軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鉢巻戦終わって

鉢巻戦が終わり、観覧席に移動するとメルが満面の笑みを浮かべて飛び込んできた。

「にいさま、すっごくかっこよかった‼」

「おっと……あはは、メルありがとう」

僕は、驚きながらもメルを受け止める。

そして、その場でクルっと一回転してメルをゆっくりとその場に降ろす。

すると、ディアナも僕に近寄ってきてニコリと微笑んだ。

「リッド様、流石でございました。ですが、最後の技は……」

「ああ、あれね。ディアナが以前何度かレナルーテで見せてくれたでしょ? 見様見真似だったんだけど、上手くいって良かったよ」

彼女はおもいがけない言葉だったのか、目を丸くした後、呆れ顔を浮かべてやれやれと首を横に振っている。

その後、クリス達、エレン達からも話しかけられ順番に色々と話した。

クリス達からすれば僕の『魔法』を目の当たりしたのは初めてだったので驚きの連続だったそうだ。

だけど、それ以上に鉢巻戦を定期的に行う行事にすれば、バルディア領の地域発展に大いに役に立つのでは? という部分を熱く語っていた。

実際、彼女が手配した出店は大変好評で十分元は取れるということらしい。

しかし、流石にここで詳細を詰めるのは難しいので、鉢巻戦の行事化についてはまた後日に話すことになった。

エレン達は「いやぁ、やっぱり狐人族はいいですね。早く工房に来てほしいです」と狐人族を絶賛している。

また、鉢巻戦前にお願いしていた部分もしっかり見ていてくれたようで、「今から、ワクワクしていますよ‼」と目を輝かせていた。

サンドラはこの場にはいなかった。

恐らく、医療班として待機すると言っていたからそちらが忙しいのかもしれない。

その時、わざとらしい咳払いが聞こえ振り向くと、父上が厳格な面持ちで僕に視線を向けていた。

「リッド、さすがは私の息子だ。まずは良くやったと言っておこう」

「……‼ はい、ありがとうございます。」

怒られると思っていたけど、父上に褒められた僕は嬉しくなり満面の笑みを浮かべる。

父上はそんな僕の笑みに一瞬だけ顔を綻ばすが、すぐに引き締める。

そして、顔を近づけると小声で囁いた。

「色々と気になることがあるのでな。大変だとは思うがこの後、屋敷の執務室でたっぷりと話を聞かせてもらうぞ……?」

「あ……はい」

父上は言い終えるとニコリと微笑む。

僕は満面の笑みから一転して、ズーンと暗くなり俯いた。

その様子を見ていたこの場にいる皆は、揃いもそろって呆れ顔を浮かべてやれやれと首を横に振っていた気がしたが、多分気のせいだろう。

そんな中、メルが可愛らしい声を張り上げる。

「きめた‼ わたしもにいさまから『まほう』をならう。ね、にいさまいいでしょ」

「え……? ぼ、僕は構わないけど……父上、どうでしょうか?」

思いがけない発言に僕は戸惑いながら、父上に視線を向けた。

メルは僕の視線の先にいる父上に小走りで近づき、足元から父上を上目遣いで見上げる。

「ちちうえ……だめ?」

「むぅ……いや、しかし……」

メルの可愛らしい仕草に父上はたじろいでいる。

その微笑ましい光景にその場にいる皆はニヤニヤしているようだ。

しかし、メルに諦めた様子はない。

しおらしくシュンと俯いてから顔を上げると、目を涙で潤ませ再度上目遣いで父上を見上げる。

そして、今度は可愛らしく首も傾げながら囁いた。

「どうしても……だめ? もし、ゆるしてくれたら、わたしのこと……ちちうえも『メル』っていってもいいよ?」

「ぬぅ……まぁ、そうだな。メ……メルも護身術程度なら……良いかもしれんな」

困惑した面持ちを浮かべた父上は、悩んだ挙句首を縦に振った。

父上がメルに陥落した瞬間である。

メルは父上の言葉を聞くと、表情を一転させパァっと明るい満面の笑みを浮かべながら父上に思いっきり抱きついた。

「ありがとう‼ ちちうえだーいすき‼」

