軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

兎人族・オヴェリア

「さて……オヴェリアはどんな戦いを見せてくれるのかな?」

僕の正面には、兎人族のオヴェリアが胸の間で両手の拳の指を鳴らしている。

彼女は不敵な笑みを浮かべて僕に嬉しそうな視線を向けた。

「へへ、この瞬間を待っていたんだよ。おい‼ アルマ、ラムル、ディリックと他の奴らも手を出すなよ‼」

オヴェリアは彼女の後ろにいる他の兎人族に対して、大声を発している。

確かに、彼女の後ろで少し離れたところには兎人族の一団が固まっているようだ。

耳が立っているのが女の子で、垂れているのが男の子だろうか。

一団の中にいる一人の女の子が呆れ顔で答えた。

「はいはい……でも、危なくなったら加勢するからね。ラムル、ディリックもそれで良いでしょ」

「うん。アルマが賛成なら、僕も良いよ」

「はぁ……俺も良いぞ」

彼らの返事を聞いたオヴェリアは再度、僕を見てニンマリと不敵な笑みを浮かべた。

「よし……これで、邪魔は入らない。リッド様、あんたの力を見せてもらう……言っとくけどな、私はさっきの奴とは違うぜ。他人の『力』なんかに頼ったりしない。正真正銘、私だけの『力』だ」

