軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの心配・ライナーの煩慮

その日、ライナーは執務室で書類作業に追われていた。

その中には、もうしばらくすれば完成するファラ・レナルーテを迎え入れるための別館についての資料や請求書。

その他、鉢巻戦の行事化における有効性と提案書などもある。

なお、提案書はクリスティ商会からであった。

領内における運営は今のところは問題ない。

しかし、今の領地運営では収入より支出が多い為、長期的な目でみると資金が底をつく可能性もある。

ライナーは、目を揉みながら天を仰ぐ。

「ふぅ……このところ、色々と物入りだったからな。勝算がある上でしているとはいえ、息子にここまでの投資をしたと知られれば、帝都の貴族共から『親馬鹿』と揶揄されるな」

ライナーは様々なことを思案しながら、紅茶を飲もうとティーカップを手に持った。

その瞬間、『パキ』と乾いた音がなり、ティーカップの持ち手だけがとれてしまう。

ライナーが思わず怪訝な面持ちを浮かべ、割れた持ち手を凝視したその時、執務室のドアがノックされる。

あまりのタイミングにライナーは、ハッとして少し驚きの表情を浮かべるが、すぐに咳払いをして返事をすると、部屋にガルンが入室してきた。

「ライナー様、リッド様が至急、メルディ様の件でご面会をしたいと仰せでございます。如何いたしましょう」

「メルディの件だと……? わかった。すぐに通せ」

「承知しました」

一礼するガルンに、ライナーは割れたティーカップを見せながら紅茶の替えと、念のためナナリーの様子も見てきてほしいと伝えた。

彼は、苦笑しながら会釈すると紅茶を片付けて、執務室を後にする。

執務室に一人になったライナーは、先程持ち手が割れたティーカップのことを思い出し、とても嫌な予感を覚えるのであった。

僕は宿舎でメルの属性素質の確認をすると、すぐに屋敷に戻った。

そして、ガルンを通して、父上に至急話したいことがあると伝える。

その後、確認が取れたので、今まさに執務室に僕とディアナの二人で入室するところだ。

「父上、失礼致します」

「うむ。ガルンから、メルの件で至急話したことがあると聞いているぞ」

父上は、事務机から立ち上がり、いつものようにソファーに移動して腰掛ける。

僕も、机を挟んだ対面上のソファーに腰を下ろす。

ディアナは、立ったまま僕の隣に控えている状態だ。

父上は僕に視線を向けると、少しおどけた様子で僕に問い掛ける。

「メルのことで至急の用件とはどうした? そういえば……今日はメルの属性素質を調べると言っていたな。まさか、お前と同じように全属性の素質を持っていたわけではあるまい」

「えーと、察しが良いですね、父上。まさにその通りなので、急ぎご報告に参りました」

僕の答えに父上は眉間に皺を寄せ険しい面持ちを見せる。

やがて、父上は眉間の皺を手で揉みながら俯くと「さっきの持ち手はこれか……」と重々しく呟いた。

僕はきょとんとして思わず問い掛ける。

「えっと、父上、失礼ながらその『持ち手』の件というのは……?」

「……何でもない。気にするな。それよりも詳しく聞かせろ。メルが、お前と同じ全属性の素質持ちというのは間違いないのだな?」

父上の鋭い眼差しに、僕はゆっくりと頷いた。

「はい、それは間違いありません。僕と此処にいるディアナ。それに此処にはいませんが、サンドラ、エレン、カペラも確認しております。勿論、全員に口止めした上で、メルにも属性素質の口外は『火』『水』『雷』の三属性だけにするように強く言っております」

「そうか、わかった。しかし……メルまで全属性の素質を持っているとはな。我が子供達ながら末恐ろしいものだ」

メルが全属性の素質を持っているとは父上も思っていなかったのだろう。

額に手を添えながら呆れ顔を浮かべている。

でも、その声からは少し嬉しさのようなものも感じる。

そんな父上の姿に僕は苦笑しながら答えた。

「ふふ、でもメルはとても喜んでいましたよ」

「はぁ……まぁ、メルが喜んでいるのなら良しとしよう。だが、そうなると魔法の教育は必須だな。やはり、お前とサンドラの二人に本格的にお願いするしかないか」

父上は呆れ顔のまま、心配そうな声色で呟いた。

僕は、そんな父上を安心させようと胸を張って自信満々答える。

「畏まりました。メルも喜ぶと思います。兄として責任を持って、メルに魔法を教えますね」

「……その自信が心配の種なのだがな。お前とサンドラが魔法を教えると、メルすら『型破り』になりそうだ。ナナリーが聞いたら目を丸くするだろうな」

額に手を添えながら、父上は少し遠い目をしながら呟く。

しかし、心配の種とかメルを『型破り』にするとか、もう少し言い方があるのではないだろうか?