「う、うむ……」

ちなみに僕は最近、訓練も兼ねて『電界』を出来る限り常時発動させている。

この時、父上の様子を微笑ましく見ている周りの皆から感じた気配は同じだ。

恐らく、その気配を僕が言葉にするなら、「父上はメルには甘く、弱い」である。

メルは父上に抱きつきながら、僕に振り向き目を輝かせた。

「にいさま、ちちうえもゆるしてくれたから、いいよね⁉」

「そ、そうだね。わかった。じゃあ、今度メルの属性素質を調べてみようか」

「うん、たのしみ‼」

こうして後日、メルの属性素質をエレン達がいる工房で調べることになった。

なお、父上からはメルの属性素質はすぐに報告するように釘を刺される。

観覧席で皆と話し終えた後、会場の跡片付けを手伝おうとする。

しかし、その作業は騎士団や他の皆がすると言って聞かない。

それよりも湯浴みと身嗜みを整えるように言われた僕は、止む無く彼らの言葉に甘えて父上達と共に馬車で先に屋敷に戻ることにした。

なお、獣人の皆と同じ宿舎には、カペラが戻る予定だ。

僕は彼にくれぐれも、獣人の子供達の食事や体調管理を気にしてあげてほしいと伝えた。

さらに子供達に、今日の夕食はいつもよりご馳走を用意するようにお願いする。

そして、鉢巻戦はとても楽しかったと、皆に伝えるように話す。

カペラは、「承知しました。獣人族の子供達は、リッド様が主で幸せでございましょう」と答え、僕に向かって一礼するのであった。

それにしても、鉢巻戦はとても有意義なものだった。

獣人族と新たな魔法の可能性。様々な発見があり、今後に活かせるものも多い。

鉢巻戦では、直接手合わせできなかった獣人族の子達もいるので、その子達とはまた別の機会に色々と話を聞いてみたいところだ。

その時、ゆっくりと馬車が止まる。

どうやら、屋敷に辿り着いたらしい。

僕達は馬車から降りて、そのまま屋敷に入ると執事のガルンが出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ」

「うむ。ガルン、早々にすまんがリッドに湯浴みの準備をしてやってくれ。それから、着替えもな」

ガルンが父上の言葉に頷きながら僕を一瞥すると、目を丸くした。

「承知致しました。確かに、リッド様のそのお姿は頂けません。すぐにご準備致します」

「うむ、頼む。リッド、お前は湯浴みと着替えが終わったら、執務室に来い。たっぷりと話があるからな」

「う……か、畏まりました」

父上は顔こそ笑みを浮かべているが、目は笑っていない。

むしろ、静かな怒りすら感じる。僕が思わずたじろいでいると、メルが僕の服を引っ張った。

「うん? メル、どうしたの」

「にいさま、あとで、ははうえのとこにいこうよ‼ ははうえもきっと、にいさまのかつやくよろこぶよ」

メルは、嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。

母上に色々と話したくて、たまらないのだろう。僕はニコリと微笑んだ。

「そうだね、じゃあ、父上とのお話が終わったらメルに連絡するね」

「うん、やくそく。まっているね、にいさま‼」

満面の笑みを浮かべたメルは、「じゃあ、にいさま。あとでね‼」と言って自室に向かって走り出した。

しかし、あまりに突然走り始めたので、メルの側にいたダナエが目を丸くする。

「な⁉ メルディ様、そんなに勢いよく走らないで下さい‼」

ダナエは驚きの声を上げ、慌ててメルの後を追いかけて行く。

そんな彼女達のやりとりに思わず、「はは、ダナエも大変だな……」と苦笑しながら呟くと、ディアナが何か言いたげな視線を僕に向ける。

彼女から向けられた視線の意図がよくわからず、僕はきょとんとして首を傾げた。

「ん? どうかした」

「いえ……何でもございません。さ、それよりも、湯浴みに参りましょう」

「う、うん。わかった」

結局、彼女が見せた視線の意図がよくわからないまま、僕は湯浴みに向かうのであった。