軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの報告

町から屋敷に戻って来た僕は、すぐに父上のいる執務室を訪ねた。

父上には、木炭車完成に伴う試乗と懐中時計の件も事前に伝えている。

その為、僕の帰りを待っていたようで、すぐ部屋に通してくれた。

そして、いつものように僕と父上は机を挟んでソファーに腰を下ろす。

その時、ガルンが僕と父上に淹れてくれた紅茶を机に置いてくれたので、僕は彼に視線を向ける。

「ガルン、いつもありがとう」

「とんでもございません」

彼は僕にニコリと微笑むと、僕達の会話に邪魔にならないように控える。

場が落ち着いたところで、父上が僕に視線を向け、おもむろに呟いた。

「さて、聞かせてもらおうか。『木炭車』の完成度はどうだった?」

「はい、予想以上の完成度です。後は、道の整備、燃料の補給場所を確保すれば圧倒的な物流改革を起こせると思います。道の整備については当分、土の属性魔法を使えば何とかなるでしょう。すでに、獣人族の子供達で使えるように訓練もしております」

僕は答えながら不敵な笑みを浮かべる。

木炭車を開発した理由は勿論、母上の治療薬の原料である『ルーテ草』の安定確保が一番の目的だ。

だけど、それだけじゃない。

木炭車の可能性は、少し知恵があるものであればすぐにわかることだろう。

それこそ、国相手に交渉出来る材料にもなるはずだ。

物流改革と魔法、この二つを組み合わせることで可能性は計り知れないことになる。

まぁ、木炭車を開発した理由は他にもまだあるんだけどね。

父上は僕の答えを聞いて、ニヤリと笑みを浮かべた。

「ふむ、いよいよ投資を回収する時期になってきたということだな。リッド、ちなみに木炭車とやらを『運転』したのだろう?」

父上の問い掛けに、僕は思わずバツの悪い顔を浮かべる。

「あぁー……実は、僕は運転できなくて、試乗はディアナにしてもらったんです」

「……? 何故だ、あれだけ楽しみにしていたではないか」

実は父上に木炭車が完成したことを伝えた時、「木炭車を見事運転して、乗り心地までしっかりとご報告いたします‼」と大見得を切っていたのだ。

父上の訝しい視線に僕は耐え切れず、ボソッと呟いた。

「実は……なくて……」

「ん? なんだ、はっきり言わんか」

問い掛けに僕はやけくそ気味に答える。

「で、ですから、身長が足りなくて運転できなかったんです‼」

「なに、身長……だと?」

怪訝な面持ちを浮かべた父上は、ゆっくりと僕の姿を凝視する。

そして、ハッとすると目元を手で覆い隠し俯いてしまう。

そのまま、肩を震わせていたが、やがて耐え切れずに今度は上向くと大声で笑った。

「あははは、そうか、身長がまだ足りなかったか。クッククククク、さぞかしその姿は滑稽だったであろうな。いやぁ、私もその場にいたかったぞ」

「……父上、笑い過ぎです。少し失礼ではありませんか」

そこまで笑わなくて、良いと思うな。

僕は父上が大笑いする姿をみて、頬を膨らませてそっぽを向いた。

父上は、苦笑しながら話を続ける。

「いやぁ、すまん、すまん。しかし、お前の子供らしい話題は久しぶりだったからな。大いに笑ってしまったのだ、許せ。それより、ディアナ。木炭車を試乗して感じことを聞かせてくれ」

僕に平謝りをしながら、父上は視線をディアナに向けた。

彼女は僕を一瞥したあと、丁寧な所作で会釈をする。

「人や馬の力を使わず、『木炭』を『力』として動く木炭車の可能性は素晴らしいと存じます。ですが……」

父上に答えながら、彼女は途中で僕を再度一瞥する。

父上もその様子に気付き、問い掛けた。

「ですが……どうした?」

「僕の事は気にしなくていいから感じたことを素直に言ってほしい」

どうやら、ディアナは僕のことを気にかけてくれたようだ。

でも、僕より彼女が感じたことのほうが説得力はあるだろう。

僕がニコリと微笑むと、彼女は再度会釈をしてから話を続けた。

「では、僭越ながら申し上げます。動かすまでに必要な時間、初動、加速などを考えると、迅速な活動には不向きでしょう。活動内容によっては、馬にまだ分があるかと。以上の内容から現状では、使い方は限定されると存じます。しかしそれでも、操作方法は比較的簡単でしたので、馬とは違い誰でも短期間で扱えるようになる点なども考えれば、今後の可能性という点においては目を見張るものがあると存じます」