さすがの僕も、少し険しい顔を浮かべて答えた。

「父上は僕をなんだと思っているのですか? その言い方は少し酷いですよ。それに、母上はきっとメルの全属性の素質にお喜びになると思います。あ、それと別件になりますが今度、父上と母上にお願いしたいことがあります」

「お願いしたいこと?」

父上は怪訝な面持ちを浮かべている。僕はニコリと微笑み説明を続けた。

「はい。僕とメルが全属性の素質を持っている理由を探る為に、父上と母上の属性素質も調べさせてほしいのです」

「……詳しく話せ」

その後、父上に獣人の子供達の属性素質を調べた際、種族によって偏りがうまれたこと。

合わせて、サンドラ達との話した内容を説明する。

僕やサンドラ達の予想が正しければ、父上と母上の属性素質が僕とメルの素質に大きく関わっているだろうということだ。

父上は聞き終えると、険しい面持ちを浮かべる。

「ふむ、なるほどな。しかし、私の属性素質は『火』だけのはずだぞ? ナナリーに至っては魔法を使えん。なんの属性素質を持っているかも定かではないぞ」

「はい。だからこそ、調べてみる価値があると思います。それに、属性素質鑑定機は手を置くだけですから、母上の負担にもなりません」

父上は僕の答えを聞くと思案顔を浮かべて俯く。

その時、僕の隣に立っていたディアナが「僭越ながらよろしいでしょうか?」と呟いた。

父上が「どうした」と聞き返すと、彼女はおずおずと答える。

「大変失礼ながら、私もライナー様とナナリー様の属性素質はいずれ調べるべきと存じます。私も属性素質は『火』しか持っていないと思っておりましたが、先日『雷』と『氷』を持っていることがわかり驚愕致しました。今後、バルディア領において魔法の発達を推進するのであれば、リッド様とメル様が全属性の素質をお持ちになられた理由は、確認すべきと存じます。……出過ぎたお言葉をお許しください」

ディアナは言い終えると同時に、その場で一礼する。

父上は「ふむ……」と小さく頷いた。

彼女の助け舟に乗るように、僕も話を続ける。

「父上、属性素質の解明は魔法の発展に欠かせません。お願いします」

「……わかった。そもそも、しないとは言っておらん。だが、属性素質の解明とは大きくでたな、慎重に行えよ」

「はい‼ 父上、ありがとうございます」

僕は満面の笑みを浮かべて、頭を下げる。

顔を上げると、父上は何やら照れくさそうにするがすぐに厳格な面持ちを浮かべた。

その時、執務室のドアがノックされ父上が返事をすると、ガルンが入室する。

そして、僕達の前に紅茶を置いてくれた。

彼はその後、父上にそっとなにやら耳打ちするとニコリと微笑み、執務室を後にする。

何を耳打ちしたのだろうか? それから間もなく、父上が紅茶を一口飲んでから僕に視線を向けた。

「そうだ、属性素質の件も重要かもしれんが、もうしばらくで新屋敷が完成するぞ。そうなれば、ファラ・レナルーテ王女がお前の妻として嫁いでくる。そうなれば、お前も帝都に行く事になるからそのつもりでいろ。今回は前回のような替え玉は効かんぞ」

「あ、はい。畏まりました。帝都ですね……って、えぇ⁉ ぼ、僕が帝都にいくんですか‼」

あまりに予想外のことに僕は思わず声を荒げてしまう。

その様子に、父上は訝しい面持ちを浮かべた。

「……当然だろう。お前の妻になるとはいえ、ファラ・レナルーテは隣国の王女なのだぞ? 帝国の貴族に嫁ぐ以上、皇帝に挨拶に行くのは当然の礼儀だ。それに、レナルーテ側も多少なりとも、彼女に外交的な期待をしていることもあるだろう。互いの面子を立てるためにも必要なことだ。それとも何か、王女にだけ行かせてお前は行かないとでも言うつもりか?」