さっきの奴とは、『燐火の灯』を使い闘ったラガードのことだろう。

だけど、二人はあの時、自分達に出来ることを精一杯していたのだ。

それを否定するつもりは僕にない。

「そうかい。それは楽しみだね。でも、人が一人で出来ることには限界もある。時には他人の力も必要だよ?」

「でもよ、やっぱり最後に信じられるのは自分だけだぜ……おしゃべりが過ぎたな、行くぜ‼」

彼女は、言い終えると同時に僕に向かって跳躍して飛び蹴りを繰り出してくる。

その、動きは思ったより洗練されていて早い。

だが、それでも躱せないほどじゃない。

彼女の飛び蹴りを、紙一重で躱すとそのまま接近戦に持ち込む。

「言うだけのことあるじゃないか‼ さぁ、口だけじゃないことを教えてもらおうか‼」

「いいねぇ‼ あたしにそんな口を聞くやつはあんたが初めてだ‼」

オヴェリアは、足技中心で僕と近接戦を繰り広げる。

その激しさは、先程のラガード以上だ。

観客席からもどよめきが起きている。

しかし、実際こうして立ち会うと彼女の身体能力の高さに驚愕する。

恐らく、まだ『身体強化』は使っていないはずだ。

それなのに、身体強化を使っている僕の動きについて来ている。

これが、獣人族の身体能力というわけか。

皆が油断をするなと言っていた意味が良くわかる。

僕は心の中で、(世界は広いということだね)と呟き、思わず笑みが零れる。

その瞬間、オヴェリアもニヤリと笑う。

「戦闘中に笑うとは、良い根性しているじゃねぇか‼」

「……君も随分と楽しそうだけどね」

彼女は僕の答えを聞くと、さらに攻撃の激しさを増していく。

受け流しているのでダメージはないけど、さすがに服がボロボロになって来た。

やがて、僕達は近接戦を続けていく中、お互いに決定打を欠いた状態が続き一旦距離を取る。

すると、彼女は悔しそうな表情を浮かべた。

「……あれだけやって、ダメージがほとんどねぇのか」

「いやいや、少しはあるさ。それにほら、おかげさまで服がボロボロになってきたよ」

「ちっ……嫌味な野郎だ」

嫌味を言ったつもりはないんだけどな。

でも、彼女にはもっと力があると思うんだよね。

それを加味しても負ける気はしないけど。

僕は構えを解くと、単刀直入に彼女に尋ねた。

「オヴェリア、君はまだ力を隠しているね? 身体強化もそうだけど、それ以上に何かを隠している気がするんだよ」

「……勘まで良いとはな。あんた、可愛げもねぇやつだな」

彼女は呆れ顔で呟いているが、やはり何か力を隠していることは確かなようだ。

なら、出さざるを得ない状況にしてあげるかな。

僕は両手を広げて、彼女におどけて見せる。

「ちなみに、君が隠している力を加味したとしても、恐らく僕の六割ぐらいの力。つまり、半分と少しぐらいの力で君を倒せると思うんだよね」

「なんだと……てめぇ、あたしを馬鹿にしてんのか⁉」

「そんなつもりは、ないんだけどね。まぁ、見せてあげるよ」

怒り狂ったような目で僕を睨む彼女に、僕はニコリと微笑む。

そして、水槍二式の誘導弾その数、三二槍を一気に展開してみせる。

彼女は突然目の前に広がった光景に「な……⁉」と唖然としているようだ。

観客席からもどよめきが聞こえてくる。

「さぁ、どれだけ避けられるのか……見せてもらうよ」

僕は彼女に向かって魔法を発動する。

その瞬間、彼女目掛けて大量の水槍が向かっていく。

「……⁉ クソが‼」

彼女は身体強化を発動したようだ。

そして、僕の水槍を躱したり、足技で相殺していく。

だが、数の多さにやがて防ぎきれず、水槍がオヴェリアに連続で着弾していく。

「ぐぁあああ‼」

すかさず、僕は彼女が吹き飛ばされた先に土壁を魔法で作り出す。

その結果、彼女は僕が生み出した土壁に激突した。

何とか場外は免れた彼女だが、その場にうずくまっている。

「がはっ……な、なんだこの壁は……」

苦しそうな表情を浮かべている彼女に僕は、悠然と近寄っていった。

「驚いたかい? この会場を作ったのは、僕なんだよ? こんな土壁を作るぐらい簡単さ」

「そうかい……へへ、どうりで……ちんけな会場なわけだ」

彼女はニヤリと笑い、僕に悪態を付く。

中々にタフな子だ。

すると、闘いを始める前にオヴェリアが手を出すなと言った面々が僕の後ろにやってきた。

「うん? どうしたのかな。手は出さないんじゃなかったの?」

僕が彼らに問い掛けると、一人の少女が前に出てきて僕に鋭い視線を向ける。

確か、アルマという少女だ。

「……あんたみたいな人を相手に、一人で戦えるわけないわ。悪いけど、兎人族全員で行かせてもらうわよ」

彼女の言葉通り、僕の周りにはまだ失格となっていない兎人族が集まっている。

だが、オヴェリアが彼らに怒号を発した。

「アルマ……それにてめぇらも、手を出すなって言っただろう……‼」

「そんなことを言っている場合じゃないでしょ‼」

オヴェリアの言葉にアルマは心配そうな面持ちで答える。

だが、彼女に対してオヴェリアは烈火の如く怒った表情を見せた。

「あたしはまだ負けてねぇ……いいぜ、リッド様……あんたに見せてやる。私の力を、な」

「オヴェリア……」

アルマの心配をよそに、オヴェリアは挑戦的かつ、目にはまだまだ闘志を燃やしているようだ。

僕はニコリとオヴェリアに微笑む。

「ようやく、見せてくれるんだね。待ちくたびれたよ」

「後悔すんなよ……はぁあああああああ‼」

「オヴェリア……‼ くっ……みんな、彼女の邪魔になるわ。ここから離れましょう‼」

オヴェリアが雄叫びを上げると同時に、彼女の中にある魔力がどんどん高まっていくのを感じる。

こんな魔法を僕は知らない。

僕は、オヴェリアの変わりゆく様子を嬉々として見つめている。

僕の周りにいた兎人族の子達は何やら離れてしまったが、それよりもオヴェリアだ。

彼女の中から魔力が溢れ出て、容姿がみるみる変わっていく。

それは、人と獣の中間に位置するような姿だ。

オヴェリアは全身に毛が生えていき、耳も伸びている。

そして、その顔はより兎に近いような顔つきになっていく。

これぞまさに『獣人』という感じだ。

やがて、変化が収まると彼女はより獣に近くなった目で僕を睨む。

「はぁはぁ……ふん、どうせ気持ち悪いとか思ってんだろう」

「へ……気持ち悪い? オヴェリアが? まさか、そんなに綺麗で美しい姿の『獣人』を見たのは初めてだよ」

僕は、彼女の問いかけに思ったままに答えた。

オヴェリアは全身を白い毛で覆われているが、それはある種の神々しさも感じる。

月明かりの綺麗な夜とかに、是非もう一度見てみたい姿だ。

彼女は僕の答えが意外だったのか、きょとんとした表情を浮かべている。

「あんた……やっぱり変わってんな。ふふ……でも、強さもさっきの比じゃねぇぜ」

「そうかい。それは、楽しみだね。さぁ、仕切り直しだ」

オヴェリアの目には闘志、僕の目には好奇が宿り、お互いに睨み合い一触即発の状態となるのであった。