父上はディアナの話を聞き終えると、険しい面持ちを浮かべて今度は僕に視線を向けた。

「なるほど……リッド、お前はディアナの意見をどうとる?」

「そうですね。鋭い指摘と観察眼は流石だと思います。僕も概ね、彼女の意見と同じですね。木炭車の性質上、迅速な対応が必要となるような『軍事行動』には不向きです。ですが、最初にお伝えした通り、道を整備して物流用と割り切って使うべきでしょう。後は……交渉の材料でしょうね」

『交渉の材料』という言葉を聞いた父上はニヤリと笑みを浮かべた。

恐らく、その点は父上の方が良く分かっているのだろう。

僕は不敵な笑みを浮かべて、さらに話を続ける。

「この『木炭車』を見せれば、聡い者はすぐにその可能性に気付くでしょう。そして、『木炭車』の利用に伴う道の整備、燃料補給場所の設営などをこちらで受注して請け負えば、莫大な利益をバルディア領にもたらします」

「ふむ。中々に良い案だ。それで、お前が考える最初の交渉相手はどこだ」

恐らく父上はわかって聞いているのだろう。僕は間髪入れずに答える。

「決まっているではありませんか。母上の治療薬の原料の産出国である『レナルーテ』一択です。それに、あの国とバルディア領は僕とファラによって、婚姻の繋がりもあるので友好的な交渉をしやすいでしょう。実績を作った後に、帝都と帝国内で私達に友好的な領地に声をかければよろしいかと存じます」

「ふふ、そうだな。その方向で問題ないだろう。では、早速レナルーテのエリアス陛下に書状を送るとしよう。これから、忙しくなりそうだ」

父上は僕の答えを聞いて、楽しそうな笑みを浮かべている。

でも、僕は気になっている事を呟いた。

「ただ……気掛かりなこともあります」

「なんだ、言ってみろ」

「はい。バルディア領とレナルーテの間で、独自に動くことにより帝国内においてバルディア領の立場がどうなるのか。この点については、僕ではわかりにくい部分です。父上はどうお考えでしょうか」

帝国内におけるバルディア領の立場、この点については帝都に行けない僕には正直なところ見えにくい部分であり、懸念材料でもある。

言ってみれば、父上の政治的手腕に期待するしかない。

しかし、父上は僕の問い掛けに、不敵な笑みを浮かべた。

「案ずるな。私も、今まで何もしていなかったわけでない。その点についての根回しはすでに終わっている。バルディア領は辺境だ。それ故、国境が隣接している国に対しては、独自の裁量権を認められている部分がある。今回は、その範囲内の活動とする予定だ。まぁ、ものは言いようというやつだな」

「承知しました。流石ですね、父上」

僕は頷きながら、ニコリと微笑んだ。

しかし、根回しまで終わっていると思わなかった。

ここ最近、父上がよく帝都に行っていたのはその交渉の為だったのかもしれないな。

その時、父上が咳払いをして、少し目つきが変わった。

「リッド、それと……例の時計はどうなのだ? 試作品が完成したのだろう」

「はい。お持ちしております」

僕はおもむろに頷き、懐に手を入れ『懐中時計』を取り出して、机の上に丁寧に置いた。

そして、父上に視線を向ける。

「これが、『懐中時計』です」

「ほう……確かに、これであれば携帯することが可能だな。では、使い方を説明してもらおうか」

「畏まりました」

その後、僕は父上に懐中時計の使い方。

注意点などを詳しく説明していく。

父上は使い方をすぐに理解して、量産体制について尋ねてきた。

「量産体制はまだ整っていません。ですが、指示はしておりますので、もうしばらくお待ちください。それより、両陛下にお渡しする分を作成して献上したいと考えておりますが、いかがでしょうか」

「勿論、それもすぐに開始しろ。両陛下もお喜びになるだろう。それに……両陛下がお持ちになった新しい時計。それも携帯出来る物を、中央の貴族が欲しくないわけがないからな。ふふ」

父上がニヤリと笑みをうかべ、威圧感たっぷりに怪しく笑う。

僕もそれに、会わせるようにニヤリと笑った。

「ふふ、父上も悪いですねぇ」

「馬鹿者……誤解を招く言い方はするな。我々は『商品に見合った価格』で貴族に販売するだけだぞ。それと、お前のことだ。クリスに渡す分も用意してあるのだろう? ならば、すぐにでも打ち合わせをして動け。私もすぐに動き出す」

僕と父上は、前世の記憶にある時代劇に登場した、さながら悪代官と越後屋のような不敵で黒い笑みを浮かべながら、その後も打ち合わせを続けるのであった。