。

だけど、しないよりは良いだろう。

彼の返事を聞いた僕は、すぐに魔力を引っ込めた。

「ふふ、頼りにしているよ、カペラ。それから、エレンに結婚を申し込んで了承をもらえたらすぐに僕にも教えてよ。ちゃんと祝福するからね」

「ありがとうございます。エレンさんもその時は、喜ぶと思います」

こうして、カペラの結婚と特務機関の情報管理の問題はとりあえず解決した。

まぁ、まだまだ手を加えないといけないところはあるだろうけどね。

最初から、完全を目指す必要はない。

まずは終わらせて、問題点を洗い出し再調整をした方が良いだろう。

その時、執務室のドアが激しくノックされる。

僕が怪訝な表情で返事をすると、狼人族のシェリル、猫人族のミア、兎人族のオヴェリアの三人が血相を変えて入って来た。

「リッド様、ご無事ですか⁉」

彼女達は同時に僕を心配した表情浮かべ、周りを見渡し警戒している。

僕は、彼女達の言動の意図が理解出来ず問い掛けた。

「えーと、どうしたのかな。皆、何か急用かな」

「い、いえ、凄い気配を感じたので敵襲か何かかと……」

何事もない執務室の様子に、三人は顔を見合わせながら少し決まりの悪い顔を浮かべている。

そんな彼女達を見て、ディアナはやれやれと首を軽く横に振った。

僕は、彼女達の言動に感謝しつつも思わず苦笑する。

「あはは……ごめん。それは多分、僕だね」

「……え?」

その後、彼女達にはカペラとディアナに交渉事で魔力による威圧が効くかどうかを試していた、と誤魔化した。

さすがに、カペラに本気で脅しを掛けたとは言えない。

ことの次第を聞いた彼女達は、三人揃って呆れたような表情を浮かべていたのは言うまでもない。

僕はこの時、魔力解放は人騒がせになるので交渉に使うべきではないな、と思うのであった。

ちなみに、カペラとエレンが二人して宿舎の執務室に結婚の報告に来たのは、なんと話し合いの翌日である。

何とも、行動の早い事だ。

この時、エレンの幸せいっぱいの顔と、無表情で淡々としたカペラの顔の対比は中々に面白かった。

だけど、一番驚いたのは、僕が無表情のカペラに言葉を掛けた時のことだ。

「おめでたい話なんだから、もっと笑顔になればいいのに」

この時、僕の言葉に反応したのはカペラではなく、首を傾げたエレンだった。

「リッド様、何を言っているんですか? カペラさんは、ずっと満面の笑みですよ」

「え……?」

彼女の一言に僕は思わず唖然とするが、その言葉はどうやら本当らしくエレンの言葉に続くように、彼は無表情ながらに照れくさそうな雰囲気を出していた。

曰く、エレンの目に映っているカペラは、とても表情豊からしい。

愛は偉大ということだろうか。

しかし、結婚が決まり幸せそうな二人を見たディアナが、何気にショックを受けてどんよりと俯いていたことに、僕は気付かない振りをするのであった。