作品タイトル不明
リッドの探求・獣化魔法
「皆、忙しいところ集まってもらってありがとう」
「とんでもありません。リッド様は私達の主なのですから、集まるのは当然のことです」
丁寧に答えてくれたのは狼人族のシェリルだ。
この場には、彼女以外に兎人族のオヴェリア、アルマ。
猫人族のミア、それに熊人族のカルアもいる。
そして、いま僕達が今いる場所は鉢巻戦の会場となった武舞台の上だ。
シェリルは僕に畏まった面持ちでいるが、ふさふさの尻尾が少し横に揺れている。
それに気づいた、ミアがニヤリと笑みを浮かべた。
「はは、シェリルのやつ、尻尾振ってやがるぜ。まさに忠犬って感じだな」
「まぁ……狼人族だからな。感情が尻尾に出るのはしょうがねぇんだろうなぁ」
ミアの言葉にオヴェリアが、同意するように頷く。
二人の言葉にシェリルの耳がピクリと動き、彼女は二人に振り向くと睨みつけた。
「何か言いました? 借りて来た猫さんと寂しがりやの兎さん」
「なっ‼ 誰が借りて来た猫だ‼」
「誰が寂しがり屋の兎だ‼」
その後、三人は武舞台上で言い合いを始めてしまい、僕の隣にいるディアナがやれやれと首を横に振っている。
僕は苦笑しながら、冷静なままのカルアに問い掛けた。
「あはは……あの三人はいつもあんな感じなの?」
「えぇ、訓練時の私達は班が同じですから、クロス殿にしごかれています。その際、あの三人はよく競い合っていますよ。まぁ、喧嘩するほど仲が良いというやつなのでしょう」
カルアは話し終えると、三人の耳が同時にピクリと動く。
そして息を合わせたように三人は彼を睨みつけた。
「やい、熊公‼ 誰と誰の仲がいいだ‼」
「そうだ、ふざけんな‼」
「そうです。失礼ですよ、カルアさん。私はこの方達とは違います‼」
声を荒らげる三人だったが、シェリルの言葉にミアとオヴェリアが噛みつき、また三人は言い争いを始めてしまう。
カルアは苦笑しながら僕に答える。
「まぁ、いつものことです。それよりも、リッド様が私達をお呼びになった理由はなんでしょうか?」
「ああ、それはね。君達が鉢巻戦で見せてくれた『獣化』について教えて欲しいんだ」
僕の言葉を聞いたカルアは怪訝な表情を浮かべ、言い争っていた三人も耳をピクリとさせて僕に視線を向ける。
その中、最初に口を開いたのはカルアだ。
「それは構いませんが、『獣化魔法』は獣人における種族魔法と伝え聞いております。失礼ながら人族のリッド様が出来るとは思いませんが……」
「うん、それは知っている。でも、出来ないと決めつける前に、まず僕自身で試してみたいんだ」
そう、今回彼らを集めた理由は『獣化魔法』の研究をする為だ。
あれは、鉢巻戦において対峙した僕がその凄さを良く分かっている。
だからこそ僕も同じではないにしろ、似たような魔法を使えればより上を目指せるのでは? と考えたのだ。
それに、今後も何があるかわからない。
出来ることはやっておくべきだと思う。
すると、オヴェリアがニヤリと笑みを浮かべてこちらにやってきた。
「いいねぇ、さすがリッド様だ。あたし達の『獣化魔法』に目を付けるなんて、目の付け所が違うねぇ。いいぜ、あたしが獣化する時の感覚を教えてや……教えて差し上げます」
オヴェリアは話している途中で、ディアナの厳しい視線を感じたようで最後だけ言葉を言い直す。
その様子に僕は思わず苦笑しながら、頷いた。
「あはは、ありがとうオヴェリア。じゃあ、早速教えてもらえるかな」
「はい。えーと、心の底から力が欲しいと願って、腹の底からこう引き出す感じで、それをバァーっと全身から溢れ出す感じ……です」
「……」
彼女が言い終えると同時に、あたりが少しの間だけ静寂に包まれる。
その中、僕は咳払いをしてから、オヴェリアに優しく答えた。
「うん……ありがとう、オヴェリア。でも、その……言わんとしていることはなんとなくわかるけど、もう少し具体性がほしいかな……あはは」
「そ……そうですか……すみません」
どうやら彼女自身、言った後にこれでは伝わらないと思ったらしい。
珍しく耳が垂れてシュンとしてしまった。
今の姿なら、寂しがり屋の兎っぽいかもと思ったところにミアが発言する。
「はは、でもオヴェリアの言う事は間違ってはいないぜ」
「どういうこと?」
僕が尋ねると同時に、ディアナがミアを睨む。
どうやら言葉遣いが気になったようだ。
その途端、ミアは借りて来た猫のようにビクっとして、しおらしくなりながら話を続ける。
「ええっと、つまり……魔力を腹の底から引き出して解放するといった感じ……でしょうか。一度感覚を掴むと案外簡単……なんですけど、その最初の感覚を掴むのが難しい……みたいです」
「なるほどね」