「い、いえ、決してそのようなつもりではありません。取り乱して申し訳ありませんでした」

僕は父上にペコリと頭を下げ、一礼する。

でも、確かに僕の元に嫁いでくるとは言え、ファラは隣国の王女だ。

そうなれば、帝都にいる皇帝に挨拶にいくのは考えてみれば当然のことだろう。

しかし、これは完全に失念していた。

僕の中で帝都に行く機会があるとすれば、帝都の学園に通うことになる一六歳前後だと思っていたのである。

何よりの問題は、前世の記憶にある『ときレラ!』において、僕を『断罪』に導く悪役令嬢やメインヒロイン、それに攻略対象の皇子達も帝都にいることだ。

当初は彼らと仲良くなることで断罪回避も考えていたけど、今となっては様々なことを動かしているので、むしろ近寄りたくない……僕にとってはイレギュラーな存在となっている。

他にも気になる大きな懸念材料もあった。

それは、僕の妻となるファラが『ときレラ!』のゲームの中に存在していなかったことだ。

その為、彼女と悪役令嬢や攻略対象、メインヒロイン達が出会うと何が起きるのか想像もつかない。

出来れば、もっと様々な力を蓄えてから出会いたかった。

だけど、こうなってはしょうがないと、僕は家族とファラ。

そして、バルディア領を守る覚悟を決めて、顔を上げると父上に決意を持って答えた。

「帝都の件……承知しました」

「う、うむ……しかし、そんな死地に赴くような顔で言う事もでもあるまい」

僕の決意に満ちた表情に、父上は意図がわからずにたじろいでいたのであった。

その後、僕は父上に、獣人の子供達の様子と事業計画の進捗具合を伝えていく。

そして、以前クロスから提案され父上にお願いしていた件を尋ねた。

「父上、それで以前ご相談していた『第二騎士団』の設立の件は如何でしょうか?」

「そうだな。この規模の人数と行う業務内容からも考えても、彼らはいずれお前が率いる『バルディア第二騎士団』として動いてもらうことになるだろう。時期は彼らの実力次第だが、設立に向けての準備は許可しよう」

「……‼ ありがとうございます」

そう、以前クロスから、獣人の子供達を迎え入れる規模と目指す活動内容から『バルディア第二騎士団』として設立をした方が良いと助言をもらっていた。

父上には、その時から打診をしていたというわけだ。

そして、いまそれを父上は仮だけど許可をしてくれた。

騎士団となれば、領内で色々と出来ることも増える。

これは、大きな前進だ。

満面の笑みを浮かべていると、父上がおもむろに僕に問い掛けた。

「それで……他に何か話忘れたことはないか?」

「え……? そうですね……無かったと思います」

父上に言われて思い返してみるが、特に心当たりはない。

アリア達から教えてもらった『電界』をヒントに新たな魔法を考えてはいるが、これは実用できる見通しが立っていないからまだ言わなくてもいいだろう。

僕が思案していると、やがて父上はニコリと笑みを浮かべる。

ちなみに、その笑みは父上が怒っている時にするものだ。

僕は心当たりがすぐに浮かばずに、戦いた。

「え、えーと、父上、急にどうされたのでしょうか?」

「ふふ……良い度胸だ。しかし、鉢巻戦の武舞台でお前がまた何やらしでかしたと、ちゃんと報告は来ているぞ?」

父上の言葉に僕はハッとして隣にいるディアナに振り向いた。

彼女は、咳払いをしながら少し決まりが悪そうに呟く。

「申し訳ありません。ですが、あのような危険なことは二度として頂きたくありません。立場を超え、大変僭越ではありますが……どうか、猛省をして頂きたく存じます」

「あ、あはは……そうだね。うん、ディアナは悪くないよ」

彼女は言い終えると同時に、深々と頭を下げて一礼する。

僕はディアナに頭を上げてもらいながら言葉を紡ぐ。

しかし、それに答えたのは父上だった。

「そうだ……悪いのはお前だ、リッド。何度言えばわかる……いやこうなればわかるまで何度でも言ってやろう」

「な、なにをでしょうか……?」

凄む父上の迫力に、思わず恐れ戦く僕を見て父上はニヤリと笑った。

「よし、ならば言ってやろう……だから、お前は大馬鹿者だ‼」

その時、執務室から漏れ溢れるほどの怒号が、屋敷全体に轟いたのであった。