ミアは慣れないしゃべり方に四苦八苦しながら説明してくれた。
その後、シェリルやカルアにも尋ねてみるが、感覚としては同じらしい。
要約すると、『魔力を自身の内から引き出し、溢れさせて一時的に身体能力を爆上げさせることが可能。その結果が目に見える形として表面化されたのが、彼らの獣化』ということになる。
つまり、『獣化魔法』とは、潜在的な魔力を何らかの方法で引き出している『強化魔法』ということだろうか? とその時、僕にある閃きが生まれた。
「生魔神道……か」
「……? せいましんどう……ってなんですか?」
思わず閃きを呟いてしまい、僕の言葉にシェリルが興味深そうに尋ねて来た。
「ああ、生魔神道っていうのはね。魔法学にある考え方のひとつだよ。難しい説明は省くけど、まぁ、獣化魔法に繋がるヒントになるかなと思ってね」
「はぁ……良くわかりませんが、色んな考えがあるんですね」
生魔神道は以前、サンドラに教わりそのヒントを得て僕は特殊魔法『メモリー』を開発した。
あの時、メモリーの居た場所には彼から「もう来てはダメだ」と言われている。
言ってみれば、誰の身の内にもある『パンドラの箱』のようなものなのだろう。
しかし、以前より僕の魔力は上がっているから、何とかなるかもしれない。
そう思った僕は、武舞台の中央に移動すると座禅を組む。
そして、きょとんとする皆には出来る限り離れて見守るようにお願いした。
「さて……鬼が出るか蛇が出るか……はは、メモリーに怒られるかもなぁ」
僕は呟くと、目を瞑り深呼吸をする。
そして、以前と同様、深く集中して自分の魔力を生命力に変換。
その行先を辿っていく。
やがて、以前と同様に魔力が入り込んでいく小さな穴の感覚を掴む。
以前は、その中に吸い込まれたけど、今回はその穴を広げて逆に溢れ出させようと感覚を集中させる。
その時、自身の身の内から凄まじい魔力の奔流を感じた。
それと同時に、僕は驚愕する。
(これは……制御できる代物じゃない……‼)
僕はその奔流を抑え込もうとするが、とても抑えきれない。
これは、本当に死ぬかも。
そう思った瞬間、僕の頭に怒号が響いた。
(この大馬鹿リッド‼ ここに来ちゃダメだって言っただろう、死にたいの‼)
(め、メモリー⁉ あはは、ごめん。つい好奇心に負けちゃって……)
思わず苦笑しながら話す僕だが、余裕はない。
メモリーは声を荒らげながら話を続ける。
(なっちゃいない……本当になっちゃいないよ、リッド‼ ともかく、僕が全力で内から押さえるから、君は全力で外から押さえるんだ。いいね、やらなきゃ死ぬよ‼)
(わ、わかった‼)
メモリーの言葉に答えると、僕は必死に魔力の奔流を彼の言う外から押さえ続ける。
だんだんと魔力の奔流は少しずつ収まってきて、やがて落ち着いた。
僕は思わず、息を吐きメモリーにお礼を伝える。
(ふぅ……メモリー、ごめん。助かったよ)
(はぁ……リッド。いいかい、何度も言うけどここは来ちゃいけない場所なんだよ? 三度目はないからね。それに皆、心配しているから早く帰りなよ)
(わかった。本当にありがとう)
彼との会話が終わると、何やら誰かの悲痛な声が聞こえる気がする。
やがて、その声がディアナやシェリル達の声だと気付いた。
でも、何やら体が重くて僕はゆっくり目を開けていく。
目を覚ますと、ディアナが僕の顔を必死の形相で覗き込んでいた。
「リッド様、ご無事ですか⁉」
「あ、あれ、皆どうし……つぅ⁉」
目を覚ましたことを確認した彼女は、泣きそうな面持ちで僕を強く抱きしめる。
僕は彼女の言動に驚くと同時に、全身に激しい痛みが走り思わず顔を顰める。
そして、周りを見渡すと僕が座っていた武舞台がやたらとボロボロになっており、さらに驚いた。
シェリルやオヴェリア達も泣きじゃくりながら僕を見つめている。
僕は、メモリーの言葉を思い出し、彼女達に優しく声を掛けた。
「心配をかけてごめん。まさか、こんなことになるなんて思わなかったんだ……」
「いいのです……いえ、良くはありません。ですが、リッド様がご無事なら良いのです」
答えてくれたディアナは、しばらく僕を抱きしめ身を案じながら泣いていた。
それからしばらくして、僕も皆も落ち着きを取り戻す。
僕が自身の中に、意識を入り込ませていた間に何があったのかを皆に聞いて唖然とした。
座禅を武舞台中央で組んでから間もなくのこと。
いきなり、僕から魔力波が溢れ出して、あたりは狂風と衝撃波に包まれたらしい。
やがて魔力波は落ちついたが、僕が中々意識を取り戻さず、皆にはかなりの心配をかけてしまったようだ。
僕は今回の件は内密にするように皆にお願いしたのち、この魔法は二度と使わないとディアナ達に約束をするのであった。